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近衛の職に就き、順当に出世をした。
早い方ではあったろう。
それなりの重役に就き、ようやく安定が得られたころ。
政変があった。
長らく重用されてきた大臣が、どうしたことか、玉座を狙って狼煙を上げた。
国は真二つに割れた。
東西南北のあらゆる領地が大義名分を得、どちらかの陣営を名乗り、大手を振って戦をした。
自分は家の派閥を裏切って、対立派閥へ属す。
兄との談話の結果である。
どちらが勝っても家が残存するように。
その日から自分と兄は袂を分かった。自分は皇家への謀叛を企てた派閥に属した。
叛乱軍は、勢いのままに皇都を占拠し、皇城を包囲した。
皇家は都落ちを余儀なくされた。
帝も皇子もその奥方も、東の方へ落ち延びた。
上なく尊き御方が。盗人のように闇夜に紛れ発ちゆくさまは、まことに憐れとしか言いようがない。
都には諸橋家だけが残された。
帝の正妻の出身の家である。この国で五本の指に入る、折り紙付きの名家である。
帝に代えて、都の守りを申し仕る。帝の正妻と兄である当主がそう申し出たそうである。
やがて叛乱軍は城に突入し、制圧した。
諸橋家の人間を捕らえよ。
殺してはならない。
発見次第生捕りにせよ。
指令が下り、自分はそれに従った。
***
城の男衆は全て捕らえた。
残るは、城下の屋敷にいる女子供だけであった。
止める家人を突き飛ばし、屋敷へ踏み込む。
逃げ惑う人間を追い回し、牢へと移送した。
第二皇女だけが見つからなかった。なんでも、彼女は帝から全権を託され、諸橋の人々と共に都に残ったそうな。
体の良い捨て駒だ。
彼女は変わり者であるという噂は巷に流布していたが、自分は彼女の実際を目にしたことはなかった。
曰く、男のような格好をして城を練り歩いた。
自室で、蛇や虫や蛙を籠に入れて飼育している。
嘘か本当か判別のつかない噂話がまことしやかに囁かれていた。
自分は囚人の移送を部下に任せ、彼女の捜索に当たった。
庭に出る。
流石は最上級の貴族の屋敷、贅を凝らしてあるのがよくわかる。
広々とした草地に丁寧に刈り込まれた庭木。戦の中でも庭師がよくよく管理を怠らなかったに違いない。
くねりゆく砂利道を辿る。
突き当たりには、背の高い木に囲われた庭園があるようだった。
入り口を潜る。
ちょうど木の下に設えられた長椅子に、美しい黒髪を靡かせた女人が寝そべっていた。長い足を地に投げ出し、ぼんやりと空を見つめている。
飛来した蝶を追いかけ、上体を起こし、可憐な蝶に手を伸ばす。
雷が落ちたと思った。
花に囲まれて座るあなた。
髪は自分が見たどんな髪より艶やかで。
シャツから覗く細い首筋。
あなたの耳が静謐への乱入者の気配を捉え。
首を巡らせ。
あなたの青い目が自分の方を向いた。
その瞬間、僕はあなたのものだった。
「やあ、久方ぶりだね。」
彼女は言った。
「この姿で会うのは初めてだろう。これは、澄華というんだ。仲良くしてやってくれ。」
そして、優美な微笑を見せた。
「我々の家では、幼い頃は男は女として、女は男として扱われるんだ。健康に育つための呪いみたいなものだね。」
二の句のつげない自分に対して、彼女は「騙して悪かったよ。」と言った。
騙すなら、騙し通して欲しかった。
最後まで、隠し通して欲しかった。
そうすれば少年期の甘美な思い出として、あの頃を抱えておけたのに。
柄にもなくあなたとの明日を望んだりはしなかったのに。




