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16話 月龍様にご挨拶

 月龍様の住む山に向けて石馬に座って飛ぶ私とルルーさん。早速私は石馬の速度アップを始めました。自分の出せる最高速度で石馬を飛ばしつつ、左手に持った杖を前に突き出し魔法で光の玉を飛ばします。光の玉がビュッと飛んでいくので、私は目にした光の玉に追いつこうと速度を上げていきます。何度か繰り返すと風の抵抗が息苦しいほどになり、速度アップはここまで。今度はこの息苦しさを何とかするために私たちをすっぽり空気の玉の中に包み込みました。外はビュービュー風の音がしているけど、玉の中は風もなく穏やかです。おまけに玉の中は外に比べると温かい。これは普段の速度で飛んでいるときでも使うべきよね。


 私の最高速が3倍ほどになったので、今夜は野宿を予定していたけど夕方には月龍様の住む山に到着できました。山の火口に見えるけど、ずっと地下まで穴は通じているみたいです。おまけに月龍様の住む山の火口も縦穴も白い石でおおわれているの。これって私の杖と同じムーンストーンですよね?元々山にあったものとも思えないので、月龍様がお住いの間にムーンストーンにおおわれたってことかしら?私とルルーさんはその見事な光景にきょろきょろしながら、徐々に縦穴の底を目指して高度を下げていきました。下を見ると月龍様より少し小ぶりの月龍様と同じ種族の龍もいました。月龍様のご家族かな?分からないことだらけの中、無事に地上に到着しました。


 私とルルーさんが石馬から降りて月龍様の前に歩み寄ります。私は左手に杖を握って月龍様とお話しを始めようとすると、ルルーさんは私の右手をぎゅっと握ってきました。ルルーさんのその手は小刻みに震えていました。圧倒的な大きさと強さを感じさせる存在の前に立って、ちっぽけな人間など無力なのだと感じているのでしょう。話してみるといい人……いい龍様なのですけどね。私もぎゅっとルルーさんの手を強く握ってあげて、大丈夫アピールをしてみたけど効果はないみたいです。



「ルルーさん、私はこれから月龍様とお話しします。月龍様は私たちに危害を加えたりはしないので安心してください。見た目の怖さは諦めてください(笑)」



 ルルーさんには私の言葉も効果はないようなので、もう月龍様とお話しすることにしました。



『月龍様、ご無沙汰をしております。亜人たちの面倒を見ていただき、心から感謝いたします』


『気にすることはない。ただ、儂もこまごましたことには目が届かん。亜人が連れ去られてことは謝罪しよう。亜人をさらった領土を根絶やしにしてやることは可能だが、聖女はそれを望まんだろう?』


『月龍様、お心遣いをありがとうございます。私も聖女としてこの土地に召喚されてきましたので、人の死は望みません。私の旅も後1年ほどで終わると思います。その後は私がこの森に住み、月龍様や亜人たちと協力して暮らしたいと思っております』


『うむ、それは儂にとってもありがたいことだ。うろこの手入れをこまめにしてもらえるからな。ところで聖女、その横にいる女は今にも死にそうなほど恐れているようだ。その辺に転がっている石を握らせて、話しをさせてやったらどうだ?この女は魔法が使えるのだろう?』


『では、お言葉に甘えさせていただきます』



 私は握るのにちょうどいいくらいのムーンストーンを1つ手に取り、ルルーさんに手渡そうとしました。ただ私が石を拾っている間もルルーさんは手を放してくれないので、よほどルルーさんは恐怖を感じているのです。月龍様と直接話して大丈夫かしら。



「ルルーさん、魔法士がその石を握っていると月龍様とお話しできるようです。月龍様がお許しくださったので、一緒に月龍様とお話ししましょう」



 ルルーさんはぶるぶる首を横に振って遠慮していたけど、そこは半ば強引にルルーさんの手に石を握らせました。



『月龍様、旅の間に私を支え続けてくれた、魔法士のルルーさんです。ルルーさん、ご挨拶をお願いします』


『月龍様、私のような者がこのような神聖な場所に立ち入ってしまったことを謝罪いたします』


『ルルーと申したか。それほど恐れることはない。よくぞ今まで聖女を手助けしてくれた。礼を言う。これからも聖女のことを頼む』


『もったいないお言葉です。これからも全力で聖女様をお助けいたします』


『ルルー、聖女以外の生命がここを訪れたのは初めてのことだ。土産にそのくず石はそなたにやろう。聖女のように杖にでもするがいい』


『ありがたく頂戴いたします。心より感謝申し上げます』



 この大きさの石でくず石?月龍様、それはちょっと言い過ぎではありませんか?人間なら何度も人生を遊んで暮らせるほど価値がありそうですけど。



『月龍様、この石は月龍様にとっては価値がないのですか?』


『ああ、儂らには小さすぎて役にたたん』


『大きければいいのですか?』


『ああ、儂らはこれを食うておるからな』



 ええっ、月龍様はムーンストーンを食べているの!もしかしてうろこを維持するためには必要な栄養素ってことかしら?



『月龍様、私はこの小さな石を集めて大きな塊にすることが可能です。1つ試してみますので、月龍様のお役に立ちそうか確認していただけますか』


『うむ、大きな塊にできるなら試してみてくれ』



 私はその辺に転がっている石を集め始めます。ルルーさんも手伝ってくれて、そこそこ山に積みあがりました。この量ならかなり大きな塊が作れそうね。


 私は石の塊に対して錬金魔法を詠唱。1つの丸い塊にしました。ええと、月龍様にどうお渡しすればいいのかな?そうだ、得意の反重力魔法でいいわね。私が反重力の魔法で月龍様の目の前に石を浮かび上がらせる。月龍様は石を見て少々がっかりされています。



『月龍様、お気に召さなかったようですね、申し訳ございません』


『いや、この倍ほどの大きさになればありがたかったのだがな』


『あら、まだ小さかったですか。では、この倍の石にしてみましょう』



 私は面倒になって反重力の魔法を使って次から次へと石のかけらを集めます。先ほど集めた石の山よりかなり大きな山になったところで終了。大きくした石も山の上に置いて、また錬金魔法で1つの塊にします。ふーっ、さすがにこのくらいの大きさとなると、私の魔力といえでもかなり消費するようです。今日はこのくらいが限界ね。


 今度は出来上がった石を月龍様がご自分で浮かび上がらせました。もちろん触ることなく……魔法かな?そしてご自分のお口の中へ。がりがり噛んでごくりと飲み込まれた。ふーんと鼻から大きく息を吐かれた後、大きく息を吸い込まれた。月龍様の体がふわっと発光して、何事もなくもとに戻りました。



『ふむ、このくらいの大きさなら問題ない』



 私は月龍様がわざわざ塊にした石をがりがりかみ砕かれたことに、少々納得がいっていないです。だってあんなに魔力を使ったんですもの!そのことを月龍様にお伝えすると、なんのことはないご回答でした。そんな小さなものは儂には見えんでした。人の森への出入りを見えないと言われる月龍様ですもの、小さな石が見えないのは当たり前ですよね(笑)



『月龍様、あの大きさの石にするには、それなりの魔力を使うので今日はもう無理ですが。月龍様が不要と思われる石をお預かりして、次回お会いするときに大きな塊にしてお持ちしましょうか?』


『うむ、そうしてもらえると助かる。餌場にしていた山がいよいよ底をついてきた。新しい餌場を探しているが、今のところ見つかっておらん』


『月龍様はそれで大丈夫なのですか?』


『ああ、聖女に回復魔法もかけてもらったし、今日も馳走になったしな。千年程度は問題ないだろう』


『では、石は持ち帰り塊にしてまいりましょう。ところで月龍様、お1人だけお食事をされましたが、お隣の月龍様はよろしいのでしょうか?月龍様のお子様ですか?』


『隣にいるのは次期月龍だ。人の言う親子という関係ではない。うーむ、人に説明するのは難しい。次期月龍で認識してくれ。まだ小さいので小さな石を自分で食しているので問題ない』


『かしこまりました。では、月龍様、次期月龍様、本日は回復魔法をおかけして、今日は引き上げさせていただきます。旅を終えたらまたお伺いします』


『うむ、手間をかけさせる。何か困りごとがあれば何なりと相談せよ』



 私とルルーさんは手分けしてムーンストーンをかき集めて袋にいれました。もちろん私が魔法でかき集めて、ルルーさんが口を開けてくれた袋の中にポイですけど。かなりの袋の数になったので、しばらくは毎日石を固めるのが日課になりそうです。


 すべての袋を箱にしまえば、石集めは終了です。月龍様と次期月龍様に回復魔法をかけてお別れの挨拶をしました。亜人のことも引き続きお願いすると、快く引き受けてくださいました。ルルーさんもこの頃にはようやく慣れて、お別れの挨拶は落ち着いてされていました。大きな石もいただきましたしね。




 月龍様の山を出ると、辺りはもう真っ暗です。夜間飛行は怖いので、ルルーさんと山のふもとで野宿することにしました。魔眼で見ると危険なものは何もないようです。月龍様のお膝元ですからね。私とルルーさんは温かいお茶と簡単な携帯食を食べて早めに眠ることにしました。予定よりかなり早い戻りになるけど、それでも皆さんに心配をかけているので、できるだけ早く宿に戻りたいです。


 翌朝も日が昇れば簡単な朝食を食べてすぐに出発です。夕方までには宿に戻れるでしょう。宿に戻ったらキリエさんの様子を確認して、おいしいお食事とお風呂を堪能したいです。私の後ろに石馬に乗っているルルーさんは月龍様からいただいたムーンストーンをどうやって杖にしたらいいかと思案の真っ最中。王国の魔法士さんたちの持つ杖の中にも、杖に石を埋め込んでいるものは見かけたことがありました。でも私の使っている杖は先端がリング状になっていて、その空間に石が浮いている摩訶不思議な構造の杖です。原理はともかく作ることは簡単なので、宿に戻ったらルルーさんの杖づくりにも協力しましよう。帰った後の楽しみがいろいろあって、宿に着くのが待ち遠しい気分です。




 私とルルーさんは真っ赤な夕焼け空の中を飛んで、無事に宿のある町に帰ってきました。急ぎ石馬を片付け宿にはいります。石馬で飛行中は空気の玉の中に包まれていたためか、2人とも長旅をしてきた埃っぽさもなくきれいな服装のままでした。私の法衣はそもそも汚れないのですけどね。


 私はすぐにキリエさんのお部屋に様子を見に行きます。お部屋ではキリエさんがイスに腰かけながら本を読まれていました。



「キリエさん、ただ今無事に戻りました。キリエさんは顔色がよくなったようですね、安心しました」


「アリス様、それにルルーさん。随分と早いお戻りですが、月龍様のところには行かなかったのですか?」



 私とルルーさんは旅での出来事をキリエさんにお話ししました。石馬が今までよりも3倍も速く飛べるようになったので、月龍様にご挨拶して帰ってきましたと伝えました。一方のキリエさんは昨日から眠り続け、今日の昼食前まで眠り続けたそうです。疲れがすっかり取れてもう大丈夫だと皆のところに行くと、ラミアさんに今日は1日外出禁止!と言われ本を渡されたそうです。


 その後も私とルルーさんは無事に帰ってきたと皆さんに伝えて回りました。これで寄り道の旅は終了です。キリエさんとラミアさんもお誘いして女性4人でお風呂にはいることになりました。


 ここの宿はお風呂にハーブが浮かべられていて、香りも温浴効果も最高です。森に住めばこの贅沢が毎日続けられるかも!なんて想像したら、森での生活がますます楽しみになります。ただ、そろそろ私も森で暮らすための準備は始めた方がいいかもしれません。衣食住で考えると住は確実に問題はないです。この森の開けた場所に箱の部屋をどんと置いてしまえばおしまいですから。衣に関しても法衣を着ている分には汚れることもないし破れることもないです。ずっと着た切りってことを気にしなければ問題はないです。一番の心配は食ですかね。もちろん狩りや果物採取で食べるのに困ることはないでしょう。ただ、そればかりでは飽きてしまいそうです。そもそもパンはどこかで小麦粉を調達する必要があります。あら?亜人の皆さんはパンを食べるのかしら?トカゲの亜人さんはパンと言うよりお魚を好みそう。種族ごとに好みが違うのかな?今は皆さんに共同生活をお願いしているけど、種族ごとに森の住みやすい場所で暮らしてもらうのがいいのかな?その辺のことは村の人たちとお話ししてみる必要がありそうね。


 私がそんなことをボーっと考えていると、ラミアさんに心配されてしまいました。私は旅が終わった後の生活について考えていましたと言ったところで、皆で旅の後のことを話すことになりました。ラミアさんは王国最高の魔法士であるラミルス魔法士長様の娘さん。当然王国魔法士団に戻られると皆が思っていたら、神聖教会の魔法士になりたいと爆弾発言。聖女の私が教会でお祈りをしたり、病や怪我で困っている人を癒したり、貧しい子供のために寄付をしていたのを見ていて、ご自分も庶民に寄り添いながら生きていきたいと思われたそうです。私の意思を引き継ぎますと言ってくれて、本当に嬉しくなってしまいました。キリエさんは領主様のところへお嫁入です。キリエさんのお父様と先代の領主様が学生時代の同級生であり親友で、お互いに息子と娘を結婚させて家族になろうと決めていたそうです。すでに先代の領主様はお亡くなりになっていて、キリエさんの旦那様となられるお方が領主をされているそうです。キリエさんも旦那様には何度か王都で会われたことがあるそうで、領地へ嫁いでいくのを楽しみにしているのです。ただ、キリエさんは私のことをとても心配してくれています。お役目が終わった私が1人で生きていくのはお気の毒ですとのことです。心配なんかしてくれなくても大丈夫ですし、何よりも私はキリエさんが幸せになってくれることこそが、何よりの喜びなのですけどね。


 ちなみにルルーさん。すでにご家族は皆さんお亡くなりになられているそうで、旅を終えたら考えますだそうです。もちろんルルーさんにも旅のご褒美は王国からいただけるでしょう。ルルーさんも領地を賜ってお婿さんにきていただくのが幸せになれそうです。




 長話しをしていて皆でのぼせてしまったので、食堂で飲み物をいただきましょうとなりました。4人で食堂に向かうと男性3人もお風呂を済ませてビールで乾杯されていたようです。女性陣も参戦して再びビールで乾杯となりました。久しぶりの旅の息抜きは楽しい時間となりました。


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