俺とヒロト
「あっちいいいいいいっ」
「夏なんだからあったりめえだろがあっ」
「アイスウウウウウ。溶けてるううう」
「それが美味いんだって」
「うわっ!事務所、天国!!」
夏真っ盛りの七月。
俺は事務所の後輩のヒロトと大騒ぎしながら買い物から帰ってきたところだ。
は~。
ヒロトに夏なんだからって言ったけど、ホントあっつい。
Puzzleのメンバーはそれぞれ撮影やら取材やらで出かけている。
この暑さの中、お仕事とはご苦労な事だ。
俺はというと、新曲のレコーディングは夏前に済んでいるし、秋の終りから予定されている全国ツアーまでは久しぶりにゆったりしたスケジュールを組んでもらっている。
ヒロトはこの春に中学を卒業して事務所に入った、俺より背は高いが、事務所で唯一の可愛い後輩だ。
顔はイマイチだけど、歌の才能はあると思う。
まだデビューの話はないけど、せっせと自作の曲を動画サイトに投稿している努力家だ。
この春から俺とヒロトは通信制の高校一年生になった。
そんな事もあり、特にこの夏、他のメンバーとちがって暇をもてあまし気味な俺は、Puzzleのメンバーよりもこいつとつるんでる方が多いかもしれない。
朝起きて、ヒロトと勉強して、コンビニに買い物に行って、ヒロトの動画撮影を手伝ったりする。
この日もそんな調子で一緒に昼飯を食ってから、ついこの間投稿した動画のチェックをしていた。
「あ~~~~。ぜんっぜんカウント伸びてない~~~!!」
ヒロトが絶望的な声で叫んだ。
確かに、ヒロトの動画にコメントは一つもついていない。
いい歌なんだけどな。
「しょうがないよ。どんだけたくさんの動画がアップされてるかわかんないんだもん」
「わかってるよ~。わかってるけど~。うううん。今度こそって思ってたんだけどな」
ヒロトはガックリと机に頭を乗せた。
「アキはいいなあ。いきなりPuzzleのメンバーに抜擢されてメジャーデビューでしょ」
「ああ、まあそうだね」
望んでさえいなかった事なんだけどな。
でもヒロトは俺の事情を知らないし、教える事もできない。
俺は曖昧に笑った。
「ラッキーだよな。いいよな~」
兄貴が失踪した結果のデビューじゃなけりゃね。
「じゃあさ、アキはミチルさんに会った事あるの?」
「ミチルに?まあ一応」
「じゃあじゃあさ、これ見てよ」
いきなりガバリと体を起こしたヒロトがパソコンを操作しだした。
「これってさ、ほんとにミチルさんかな」
画面に映し出された写真には、兄貴の姿が写っていた。
それは個人ブログに乗せられた写真だった。
題名に『〇〇大学でPuzzleのミチル発見!?』と書いてあり、たまたまヒロトの検索に引っかかったらしい。
斜め後ろから撮られた写真には、二人の男子大学生の姿があった。
兄貴だ。
最後に会った時の長めのふわふわした茶髪のパーマが、写真ではもっと落ち着いた感じの色合いの短髪になっていた。
眼鏡もかけていた。
けど、俺が兄貴を間違うはずがない。
「ミチルさんって、ホントどこにいるんだろ。まじで本人だったりして」
ヒロトの言葉が俺の耳を掠めていく。
「まさか。ミチルって頭悪そうじゃん」
俺が言うとヒロトは、あははと笑った。
「だよね~。きっと今頃アメリカで武者修行してるとか、豪遊してるとか、そっちの方が似合うよね~」
〇〇大学。
俺はヒロトに合わせて笑いながら、ブログの文字を頭に焼き付けた。




