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地蔵堂の鈴と、解体屋の黒い刃 〜保育所のお迎えに間に合わせるため魔獣を解体していたら、勝手に伝説の解体士と呼ばれていた〜  作者: 草むしり50年
第12章:未踏のバイパスと、双翼の天鷲編

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第095話:星霊の番人と、泥臭い突破

 空気を切り裂く重低音が轟いた。

 クロム・ガーディアンの右腕が唸りを上げ、巨大な魔導メイスが石畳へと叩きつけられる。

 ドガァンッ!


 分厚い石畳が粉々に砕け散り、数十個の破片が散弾のように吹き飛んだ。

 俺たちは左右へと跳躍し、着地と同時に散開した。


「デカい図体して、とんでもない初速だ!」


 タケが大盾の裏で身を縮めながら叫んだ。

 葵がすかさずライフルを構え、三連点射を放つ。

 ダダダンッ!


 放たれた徹甲魔弾が、ガーディアンの頭部へ正確に着弾した。

 だが、甲高いスキッピング音が響き、弾丸は青白い光の膜に弾かれて虚空へと逸らされた。


「ダメよ! 星霊大盾の偏向フィールドが生きてるわ!」


 葵が歯噛みした。


「物理も魔導も滑らせる力場よ! 外からの射撃じゃ装甲に触ることすらできない!」

「なら、内側から叩き割るまでだ」


 一条が身を低く構え、両足に生体魔力を滾らせた。


「葵、フィールドの継ぎ目を暴け!」

「任せて! スワロー、最大出力照射!」


 葵の指先が動き、2機のスワローが超音速でガーディアンの周囲を旋回した。

 青いレーザーマーカーが、左手の大盾の裏側、力場発生器の接続プラグを照射する。


「大盾の裏、左肘の関節基部よ! フィールドの結節点があるわ!」

「捉えた!」


 一条が石畳を爆ぜさせ、弾丸のように踏み込んだ。

 ガーディアンの青白い眼光が一条を捉え、巨大なメイスが横薙ぎに振り抜かれる。


 頭上を通過する鉄塊の風圧。

 一条は紙一重でスライディングし、ガーディアンの懐へと滑り込んだ。

 左腕の巨大な星霊シールドの裏側へ、渾身の右拳を突き出す。


「はぁぁッ!」


 放たれたのは、生体魔力を超高密度に凝縮させた『金剛勁』の浸透打撃だった。

 ドパァァァンッ!


 大気を震わせる乾いた炸裂音が響く。

 偏向フィールドを透過した衝撃波が、装甲の内部で直接破裂した。

 力場発生器が激しい火花を吹き、青白い光の膜がガラスのように砕け散る。


「フィールド、強制停止!」


 葵が叫んだ。

 だが、ガーディアンは怯まなかった。

 左腕の盾を捨て、右手の一撃で足元の一条を押し潰そうとメイスを振り下ろす。


「一条、どけぇッ!」


 横合いから突っ込んできたのはタケだった。

 全身のバネを使い、タワーシールドを斜め上方へ突き出す渾身のシールドバッシュ。

 ガガガガァンッ!


 凄まじい金属摩擦の火花が散り、メイスの軌道が力ずくで上方へ逸らされた。

 だが、4メートルの質量突進を受け止めたタケの足が、石畳を削りながら後退する。


「ぐ、あぁぁぁっ! 足が持たねえ!」

「踏ん張りな、タケ坊!」


 背後から飛び込んできた坂東のV-RIGが、床面へ油圧アンカーを打ち込んだ。

 ガチンと鋼鉄の杭が石畳に食い込み、二本の機械腕がタケの背中をガッチリと押し支える。


「止めたぞ間宮! 芯を抉れッ!」

「応ッ!」


 俺は濡れた空気を蹴り、跳躍した。

 タケの大盾を踏み台にし、ガーディアンの胸元へ肉薄する。


 ハイブリッドモード、全開。


 右手の手持ち天鷲が、プラズマの魔導熱を帯びて唸りを上げた。

 剥き出しになった胸部の装甲スリット。

 厚さ20センチの星霊合金の隙間へ、刃先を正確にねじ込む。


 ガチリ、と鋼の噛み合う手応え。

 俺は手首を返し、テコの原理で装甲板を外側へと抉じ開けた。


 メキメキと音を立てて純白の装甲がめくれ、奥で青く脈動する動力核の球体が露出した。

 ガーディアンの腕が俺を払いのけようと迫る。


「落ちろ」


 俺が視線を送ると同時に、頭上に滞空していたもう1振りの天鷲が急降下した。


 キィィィンッ!


 青い閃光が、露出した動力核をミリ単位の精度で縦一文字に両断した。

 ズバァッ!


 抵抗ゼロの切断。

 核から眩い魔導光が噴き出し、ガーディアンの巨躯がピタリと停止した。

 青白い眼光がふっと消え、4メートルの巨体が崩れ落ちる。


 ドズゥゥゥンッ!


 地響きとともに、白銀のゴーレムは物言わぬ瓦礫となって横たわった。


   *


 立ち込める白煙の中、俺は着地し、天鷲の刃先を背中の鞘へ収めた。

 飛翔刃も静かに鞘へと滑り込み、小型レイヴンが腰のポッドへ戻る。


「やったか」


 タケが肩で息をしながら、盾を下ろした。

 坂東が油圧アンカーを巻き上げ、額の汗を拭う。


「ふう、ヒヤヒヤさせやがる。だが完璧な連携だったな」

「全員、怪我はないか」


 一条が呼吸を整えながら周囲を見回した。

 その時だった。


 ドクン。


 回廊の最深部、暗黒の奥底から、空間そのものを握り潰すような強烈な衝撃波が噴き出した。

 3秒周期の鼓動。

 だが、これまでの脈動とは桁が違っていた。


「ぐっ!?」


 突如として全身にのしかかった目に見えない重圧に、タケが膝を突いた。

 大盾がガシャンと石畳に落ちる。


「な、何だこれ! 体が、鉛みたいに重ぇ!」

「息が、苦しいわ!」


 葵が胸元を押さえ、その場にうずくまった。

 スワローが高度を保てず、水面すれすれまで落下する。


「重力サージだ!」


 坂東が機械腕を支柱にして必死に耐えながら叫んだ。


「ピラーの異常魔素が、この先の空間の重力を歪めてやがる! 通常の3倍以上だぞ!」

『皆さん、応答してください!』


 インカムから、ノイズにまみれた雫の悲鳴が響いた。


『第35層の大神殿エリアで、魔素濃度が臨界点を突破しました! 空間崩壊規模の超重力場が発生しています! そこに長居したら、生身の肉体は内臓破裂を起こします!』

「一条、立てるか」


 俺は一条の肩に手をかけた。

 一条は歯を食いしばり、脂汗を流しながら首を横に振った。


「動けん。体内の生体魔力が、外圧で押し潰されている」

「そうか」


 俺は周囲を見回した。

 仲間たちの顔色は蒼白で、立っていることすら限界だった。


 俺自身は、ベヒーモスの爪から鍛えた天鷲の慣性質量相殺と、全身への精密な魔力循環でなんとか耐えられている。

 だが、この先に全員を連れて行けば、確実に誰かが潰れる。


「坂東」


 俺は静かに声をかけた。


「みんなを連れて、バイパスの中継地点まで下がれ」

「な、なんだと!?」


 タケが顔を上げた。


「間宮、お前何を言ってやがる! ここまで来て、置いていく気か!」

「お前ら全員を担いで戦えるほど、俺は器用じゃねえんだよ」


 俺はタケを見下ろし、淡々と言った。


「この先で何が起きてるか、現場の俺が確かめてくる。それに坂東、落盤したバイパスの退路を支えられるのは、お前のV-RIGだけだ。ここが塞がれたら、俺も帰れなくなる」


 坂東が唇を噛み締め、拳を握りしめた。


「分かったよ、間宮。現場の歩兵に背中を預けられたんだ、無様には退けねえな。タケ坊、葵のお嬢ちゃん、一条の旦那を引っ張って下がれ!」

「くそっ、死ぬんじゃねえぞ、凌!」


 タケが悔しそうに叫び、一条に肩を貸した。

 葵がライフルを握りしめ、濡れた瞳で俺を見据えた。


「間宮さん、スワローの通信ラインだけは絶対に死守するわ。絶対に、無茶しないで」

「ああ。鈴のお迎えがあるからな。さっさと終わらせてくる」


 俺は軽く手を挙げ、暗黒の回廊へと背を向けた。


 ズシン、と足元から重い地鳴りが伝わってくる。

 空間を歪める超重力の中、俺は天鷲の柄を握り直し、一人で最深部の闇へと歩み出した。


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