11.魔王を殺した報酬が噴水広場で昼寝とか、どんな罰ゲームだよ
魔王城の最奥にやつはいた。
巨大な骸の玉座に座る、静寂そのものの存在。
骸の王オーデス。
魔王軍の頂点。
多大な犠牲の上、俺は奴の前に立つことができた。
「弱き者よ。
……よくぞここまで来た」
魔王の声は自分の脳内に直接響くような、重低音だった。
彼は驚くほど冷静で、そしてどこか俺と同じような退屈さを瞳に宿していた。
「……ああ。
俺はお前を殺してこの地獄を終わらせる。
……それだけだ」
俺の声は自分でも驚くほど低く、魔物のような唸り声だった。
「……殺す、か。
……いいだろう。
お前の殺意、余が受け止めてやる」
魔王はゆっくりと玉座から立ち上がり、巨大な骸の剣を構えた。
決戦。
俺は煤けた聖剣を抜き放ち、魔王へと肉薄した。
ガギィィン! と、金属のぶつかる凄まじい音が響き渡る。
魔王の一振りごとに周囲の空間が歪み、床が粉々に砕け散る。
俺の身体は、魔物化によって限界を超えた力を発揮していた。
聖剣『天双剣』が俺の変質した魔力に呼応し、禍々しい黒炎を纏い始める。
「――うおぉぉぉぉっ!」
俺は、黒炎を纏った聖剣を一閃した。
魔王の剣を弾き飛ばし、その無防備な胸元へと刃を突き立てる。
「……グ、ハッ……。
……そうか、お前
……人間を、辞めたんだな……」
魔王は口角からドス黒い魔力を吐き出しながら、不敵な笑みを浮かべた。
「……ああ。
……お前を殺すために、怪物になった。
……満足か?」
俺の脳裏を『メル』『ルカス』『ボルドス』の姿が駆け巡る。
「ふふふ、新たな魔王の誕生だな……。
余は……
満足……だ。
……また、地獄で会おう……」
魔王オーデスは、膨大な魔力の光となって爆発した。
その瞬間のことは、よく覚えていない。
凄まじい魔力の余波。
空間が歪み、俺の体はどこかへ弾き飛ばされた。
そして、気が付いた時には王都レグナシアの噴水の中でボロボロになって倒れていた。
「……ひ、ひぃ。
……なんだ、こいつ……」
周囲の民衆が、俺を不審者を見るような目で見て、遠巻きにしている。
魔王は死んだ。
かつての仲間も、俺の「人間としての心」も、全部あっち側に置いてきた。
「……魔王を殺した報酬が、王都の噴水の中で昼寝。
……ふん、イカれてて最高だな」
俺は欠伸を漏らしながら、シルフィーを見た。
その瞳から大粒の涙が零れ、大理石の床を濡らす。
「……全部、終わったんだよ。
……英雄としての栄光も、魔王との殺し合いも。
……残ったのは、ただ、この汚い身体と、煤けた剣だけだ」
俺の言葉に陛下もシルフィーも何も答えられなかった。
俺は、もう何も欲しくない。
ただ、このまま……
あの地獄の叫びも、
肉を焼く臭いもない、
無音の世界に溶けていたかった。
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