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15話 人の子と亜人の子

 旅を始めて3年が過ぎ、私たちのパーティーは王国東端の海に到着しました。予定通り2年をかけて西端から東端にたどりつきました。この王国はどちらかと言えば北側に人が多く住んでいることもあり、南側は穢れの数が多く、強大な穢れもいました。私は3回全力の魔法を発動し、その度に意識を失い寝込んでいました。パーティーの誰しもが命の危険を感じるのだから、私の全力魔法に異をとなえる人はいなくなりました。それでも東端に無事に到着できて、旅はもうすぐ4分の3を終えることになります。


 私には東端は目指す場所でした。東端を北上してすぐに大きな密林地帯になります。この森こそ月龍様が支配されている森。月龍様をはじめ龍族の多くは北の山脈に住まれているようで、広大な森に目を光らせてくれているのです。私が送り届けてもらった亜人の皆さんにも、お会いできるかもしれません。


 私がお会いできるかも~と疑問形で言ったのは、この森の中には立ち入らない予定だからです。穢れがいるかどうかも分からないのですが、そもそも月龍様をはじめとする龍族の支配地域に足を踏み入れるのもどうかとなっています。月龍様に直接お会いしてお礼の一言でもお伝えしたかったのですが、とても残念です。まぁ、旅が終われば私も自由の身になれるし、旅の終わりの報告と今までの感謝の気持ちをお伝えすることにしましょう。




 東端は南の海辺と少々の開けた土地、その土地に隣接した密林がずっと北まで続き、北側の山脈と接します。山脈は幾重もの山々が連なり、山脈を超えると隣の王国になります。山脈を超えて隣国に行くことは、人にはできないほど過酷な場所なのですけどね。この密林も山脈も人が住んでいない地域になるので王国領に属しています。王国領の密林の西側に接する3つの領地があり人が住んでいます。私たちはこの領地を通って北上することになっています。


 北上の旅の中でこの3領主様は、私たちのパーティーに対して慇懃に礼を尽くしてくれるのですけど、私でも上辺だけな態度が見て取れます。たっぷりと食料援助なんかもしてくれたのですが、どうぞさっさと先に進んでください感がありありと伝わってきました。もちろん私たちも長いする必要もないのでさっさと領内を通過して山脈まで移動する予定でした。でも、最初の領地の街ですぐに問題が発生しました。


 エリアスが私に伝えてくれたのが始まりでした。私の奴隷が囚われていると。もちろんハーデンさんとキリエさんにはすぐに報告しました。私が以前も奴隷の所在を突き止められる能力を持っているのを知っているお2人は、領兵団の人に声をかけてくれて立会人になってもらうことになりました。私が現場まで案内して場所を特定しました。領兵団の皆さんは万が一目的の奴隷がいなかった場合は……のいつものお言葉です。どうも領兵団も奴隷がここにいることを、うすうす感づいているようです。もちろん私は罰金でも罪でもお受けしますと伝えます。その代わり、ここに私の奴隷がいた場合は、国王陛下にもご報告して領主様はお叱りを受けることになるでしょうけどともお伝えしました。


 お互いの主張は平行線で埒が明かないので、私1人で敷地内に入ります。何かあれば私1人の責任にしてもらっていいですからと言い残して。もちろん私の後ろにはキリエさんがついてきてくれましたけどね。建物の扉の前にはお約束の見張りの人が2人います。私がこの建物の中にいる私の奴隷を返してほしいと伝えると、そんな者はここにいないの一点張り。私はいたら大変なことになるますよと言ったところでお2人が私に殴りかかってきました。私は対人の魔法で好んで使っている反重力の魔法を使って2人を空中に浮かび上がらせます。2人は恐怖しながらも上空でもがいていますが、空に浮いているのですからどうということはありません。


 続いて私はこれまたいつものように扉は弁償しますねと言って扉を吹き飛ばします。中から大勢の人が出てきましたが、私は誰彼かまわず空へ浮かせておきました。ようやく中から外に出てくる人がいなくなり、中の様子を魔眼で確認。敵意のある人も多少いますが、中には大勢の人がいました。中はがらんとした広い建物のようで、入り口近くに敵意のある人はいないことを確認し、私は建物の中に入ることにしました。もちろん私が入ろうとすると、キリエさんが私が先にと言って私はキリエさんの後ろについていくことになります。


 建物の中はたくさんの机が並べられていて、何かの作業をしているようです。服も着せられているし大怪我をしているような人もいません。ただ、監視員のような人が辺りを見回りながら作業をさせているようです。私は敵意のある人を上空に浮かせていきます。この建物は集団で作業をさえるための建物なのか、天井も高いので浮かせておけるだけの高さがあったのは幸いです。前のいざこざでは人を天井に張り付けておきましたからね(笑)


 建物の中にいた皆さんは私たちの登場に驚きつつも作業を続けていました。作業の手を止めると罰でも受けるのでしょうか?私は大きな声で話しかけました。



「この建物の中にいる人で、アリスの奴隷の皆さんはこちらへ来てください。私が所有者のアリスです」



 奴隷にとって飼い主の言葉は絶対です。何か首輪に仕掛けがされているのでしょう。私は詳しくはしりませんけど。


 私の声に応じて、亜人の子供たちが私のそばに集まってくれました。全員で12人もいました。私はこの12人には私と一緒に建物の外に出てもらい、他の皆さんにはもう少しここで待っていてくださいと声をかけました。私たちがぞろぞろと外へ向けて歩きながら、私は皆さんに怪我や体に辛いところがないかを確認します。数人は鞭で叩かれたような傷があったので、私は癒しの魔法で治療をしました。




 私とキリエさんが子供たちを連れて建物の外に出ます。ハーデンさんともう1人の男性が私たちのそばへ歩いてきました。もう1人の男性は私たちと一緒に来た領兵団の人ではなく、後からここへ駆けつけてきた街の治安を管理する責任者のバリデさんでした。ハーデンさんとバリデさんで私の奴隷であることを確認して、この建物の所有者の罪が確定です。バリデさんは後の始末は領兵団でしますので、奴隷を連れてお引き取りくださいと言ってきました。もちろん私はそんなことで許す気はありません。ハーデンさんもキリエさんも奴隷絡みのいざこざなので、私がはいそうですかと納得しないのは理解をしてくれています。ハーデンさんが私に代わってどのような罪になりますか?と問うと、バリデさんは罰金刑になると思いますと教えてくれました。もちろん私はそんな軽微な罪で許すつもりはさらさらないのです。私の奴隷だけでも12人もいます。死罪になっても恨めないほどの大罪なのです。そんな軽微な罪で済ませようとするのは、きっと領主も承知の悪だくみなのでしょうね。



「バリデさんはやる気がないようですから、私が直々に国王陛下にお願いして、王国軍にきてもらいましょう。そうすれば領主様にも領兵団の皆さんにもお手を煩わせるようなことになりませんものね」



 私の意を察したハーデンさんが私の前に片膝をつき、命令を受ける体勢をとります。バリデさんは大慌てで領兵団が責任をもって私の納得する罪を与えることを約束してくれました。ふむ、ハーデンさんの演技素敵です(笑)


 バリデさんの指示で領兵団の皆さんが動き始めてくれました。作業させられていた人も亜人も集められ、罪人の関係者は縄で縛ってから私の魔法を解除しました。あいにく建物の責任者はここにはいなかったのですが、バリデさんが指示を出してくれて、すぐに領兵団がここへ連れてきてくれるそうです。


 私はその間に作業をしていた人たちのところへ。先ほどと同様に怪我や体調不良の人はいないかと声をかけました。3分の1ほどの人は鞭で叩かれた跡が残っていました。私は心配になり皆に範囲を広げて癒しの魔法を使います。傷がみるみる消えていくのを見て、皆が喜びの声をを上げていました。


 全体の3割ほどが亜人でその他は人間の子です。また、全体の2割ほどが奴隷で、奴隷には人も亜人もいました。亜人の奴隷はほとんどが私の奴隷です。他の奴隷も明らかにどこからか拉致されてきたと思われる首輪をつけていました。なりふり構わず人を集めて働かせていた感じのようです。亜人の子供たちについては助けるすべは確立していたのですが、人間の奴隷のことは考えていませんでした。私が思案をしているとハーデンさんに声をかけられました。



「アリス様、亜人はいつもの手で救えますが、奴隷の子は所有者に返します。また、奴隷でない子は拉致でもされていない限りは手出しができません。奴隷にならずとも親に売られてここへ働きに来させられている子供は、王国の法には違反をしていませんから」



 うーん、何とかしてあげたいけど、なんともできない状況のようです。親も公認で子供を働かせているとなると、これはもう普通の働き口となってしまうからです。おまけに鞭では打たれているものの、最低限の衣食住は確保されているのも分かりました。今まで見てきた奴隷絡みの悪事の中では、最も衛生面も栄養面もしっかりしているからです。私のやるせなさを慰めるように、キリエさんが私の頭を撫でてくれました。



「亜人の子供たちはいつものように救います。それを罰金としましょう。他の奴隷は所有者の元へ返してもらいましょう。私ができそうなのはここまでなのですよね?ハーデンさん、キリエさん」



 お2人がうんと頷かれ、この事件の幕引き方法が決まりました。


 私の要求をすべて受け入れてくれたバリデさんは、奴隷でない亜人の子供全員を私の奴隷にする手続きをしてくれました。幸いにしてこの街にもガーラン商会の支店があったので、奴隷の子供たちの搬送はガーラン商会にお願いしました。他の奴隷もバリデさんが責任をもって送り返すと約束してくれました。私はバリデさんの協力的な対応に免じて、この事件について領兵団にお任せしますと伝えて幕引きとしました。


 このことを月龍様に報告すると、月龍様にまで謝罪をされました。さすがの月龍様でも少人数でこっそり森に入られて、こっそり出ていくような人のことまでは把握できないのだそうです。それは仕方ないですよね、王宮のお庭ほどの大きな体をしているのです。私も蟻やネズミもと大差なく豆粒のように見えているのでしょう。やはり私がこまごましたことは、ここでお手伝いしながら暮らすのがいいかしらね。私の旅の後の生活の決意は固まるのでした。




 ちなみにこれから北上する2領地でも、同じように私の奴隷をさらって仕事をさせていました。その度に同じように亜人の子供たちだけを救って森に送り届けました。この行いを機に3領主は連絡を取り合うようになり、お互いが強力して領地の運営をしていくことになったようです。私と敵対する3領主の協力体制が確立してしまいました(汗)そう遠くない未来のお話しになりますけどね。




 北の国王陛下の直轄地にはいると、私はハーデンさんにお願いです。月龍様にご挨拶をしてきたいと。もちろん山脈を超えて月龍様の住まう山に行けるのは私の石馬しかありません。また、1つ問題もあって、ここ数日はキリエさんの体調がすぐれないのです。私と石馬で飛び回っていることもあり、疲れがたまったのでしょう。宿屋のある町で数日の休暇としてキリエさんには休んでもらい、私がその休暇の間に月龍様のところへ伺うことを検討してもらいました。ハーデンさんもキリエさんには休暇が必要とは考えられていたようで、私の意見に賛同してくれました。ただそうなると、私の護衛は誰が付くかが問題になったのです。しかし予想に反して私の護衛はあっさり決まりました。ルルーさんが立候補してくれたのです。やはり私と男性の2人きりは問題があり、女性で剣を振れる人はキリエさんの他にはいません。それについてルルーさんの意見は月龍様の住まう山で聖女様が襲われる危険などあるわけがない!だったのです。その意見には私もハーデンさんも納得しました。


 この計画に異を唱えたのはキリエさん。私が護衛につきますと譲らなかったのです。キリエさんを説得してくれたのはルルーさんでした。私がキリエさんの体調を気にしていること。月龍様の住む山岳は危険がないこと。それに何よりもルルーさんも月龍様にお会いしてご挨拶とお話しをしてみたかったことを伝えたようです。キリエさんは私がキリエさんの体調を気にしていることを察して、休暇の間は静養すると約束してくれて、ルルーさんの護衛が確定しました。


 こうして計画が決まり、休暇を過ごす予定の町にたどり着きました。それほど大きな町ではなかったですが、町に不釣り合いなほどの立派な宿がありました。宿の経営者に聞くと、龍族を崇拝している人はある程度の人数がいて、この街にお参りにくる人がいるようです。その人々の中にはお貴族様もいるとのことで、安い宿から高級な宿までそろっているとのことでした。私たちは高額な宿泊料には目をつぶり、贅沢な宿で疲れを癒すことにしました。私とルルーさんは数日は宿を空けるので無駄遣いになってしまいますけどね。私とルルーさんも宿で2日ほどのんびり過ごし、その後に月龍様の住まう山へ向かいました。月龍様にご連絡をすると、人が訪れてくるのは千年以上ぶりとのことでした。もちろん人が過ごせるような設備はないとも言われ、ご挨拶だけしてすぐにお暇しますとお伝えしておきました。


 皆さんに見送られながら私とルルーさんは石馬に乗って出発です。私は今回の移動の中で龍を超える飛行速度を会得するつもりでもいます。今の石馬の最高速度で飛びつつ、光の玉を前方に飛ばします。私の視界に入った光の玉をあの玉と同じ速度で飛んでと詠唱することで、私はその速度を会得できるのです。もちろんエリアスに確認済みで成功間違いなしです。その間は後ろに座っているルルーさんにはしっかり私に掴まっていてもらいましょう(笑)


 こうして珍道中必至のルルーさんとの2人旅が始まりました。


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