5話 聖女御用達の品の数々
昼食と食後のお茶の後は、お願いしていた練兵場に案内してもらいました。王宮のお庭とは打って変わって、練兵場は土のグラウンドのような場所でした。確かにここなら多少のやらかし?なら許してもらえるわね(笑)
私は腰のベルトぶら下げられているものや、ベルトにつけられている小箱の中から、大きな物から順に手に取って確認していくことにしました。1つ目は杖。杖は腰にぶら下げている間は、邪魔にならないように小さく縮めています。便利なことに手に持ったところで、元の大きさに戻しています。こうしているのは、杖の元の大きさが私の背丈とほぼ変わらない大きさだからです。杖は持っても重さを感じることはないのだけど、高さには圧倒されてしまうから。もちろんこのままの大きさでは、腰にぶら下げたらずるずる引きずって歩くことになってしまいます。だから杖を使うときだけ元の大きさに戻すことにしたの。今までの聖女様たちの受け売りですけどね(笑)
私にはもう1つ、そもそも杖を使うメリットが理解できていません。杖を通して魔力的な感じを受けることはあるのだけどね。でも、杖を通さなくても魔力を感じることはできるでしょ。私はこの疑問をエリアスにぶつけてみました。するとエリアスはいとも簡単に私にメリットを実感させてくれました。
『アリス、まずは杖を使わずに、魔法で光の玉を正面に飛ばしてみて。終わったら今度は杖を使って正面に飛ばしてくれる。これで杖の必要性は一目瞭然だから。光を照らす範囲の差も見てもらうとさらにいいかも』
『うん、やってみるわね』
私は念のためにと光の玉を正面に飛ばしますとキリエさんとルルーさんにお伝えます。2人は聖女が初めて魔法を使うと興味がわいたみたいでワクワク顔をしています(笑)。2人に注目されながらは気恥ずかしいけれど、今は私も興味の方が勝っているの。照れずに右手を突き出して、光の玉を前に飛ばすイメージを頭の中に描きます。私の体中に満たされている魔力が、薄く広く右手の手の平に集まっていくような感覚がしてきます。しばらくの魔力の流れを感じた後、魔法を発動する量の魔力が集まったからか、それ以上の魔力の移動はなくなりました。いよいよ魔法を使ってみるわね。えい!
突き出した右手の手の平に明るい光の玉が現れて、スーッと前に飛んでいきます。なるほど、こんな感じで魔法を使うのね。では、最高速で飛ばしてみましょう。私は手を突き出したまま、再び右手に魔力を集め始めます。集まったところで、全速力で飛ばすのよとイメージして、えい!今度はビューってスピードで光の玉が飛んでいきます。キリエさんはおーっと歓声。ルルーさんは目をぱちくりしていました。お2人の感想は後程聞いてみましょう。
次は左側のベルトに差してあった杖を左手で掴む。杖を元の大きさに戻すイメージ。杖が私の背より少し高くまで伸びていきます。お2人の反応は……先ほどと同じです(笑)今度は左手で杖を突き出す感じで構え、杖にはめられている白い半透明でごつごつした大きな石から光の玉を前に飛ばすイメージ。ただ、私の体内の魔力の移動は先ほどと比べてごくわずか。杖の石にも魔力が貯まっているようで、私の魔力は魔法の発動のために流れていったのかもしれません。すぐに魔法の発動が可能になったようで、そのままえい!杖の石が光り、その光がビュビューって感じで飛んでいきました。ごめんなさいね、語彙力がなくて。2倍とはいかないけど、1.5倍は間違いなく速く飛んでいたのです。お2人もお決まりの反応をしてくれていましたし……
次は光の範囲の確認をしたのですけど、こちらも杖を使った魔法が範囲は1.5倍以上は広い範囲を照らせたの。これもお2人の反応は同じです。お2人はずっとその反応の繰り返しで疲れないのかしら……
『エリアス、今のところ私が感じたのは、杖を使うと魔法の効果が1.5倍くらいかなってこと。杖の有効性は認めるけど、肌身離さず持っているほどの必要性を感じないの。私の気付いていないことは何かしら?』
『うん、アリスが杖から感じた1.5倍の効果でほぼ正解。杖の有効性を感じたのなら必要性は明白よ。例えばキリエとルルーと3人で森へ穢れを除去に向かったとしましょう。初めて立ち入る深い森の中で、どこから邪獣や野生の獣に襲われるかも分からない状況で森の中を探索するの。この状況でいち早く危険を察知するにはアリスの魔法による探索しかないの。その探索範囲が1.5倍の広さになるなら安心感も増すでしょ』
『なるほど、皆さんの安全にかかわるなら、杖は確かに手放せないわね』
『まだ、アリスは魔法に慣れていないから、杖の必要性を感じるのは難しいかもしれない。けれど必ず手放せない相棒になってくれるから』
エリアスの説明に納得した私は、杖を小さくしてベルトに差して元通りです。この動作は剣士様みたいでかっこいいわね(笑)私はキリエさんとルルーさんのところへ1度戻って、お2人に私の魔法の感想を聞いてみました。
キリエさんはあの速度で攻撃魔法を繰り出してもらえたら、前衛はとても助かると興奮気味でした。一方のルルーさんはその速度で魔法を繰り出せる人は、王国にはいないと教えてくれました。そう説明してくれたルルーさんが自ら光の玉を飛ばして見せてくれました。それはゆっくりで、距離も私の数分の1と言ったところでした。でも、キリエさんの話では、ルルーさんは魔法士としても王国内では高レベルに属する魔法の使い手と教えてくれました。私の魔法が桁違いなのを実感することができました。
次に手にしたのは手で握るちょうどいい程度の石の円柱。私がこれは何につかうのかしら?と石の円柱を見ていると、エリアスが魔法の剣だと教えてくれたの。エリアスに魔力を込めてみてと言われたので、杖に魔力を送るのと同じように、石の円柱に魔力を流してみました。すると円柱の先にするすると白い半透明な光の棒?が伸びていったの。
『アリス、その剣はなんでも切れる魔法の剣。なので使うときは十分に注意して』
『えーと、エリアス。私が剣を振り回して戦う必要があるの?』
『まぁ、護身のために剣を使えて損はないわよ。今までの聖女たちは道を切り開くのに使うことが多かった。例えば深い藪の中を切り払いながら進んだり、道を倒木や落石で塞がれているときに、この剣で切り裂いたりしていたわよ』
『なるほど、剣というよりナイフの感覚で使っていたのね、了解です』
その後もベルトの小箱の中に入っている魔道具を1つ1つ取り出しては元の大きさに戻し、確認をしていきました。魔法のかまどとか、魔道具ではないけど湯舟にも使えそうな大きな桶。それに話しに聞いていたお部屋。取り出して元の大きさに戻すと、巨大な長方形の箱になったの。ドアがついていたので中へ入ると、中は立派なお部屋でした。私が今住んでいる王宮のお部屋より広くて、豪華って感じではなく、上品で上質なお部屋って雰囲気でとても落ち着きます。ただ、ここは広い練兵場なので巨大な箱をどんと出現させられたけど、この大きさの箱を出せる場所はそんなにないでしょうね。私が小さくなって小さなままの部屋に入るのが現実的かもしれない……私が小さくなってってところが現実離れはしているけどね(笑)
そして最も利用する魔道具としてエリアスに紹介されたのが軽石のような素材で作られている変な形の物。エリアスが石馬と教えてくれたので、乗り物なのは分かったけど、馬って感じではないわね。現代人の皆さんにご説明するため、あえて車輪のないスクーターと表現しておきましょう。素材が軽石のようなものでできているので、石に座るような冷たさもなくて、長い時間座っていても苦には感じない。聖女様たちの工夫がうかがえるわね。
物は試しと石馬に乗ってみました。足をそろえてちょこんと腰降ろし、手前の取っ手を握ります。この取っ手は方向を変えるようなものではなく、ただ、移動中に安定していられるように取り付けられているみたいです。さて、どう動かすのかしら。魔道具だから魔力を流せばいいのよね。えい!あら、ふわりと浮いたはね。えーと、前に進んで!おおっ、ゆっくり進んだわ。これは快適で楽しいわね。もう少し速度を上げてみましょう。うん、速度を上げても取っ手を握っているからか、怖さは感じないです。どのくらいまで速度がでるの?……機会があれば誰もいないところで試してみましょう!
私がウキウキしながら石馬に乗っていると、エリアスが石馬は飛ぶこともできると教えてくれたの。おまけに速度はドラゴンと同じ速さだと教えてくれました。ようは、この世界で最も早く飛べるってことみたいです。実際に見たことのある速度までが出せる限界なのだとエリアスが説明してくれました。あれ、そうなるとドラゴンさんと同じ速度で石馬で飛んでいる私が、魔法の杖で光の玉を高速で前に飛ばしたとするでしょ。それを見た私は光の玉と同じ速度で飛べるようになるって理屈よね。それならそれを何度も繰り返したら、ものすごい高速で飛べるようになる?。そのことをエリアスに伝えると、しばらくエリアスが考え込んでいたけど、結論は多分可能だと教えてくれました。私の新発見ってことでエリアスに褒められたの(笑)
私は石馬でのお散歩をしばらく楽しんでから、キリエさんたちのところに戻りました。私はお2人に旅でこれに乗ることを伝えしました。私と行動を共にする皆さんは、移動は馬に乗られるみたいです。皆さんの速度に合わせるのだから、そもそもそれほどの高速は必要なかったのね。でも、機会があれば速度アップは習得してみたいな。
魔道具の確認が終わったので、王宮のお部屋に3人で帰ります。その道すがら、私はいつ出発することになるのか聞いてみました。キリエさんによると、私の準備が整ったらすぐにでもと言われました。穢れによって避難を余儀なくされている王国民は大勢いて、その中には街や村のような大きな単位で穢れに包まれている場所もあるみたいです。私待ちと言われるとプレッシャーがかかるわね。この世界の常識や魔法についての知識は旅の中で教わるにしても、そもそもの旅については1度くらいは訓練してから出発したいのが本音です。
そのことをキリエさんに伝えると、王都の近くで確認されている中規模程度の穢れの除去に行ってみてはと提案されました。中規模程度だとパーティーを組んで対応するレベルだったわね。ちょうどいい気がします。それにキリエさんからも、聖女様がどのような魔法を使うのかをパーティーの参加者も気にしているとも言われました。戦い方の事前確認もしておきたいってことね。うん、1度皆さんで訓練に行ってみましょう!私はキリエさんにそう伝え、準備をお願いします。ただ、そこで私は1つの疑問が。
「ルルーさんは今回のパーティーに参加されるのですか?」
ルルーさんは剣士様でも魔法士様でもない。お部屋で私が快適に過ごせるように心配りをしてくれる侍女さん。戦闘が伴う長期の旅に同行してくれることは、きっとないのよね。残念だけどしかたない。私がしょんぼりしていると、キリエさんが慰めるように私の背中を撫でながら話してくれました。
「アリス様、ルルーさんに同行してもらいたければ、希望を本人や周りの者に伝えてください。これから長い旅になるのです。自分が心穏やかに過ごせるよう、身近な人に同行してもらうのは過大な要求ではありません。そのくらいのわがままは当然許されると思いますよ」
私はキリエさんの言葉に背中を押されたものの、どうしてもルルーさんに旅に同行してほしいと伝えられませんでした。だって女性としてみれば、ちょうど結婚して子供を授かる適齢期の時期に、わざわざ旅に同行してもらうのは、女性としての重要で幸せな時期を無駄にさせてしまうことだから。私は何といえばいいのか結論が出せず、うつむいてモジモジするばかり。そんな私を見かねて、キリエさんは私の背中をパシリと叩いてくれました。
私は前を歩くルルーさんの袖を手でつまみ引っ張る。ルルーさんが立ち止まり、私に振り向いてくれます。そしてルルーさんもキリエさんも私の言葉を待ってくれてました。
「ルルーさん。ルルーさんにとって、とても大切なものを失う結果になります。でも、私はルルーさんにどうしてもお願いしたいのです。私と一緒に穢れを払う旅に同行して、いつも私のそばに居て欲しいです。お願いしてもいいですか?」
ルルーさんもキリエさんも穏やかな笑顔になってくれます。ルルーさんがうつむく私の頭に手を置いて、優しく頭を撫でてくれました。
「アリス様。私もアリス様と旅がしたかったです。皆で旅をして、王国中のいろいろなものを見て、いろいろな人と会って回りましょう。王国中の困った人たちを助けながら、王国中の穢れを払っていきましょう。そしていつの日か、すべての穢れを払って王都に戻り、お茶を飲みながら旅の思い出話をして過ごすような、穏やかな日常を取り戻しましょう」
嬉し涙が止まらず、泣きながら顔を上げられないでいる私をルルーさんは優しく抱きしめてくれました。王国に召喚されてきて、初めて心の内を話せた気分でした。




