11話 できることからやっていく
奴隷の少女たちを買い取るため、私はハーデンさんとキリエさんに守られながら奴隷を扱うガーラン商会というお店を訪ねました。明らかにこの街の中でも大商会だけが店を構えられる一画にお店はありました。すでにハーデンさんは一度来たことがあるようで、入り口の警護をしている店員にガリオスさん?との面会をお願いしていました。私たちは商会の奥の立派な応接室に案内されました。
ソファーに腰かけるとお茶とケーキが出されます。王宮を思い出すいい香りのお茶においしそうなチョコレートのケーキ。久しぶりに満喫しちゃいました!
しばらくすると、貴族と言っても過言でないような立派な服とアクセサリーを身に着けたスラっと背の高い男性が入室してきました。ソファーの脇まで歩いてきて、私に礼をつくしての挨拶をしてくれました。
「私がこの商会の会長を務めておりします、ガリオスと申します。よろしくお見知りおきください」
「私は聖女のアリスです。急な訪問に応じてくださり、感謝します」
「ハーデン様からあの商品は取り置いておくようにとご指示がありましたので、当商会にて預かっておりますが、聖女様が見かけられたときには売買契約済みの商品となっており、すでに購入したお客様の持ち物となっております」
ええっ、すでに人手に渡っているの!どうしたらあの子たちを助けられるの……うーん、こじつけだけど試してみましょう。
「ガリオスさん、私がこの2日間意識を失って寝込んでいたのはご存じでしょうか?」
「はい、ハーデン様からお伺いしております」
「なので、私に危害を加えた奴隷に責任を取らせるためにこちらにお伺いしました。ガリオスさんとなら話し合いで穏便にとも思っていたのですが、他の方が持ち主なら遠慮はいりませんね。王国軍にお願いして持ち主を捕らえてもらいましょう。国王陛下に命じられた聖女の旅を足止めしたのです。かなり重い罪になりますよ」
ガリオスさんは考え込んでいます。そもそもお貴族様並みには高貴な聖女様の旅を邪魔したと言われたら、庶民の言い逃れは通用しないでしょう。それならここは聖女様の言い分に従っておこうと結論を出したようです。
「聖女様のおっしゃること、至極ごもっともです。それで聖女様はどのようなご処分をお望みですか?」
「私は持ち主の方を恨んでいるのではなく、旅の邪魔をした亜人を恨んでいるのです。大人しく私に罪を犯した亜人を引き渡せば、持ち主の罪には目をつぶりましょう。それに持ち主の方も奴隷を引き取る前の段階での奴隷の不祥事を責められるのもお気の毒です。私が聖女としての慈悲を持って、奴隷の購入額は私が負担をして差し上げます。ちなみに亜人の娘たちは月のドラゴンが住まう山にドラゴンへの供物として送ります。私の申し出に持ち主が納得しなければ、持ち主と亜人がともにドラゴンの供物として送られるだけのことです」
「なるほど、聖女様の罪を憎んで人を憎まずのお心。持ち主への不祥事の内容とともにお伝えしてみます」
「ガリオスさん、いろいろお骨折りに感謝します。明日またこちらにお伺いします」
「かしこまりました」
ガーラン商会を出て街を歩く私たち。ハーデンさんとキリエさんは私のはったりをどうなるかと心配されていたようですが、ちゃんと私が権力もほのめかしつつ、甘言も脅しも交えた交渉をしていることに感心もされたようです。私は明日の結果がどうなるかより、2日間も寝込んで何も食べていなかったのでお腹がペコペコの方が気になって仕方がないのです。今日の昼食は皆さんをお誘いして、豪勢な昼食をいただきたいです。私はこれまでの旅で薬を販売したお金がそこそこ貯まっていたので、大盤振る舞いも問題ありません(笑)
宿について皆さんに集まってもらい、今回ご迷惑をお返したことを謝罪しました。私はもう少し大人になりますと反省しきりです。でも、皆さんも聖女の役割のことを考えてくれたようで、私の生ける者を救いたい気持ちは理解をしてくれたようです。ただ、難しいお話しはここまでです。皆さんをお誘いして豪勢に昼食を食べに行きましょう!ちなみに私が薬の販売でそこそこ稼いでいるのを知っている皆さんは、では遠慮なくと言って大いに飲んで食べられました。私は兵士の皆さんが本気で食べる姿を始めてみました。兵士の皆さんの胃袋は底なし沼だったのですね。お会計で驚くような金額が提示されて、私の内心はトホホって感じでした。でも皆さんにご心配をかけてしまった償いです。仕方がないですよね……それにしても食べすぎですけど……
宿に戻った私は、集めておいた薬草を調合して薬を作りました。私が調合した薬に聖女の魔法をかけることで、私だけが作れる万能薬を完成させる成功していたのです。昔の聖女様の研究をベースに魔法をかけるところは私のオリジナル。私がこの薬を完成させたときに、エリアスも感心していたは。うふふっ。
私の調合が終わるのを見計らって、キリエさんとルルーさんがお風呂に誘ってくれました。この宿には男性用と女性用に分かれているお風呂場があったの。ラミアさんにも声をかけたらもう行ってきましたですって。ラミアさんはお風呂の魅力がお分かりなのね。私がお風呂が大好きなのを知っているお2人は、私が満足するまでお風呂でのおしゃべりに付き合ってくれた。私はお風呂からあがると宿の1階の酒場のようなところへ行って、オレンジのジュースを注文。受け取ったジュースをこっそり魔法で冷やして3人で乾杯。ジュースを飲みながらまた3人でおしゃべりを楽しみました。
夕食は宿の1階で皆さんと食べました。その席で私は、私のせいで旅を遅らせてしまったことを謝罪して、明日はガーラン商会でお話しをした結果がどうであろうとも、そのまま旅に向かうようお願いしました。皆さんが了解してくれて、明日から旅の再開が決まりました。
翌朝は皆さんと宿を出ます。ガーラン商会に行かない皆さんは街の外の森で採取をしながら私たちのことを待ってくれるようです。今日もハーデンさんとキリエさんが私の護衛についてきてくれました。
ガーラン商会の店員さんが馬を預かってくれて、私たちは店内にはいります。私たちの来訪は店員さんたちに伝えられていたようで、すぐに応接室に案内されました。今日もお茶とケーキが出されて幸せ気分です。
失礼しますと言ってガリオスさんが入室してきました。今日は軽い挨拶だけで、ガリオスさんもソファーへ腰かけます。
「聖女様、昨日の件ですが契約者様は奴隷の不始末に大変申し訳ないとの謝罪をされていました。代金のことはともかく、聖女様に亜人の身柄をお渡しすることに同意しました。契約者様と我が商会の間で契約の解消という形で契約が破棄されており、今は当商会の商品という扱いとなっております。いかがされますか?」
「はい、私が奴隷として購入します。ただ、私はもう旅に出なければなりません。購入した亜人は月のドラゴンが住まう山まで送り届けて欲しいのです。もちろんその分の費用も私がお支払いします。ただガリオスさん。旅に出る前に商品を見せていただきたいのです」
「かしこまりました。では、こちらに連れてまいりましょう」
「いいえ、ガリオスさん。他の亜人も見てみたいので、可能なら亜人を管理されている場所へお連れいただけませんか?」
ガリオスさんは少し迷ったようですが、了解してくれました。店員さんに声をかけて何やら指示されていました。きっと私に見せたくないものを隠しているのですよね。もちろん私もそのくらいの配慮はするつもりです。私が先に契約を済ませてしまいましょうと言って、書類のサインとお金の支払い。購入した奴隷の配送について相談し、その費用もお支払いしました。お茶のお代わりをお願いしたり、世間話しをしていたところで、店員さんが声をかけてくれて私が購入した亜人の女の子のところへ案内されました。そこは商会の建物の地下。かなり広いフロアの中に小さな檻がたくさんありました。半分くらいの檻にいろいろな種族の亜人が捕らえられていました。私は泣きそうになるのをぐっとこらえて、今は自分ができることを優先しようと気持ちをしっかり持つことにしました。
でもどうしても見逃せない子もいたの。もう死んでしまいそうなほど弱っている子供。犬かオオカミの亜人だと思うけど、亜人について知識のない私にも幼い子供なのは分かりました。
「ガリオスさん、ここで見かけて気に入った亜人は私が購入してもいいですよね?」
もちろんガリオスさんは契約済みの者は……と言いたかったと思うの。でも、私はそれを考慮する気がまったくない態度を通しました。私の譲る気はない態度を感じ取ってくれたのか、ガリオスさんは了解してくれました。私はエリアスにお願いして、弱っている亜人の子と元気な子を見分けてもらいます。4人の子が危ないとのことで、その4人も購入すると伝えました。4人の子はもうぐったりしていたので、キリエさんにお願いして私の薬を飲ませてもらいました。そして3人の女の子に私は亜人の言葉で話しかける。
『私はアリスです。私の言葉は通じていますか?』
『はい、分かります』
『あなたたちには、大変申し訳ないのですが、私があなたたちを購入して私の奴隷にしました。本当にごめんなさい。でも、私の奴隷になったあなたたちは、もう誰からも叩かれたりひどいことはされないから、それだけは安心してください』
『私たちはどこでどのように働かされるのですか?』
『皆さんには月のドラゴンが住まう山に行ってもらいます。そこには亜人の皆さんが住む村があるようです。そこで暮らしてもらいます。もちろん働いてもらうことになります。ただそれはあなたたちが食べるものを得るための労働です。村の皆さんと協力して働いてください』
『あの……どうしてそこまで私たちのことを気遣ってくれるのですか?』
『ごめんなさい、説明をしていませんでしたね。私は聖女として召喚されてきたのです。だから人間だけを助けるのではなく、皆さんのことも助けたいのです。月のドラゴンさんともお話しをしていて、皆さんのことを守ってくれると言っています。今は村で生活してください。私も旅が終われば月のドラゴンが住まう山に伺います』
『聖女様の伝説は私たちの種族にも伝わっています。本当に存在するなんて神様の思し召しです』
『この弱っている子供たちの面倒をみてもらうことをお願いしてもいいですか?皆さんと一緒に月のドラゴンが住まう山で住まわせたいのですけど』
『はい聖女様、この子たちのことはお任せください。でも、聖女様。ここに後2人、私たちの村から連れてこられた子がいます。どうか助けてあげてください』
『分かりました。その子たちのことは何とかしてみます。でも、今の私にはこの辺が限界です。これからも亜人の皆さんをお救いする努力は続けますから、それで許してください』
『いいえ、聖女様。私たちをお救いくださったことを、心から感謝します』
『こちらこそ、もっと早くに助けに来れなくてごめんなさい。ドラゴンさんの森で平和に過ごしてください』
私が亜人と話している姿を、店員さんたちは気味悪そうに見ていました。もちろんガリオスさんはそのような素振りはまったく見せませんけどね。
私が亜人の女の子と話している間に、薬を飲ませた亜人の子供たちはみるみる元気を取り戻しました。それもまた店員さんたちを驚かせていました。その様子を見ていた店員さんが、何やらガリオスさんに耳打ちしています。
「聖女様、そのお薬をお譲りいただくことはできませんか?」
「この薬はかなり高価なものですよ。亜人に使ってはガリオスさんが破産します。それと、ガリオスさんのことはかなり信用しています。でも、もう少しお互いの信頼関係が欲しいです。ガーラン商会さんは王国有数の奴隷商とお見受けします。これからもガーラン商会さんとお付き合いをして、ガリオスさんとの信頼関係を築けたら、薬のことは相談に乗ります」
「かしこまりました。では、聖女様。私からも提案をさせてください。この建物の中にはまだ死にそうな亜人が数人います。この商会では助けることができない命です。聖女様が購入されませんか?もちろん放って置いたら死んでしまう商品です。格安でお譲りします」
「分かりました。購入しましょう。それとガリオスさん、こちらの女の子たちと同じ村からさらってきた子たちも私が買い取るので、病気の子と合わせてこちらに連れてきてください」
「かしこまりました」
係りの人が亜人の子供たちを集めてくる間に、私はガリオスさんの説明で奴隷が着けている首飾りについて説明を受けました。まず、首飾りを着けてていれば亜人も人間も関係なく奴隷として扱われるようです。この首飾りは王国から購入しているもので、これを切ったりして外すことは重罪になるそうです。そして、この首飾りに奴隷の持ち主が記録されるようです。もうここにいる子たちの首飾りは私の所有物と記録されているそうです。私は1人の女の子にごめんなさいと言って首飾りを見せてもらいます。私が見るとふわりと文字が浮かび上がって、聖女アリスと書かれていました。私がこの子たちの自由を奪っていると思うと泣きたくなります。でも、今はこの子たちの安全を確保するのが最優先。気持ちをしっかり持って対応しましょう。




