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14話 全力魔法でバタンキュー

 私たちの旅は順調に進み、王国西端の海に到着したのは1年ほど経った頃です。毎日は同じことの繰り返し。でも同じことの繰り返しは悪いことではないの。だって徐々にではあっても無事に穢れを払えているって証拠だから。


 しばらく海沿いを南下して、その後は東端の海を目指しての旅になるみたいです。この王国の領地でみると王都は東西の中間地点に位置しているから、単純に考えると東端にたどり着けるのは2年かかることになります。でも、前回の聖女様の旅は5年と書かれていたような。今のところは順調にたどり着いたって感じなのかしらね。


 王国の北東に山脈と大きな森があるみたいです。そこに月龍様も住んでいるし森には私が送り届けてもらっている亜人の村もあると聞いています。人は立ち入らない森と言われているし、月龍様も監視をしてくれているようなので亜人の村は安全だと思うけど、1度は自分の目で見てみたいものです。うん、私の余生はその森で暮らすのもいいかもね。月龍様と亜人の皆さんと一緒に暮らすの。人の世界は奴隷制度もはびこっていて私には合わないみたいです。せめて自分の住む場所は皆さんが平等で平穏に過ごしてほしいです。だからこそ、私が森を領地にいただくのがいいと思う。そうすれば人が入ってこれないことを確実なものにできるもの。


 私がキリエさんとルルーさんに聞いたところ、王国北東の森はザムールの森と呼ばれていて、建前は国王陛下の直轄領。簡単なことで人が立ち入らないから誰も管理をしていないようです。誰も所有していない土地なので国王陛下の領土にしているだけみたいです。今回の旅でもザムールの森には立ち入らない予定なのですって。ザムールの森は3領主の領地と南東の国王陛下の直轄領の海が面した領地のようですが、特に他のどの領地も森に立ち入るようなことはしていないみたいです。月龍様の土地だと認識されているのかしら?人との接点がないのなら、私向きでいいかもしれないわね。


 私の薬は相変わらずガーラン商会に卸しています。もちろん収益の一部は私の取り分になっています。ただ私の取り分は亜人の奴隷の購入費にしてもらっているので、実質の実入りはほとんどないの。だから私はガーラン商会の商売に影響がないように、塗り薬を作って販売しています。王都や大きな街はいざ知らず、普通の王国民はだいたい農業、狩猟や林業、漁業で生活をしています。どちらかと言えば自給自足に近い生活ね。肉体労働が多いので傷や怪我は多いみたいで、塗り薬の需要は多いのです。ただ塗り薬を必要としている人は、高貴なお方より庶民の皆さん。手に取りやすい値段で提供しているので、薄利多売の商売を続けています。残念ながら私も現金収入がないと生活に困ってしまうので、少しのお金だけは皆さんからいただいているの。幸いなことに、聖女の塗り薬は効果が高いと噂になっていて、私が村や町を訪れると大量に購入してくれます。そんな訳で安く販売している割にはかなりのお金持ちにならせてもらっています。


 私の近況報告はこんなところでいいかしら。旅のお話しに戻るわね。




 王国西端の海沿いを南下して、今度は東に移動を始めます。王国は南側に平地が多いみたいで移動は楽になるみたいです。ただ、深い森が増えてきて穢れとの遭遇頻度は増えると予想されています。深い森にはわざわざ人が立ち入らないので、穢れの存在を見逃しているのが原因のようです。私の魔眼が活躍できそうです。


 東へ移動を始めて半年ほどたった頃、今までで最大の穢れを発見しました。この穢れは近寄るものはすべて穢れの毒素で命を奪い、穢れの中に取り込んでいるようで、そう簡単には近寄ることができません。それに邪獣も生み出しているようで、辺りをうろうろしています。鉄壁な守りの穢れなのです。


 これに対抗するすべは、聖女である私にもありません(汗)毎日毎日霧による弱体化をしながら、徐々に穢れの本体に近寄るのがやっとの状態です。おまけに森が穢れてかなり長い年月が経っているようで、森から食料を得るのは無理でした。そうなると近くの村や町で食料を調達してくる必要があります。この役目はラミアさんとルルーさんが担ってくれていました。現状は戦闘はしないで穢れを薄める方針で対応しているので白魔法士はやることが少ないからです。ただ、近くの村や町もそれほど食料の備蓄はないようです。ハーデンさんは領主様や国王陛下に長期戦に備えて物資の提供を依頼しました。領主様も王国ももちろん私たちの援助に動いてくれました。




 穢れと対峙して1カ月ほど経った頃、ようやく穢れの本体までもう1歩という距離までたどり着けました。いよいよ穢れの本体を払うことになり、その前日は休暇となりました。男性3人は朝方は武器や防具の手入れをしていたけど、それが終わればお酒を飲み始めてぐうたらモード突入でした。女性の4人はお茶と甘いお菓子でお茶会気分です。ここまで浮かれているのも仕方がないのですよ。この森に来てからお休みなしでずっと穢れと対峙していたのですもの。明日は大忙しの1日になるのは明白で、英気を養う必要があるのです。


 昼食の時間になる頃、女性は皆で料理を始めました。男性たちには食事よりおつまみがいいでしょうとなって、しっかりした料理とおつまみを作りました。男性陣は喜んでくれて、さらにお酒が進んでいるようです。一方の女性陣もちょっと贅沢なお料理を作って、食事をしながらお酒をいただくことになりました。女性陣もいよいよぐうたらモード突入です(笑)


 時間が取れたので私は久しぶりに月龍様に話しかけてみました。亜人の村の様子はいかがですかって。どんどん人が増えて手狭になってきたようで、村を拡張するのに忙しく働いているようです。元々の村の人たちからは迷惑に思われているのか心配していたのだけど、月龍様のお話しでは人間に捕まったら奴隷にされてしまう認識は誰でも持っているようで、人間に見つからないよう生きることを最優先に生活しているとのことです。決して豊かではないけど空腹に困るほどではないようで、皆で力を合わせて平和に暮らせているようです。安心しました。


 もちろんパーティーの皆さんも私が亜人の奴隷を買っては月のドラゴンが住まう山に送り届けていることを知っています。ただ、そのことに触れてくる人はいません。王国民としては国王陛下の政策に否と言っていることになってしまうからでしょうね。私はあくまでも自分の奴隷として購入しているので法的には問題はないけど、かなりグレーな行為をしていることになっているようです。だから皆さんは目をつぶってくれていると言うのが正しいかもしれません。きっと皆さんも聖女の心情は理解をしてくれているのでしょう。


 夕食の時間……夕食を食べるつもりなのは私とルルーさんだけでした。後の皆さんはもうお休みです。私とルルーさんはおしゃべりしながら簡単なものを料理して、のんびり夕食をいただきました。この穢れを払ったら宿のある街に行って、のんびりお風呂に入りたいっていうのが私とルルーさんの共通の楽しみです。ここの穢れを払っても、ここから近い大きな街は領主様の住んでいる領都になってしまうようで、2週間くらいはかかってしまうようです。それでも先の楽しみを胸に、明日の討伐は張り切りますよ!


 私とルルーさんはその後もおしゃべりをしながら起きていました。これは夜更かしが目的ではなく見張り番が目的です。ルルーさんは私に寝てほしいようですけど、ルルーさんを1人にするのが心苦しかったのです。だから私はルルーさんの横に寝転がらせてもらったけど、おしゃべりは続けていたの。私はルルーさんにこの旅を終えたら何をするのか聞いてみました。ルルーさんは何も考えてはいないみたいです。旅に出る前のルルーさんはお父様の介護をしていて、ちょうどお父様がお亡くなりになった頃に私の付き人を王妃様に依頼されたようなので、役目を終えて王都に帰ってから、自分の行く末を考えることから始めるそうです。ルルーさんは私にもどうするのかを聞いてきました。まだ誰にも話していなかったけど、ザムールの森を拝領して亜人たちとひっそり暮らしたいと思っていることを話しました。亜人の皆さんの多くは私の奴隷ってことになっているから、私がそばにいれば誰も手出しはできなですからね。私は皆さんにはまだ内緒でお願いしますと伝えると、もちろんルルーさんは了解してくれた。それどころかルルーさんは私もアリス様と一緒に森で暮らそうかなって言ってくれました。ルルーさんが森で暮らすのは王国民として考えるとほぼ無理でしょう。それは私にも簡単に思いつくこと。でもルルーさんが私と暮らしてくれることを考えてくれたことが、私にはとても嬉しかったです。そのお気持ちだけで十分です。


 ようやくハーデンさんが目を覚まして、見張り番を交代してくれました。私とルルーさんはハーデンさんにおやすみなさいと言って眠りにつくのでした。




 いよいよ穢れの本体を倒すべく森の中へ入っていきます。私が魔眼で確認しても、周りに邪獣も獣もまったく見えません。毎日のように戦い続けてきたのは、最大の穢れを残し他の敵は排除するのが目的だったので準備は完璧です。


 もう通いなれた森の道ではあったのだけど、穢れがいるのは森の奥。歩いて2時間はかかる距離でした。これでも草木を刈って歩きやすい道に整備してきての2時間です。移動だけでも一苦労です。


 いよいよ魔眼で穢れが見えてきました。ここに来ても他の敵は見受けられません。ランツさんの魔法が届く距離まで近づいて戦闘が始められます。私は聖属性の魔法を霧状に放ち穢れの弱体化を図ります。ただ、今回の穢れは想像以上に狂暴でした。私やランツさんの魔法攻撃を受けても、自身の弱体化にはかまわずに、自身の分身である邪獣を次から次へと生み出してきたのです。この邪獣も母体となる穢れが強力だからか、かなりの強さの邪獣でした。パーティーはこの数を1度に相手をしたことがなく、苦戦するのが必至の状況です。


 ハーデンさんがキリエさんに目配せしました。きっとキリエさんに私を守るように指示を出したのでしょう。ハーデンさんは常々、私が危ない状況になったらキリエさんは私を護衛して安全な場所まで逃げるように言われ続けてきました。きっと今がそのときなのです。



「アリス様、そろそろ限界です。ここから離脱します」


「皆さんをここへ置いていくのですか?」


「はい、アリス様の身の安全が最優先です」



 キリエさんが私の手を取り、ルルーさんにも一緒に引くよう指示がだされました。きっと皆さんは時間を稼がれるつもりなのでしょう……そんなのダメです!そんなことは許しません!大事な仲間を見殺しにして私だけが逃げるだなんてありえません。私はこのようなときのために聖女として召喚されてきたのですから。


 私はキリエさんに掴まれていた手を振りほどき、杖を高々と掲げます。私のありったけの魔力を注いでの聖属性魔法の発動。もう目に見える範囲は眩しすぎるほどの光に照らされました。ただ、すべての魔力を使い果たした私は、すーっと眠るように意識を失いました。


 キリエさんが崩れるように倒れる私を抱き支えてくれて。その場へゆっくり寝かせてくれました。ルルーさんに私のことを頼むと、キリエさんは状況確認を始めました。皆さんは無事でけが人もいなません。何より穢れも邪獣もきれいさっぱり消えてなくなっていました。前衛の皆さんは念のため辺りの見回りをして敵はいないことを確認してから、皆のところへ戻ってきました。意識の戻らない私はガリスさんが抱えてくれて森を抜けてくれたようです。


 昨日野営した場所まで戻ってきて、私の意識が戻るまではこの場で野営をすることになりました。私は寝袋にくるまれて寝かされました。皆さんはどうなるのかとハラハラしていたようですが、私が意識を失い倒れたのを何度か経験しているキリエさんとルルーさんは、私が穏やかな顔をして眠っているので大丈夫だと判断されていたようです。ハーデンさんにも数日眠り続ければ、目を覚まされるはずですと報告したそうです。




 私が目を覚ましたのは魔法を発動してから3日後だったようです。うっすら目を開くと、キリエさんが私の横に座って剣の手入れをしていました。



「キリエさん、私はまたキリエさんに心配をかけてしまいましたか?」


「お目覚めになりましたね、アリス様。安心してください、皆怪我もなく無事に森から帰ってきています。穢れも払われたようで、もうこの森には敵はいません」


「それは良かったです。では安心してもうしばらく眠らせてもらいます」



 私はキリエさんにそれだけ伝えて、また目を閉じてしまいました。私はその後、丸1日眠り続けてようやく再び目を覚ましました。私の横にいてくれたキリエさんは、大切な短剣を眺めていました。その短剣はキリエさんが旅に出るときに、婚約者の方からご自分がキリエさんを守れないからと言って貸し与えてくれた大切な剣なのです。その剣を手にしているときのキリエさんは、恋する女の子のキリエさんです。



「キリエさんは穏やかな笑顔をされているときが、1番素敵です。私はキリエさんのその笑顔が大好きです」


「もう体調は回復されたようですね。安心しました。お体に異常がなければ、何かお飲みになるか、軽く食事でもいかがですか?」


「そうですね、のどが渇いていますし、お腹も空いています。何かいただきましょう」



 私の言葉を聞いてルルーさんが支度にとりかかってくれました。ラミアさんも私が起きたのに気が付いて、男性陣に私の目覚めを報告に向かうようです。随分と皆さんに心配をかけてしまいましたね。




 私はルルーさんが用意してくれたスープとパンをゆっくり食べました。食べることでさらに元気が戻ってきたように感じました。私がしっかり食べていることで、キリエさんもルルーさんもさらに安心されたようです。


 私が落ち着いていることが確認できると、私はキリエさんにはお説教をされそうです。私はそんなキリエさんにぎゅっと抱き着きました。



「また、こうしてキリエさんに甘えることができて、本当に良かったです。無茶をしたのは認めます。それでも、苦戦している仲間は見捨てられません。私は今回と同じことが起これば、今回と同じように魔法を使います。そして眠り続けて起きた後は、キリエさんにこうして甘えさせてもらいます」



 キリエさんはお説教するのをあきらめてくれて、私のことを優しく抱きしめながら私の頭を撫で続けてくれました。


いつも読んでいただき、ありがとうございます。

掲載が1日遅れてしまったことをお詫びします。


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