カフェ 初陣
ムーンバックスカフェ。
全国、いや世界的に有名なカフェのチェーン店。三日月のくぼみに背中を預けて、優雅にコーヒーを楽しむ女神様のオシャレなイラスト看板が目印だ。
それが、今俺の間近にある。
時刻は午後の4時20分過ぎ。5月の夕方はまだまだ明るく少し暑い。
「はあ、はあ………!」
家の近くにあったとはいえ、走って来たから息が苦しい。それに通気性がよくない制服だから体の熱がこもる。汗が止まらない感覚だ。
「俺、いったいなにやってんだよ………!」
さっきまで自分家の部屋にいたのに! そんで、ベッドでごろごろしながらゲームするつもりだったのに!!
今の俺は、大きなガラス越しに見える、上品な店内を凝視していた。
グレーの落ち着いた色合いの石床に、温かみのあるベージュ色の木のテーブルやカウンター席。天井からの淡いオレンジ色の照明とうまく合わさって、そのなんというか、オシャレ空間を演出している。
そして、その席でコーヒーを嗜んでいるお客達も、そう見える。
ムーンバックスカフェは、俺みたいな
キモい系には敷居が高すぎる! 一度も行ったことないしさ!!
窓側のカウンター席のお客と目があった。どこか不思議そうな顔をした後、すぐに視線をスマホに戻して、何事もなかったかのようにコーヒーを飲む。
意識が過剰に反応する。俺の頬が熱い。
だって今の俺不審者過ぎだろ!?
ブブブブブッッ!!
全ては、こいつのせいでなっ!!
俺は苛立ちながらスマホをポケットから取り出した。
画面には、
『エスプレッソラテを注文※頼めるよね?』
『サイズはTALL※読めるよね?』
『店内の席で飲むこと※探せますよね?』
ぐぐっ!!
なんでこんな煽ってくんだよ!! ※の文は省け!!
こんな指示、なんで素直に聞かなきゃいけないのか。それはだな、
『デイリーミッションが果たせなかった場合、青木様には、ペナルティとしてちょっと恥ずかしい目にあってもらいます(てへぺろ)』
画面をスクロールして、最後にこんなこと書いてあるんだからそれゃ素直になるっての! あと煽るのやめろ!! てへぺろじゃねぇよ!!
頭に血が昇る、といういらだった感覚を味わいつつ、俺は額の汗を袖で拭う。
「や、やるしかないのか。あぁっ、もう………! や、やってやろうじゃねぇか!!」
俺は意を決して、初めてムーンバックスカフェの入り口をまたいだ。




