第一信 あなたのいない故郷から
冬の名残がまだ窓辺に残る頃となりました。
突然の手紙に驚かれたことだと思います。
お元気でいらっしゃいますか?
こんなことを書きながら、実はあなたは驚くよりも喜んでいらっしゃるのではないかと思ってしまいます。
あなたがこの街を離れた日のことを、私は今でも覚えています。
大きな出来事ではありません。
誰かが泣いたわけでも、特別な言葉を交わしたわけでもありません。
ただ、あなたは一度も振り返らずに歩いていきました。
そのことを、私はよく覚えています。
あれから随分と時が流れました。
人は変わりゆくものだと、誰かは言うのでしょう。
それが大人になるということだ、と。
けれど私は、その言葉がどうしても好きになれません。
まだ学生の心のままでいるのだと、あなたなら笑うでしょうか。
話が脱線してしまいましたね。
なぜ、今になって手紙を送ってきたのか。
あなたは、きっとそうお考えのはずです。
あなたが街を離れて、もう何年もその姿を拝見することはありませんでした。
きっと並々ならぬ覚悟を持って、この街を出て行かれたのだと勝手に想像しています。
言わなくてもわかります。
ですから、こうして筆を取りました。
あなたの心の底にも、きっと一抹の寂しさがあるはずです。
それを少しばかり埋めるのに手紙を書くことくらい、私にとっては、なんてことはない簡単なことなのですから。
あの頃、あなたには随分と助けていただいたと記憶しております。
あなたにそのつもりがあったかどうかはわかりません。
人を救う言葉というものは、言った本人よりも、受け取った側に強く残るものですから。
声というものは不思議ですね。
何年も聞いていないはずなのに、ふとした拍子に、部屋の隅から戻ってくることがありますから。
いつかお会いしてお話ししましょう。
あなたの声が聞ける日を楽しみにしていますね。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
返信は不要です。
かしこ




