第024話:5500万の超高額換金と、ギルド特命受諾
ピロロロロッ!
第七外郭門ギルド出張所の受付カウンターで、高額決済を告げる澄んだ電子音がロビーに響き渡った。
朝から換金待ちの列でざわついていたロビーが、その音を境に一瞬だけ静まり返る。
卓上端末の大型液晶画面に、燦然と輝く確定査定額が表示される。
【中層第20層エリアボス『アーマード・コング』魔石査定完了】
【買取金額:5500万円】
画面の桁数に気づいた周囲の探索者たちから、押し殺したどよめきが漏れた。
「ご、ご、ご、ごせんごひゃくまんえんんんん!?」
隣で画面を覗き込んでいたタケが、口から泡を吹いて後ろへぶっ倒れそうになった。
俺は咄嗟に手を伸ばし、タケの分厚い首根っこを掴んで力づくで引き戻した。
「おい、みっともねえ声出すな。周りの探索者が見てるだろ」
「みっともねえとか言ってる場合かよ凌! 5500万だぞ、5500万! 俺たちが下請け解体でドブ板踏みながら、一生かかっても拝めねえ天文学的数字じゃねえか!」
「騒ぐな。中層最奥のボス魔石だぞ。純度も体積もケタ違いなんだから、これくらい当然だ。如月雫の分と、お前の分を引くからな。雫に1800万、タケに1800万、残りの1900万が俺の取り分だ。これで文句ねえな?」
「文句あるわけねえだろ! っていうか俺、ほとんどボスの前で大盾構えて震えてただけだぞ!? 1800万なんて貰ったらバチが当たるって!」
「お前が正面で体を張って一撃目を逸らしてくれなきゃ、雫の詠唱も俺のナイフも通らなかった。立派なパーティの役割分担だ。正当な取り分なんだから、ガタガタ言わずに受け取っとけ」
俺が淡々と端末を操作して送金手続きを済ませると、タケは自分のスマートフォンの口座残高を見て、拝むように俺へ両手を合わせてきた。
「凌様、一生ついていきます! 鈴ちゃんの高級プリン代、俺が死ぬまで全部奢るからな!」
「高級プリンばかり食わせたら虫歯になるだろ、やめろ。鈴の飯は俺が栄養バランス考えて作る」
浮かれた空気が、ふっと引き締まる。
窓口の奥で長谷川さんが眼鏡の位置を指先で押し上げ、コホンと一つ咳払いをした。
その瞳には、先ほどまでの「サボり魔」を睨みつける怒気は消え失せ、プロのギルド職員としての鋭く引き締まった光が宿っていた。
「間宮さん。昨日の第20層ボス討伐の戦闘ログ、ギルド本部の査定課が緊急精査いたしました。そして、先ほどお伝えした通り、ギルド本部より、間宮凌さんへ直々の『特命指名依頼』が正式に発令されました」
長谷川さんは、カウンター上の業務モニターを俺の方へと回転させた。
画面には、赤く点滅する『最高優先度・防壁外迎撃任務』の文字が躍っている。
「依頼内容は、防壁外・旧富士山麓の重要物資幹線ルートに出現した、超硬度変異魔獣『アダマン・ボア(金剛重甲猪)』の討伐です」
「金剛重甲猪。地上の変異種か」
「はい。ダンジョン内の魔物と違い、地上の変異魔獣は死骸が光となって消滅しない実体型です。このアダマン・ボアは全身が超高密度の金属甲殻で覆われており、その突進力は中型戦車を軽々と吹き飛ばすほどです。昨日から物資輸送トラックが立て続けに襲撃され、都市への重要資材ルートが完全に麻痺しています」
長谷川さんは真剣な眼差しで、まっすぐに俺を見つめてきた。
「危険度はAランク相当。本来ならAランク正規部隊が編成される事態ですが、現在主力部隊は別管区の深層遠征に出払っています。そこで、昨日Dランクでありながら第20層の超重装甲ボスを一刀両断した間宮さんの実績に、本部査定課の白羽の矢が立ちました」
「Dランクの実績ゼロでお説教食らった直後に、いきなりAランクの特命たぁ極端すぎるだろ」
「間宮さんが今までサボっていた分、ギルドのためにしっかり働いてもらいますからね! 成功報酬は3000万円。さらに今回の特命を達成すれば、ギルド貢献度が基準値を大幅に突破し、次回のCランク昇格査定へ直結します!」
隣でタケが息を呑む気配がした。
Aランク相当という響きの重さに、先ほどまでのはしゃぎっぷりが嘘のように黙り込んでいる。
「なるほどな」
俺は迷うことなく、電子ペンを走らせて承認サインを画面に刻み込んだ。
鈴を一人前の大人になるまで育てるためには、金はいくらあっても足りない。
保育園代、将来の学費、栄養のある飯、安全な住まい。
それに、Cランクに上がれば購入できる装備や資材の制限も大幅に緩和される。
ここでギルドに特大の貸しを作っておくのは、俺たち親子にとって絶対にプラスだ。
「わかった。その特命、俺が受ける」
「ありがとうございます! ご武運をお祈りしています!」
長谷川さんが深く頭を下げた。
俺は端末の時計表示にちらりと目をやり、腰のホルダーの感触を確かめてから、出張所の自動ドアへと足を向けた。




