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神主見習いの俺、愛が重すぎる幼馴染(実質嫁)と同棲生活を始めました  作者: ブヒ太郎


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25話

十月中旬。

窓の外に広がる空は高く澄み渡り、校庭の木々がわずかに色づき始めている。


本来なら、美影高校の生徒たちが一年で最も浮き足立つ季節――修学旅行シーズンの到来だ。

だが、二組の教室の片隅で、巴は机に突っ伏したまま、深いため息を吐き出していた。


「修学旅行かぁ……やだなぁ……」


消え入りそうな声が、賑やかな教室内で力なく響く。

その隣で、しおりをパラパラと捲っていた朱音が、巴の背中をペン先で突きながらニヤリと笑った。


「壮一郎さんと離ればなれになるのがかぁ? お熱いですねぇ」


巴は顔だけを横に向け、恨めしそうに親友を睨む。


「そりゃ、そうだろ。修学旅行に壮一郎を連れていくわけにもいかんし」


「お前はいつもそれだなぁ……」


呆れ果てる朱音の言葉をよそに、巴は再び机の冷たさに頬を埋めた。

同級生たちが旅行の計画に胸を弾ませる中、巴の頭の中を占めているのは、数日間も壮一郎と同じ布団で眠れないという、耐え難い事実だけだった。


そこへ、廊下から勢いよく扉を開けて、瑞希と美咲の二人がバタバタと駆け込んできた。


「あーかね、一緒に修学旅行でどこ回るか決めようぜ!」

「巴も一緒に決める? 壮一郎さんへのお土産選びとか、あんた好きそうでしょ」


瑞希と美咲が巴を覗き込む。

美咲の提案に、巴はわずかに眉を動かしたものの、結局は「うーむ……」と濁った声を出すにとどまった。


「なんだ、腹でも痛いのか?」


瑞希が心配そうに首を傾げると、美咲も巴の異様な沈み込み方に戸惑いの表情を浮かべる。


「いや、たぶん……」

「大好きな旦那と離れたくないって駄々こねてんだよ」


朱音がしおりで巴の頭を軽く叩きながら暴露すると、瑞希たちは「あー……」と納得と呆れが混ざった声を漏らした。


巴は反論することもなく、ただ窓の外を見つめて唇を尖らせている。

壮一郎と一緒ではない旅行など、彼女に言わせればただの遠出でしかない。


班分けの話し合いで盛り上がる周囲の喧騒が、今の巴には、まるで遠い異国の祭りのように聞こえていた。

巴の暗い顔は、その日一向に晴れることはなかった。



その日の夜。

神代家の寝室は、開け放たれた窓から入り込む秋の夜風で、わずかに冷え込んでいた。


巴は自分の布団の中で横になりながら、隣の布団で静かな呼吸を繰り返す壮一郎の横顔をじっと見つめている。

月明かりに照らされた彼の鼻筋や、閉じられた睫毛を、飽きることなく眺め続けていた。


「…………はぁ……」


意識的に吐き出したような、大きな溜息。

静寂に包まれた部屋に、それはやけに重く響いた。


「…………お前、そんなに修学旅行行きたくないのか?」


壮一郎が、眠気を孕んだ低い声で呟いた。

薄く目を開けた彼は、至近距離から自分を凝視している巴のどんよりとした視線を受け止める。


「うぁ……起こしてごめん」


「気にするな。で、なんでそんなに修学旅行に行きたくないんだよ」


「……それ、本人に聞くかぁ?」


巴は布団を鼻先まで引き上げ、不満げに目を細めた。


「……んな、たかだか三日間だろ。別に俺が逃げるわけでもあるまいし」


「嫌なものは嫌だぁ」


「駄々を捏ねるな、子供か……」


壮一郎の呆れ声に、巴は「ぅ……朱音にもそれ言われた……」と小さく呻く。


「……桃瀬さんたちとの高校生活、最後の思い出作りだろ」


「それはそうだが、朱音たちとは二年間のみっちりした思い出があって……。壮一郎とは……」


「まだ、一年未満だからか? 巴が中学生時代も、俺と一緒にいただろぉ……」


修行から戻ってきてからの月日は短いが、幼い頃からの積み重ねはあるはずだ。

そう諭そうとした壮一郎に、巴は布団から這い出すようにして身を乗り出した。


「そんときはまだ授業の時間とかで、会える時間が少なかったからぁぁぁぁぁ!」


「まぁ、あんときの巴は今ほどガツンと言ってやらないしな……」


壮一郎は、巴がまだ自分を単なる年上の幼馴染として慕っていた、穏やかな中学時代を思い出す。

あの頃の彼女は、まだここまで遠慮なく懐に飛び込んでくることはなかった。


「……はぁ……あんときは、壮一郎はいつでもあたしの傍にいるって謎の自負があったからですよ……」


「いや、今はどうなんだよ……」


「今はあたしの戦果として、壮一郎が隣にいるのだ……道は切り開かねばならない……」


巴の真顔での宣言に、壮一郎は思わず片手で顔を覆った。


「……どこの勇者だお前は……」


ゲームのような台詞を口にする巴にツッコミを入れながらも、壮一郎は彼女の真っ直ぐすぎる愛着を感じ取っていた。

三日間離れるだけで、巴にとっては自分の日常の根幹が奪われるような気分になるのだろう。


「……はぁ。とりあえず、今日は一緒に寝るか?」


壮一郎は苦笑混じりに溜息をつくと、自分の布団の端を持ち上げ、巴を招き入れた。


「……うん」


先ほどまでの勢いはどこへやら、巴はおずおずと、しかし迷いのない動作で壮一郎の布団の中へと滑り込む。


壮一郎は、腕の中に収まった巴を優しく抱き寄せた。

シャンプーの香りと、彼女特有の温かい体温が胸元に広がる。


ポンポンと頭を撫でてやると、巴は猫のように目を細めて壮一郎の胸に顔を埋めた。

撫でていた壮一郎の手は、流れるように彼女の背中を通り、薄い寝巻き越しの腰まで移動する。


そして、ごく自然な手つきで、巴の柔らかな曲線を確かめるように、そこを優しく撫でた。


「……んっ」


巴の喉が小さく鳴る。


「ま……修学旅行から帰ってきたら、たくさん可愛がってやるから……な?」


耳元で囁かれた甘やかすような言葉に、壮一郎の指先に力がこもるのを感じ、巴は顔を真っ赤にして彼を見上げた。


「……ぅ……壮一郎の変態……」


「……お前が言うな」


壮一郎は更に巴を近くに抱き寄せ、その唇を塞いだ。

三日間の空白を埋めるための予行演習のように、二人は深く、夜の静寂へと沈んでいった。



修学旅行当日、昼過ぎ。

壮一郎は久しぶりに広い母屋の書斎で、一人パソコンに向かっていた。


普段なら巴の鼻歌や、突然の「ぐっへへ」という笑い声、あるいは意味のない「壮一郎ぉぉ」という呼び声が絶えない家の中。

今は、カタカタとノートパソコンのキーを叩く乾いた音だけが、広い部屋に寂しく響いている。


「…………」


淡々と事務作業をこなす。画面上のデータは正確に打ち込まれていくが、どうにも効率が上がらない。

ふとした拍子に、いつもなら横から覗き込んできたり、背中に張り付いてきたりする巴の重みが無いことを自覚してしまう。


「……巴が居ないと、夜もこんな感じか」


ふと手を止め、壮一郎は窓の外を眺めた。

夕飯のメニューを考える必要もなく、お風呂で騒がれることもなく、布団の陣取り合戦をすることもない夜。


いつも騒がしい彼女が居ない夜を想像した壮一郎は、思わず呟いていた。


「……なんかつまんないな」


巴が傍にいることが、今の自分にとってどれほど大きな意味を持っていたか。


(巴が居るから、こうして仕事に打ち込めてるし、将来の伴侶が巴だからこそ……こうして地元での暮らしに彩りが生まれるんだよなぁ…)


「って、何を思ってんだか……巴に笑われちまうな」


散々、「自分はほおっておいていいから、お前は高校生活の思い出を」と勧めてきた自分が、わずか数時間で情けないことを思っていると自覚して、壮一郎は苦笑いを浮かべた。


そんな時だった。

デスクの上で、スマートフォンが突然、覚えのない番号からの着信を告げた。


「(取引先の人の番号は全部入れてあるんだけどな…)」


訝しみながらも、壮一郎は通話ボタンを押した。


「はい、神代です」


『あっ! 良かった繋がった。月城さんの保護者の方であってますか?』


電話の主は、美影高校の教師だった。焦ったようなその声に、壮一郎はわずかに背筋を伸ばす。


「え? ……そうですね」


『月城さん、移動中のバスの中で気持ち悪そうにしてたので、サービスステーションで一回休憩入れてるんですけど、それでもまだ気持ち悪そうで…』


「……えっと、月城さんと代われますか?」


『はい、少し待ってくださいね。………月城さん、保護者の方だけど、話せる?』


電話の向こうから、ガサゴソという音に混じって、小さく「……ハイ……」という声が漏れ聞こえてきた。


『……うぅ……もしもし、壮一郎?』


「巴、大丈夫か? 顔色が悪いって聞いたが」


『……大丈夫大丈夫……別になんてことはないって……』


強がってはいるが、その声は明らかに震え、呼吸も浅い。

時折、胃のあたりをきつく押さえているのか、苦しそうに息を呑む音が混じっている。


「でも、付き添いの教師の人は具合悪そうだって…」


『……いやぁ……バスの中で、今日から壮一郎がいない3日間かぁ…とか考えてたら、急に胃の奥がギュッて絞られるみたいに痛くなってきて……なんか本当に気持ち悪くなってきたのは事実だけど……』


壮一郎と三日間離れるという事実を想像しただけで、極度のストレスから物理的に胃を痛めてしまったらしい。

呆れるような理由だが、電話越しの弱々しい声と、堪えきれずに漏れる苦しげな息遣いを聞いて、放っておけるはずがなかった。


「大丈夫か? 場所さえ教えてもらえれば迎えに行くが」


『……心配ないって……少し休んでればきっと……。ぁぁ、先生が代わって欲しいって言ってるから代わるね』


「あぁ、なんかあれば俺の携帯に連絡しろよ」


そう言うと、再び教師が電話口に出た。教師の声には、困惑と切実さが混じっていた。


『……あの月城さんは平気だって言い張ってるんですが……その、どう見ても顔色悪くて、ずっと胃のあたりを押さえてうずくまっていて……。ただ、大勢の生徒を乗せたバスを長時間待たせるわけにもいかなくて……あの……』


「……場所はどこですか? すぐ車で迎えに行きますので」


『ありがとうございますっ!』


壮一郎は教師から聞いたサービスステーションの住所を検索した。

高速道路に出れば、一時間半程度で着く距離だ。


「……急ぐか」


壮一郎はそう呟き、手短にパソコンを閉じて車のキーを掴んだ。

高校生活の思い出作りにと送り出したはずだったが、どうやら彼女には、三日間も家を空けるのはハードルが高すぎたらしい。


壮一郎は小さく息を吐くと、迷いのない足取りで車を出すのだった。



一時間後。

壮一郎は、教えられたサービスステーションの駐車場に車を滑り込ませた。


車を降り、足早に建物脇の休憩スペースへと向かう。

そこには、心配そうに付き添う女性教師と、胃のあたりをきつく押さえたまま、ぐったりと項垂れて地面を見つめている巴の姿があった。


「巴っ!」


壮一郎が思わず声を上げると、巴はゆっくりと顔を上げた。

痛みに耐えるように険しかったその表情が、壮一郎の姿を認めた途端、ふっと安心したように緩み、力なくヒラヒラと手を振った。


「……いやぁ……悪いね……ほんと……」


「月城さん、あの方が保護者の方……ですか?」


教師が、場違いなほど落ち着いた雰囲気の青年に圧倒されながら尋ねる。


「……婚約者なんですけど、両親からも、あたしの面倒全部任せられてる人なんで、安心していいですよ」


青白い顔のまま、巴が当たり前のようにそう答えると、教師は「そ……そうですか…………あ、あぁ……神代の……」と、以前担任から聞いていた特異な事情を思い出したようだった。


「すいません、ご迷惑をお掛けしまして……」


壮一郎が平身低頭して謝罪すると、教師も慌てて頭を下げた。


「いえいえ……こちらこそ、こんなに早く迎えに来ていただけて助かりました」


「ほら、巴。帰るぞ」


「うん……先生も気を付けて、旅行先に向かってね……」


巴は壮一郎の腕にすがりながら立ち上がったが、痛みのせいか足元がおぼつかない。

それを見た壮一郎は、ためらうことなくごく自然な動作で巴の膝裏と背中に手を回し、軽々とその身体を抱きかかえた。


巴も恥ずかしがる素振りすら見せず、当然のようにその腕の中にすっぽりと身を委ねる。

壮一郎はそのまま、巴を自分の車へと運んでいった。


教師はその二人を、呆然と見送りながら呟いた。


「…………なんか、話に聞いていた通り、本当に古い家の……伝統というか、身内を重んじる人たちなんだなぁ、神代の人って……」


自分の彼氏なら、いくら体調不良とはいえ、ここまで即座に、かつ当然のように抱きかかえて迎えに来てはくれないだろう。

それは単なる若者の恋愛感情というよりも、伴侶となる者を当然の義務として守り抜くという、旧家特有の古風で強固な『伝統』の表れのように見えた。


遠ざかる車のテールランプを見つめながら、教師は美影町の中心に鎮座する、あの巨大な神社の「空気」を、二人の背中に感じていた。



三時過ぎ、巴を乗せた車は、壮一郎の自宅まで戻っていた。

壮一郎は助手席から巴を抱きかかえると、そのまま母屋の自室へと運び、自分の布団に静かに寝かせるのだった。


「大丈夫か? 巴」


そう言って、壮一郎は布団に横たわる巴の頭を優しく撫でた。


「ぐへ…ぐへへ…」


痛みに耐えていたはずの巴の口から、奇妙な笑いが漏れる。

大好きな壮一郎の匂いが染み付いた布団に包まれ、ようやく自分の居場所に帰ってきた安心感が勝ったのだろう。


壮一郎は、その聞きなれた笑い声を聞き、小さく息を吐いた。


「まぁ、いつも通り笑えるなら大丈夫そうだな…待ってろ、今胃薬もってきてやるから」


普段の巴の声を聞き、いつもの母屋の雰囲気に壮一郎は安堵したのだった。



十八時過ぎ。

壮一郎は台所に立って料理をしていた。


フライパンの上でひき肉とネギが炒められ、豆板醤とニンニクの香ばしい匂いが台所に広がっている。

今日の夕飯は麻婆豆腐だ。


豆腐を切り分けようとしたその時、ガラッと、台所の引き戸が開く音がした。


壮一郎は振り返らずに声をあげた。


「起きて大丈夫なのか、巴」


「ん…平気」


足音が近づき、背中に柔らかな重みがのしかかる。

巴は壮一郎の背中から両腕を回し、ぎゅっと壮一郎を抱きしめた。


「…はぁ…落ち着く…」


胃の痛みよりも、壮一郎と三日間離れるという事実がもたらした極度のストレス。

それが今、彼の背中の温もりと生活の匂いの中で、すっかり溶けて消えていくのがわかるような、心底ホッとした声だった。


「そうか…」


壮一郎は料理の手を止めず、背中に張り付く巴の温もりを当たり前のものとして受け止めながら、静かに応えるのだった。



二人は夕食後、いつも通り母屋の広い風呂に入っていた。


湯気が立ち込める中、巴は壮一郎のすぐ隣に陣取り、その温もりに溶けるように身体を預けている。

昼間の青白い顔はすっかり元に戻り、いつもの健やかな赤みが差していた。


「ま、3日間は授業もないんだろ? ゆっくりしてろよ」


「ぐへ, ぐへへ…そうさせてもらおうかな…ふへへ」


巴は壮一郎の顔を見つめて、にんまりと笑った。

大好きな居場所から一歩も出なくていいという事実が、たまらなく嬉しいらしい。


「まぁ、お前が元気そうになって安心したよ」


そう言って、壮一郎は労うように巴の肩に腕を回した。


その時だった。不意に、壮一郎の指先が巴の胸の先端に当たった。


「…んっっ!」


巴が思わず、弾かれたように声をあげた。


「あ…悪いな、巴」


壮一郎は少し慌てた様子で、指を胸から離そうとした。

だが、巴はその壮一郎の手首を素早く掴み、引き留めた。


そして、そのまま彼の手を自身の胸へと強く押し当てさせながら、得意げな笑みを浮かべる。


「ぐへ…ぐへへ…なんちゅかぁ? もしかして、赤ちゃんのご飯の量の確認でしゅかぁ? 壮一郎も最近はようやくパパの自覚が出てきたようで、ママは嬉しいでちゅよぉ」


巴は赤面交じりに、鼻息を荒くして答えた。


普段通りの何気ないやり取り。いつもの壮一郎なら「何言ってんだ」と呆れて振り払っていただろう。

しかし、今日に限って壮一郎は違った。


三日間離れるという事実が、彼の中にあった『卒業まで待つ』という理性の防波堤を、静かに、だが確実に決壊させていたのだ。


「…そうだな」


「…え?」


巴が予想外の返答に一瞬驚き、目を丸くした。

その直後、壮一郎は巴の胸に当たっていた指先に、ぐっと力をいれた。


「…お゛っ!?」


その瞬間、巴の喉の奥から獣のような声があがった。

からかっていたはずの余裕は一瞬で消し飛び、湯の中で身体が大きく跳ねる。


「いい加減、俺も覚悟が決まってきたとこだ。巴がそう言うなら、俺も今日は満足するまで『確認』させてもらうからな」


「そ、壮一郎っ!? …んお゛っ!?」


逃げようとする巴の腰を、壮一郎は空いた腕でがっちりと抱き寄せて固定した。

いつもの「やれやれ」といった態度はなく、その瞳には、伴侶を完全に組み敷く男としての熱だけが宿っている。


「悪いが、俺も我慢の限界だ。気が済むまで付き合ってもらうぞ、巴」


「そ、壮一郎っ…ぐへ…ぐへへ…フヒッ!?」


くぐもった巴の笑い声と悲鳴が、湯気の立ち込める風呂場に木霊した。


自分から仕掛けておきながら、いざ本気で求められると途端に弱くなる。

そんな愛おしい伴侶の反応を余すことなく味わい尽くすように、その行為は壮一郎と巴の寝室でも繰り広げられ、深夜までそれは続けられたのだった。



翌朝7時。

壮一郎はいつも通りの時間に目が醒め、隣を見ると、そこには壮一郎と同じ布団で寝息を立てる裸の巴がいた。


昨日の事を思い出す壮一郎。


「…悪いな、巴…俺のほうが待てなくなって…」


そう呟きながら、壮一郎は巴の頬を優しく撫でた。


「いいって…あたしだって望んできた事だしさ…」


手のひらの感触に気づき、巴はゆっくりと目を開きながら、柔らかく答えた。


「…そうか…そうだな…」


巴の頭を優しく撫でる壮一郎。

朝の静寂の中、二人の間には穏やかで甘い空気が流れていた。


「……ねえ、壮一郎。今日仕事は?」


急にそんな事を聞いてきた巴に対し、壮一郎は特に驚く様子もなく答えた。


「ん? 今日は休みだよ…まぁ、一緒にのんびりしようか、巴」


巴はその言葉を聞いた瞬間、自分の頭を撫でていた壮一郎の手首を掴んだ。


「ぐへっ!! ぐへへっ!! じゃあ、旦那様、昨日の戦いの続きをしようか!?」


「…はぁ!?」


昨日の甘い雰囲気を吹き飛ばすような事を言い始めた巴。


「昨日は散々やられっぱなしだったが、今回はそうはいかんぞ! 勇者!! さあ、我を倒してみせよ!!」


巴は言うや否や、元気よく壮一郎に抱き着いた。


「…お前っ! ほんとムードの欠片もへったくれもないな…!! わかったよ! また負かせてやるから覚悟しろよっ!!」


呆れつつも、壮一郎はその挑発を真正面から受け止める。


そうして、始まった2回戦……。

30分もしないうちに、部屋からは巴が許しを懇願する声と、それを許さぬ音が響き渡るのだった。

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