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異世界転移は孤独な私を笑わせる  作者: 鈴谷 卓乃
Chapter3:東の砂漠の黄昏
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砂漠の帝国

 激しい日差しが照りつける。カラカラと乾いた風が広大な砂漠を吹き抜ける。生きとし生けるもの全てが適応不可とも思える劣悪環境、しかしそんな中でも適応を遂げた生物たちは命を紡ぐ。


 大陸の東に位置するこのテュポン砂漠、生物は独特の進化を遂げ生をなすこの地に唯一独自の進化を遂げずに生活を送る……それが人間である。


 砂漠の帝国、テオドア帝国は四方を砂に囲まれた国だ。昨年、帝位継承が行われたこの国は今、歴史を揺るがす儀式が行われようとしていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 サザンカでの悪魔信仰者ディモニストとの攻防から早半年、ゲツヤ一行はようやく次の祠のある地へと足を踏み入れようとしていた。


 その国こそがテオドア帝国、砂漠が一面に広がる砂と情熱の国だ。


 日差しが強い。そんな砂漠の中を一台の馬車が大急ぎで駆け抜ける。そして、そのすぐ後方には巨大なトカゲのような魔物の大群が馬車を追って走る。


「なんでいつもこーなんのよぉぉぉぉ!」


 ガタガタと揺れ動く馬車の中、毎度毎度馬車に乗ると危険に巻き込まれる事にサリアは不満からの叫び声をあげる。


「メーナ!」


「うん!」


 ゲツヤの合図のもと、メーナが魔物に向かって手をかざす。


火魔法フレーラ!」


 小さな火の玉が先頭を走るトカゲに命中、体勢を崩し倒れたトカゲに躓き次から次にトカゲが転ぶ。だが……


「だめです!数が多すぎて止まりません!」


 転ぶことを理解した後続のトカゲたちが少し曲がって倒れたトカゲを避ける。


中級水魔法マアクーラ!」


 レミーナの放った水の槍がトカゲを3匹、串刺しにする。続けてレミーナはもう1発放つ……だがそれはトカゲの口から放たれた火炎により相殺される。


「えぇ!?」


 驚くレミーナを押しのけてサリアがワンドを構える。彼女の得意とする魔法、それは合成魔法……一部の人間にしか使用することのできない高等技術。


ー凍れる水よ 今こそ我に 汝の真ずっ!!


 だがその詠唱はゲツヤによって中断される。魔力を練る彼女をレミーナの方へと押し返す。


「そんな強い魔法じゃこの辺り一帯に影響が出るだろ……!」


「でも砂漠だし……何もないじゃん!」


 ゲツヤはふと目をそらす。その視線の先には温厚なラクダのような生き物が水を飲んでいる。この馬車からはすぐ近く。サリアが氷炎魔法エル・ブレーラを使えば確実に影響が出るであろう射線上にいるのだ。


「じゃ……じゃあ、どうするのよ!?」


「こうするのさ……」


 ゲツヤが指をパチンと鳴らす。するとトカゲ軍団の動きが止まった。先に進もうとするトカゲ、だがその様子は何か見えないものに押されているかのようである。


「ゲツヤ君、何をしたんですか?」


「簡単な話さ……トカゲの四方から強風を送ればいい……。上級風魔法ウルウインラの応用だ……。」


 澄まし顔でことのあらましを説明するゲツヤ……だが、その馬車に乗る誰もが思った。


ーーーそんなこと普通はできねぇよ!


「じゃあ、何でゲツヤは早くそれを使わなかったの?」


 ふと疑問に思ったメーナの質問、それに対しゲツヤはさも当たり前のように答えた。


「いや、お前らが頑張ってたし……面白かったし……。」


 この後、ゲツヤはサリアとメーナにキツイ説教とお仕置きを受けるのであった……。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「やっと着いたぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 馬車から降りたサリアが両腕を天にあげ、大声を出す。その光景に道行く人々が何度も振り向いた。


「ちょ!サリア……止めてよ!」


「さあ、行くわよメーナ!」


 恥ずかしがるメーナの制止を気にも止めず、サリアはメーナの腕を引っ張り走って行く。


「また……サリアお嬢様は……。」


 毎度毎度のこと、勝手気儘なサリアにレミーナは呆れ、手帳を取り出す。一行の経済的側面は全てレミーナが管理している。この手帳は旅を支える全てのことが記されている……いわばゲツヤたちの旅の生命線だ。


「ゲツヤ君はサリアお嬢様たちと行かなくていいんですか?」


 馬車を降りてそのまま残ったゲツヤを見てレミーナはそう言った。普段ならサリアに連れて行かれるか、もしくは着いて行くゲツヤが残っているのは珍しかった。


「いや……いつも1人で必需品とかを買ってるのは大変だろうと思って……。」


 澄ました顔でゲツヤが放った言葉、それをレミーナが理解するのに少しの間が空いた。ようやくそれを理解したレミーナはすぐさま赤面し俯いた。


(え!?じゃあ今日はゲツヤ君と2人っきりで買い物ってこと!?)


 本心を隠すためポーカーフェイスで……普段と変わらない冷静な表情でゲツヤに尋ねた。


「あっ……あの……ゲツヤ君!レ、レレレ……レミーナの買い物を……手伝ってくれ……るって……………ことですか?」


 レミーナは懸命に表情を保とうと努力した……だが実際は終始緩んだ顔をしていたことに彼女は気づいていなかった。


「どうした、熱でもあるのか?」


 様子のおかしいレミーナを見てゲツヤは心配する。普段は冷静なレミーナがここまで狼狽えるのは珍しい。ゲツヤは即座にレミーナの額に手を置いた。


「な!?だ……大丈夫ですよゲツヤ君!」


 もちろんその動作にレミーナはさらに赤面する。


「熱っ!もう今日は休んだ方が……」


「行きます!絶対に行きます!」


 緩んだ顔が一気に凛々しくなりレミーナは猛抗議する。せっかくのチャンス、それを逃すレミーナではなかった。


「でも……熱が……。」


「ゲ……ゲツヤ君が手を握っててくれるなら治ります!そう、治りますよ!」


「そんなもんなのかな……?」


 少々疑問に思いつつもゲツヤはレミーナの手を握る。ゲツヤの掌の温もりを感じ、レミーナは勇気を振り絞った自分のことを心の中で褒め称えたのであった。


 そんなゲツヤたちを見下ろす巨大な門。砂岩で作られた美しくも力強い門は、この街の象徴である。テオドア帝国、首都ラルトの城下町の始まりを告げる門だ。


 辺境の地でありながら商業が盛んなこの街は世界各国から集められた珍品の数々が売りに出されている。道行く現地人は誰もがターバンを巻いている。人がゴッタ返す商店街の中へとゲツヤとレミーナは手を繋いで、消えていった。





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