01.頼むから、このまま噴水で寝かせてくれ
空がやけに高い。
三年前にここを発った時もこんな色だったか。
いや、あの時はもっとこう…… 希望だの使命だのといったキラキラしたろくでもない何かが混じっていた気がする。
今の俺の目には、ただの青い模造品にしか見えないが……
背中の石畳が冷たくて、噴水の水しぶきが絶妙に頬を濡らしてくる。
普通なら「最悪の目覚め」とか言うんだろうが、俺にとってはむしろ最高だ。
なんせ、呼吸しても肺が焼けない。
泥水を啜らなくても喉が潤う。
それだけで、ここは天国と言って差し支えない。
「……おい、そこの不審者。
なんでそんなところで寝てるんだ」
低くて硬い声がした。
無視だ。
眠いんだよ。
こっちは三年間、まともにまぶたを閉じたことさえないんだ。
一秒でも長く、この「平和」という名のまどろみに浸っていたい。
「聞いているのか、貴様!
ここは王女殿下の査察ルートだ。
速やかに立ち去れ!!
さもなくば――」
剣を引き抜く金属音。
懐かしい音だ。
だが、あいにく俺はその手の音を聞くだけで胃酸が逆流する身体になってしまっている。
仕方なく重い腰を上げて、片目だけを開けた。
視界に入ったのは、磨き上げられた鎧に身を包んだ衛兵。
そして、その背後では見覚えのある顔をした女性が困ったようにこちらを見ている。
シルフィア。
レグナシア王国の第一王女だ。
三年前に俺に「世界を救ってください」なんて無理難題を押し付けた、とてもお目が高い女性だ。
「待ちなさい、カイン」
彼女が衛兵を制止する。
彼女の視線は俺の顔ではなく、俺の横に乱雑に置かれた「棒切れ」に向けられていた。
汚れて煤けた、もはや杖として使うにも頼りないほどボロボロになった、かつての愛剣である天双剣。
「その剣は……
まさか……!!!」
シルフィアの顔から血の気が引いていく。
あぁ……
ずっと隠れるつもりはなかったが、まさかこんなに早く見つかってしまうとも思ってもいなかった。
「シルフィーか……
懐かしいな、王女さま。
なぁ、このまま噴水で寝かせておいてくれないか?
当分何もしたくないんだ」
俺が掠れた声でそう言うと、彼女は絶句した。
そして、周囲の民衆がざわつき始める。
ただの小汚い浮浪者が、王女殿下を呼び捨てに、しかも愛称で呼んでいるのだから当然ではある。
当の王女殿下は、かつての「若き英雄」を探しているようだが、目の前にいるのはただの小汚い浮浪者だ。
すまないが、あなたが期待している「帰還した勇者」は、魔族領のどこかで野垂れ死んでる。
ここにいるのは、ただのイグナートっていう人生に疲れ切った男だ。
「イグナート……様?
本当に…… あなたさまなのですか?」
震える声で彼女が問う。
俺はため息をつき、濡れたマントを被り直した。
「……かもしれないな。
でもだったらどうするんだ?
今の俺はただ、噴水の中で昼寝をするのが趣味の善良な市民だ。
……だから、あっちに行ってくれ。
夢の続きを見なきゃいけないんだよ」
だが、王女殿下は強引だった。
三年前と同じだ。
彼女は俺の腕を掴み、力任せに立ち上がらせる。
「城へ。
陛下がお待ちです。
……そして、皆のこともお聞かせください。」
皆のこと、か。
俺は心の中で毒を吐く。
それを聞いてどうする。
胸糞悪いだけの話だというのに。
レグナシアの青空が、やけに重く感じられた。
俺の「休日」は、どうやら数分で終わってしまったらしい。
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