近可愛い
賑わっている夕方のムーンバックスカフェ内で、俺はエスプレッソラテを片手に立ち尽くしていた。目の前には、ベージュ色の木製マルテーブルがあって。
そこには、2人分の椅子がある。
1つは誰も座っていない。そしてもう1つには、眼鏡をかけた小柄な女子がちょこんと座っていた。
さらりと、艶のある黒髪が揺れた。絹糸のようになめらかな一本一本が彼女の白い頬をすべっていく。と、同時に少し顔を上げて、上目遣い気味に、伺うように俺を見つめてきた。
控え目でおとなしそうな顔立ち。でも見つめる瞳の奥はどこか好奇心に満ちた、幼い女の子のような愛らしさがある。
簡単に言うと、俺の苦手な可愛い女子。
エスプレッソラテの液面が揺れている。体が震えてるから、緊張で。
俺は、空いている席に座って良いのだろうか………!?
座る席がなくおろおろしていたところ、彼女に手招きされたから、勢いで近くまで来たものの………、実は手招きしてたのは、待ち合わせしていた友達だったんじゃ………。たまたま俺が近くにいて、たまたま目があって、呼ばれたように勘違いした。
それだとすごく恥ずかしすぎる! 眼鏡女子の友達らしき人、いないっぽいよねっ!?
「あっ、あのぅ………」
「うおっ!?」
透き通るような声の方へ振り向くと、そこにはちょこんと座っている眼鏡女子。
彼女は、気まずそうに小さな口を開いた。
「ど、どうぞ」
眼鏡女子は白い細身の小さな手で、空席の椅子を控え目に示した。
思わず目を見張った。
す、座って良いのねっ! よ、良かった! けど、座るのに勇気と覚悟みたいなのいる!! だって、女子と同じテーブルに座るんだからさ! しかも同じ高校の制服、後輩なのか、同級生なのか、はたまた先輩なのか全然分からない!
ちらり。
うっ!?
初対面の眼鏡女子が気まずげに目線を送る。
あ、あう、ぐ、ぐぐっ!! だぁぁぁぁ!! もう!! おろおろしてた俺を助けてくれた優しい眼鏡女子を困らせてどうすんだっ!!
俺は無理やり決意を固めて、やや早口ながらも、
「あっ、ありがとう」
そう眼鏡女子に伝え、空いているマル椅子に座った。片手に持っていたエスプレッソラテをテーブルにそっと置き、そっと眼鏡女子の方へ顔を向けた。
緊張の色が見える表情。でも、少しホッとしたように、白い頬を緩めた彼女に俺は、
か、可愛いっ………! てか近い!! ムーンバックスカフェのマルデーブル小さ過ぎ!! いやほんと、近可愛いぃんですけど!!
俺は内心大慌てだった。いやここからどうしよ!?
すると、
ブブブブブ!
制服のポケットに入れていたスマホが震えた!




