兄貴とデート
兄貴だった。
ブログの写真では顔半分も写ってなかったから、もしかしたら別人かもと思う気持ちもあったけど。
今、俺の方に歩いてくるのは、まぎれもなくミチルだった。
俺は無言で兄貴の前に立った。
目深にかぶったキャップで顔が見えなくても、俺に兄貴が分かったように、兄貴にも俺が分かるはずだ。
視線の先、二人連れの内、一人の男の足がぴたりと止まった。
「ん?ヒカルの知り合い?」
兄貴の隣の男が口を開いた。
「……ああ、うん。悪いけど、今日の約束パスでいい?」
ああ、兄貴の声だ。
俺はキャップの影で目を閉じた。
兄貴が連れと別れ、俺の方に近づいてくる。
「アキ」
俺を呼ぶ懐かしい声。
「元気だったか?」
俺は微かに頷く。
「そっか。良かった。歩きながら話そうか?」
兄貴の手が肩に触れ、俺たちは歩き出した。
「……ヒカルって名乗ってんのか?」
俺がぽつんとつぶやくと、兄貴はクスクスと笑った。
「一番に聞くのがそれ?そうだよ。漢字でさ、『山村 光』って書いてあると、みんなヒカルって読むんだよね。あえてミチルですとは言わなかっただけ」
「親父たちもややこしい名前付けたもんだね」
光と書いてミチル。
明と書いてアキ。
男でも女でも大丈夫なように考えたらしいけど。
「でさ、兄貴はいま楽しいの?」
隣を歩く兄貴の肩が、一瞬ピクリと揺れた。
通りすがりにあったファミレスに入り、俺はごくごくと水を一気飲みした。
「は~~。生き返る~」
「どれだけ待ってたの?熱中症になっちゃうだろ?」
「この頃、運動不足だったしな。帰ったら鍛え直すよ。秋にはツアーも始まるし」
「ツアーか。みんな元気にしてる?」
「うん。元気元気。暇があったらいちゃいちゃして遊んでる。あの暑苦しさは昔からなの?」
兄貴はあははと笑った。
「ほんと、奇跡だと思うよ。初めて会った瞬間から、みんながあの乗りだったからね」
兄貴が懐かしそうに目を細める。
そこに注文したランチが二つ運ばれてきた。
「わ、美味そう」
「ちゃんと食べてんの?栄養バランスには気をつけなきゃダメだよ」
「ん~。普段は社長の奥さんのやってる居酒屋で食べさせてもらってるから、大丈夫だよ。兄貴こそ、ちゃんと自炊してんの?」
「僕は何でもできるからね」
「あ~。久々に聞いた~。俺様全能発言」
そんなくだらない事を話しながら、食事を終える。
「じゃあ、何から話す?」
穏やかな兄貴の目を、俺は真正面から見詰めた。
「俺の知らない兄貴の全部」
俺の言葉に兄貴が苦笑する。
「全部か。アキらしいな」
そして、アイスコーヒーを一口飲んで、兄貴は話しだした。
俺の知らない兄貴の話を。




