俺とツヨシ
「間違い。やり直し」
「あ゛~~~~っなんで~~~!?いや~~~~!!!」
「うるさい。プリント十枚追加」
テレビ局の控室。
俺は頭を抱えてテーブルに突っ伏した。
新曲発表から一か月。
順調に売り上げを伸ばし、少しずつメディアの仕事も増えてきた。
今もこうやって収録の時間を待っている訳なんだけど。
なんで俺は漢字の呪いにかかってるんだろう。
俺は漢字が読めない。
勉強が嫌いだったし、中学に入ってからは制服のスカートをはくのが嫌で、ほとんど学校に行かなかった。
だが、世の中っていうものは、意外に漢字を読む機会が多いらしい。
新曲の歌詞の読み間違いから始まり、渡されたスケジュールを把握できない、果てはカンペの意味が分からないなんて事が重なり、俺は漢字の勉強をさせられる事になった。
先生は主にツヨシ。
Puzzleの中では一番賢いらしい。
いつも冷静で、どっちかというとS系のツヨシだが、眼鏡をかけて俺の前に座っているツヨシは完全なドSキャラになりきっている。
俺が小学生レベルの漢字も読めない事に気付いたツヨシは、次の日にはご丁寧に算数のプリントまで用意してきやがった。
「なんで~~~?俺、別に勉強できない子でいいもん~~~」
絶叫する俺に、ツヨシは眼鏡のブリッジに人差し指をかけ、ドSな微笑みを浮かべた。
「これは出来ない子のレベルじゃない。そういう事は九九がちゃんと言えるようになってから言うんだな」
「九九が言えなくても生きてける!俺はそうやって生きてきたんだ~!!」
「子供だったからだろ?でももうアキも社会人だ。周囲はいつまでも甘い目で見てくれないぞ」
「ううううううう」
本気で泣きそうな俺の頭をヨウタがよしよしと撫でる。
「大丈夫だよ?ギターだって最初は雑音にしか聞こえなかったけど、この頃はちゃんと音に聞こえるよ?アキはやればできる子だよ?」
ううううう。
慰めてるのかこれ?
雑音って言ったよね!?
音って、音楽って言ってくれないの!?
「ミチルは暇さえあれば勉強してたけどねえ」
もぐもぐと弁当を頬張りながらリクが感心したように言った。
リクは暇さえあれば何か食べてるじゃん。
俺は知っている。
それ二個目の弁当だよな。
「そうだな。あいつは勉強してるっていうか、勉強を楽しんでたな。クイズを解いてるような感じだった」
ツヨシも何かを思いだすような目をして答えた。
「兄貴は頭良かったもん」
そう、俺とちがって兄貴は超賢かった。
芸能界に入るって言い出した時も、高校進学が決まってたはずだ。
施設の大人たちもびっくりして、高校はどうするんだって大騒ぎになったような覚えがある。
あの時の兄貴は、今の俺と同じ年だ。
芸能界に入っても勉強を楽しんでたという兄貴は、どういう気持ちで高校進学を諦めたんだろう。
「大丈夫だって。アキもミチルも持ってる素材は似てるはずなんだから。アキはきっと最初の出だしでつまづいてるだけなんだよ?そのうち勉強も楽しくなるって」
「……それだけはないと思うけど」
俺はツヨシの手元にどんと積まれたプリントの山をじろりと睨んで、そうつぶやいた。




