02.陛下、俺が偽物に見えるならあんたは相当人を見る目がない
磨き抜かれた大理石の床。
やたらと長い絨毯。
前にここを歩いた時は、胸が躍り晴れやかな気持ちだった気がする。
だが、今はただただ足が重い。
一歩進むごとに、まとわりついた泥が剥がれ落ち、純白の床を汚していく。
衛兵たちの視線が痛い。
彼らが覚えている「勇者イグナート」は、白銀の鎧を纏い、笑顔で希望を振りまく青年だったはずだ。
目の前にいるボロ布を纏った浮浪者が、その同一人物だとは到底思えないだろうな。
玉座にて、ガレン三世が眉間に深い皺を刻んでため息をつきながら座っていた。
重鎮たちも勢揃いだ。
彼らは俺の姿を見て一様に眉をひそめ、鼻をつまんでいる。
まあ、分からんでもない。
俺の体からは、魔素と血と何ヶ月も洗っていない汗の臭いが混ざり合った凄まじい悪臭が漂っているはずだから。
「……イグナート。
あまりにも見違えておるが、本当にお前なのか?」
陛下が絞り出すように問う。
俺は膝をつくこともしなかった。
腰に下げていた、今やただの鉄屑のような天双剣を床に放り投げる。
ガラン、と無機質な音が響き渡る。
「偽物に見えるなら外へ放り出してくれ。
噴水の中で寝る方がここよりよっぽど快適だ」
俺の不遜な態度に、傍らの騎士が激昂する。
「貴様!
陛下に対してその態度は何だ!
貴様のような汚らしい男が、伝説の天双剣を手にしていること自体が疑わしいわ!」
「疑わしい?
それは光栄だ。
俺だって自分がこいつの持ち主だなんて、もう思っちゃいないさ」
俺は欠伸を噛み殺すと、陛下が手を挙げて騎士を制する。
「……イグナート。
他の者たちはどこだ。
ボルドスは?
ルカスは?
そして…… メルはどうした」
その名前を耳にした瞬間、胸の奥がチリリと焼けた。
忘れていたわけじゃない。
忘れようとしても、まぶたの裏に焼き付いている。
「……さあな。
知らねぇよ。
少なくとも、俺と一緒にここに戻ってこれた奴は一人もいない。
……それだけだ」
沈黙。
謁見の間が、凍りついたように静まる。
「知らぬ、だと?
冗談はやめろ。
ボルドスは王国最強の戦士だ。
ルカスは稀代の魔術師。
そしてメルは…… 神の加護を受けた聖女だぞ。
それが揃いも揃って、消息不明などと!」
「はぁ……
『最強』だの、『稀代』だの、魔族領じゃ何の役にも立たねぇよ。
おまけに『神の加護』ときた。
あんな場所、神様は入り口で回れ右して逃げ出すぜ」
俺が鼻で笑うと、陛下の背後に控えていたシルフィーが俺の目の前までやってきた。
そして、すがるような目をして俺の腕を掴んだ。
「イグナート様…… 教えてください。
真実を。
ボルドスたちが、そんな簡単にいなくなるはずが……」
彼女の目は、まだ希望を捨てていない。
残酷なことだ。
俺は目を細め、天井の豪華なシャンデリアを見上げた。
「真実?
ああ、教えてやるよ。
……でもな、シルフィー。
聞かない方がいい話だと思うがな。
……あそこはな、あんたたちが考えてるような『冒険の舞台』じゃない。
ただの、巨大な胃袋だ。
人間を一人ずつ、じっくりと、一番残酷な方法で消化していくためのな」
俺の脳裏に、あの黒い霧が。
そして、最初に壊れた日の記憶が蘇る。
「……話せば長くなる。
せめて、座らせてくれ。
腰が痛くてかなわねぇんだ」
俺は絨毯の上にどっかりと座り込み、腰のポーチから乾燥肉 ――いや、魔獣の干し肉を取り出した。
「これから話すのは、英雄伝じゃない。
ただの、生存記録だ。
……あ、耳を塞ぐなら今のうちだぜ?」
陛下も、シルフィーも、重鎮たちも。
俺が語り始める「地獄」の話を、言葉を失って待っていた。
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