懐柔
「こりゃまた、生意気そうな坊主だな。ミチルはどうしたの?この頃見ないけど」
おっさん、神谷というプロデューサーが顔をゆがめるようにして笑った。
ああ、こりゃ嫌な感じぷんぷんだな。
ミチルの名前を出された事で、Puzzleのメンバーに一瞬、嫌な緊張が走る。
そりゃそうだろう。
ミチルがこいつを殴ったのは、きっとこいつの言った何かのせいだ。
つまり、やっと再ブレイクの機会を掴んだPuzzleを、蹴り落としたのはこいつと言って間違いない。
俺の肩に乗せたショウヤの手に力が入ったのか分かった。
「神谷プロデューサー」
俺は奴の目を見つめたまま、一歩前に進み出た。
「アキ?」
ヨウタの声を無視して、俺は言葉を続ける。
「Puzzleの新メンバーのアキです。よろしくお願いします」
俺の口から出たまっとうな言葉に、神谷の口がぱくりと開いた。
「ミチルのしでかした事、申し訳ありませんでした。俺の口から謝罪をしても、何の意味もないかもしれないけど、謝らせてください」
俺はぺこりと頭を下げた。
神谷はううとも、おおともつかない声を出した。
俺は顔を上げ、神谷の目を覗きこむ。
「お願いがあります。今日の俺たちの演奏、神谷さんの目で、直に見てもらえませんか?」
「え?は?なに?どういう事?」
「俺、認めてもらいたいんです。神谷さんに。Puzzleの事を。俺の事を。生意気なのは充分分かってます。けど、俺にチャンスをもらえませんか?」
「ふうん」
神谷の顔に皮肉めいた笑みが浮かびあがった。
「いいよ。そこまで言うなら、あそこ、正面のカメラの位置で見ててやるよ。けど、しょうもない歌だっただら、俺、すぐ消えるから」
「ありがとうございます」
俺はひらひらと手を振りながら歩き去る神谷の後姿に向かって、もう一度頭を下げた。
「……何のつもりだ?アキ」
俺の後ろで黙って様子を見ていたツヨシが口を開いた。
「何のつもり?味方にするつもりに決まってるじゃん」
俺はメンバーの方を振り返った。
何とも微妙な顔をしている彼らに、俺はにっこりとわざとらしい笑顔を向ける。
「で、今日の曲のことなんだけど」




