会いたい
「あっちい」
俺は小さくつぶやいて目深にかぶったキャップのひさしをほんの少し上げて空を見上げた。
信じられないくらいの快晴。
真っ青な空に真っ白な雲がぽかりぽかり浮かんでいる。
ああ、こんな日はこんなコンクリートの塊の中じゃなくて海か山に行きたいな~。
兄貴らしき人物の写ったブログを見た翌日、俺は例の大学にやってきた。
会えると思って来たんじゃない。
ただ、少しでも兄貴を感じたくて、気が付いたら足がここに向かっていた。
そういえばコンビニ行くか、仕事行くくらいしかこの頃出かけてなかったなあ。
木陰の石段に座っているとはいえ、なまった体には結構きつい。
俺は手に持ったペットボトルの蓋を開けた。
ごくりと一口飲んで、校門を出入りする大学生をぼんやりと眺めていた。
兄貴もここを通ったんだろうか。
学生の顔をして、学生に紛れて。
それにしても暇だ。
以前は一人でいる事に何の問題も感じなかった。
あえて一人でいる事を選んでいたところもある。
女なのに男みたいな格好と男みたいな言動の俺は、女の子の集団にはとてもじゃないが紛れこめなかったし、かと言って同級生の男どもは外見は男でも中身は一応女である俺にどう接していいか分からないようだった。
学校っていう集団の中では、男か女かっていうことが重要なくくりだったからな。
だから俺は一人を選んだ。
学校以外で出来た知り合いもいた。
例えば街で偶然知り合ったストリートダンスの集団とか。
俺って結構人懐っこかったりするから、すんなり仲間に入れてもらえたりする。
けど、それだけ。
一緒に踊って、遊んで、けど、自分の事は話さなかった。
そこまで深く付き合おうと思う奴はいなかった。
その時、その時が楽しければ、それで何の問題もなかった。
その俺がだ。
事務所に来てからは、寝る時以外は誰かといる。
それはメンバーだったり、マネージャーさんだったり、ヒロトだったり、色々だけど。
一番びっくりしているのは、俺がそれを嫌だとか、うっとおしいと思わなくなった事だ。
人間変わるもんだね。
ここに一人でいる事が、なんだか淋しく感じるなんて。
ここにヒロトかメンバーの一人でもいたら、馬鹿話をしてあっという間に時間が経っちゃうんだろうけどな。
どれくらい時間が経ったのか、分からなくなった頃。
それまで俺を守ってくれていた木陰も、太陽の位置の関係なのか移動してしまい。
「帰ろっかな」
そう一人つぶやいて立ちあがった俺の目に、校門から出てくる二人連れの男の姿が飛び込んできた。




