3話 先代聖女様からのお手紙
3人での昼食を終えた後、私はキリエさんとルルーさんにさらにお願いして、3人でソファーに移動してお茶をいただくことにした。もう少し王国のことや今後のことを聞いておきたかったから。私が穢れを払うために王国内を巡る旅に出るのは何となく分かっていたの。でも、旅に出るまでの準備に何が必要なのか、まったく想像もできない。もちろん物資としての準備はあるだろうけど、知識の準備も必要でしょ。何も知らずに旅を始めるほど、私も無鉄砲ではないもの。
私の疑問にはキリエさんが答えてくれた。王国が考えているのは聖女様を中心とした少数精鋭の冒険者パーティーを組むこと。剣や盾を駆使して戦う剣士が3人。この3人の中にキリエさんも含まれているみたい。よかったー。魔法士は2人で攻撃を行う黒魔法士と戦闘のサポートを行う白魔法士。どのパーティーメンバーも王国有数の人が選ばれるみたい。あれ、でも王国軍でも穢れを払うのに時間がかかるのよね?こんな少人数のパーティーで大丈夫なの?私がこの疑問をぶつけてみると、答えは簡単。聖女様の聖魔法なら穢れを払うのは簡単なことなんですって。それは皆さんが私に期待をしてくれるのも無理はないわね。ただ、これはあくまでも過去の聖女様がそうされてきたこと。旅に出るには私にも旅ができるのかを確認してからになるみたい。それと、冒険者パーティーに選出される人たちは戦うばかりではなく、学問についても優秀な人たちばかりなので、旅の中でおいおい教えてくれる予定のよう。旅の間も退屈しなくていいわね。
それともう1つ、聖女である私にとってとても大切なお話。なんと先代の聖女様が次代の聖女様に向けて残された遺品が残っているそうだ。王宮宝物庫の中に、聖女にしか入れないお部屋があるらしく、ここに入れるかどうかも聖女の能力があるかどうかの見極めになっているそうです。私、入れるわよね?ちなみにそのお部屋に何が残されているのかは、誰も何も知らないそうで、先代の聖女様も次代の聖女に渡しなさいとだけ書き残していただけみたい。ここには一刻も早く行っておかないといけないわね。私がそのことをお願いすると、王宮側へ依頼をしておくので明日には宝物庫に入れるだろうと言われました。何が出るのかワクワクです。
おしゃべりは夜になるまで続き、夕食をいただいた後に、もう1度お風呂にはいる。肌触りの優しい着心地のいい寝間着に着替えれば、今夜は早々にベッドの上に移動した。先代の聖女様は私に何を残してくれたのでしょう?ワクワクしながら眠りにつくのでした。
翌朝、キリエさんは迷っていたけど、私は部屋から出ないから心配しないでと言って、キリエさんを毎朝恒例の朝の訓練に送り出した。メイドさんが私に「よければ朝食前にお風呂にはいりますか?」って悪魔のささやき。私がいたくお風呂を気に入ったのが、メイドさんたちにはもうバレバレだったみたい。もちろんその誘惑を振り払うことはできず、素直にメイドさんたちに甘やかされてしまうのでした。
お風呂を終えると部屋着を着るか法衣を着るか聞かれたけど、法衣を着ますとお返事した。お風呂をいただいたら1日の始動!って習慣にできたらいいな。少し贅沢しすぎかしらね?
着替えを済ませると、朝食の準備が整うまではソファーに座ってお茶をいただいた。隣にルルーさんが座ってくれて、今日の予定を説明してくれる。私の希望の宝物庫で先代聖女様の荷物を預かることは、すぐに王宮の許可が出たみたいです。宝物庫の管理者が私を部屋まで迎えにきてくれるそうです。キリエさんとルルーさんも同行してくれるそうなので心配はいらないわね。午後は私の希望で受け取った荷物を調べるなり、書庫に行くなり自由に選択していいみたい。ルルーさんもメイドさんたちも私への気遣いは完璧で、まるでお姫様気分だわ(笑)しばらくすると、大急ぎで訓練と入浴を済ませたキリエさんが戻ってきた。明朝からは朝の訓練を優先してもらうようキリエさんに伝えておいた。だってキリエさん、髪がボサボサなのですもの。ルルーさんがキリエさんの髪をとかしてくれて、ようやくキリエさんもいつも通りです。
朝食をいただき食後のお茶をいただいていると、お部屋に来客が伝えられる。ルルーさんが出迎えると、宝物庫の管理者様。それにもうお2人がいたのだけど、明らかにお2人は魔法士様だった。だってローブを羽織り、杖を握っているのですもの。私もローブや杖を用意した方がいいのかしら?管理者様とご挨拶をすると、2人の魔法士様のことを説明してくれました。男性はランツ様で黒魔法士、女性はラミア様で白魔法士でした。宝物庫の荷物は強い魔力を伴っているようで、お2人が護衛として来てくれたみたいです。それにお2人は聖女のパーティーに参加することが決定したそうで、私とは数年を行動を共にする人になるようです。キリエさんのように仲良くしてくれたら嬉しいな。
管理者様の案内で6人は宝物庫に向かいます。王国の宝を保管している場所だけあって、キリエさんもルルーさんも近寄ったことすらない場所だと話してくれました。ちなみにランツ様とラミア様も初めて訪れるとのことでした。気楽な調子なのは管理者様だけのようです(笑)
宝物庫の入り口近くと思われる場所は広いがらんとしたフロアで、すでに大勢の騎士様たちが警戒態勢で待っていてくれました。宝物庫の扉を開くとなれば、護衛が厳重なのは当たり前ですね。私たちが歩いて入り口に向かうと、騎士様たちが左右に下がって道を開けてくれました。ただ、私たちが通り過ぎると、騎士様たちは元の位置に戻って警戒態勢をとってくれていました。入り口の扉は人が1人ずつしか通れない小さなものだったの。大きなお宝はどうやって取り出すのかしら?そんな疑問を抱きつつ、扉の中へ入っていきます。中はとても広くて、棚が何段も置かれていました。雰囲気としては図書館みたいと言えば、現代人の皆さんに伝わるかしらね?管理者様は迷うことなく奥へ向かって歩いていき、突き当りを右へ曲がりました。曲がった先の突き当りの壁には多くの扉があって、さらに重要なお宝が個々に管理されているようです。
ようやく管理者様が足を止めたのは、最も奥の扉。何か所かの鍵をそれぞれの鍵で開けていき、ようやく扉が開きました。6人で部屋に入ると小さな部屋の中に、両脇に長机が置かれているだけのシンプルなお部屋でした。ただ、奥の壁は全体が魔力の塊のようなもので閉じられているの。ランツ様とラミア様は魔力の威圧を感じたようで、少々厳しい表情をされている。それにルルーさんも厳しい表情をしていたから、ルルーさんも魔法が使える人なのだと初めて知りました。ここで管理者様がようやく口を開きました。
「聖女様、この先は聖女様だけが入れる部屋?と言われている場所です。ここから先はお1人でお進みください」
「分かりました。1度中の様子を見てすぐに戻ってきます。皆さんに様子を伝えた後で、じっくり中の品を調べたいと思います」
「ご配慮感謝いたします。どうぞお気をつけていってらっしゃいませ」
皆さんの注目を浴びながら、恐る恐るゆっくりと前に進む。一瞬だけ霧の中を通り過ぎたような感じで、体への抵抗はまったくありません。中の部屋も狭いところで、皆さんを残してきた部屋と同じくらいの広さかしら?奥の壁際に机が置かれていて、机の上には箱と杖と動物の革?のようなものに何かのインクで文字が書かれていました。私には読めるけど、きっと皆さんには読めない文字ではないかな?まあ、手紙のことは後回しにしましょう。私は部屋の状況を伝えるために1度部屋を出ることにしました。
私は普通に霧を抜けるように歩いて出ると、私の姿が現れて皆さんはおおって驚きの声が漏れていました。きっと誰かが指でツンツンしてみたのでしょうね(笑)
「皆さま、お待たせしました。中は普通のお部屋だったので、心配には及びません。部屋の中には箱と杖と手紙のようなものが残されていました。これから戻って手紙を読みます。先代の聖女様の伝言があればそれを果たしてきますので、皆さんはここでもうしばらくお待ちください」
私の冷静な口ぶりに、皆さんも私に危険がなさそうだと感じ取ってくれました。とりあえず一安心してくれたようでした。私はペコリと会釈して、再び霧の中へ戻りました。
私は部屋に戻ると、真っ先に革のお手紙を読み始めます。書き始めは、「新しく召喚された聖女様へ」でした。もうこの一言だけで、私は先代聖女様への親近感を感じてしまいました。
手紙の中身は挨拶や召喚されてきて不安や戸惑いもあるだろうけど、まずは落ち着いてって書いてくれてありました。机に置かれている杖は手放してはいけないこと、箱は私だけが開けられる箱で、例え箱が盗まれたり置き忘れたとしても、杖を持った私にはどこに置かれているかは何となく伝わってくるそうです。そして最後に、歴代の聖女様が書き残してくれた手紙や、箱の使い方、旅をする上での必要な知識や魔法についても書き残してくれてあるみたいです。詳しくは箱の中を家探ししてと書いてありました。最後に先代の聖女様は、聖女は万能、そのことで浮かれても落胆してもいけない。聖女も普通の人。自分の行く末はしっかり考えて暮らしなさいと手紙は締めくくられていました。まだ私にはその言葉はすとんと入ってこないけど、肝には銘じておきます。
私はエリアスにも手紙を見せようとしたけど、エリアスはもう知っているからいいのだそうです。もしかしてエリアスは、先代の聖女様が手紙を書かれている様子を、横で見ていたのかもしれないわね。それよりもエリアスは私に杖を持つように催促してきました。言われるままに杖を手にすると、スッと私の中に何かが流れ込んできました。それに合わせて、私と杖の間に何らかの流れの循環が作られたことを感じました。
『エリアス、この杖と私の何かの流れは何なの?』
『それは杖がアリスを持ち主と認識した証拠。もう杖はアリスが握っていなくても、自然とアリスのそばを離れないから心配いらないわよ。ただ、普段は普通に腰のベルトにぶら下げるか、肩ひもで背負うかしてあげて。杖の使い方はおいおい教えてあげるから、今は気にしなくていい。それじゃ手紙を箱にしまって外に出ましょう』
私は手紙をしまおうと箱の扉を開けてみる。箱の中身は……えーと、霧?雲?とにかく白いふわふわした何かに遮られ中は見えないの。私が困ったちゃんになってアワアワしていたら、エリアスに気にせず箱に手紙を入れてと言われて、恐る恐るポイっと手紙を箱に入れてふたを閉じた。
皆さんのところに戻ろうと、私は両手で箱を抱えます。そうなるともちろん杖を持つことができません。どうしたらいいの?と悩んでいると、杖は私の不安を取り除くように、ふわふわと私の目の前に浮かんでくれました。
「ありがとう、杖さん。持ってあげられないけど、このまま私についてきてください」
もちろん杖が返事をしてくれることはないのですけどね。それでも杖は私が歩き始めれば、ゆらゆらと私についてきてくれました。私が箱を抱えて霧を抜けると、皆さんが出てきた私に注目していました。ルルーさんが私の荷物に気付いてそばに歩いてきてくれました。
「聖女様、差し支えなければお荷物をお預かりします。そのー、聖女様は後ろに浮いている杖?を持たれた方がよろしいかと……」
「ありがとうございます、ルルーさん。それではお言葉に甘えて箱はお願いします。普通の箱ですから、それほど心配しなくても大丈夫です。宝物庫の外に出たら騎士様にお願いしてお部屋に運んでもらいましょう」
箱をルルーさんに預けて、浮いている杖を両手で握る。最初に握ったときのような物理的?なつながりは感じないけど、確かに杖とつながっていることは感じます。これから私の頼もしい相方になってくれるのでしょう。




