魅惑
「次のゲストは、Puzzleの皆さんです」
司会の声を合図に、俺たちは揃ってセットの階段を下りる。
正面に作られた観覧席には五十人ほどのお客さんが並んでいた。
その下のカメラの隣に、神谷の姿が見えた。
「Puzzleは結成六年目ということですが、今回新メンバーが加わったそうですね」
にこやかな女性アナウンサーに答えるのは、主に物腰の柔らかいヨウタと明るいリクだ。
数分の会話の後、俺たちは隣のステージに移動する。
何度かテレビ局の仕事を経験したけど、やっぱり観客がいてくれるとうれしい。
カメラに向かって歌うより、人に向かって歌う方が、気持ちの入り方が断然ちがう。
「では、Puzzleの皆さんで、『届かない言葉』、新曲『スタートライン』続けてどうぞ」
ヨウタのギターが細く切ない旋律を奏でる。
よし。
行くぞ。
俺はちらりとショウヤと視線を交し、大きく息を吸った。
予定ではこの曲はショウヤがメインを歌い、俺がハモリをするはずだった。
『届かない言葉』は、兄貴がソロで歌ってヒットした曲で、俺が歌うには少し大人びた歌だから。
けど、俺はあえて歌わせてくれとメンバーに頼んだ。
今は会えない相手に、届かない思いを伝えたいと切々と訴えかける歌詞は、謝罪の言葉のオンパレードだ。
俺は、この歌を神谷のおっさんただ一人に向かって歌った。
正面カメラの横に立つ、おっさんをひたすら見つめて、かき口説くように思いを込めて歌う。
ごめん。俺はどうかしてた。どうしていいのか分からない。時が戻せたら。
神谷のおっさんは、ステージを見つめ、立ち去る気配を見せなかった。
ヨウタのギターが切ない余韻を残し、消えていく。
「one、two、」と、ツヨシがカウントを取る声が、微かに聞こえた。
ツヨシのドラムソロから始まる次の曲、『スタートライン』は、俺とショウヤが交互に歌うアップテンポの曲だ。
『届かない言葉』とはちがい、ダンスも売りの一つだ。
ショウヤの歌に合わせて、俺はヨウタとステップを踏む。
客席も盛り上がっているのが分かる。
楽しい時間はあっという間だ。
最後のステップを決めると、スタジオは大きな拍手に包まれた。




