その後の俺
それから数日後に、例の写真週刊誌は発売された。
と、同時に事務所と俺のコメントが発表され、俺は活動自粛生活に突入した。
芸能ニュースはこぞって俺が女だった事を取り上げ、検証を重ねていた。
俺の幼少時代を知る施設の先生がテレビに登場した時は、なんだか懐かしかった。
小学校時代の親友だという男女が数人インタビューに答えていたけど、あれ、誰なんだろう。
それから小学校時代の恩師だとか、中学時代の先輩だとか、まったく俺の記憶に残っていない人たちがこぞって俺の男らしさを褒めたたえていた。
そうそう、例の中学の担任もこう言っていた。
『あいつの男らしさは女だという事を忘れさせてしまうものだった』と。
社長の言った通り、マスコミはそれほど俺の事を非難しなかった。
それは記者発表の場を設けて、正式に引退会見を開いたミチルのおかげでもある。
あの日、事務所に来た兄貴は、社長と会見の打ち合わせをしていったのだ。
ミチルは、今後一切の取材を拒否する事を表明し、大学側の関係者に迷惑行為があれば、法的処置も辞さないときっぱり言い切った。
当然、会見の場では俺の話題も出た。
俺はこの会見を見た時、兄貴は役者になるべきだと思ったね。
兄貴は俺とのエピソードを切々と語った。
俺が幼い頃から兄貴の真似をしたがり、いつも男の子の格好をしたがった事。
兄貴が芸能界に入った時に、一人になってしまう俺の事が心配でたまらなかった事。
俺が男ならば、少しは心配も減るだろうと、わざと弟だと周りに紹介していた事。
面白いからって、みんなには言ってなかったっけ?
まあ、そんなこんなで、俺の弟詐称の話は、たったひとりの肉親である俺を溺愛する兄貴の美談として周りに認識されたのだった。
他のメンバーは、社長の言った通り、俺が女だとは一切気がつかなかったというコメントを貫き通し、バンド活動こそできないものの、普通に仕事を続けていた。
問題はやっぱりpieceだった。
週刊誌が発売されたその日から、事務所の公式ホームページに設置された掲示板には、非難と呪いの声が溢れかえった。
覚悟はしていた。
けど、思っていたより俺のダメージはでかかった。
酷い、とか、どうして本当の事を教えてくれなかった、とかは想像していた言葉だ。
でも中には、死んでくれ、とか、生まれ変わって男になって、とか、俺の存在を全否定する言葉も多々あった。
匿名性の怖さだよね。
面と向かっては言えないような、えげつない言葉の数々が、俺の心をえぐっていく。
「アキ~。メシ食った~?」
ノックもなしに部屋の扉が開いた。
そこにはコンビニの袋をぶら下げたヒロトの姿。
「あ~。またそんなの見てる~。もう見るなって言っただろ?しばらくはさ、面白半分で煽る奴もいるから見ない方がいいって」
ヒロトは膝を抱えてベッドに座る俺の隣にどすんと座る。
俺にコンビニの袋を押し付けて、パソコンの画面を閉じる。
「とにかく、食べろよ。鏡見た?めっちゃげっそりしてるよ」
「食欲ねえもん」
「んなこと言わないで。何なら食いたい?俺買ってきてやるからさ」
ヒロトの優しさは胸に沁みるが、やっぱり今の俺に食べたいものなんかない。
「謝りたいな。pieceのみんなに。直接会って」
「アキ」
「でも、会ってもうまく言える自信ないしなあ。俺、しゃべるの下手だし」
「アキの並外れた表現力は歌限定だからな」
「俺、pieceの事が大事だって事は、嘘じゃなかった。けど、一つの嘘が全部を嘘に変えちゃうんだよな」
「大丈夫だよ。今はみんな感情的になってるけど、みんなアキの声が好きだったんだもん。きっと、アキの歌が聞きたくて、仕方なくなってくるよ」
「……そうかな」
「そうだよ。自分の声を信じろよ」
ヒロトは俺を責めなかった。
アキはアキだから、と笑ってくれた。
俺が尊敬してるのはアキの声だから、男でも女でも関係ない、と。
ヒロトがいてくれて本当によかった。
もし、この部屋に一人でずっと取り残されたままだったら。
きっと、俺は、壊れていたにちがいないから。
そんな事、面と向かっては言えないけど。
俺は、馬鹿話で俺を元気づけようとするヒロトに、心の中で頭を下げた。




