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地蔵堂の鈴と、解体屋の黒い刃 〜保育所のお迎えに間に合わせるため魔獣を解体していたら、勝手に伝説の解体士と呼ばれていた〜  作者: 草むしり50年
第4章:ネット大炎上とギルド特命依頼と、防壁外素材ハント編

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第022話:ネット大炎上と、ギルド受付のお説教

 翌朝、午前9時。

 鈴を無事に保育所へ送り届けた後、俺とタケの2人は、いつも利用している第七外郭門ギルド出張所を訪れていた。


 目的は、昨日討伐した第20層のエリアボス【アーマード・コング】の特大魔石の査定と換金、そして討伐実績の公式報告だ。

 朝のギルドロビーは、これから迷宮へ潜る探索者たちで賑わっていた。


「よう凌、換金したらそのまま美味い昼飯でも食いに行こうぜ」


「ああ。鈴のお迎えまで時間はあるしな」


 いつものように作業着姿で受付カウンターへと向かった俺たちだったが、窓口に座っていた担当受付嬢の姿を見て、思わず足を止めた。


 眼鏡の奥で、青筋がピクピクと脈打っている。

 いつもの穏やかな受付嬢、長谷川さんだった。

 俺が窓口の前に立つやいなや、長谷川さんはバンッ!と両手でカウンターを叩きつけた。


「ま、み、や、さ、ぁぁぁぁん!!」


 ロビーの探索者たちが一斉にびくっと肩を跳ねさせ、こちらを振り返る。


「うおっ、長谷川さん!? な、なんだよ急に」


「なんだよ急に、ではありません!! 間宮さん、私の目をまっすぐ見てください!」


 身を乗り出して詰め寄ってくる長谷川さんに、俺は思わず半歩後ずさった。


「間宮さん! 先週Dランクへの特例昇格の手続きをした時、私、何とお伝えしましたか!?」


「ええと、規則を守って無理せず潜れ、だったか?」


「それも言いました! ですが、もっと大事な規則をお伝えしましたよね! ランク昇格後は速やかにギルド規約に基づく正規依頼を最低月1件は受託・達成すること! これです!!」


「あー」


「あー、じゃありません! 間宮さん、Dランクになってから今日までの間、アルス社さんとの共同試験枠ばかりで、ギルドが市民や企業から受託している公式の斡旋依頼を、1件たりとも受けていませんよね!? 実績ゼロ! 完全な未達成です!」


 長谷川さんは手元の端末をカタカタと叩き、実績画面を俺の目の前に突きつけた。

 そこには確かに『受託依頼数:0件』と赤文字で大きく表示されている。


「いや、でもアルス社とのテストだって立派な探索だし、採取した魔石や素材はちゃんとギルドを通して納品してるだろ?」


「あれは素材の買い取り窓口利用であって、ギルドの斡旋依頼達成実績にはカウントされないんです! ギルドは探索者を支援する代わりに、社会インフラの維持や防壁警備、物資調達といった公的依頼をこなしてもらう互助組織なんですよ! このままだと査定課から、担当窓口の長谷川は一体何を管理しているんだって、私がこっぴどく怒られるんですからね!」


「す、すまん、悪気はなかったんだ。ビットの調整と訓練が忙しくて、つい後回しになっててな」


 いつも冷静を自負している俺も、長谷川さんの正論マシンガンにはタジタジだった。


「おいおい長谷川さん、凌をあんまり責めないでやってくれよ。俺たち、ちゃんと成果は出してきたんだからさ」


 タケが苦笑いしながら口を挟む。


「武田さんも同罪です! 間宮さんを止めるどころか、一緒になって依頼板を素通りして! 今日こそは逃がしませんからね。今すぐ適正なDランク依頼を選んで受けてもらいます!」


「わかった、わかったから。今日の用事が終わったら、依頼一覧を見せてくれ。必ず受けるから」


「本当ですね? 約束ですよ? ふう、それで、今日の用事というのは何ですか? また下層の魔石買い取りですか?」


 長谷川さんがふうと息を整え、業務用の端末に指を置いた。


「ああ。昨日の探索で出た魔石の換金と、討伐報告だ」


 俺はリュックから、昨日の戦利品を取り出し、受付トレイの上へと置いた。

 ゴトッ、と重たい音が響く。


 それは、大人の頭骨ほどもある巨大な深紅の結晶だった。

 結晶の内部からは、目に見えるほど濃密で凶悪な魔力の波動がゆらゆらと立ち上っている。

 長谷川さんは眼鏡を直しかけた手のまま、完全に動きを止めた。


「へ?」


 カウンターの空気が一瞬で張り詰める。


「間宮さん、これ、なんですか?」


「なんですかって、第20層のエリアボス【アーマード・コング】の魔石だよ。討伐証明として持ってきた」


「は? だ、第20層? エリアボス?」


 長谷川さんの声が裏返った。


 その瞬間だった。

 ギルドロビーの中央に設置された特大モニターから、ファンファーレのような電子音が鳴り響いた。


『ギルド本部より、討伐達成速報をお知らせいたします』


 機械的なアナウンスとともに、画面が緊急の赤色に切り替わる。

 ロビーにいた数十人の探索者たちが一斉に足を止め、画面を見上げた。

 画面には、巨大な文字で速報データが表示されていた。


【討伐速報:中層第20層エリアボス『アーマード・コング』討伐完了】

【討伐日時:昨日 15時15分】

【討伐パーティー構成】:

 間宮 凌(登録ランク:D)

 武田 健太(登録ランク:D)

 如月 雫(登録ランク:C)


「「「はあああああっ!?」」」


 ロビー中の探索者たちから、天井が割れんばかりの絶叫が上がった。


「おい嘘だろ!? 第20層のボスが討伐された!?」


「しかもパーティー構成を見ろ! Dランクが2人混ざってるぞ!」


「如月雫って、あのアカデミーを飛び級首席で出た、あの天才魔法使いの如月雫か!?」


「その横にいる間宮凌って誰だ!? Dランクのくせに中層ボス攻略パーティーのリーダーになってるぞ!」


 ロビーが蜂の巣をつついたような大騒ぎになった。

 長谷川さんはトレイの上の巨大な魔石とモニターを交互に見比べ、口をパクパクと金魚のように開閉させている。


「ま、間宮さんっ!? あなた、昨日ちょっと中層の様子を見てくるって言ってませんでしたっけ!? なんで20層のボスを倒して帰ってきてるんですかーっ!?」


「いや、成り行きでな。困ってる奴を助けて、奥に進んだら出てきちまったんだ」


「成り行きで中層のボスが倒せるわけないでしょうがぁぁぁっ!」


 長谷川さんの悲鳴がロビーに木霊した。


 だが、混乱はそれだけでは収まらなかった。


 ピピッ、ピピッ、ピピピッ!


 ロビーにいる探索者たちのスマートフォンが、次々とけたたましい通知音を鳴らし始めたのだ。


「おい、なんだこれ!? SNSのトレンドが全部埋まってるぞ!」


「探索者大型掲示板、サーバー落ちかけてる!」


「見ろ、クロードのチャンネルだ! 生配信が始まってるぞ!」


 誰かの叫び声に、探索者たちが群がってスマートフォンの画面を覗き込んだ。

 タケが慌てて自分のスマートフォンを取り出し、画面を開く。


「おい凌! 見ろ、大変なことになってるぞ!」


 画面には、登録者数300万人を誇る超人気探索者配信者、クロードのチャンネルが表示されていた。

 タイトルは【緊急配信:あの時の恩人『ゴースト歩兵』の正体が判明!? 第20層ボスをDランクで瞬殺した間宮凌とは誰なのか】。


 配信開始からわずか5分で、同時接続者数はすでに20万人を突破し、秒速数百通のコメントが滝のように流れていた。


『きたあああああ!』

『第20層ボス討伐速報から飛んできた!』

『ゴースト歩兵ってあの時の!?』

『浅層でクロードを拳銃とナイフだけで助けた作業着の男か!』

『特定班仕事早すぎだろwww』

『ギルド公式の討伐名簿に間宮凌って出てる!』

『アルス社の社内テスト枠で潜ってたらしいぞ!』


 画面の中では、普段はクールに決めているはずのクロードが、興奮のあまり髪を振り乱してカメラに詰め寄っていた。


「みんな、聞いてくれ! 俺はずっと探してたんだ! あの時、浅層の坑道で百足の群れに襲われて死にかけた俺を、影のように現れて、拳銃と解体ナイフの神技で救ってくれたあの作業着の男を! ネットじゃゴースト歩兵なんて呼ばれて都市伝説扱いされてたが、本物だ! 間違いない!」


 クロードは当時の配信の切り抜き動画を画面の端に映し出し、昨日の中層ボス討伐速報の文字を指差した。


「ギルドの速報データベースとアルス社のリーク情報が一致した! 名前は間宮凌! 登録ランクはなんとD! しかもあの如月雫さんと組んで、第20層のエリアボスを初見で屠ったって話だ! 間宮さん! もしこの配信を見てたら、今すぐ俺の事務所に連絡をくれ! あの時の礼をさせてくれ! 頼むから一度コラボしてくれ! どんな条件でも飲むから!」


 クロードが配信画面の向こうで深々と頭を下げていた。

 コメント欄は怒涛の勢いで加速していく。


『大手トップ配信者のクロードが頭下げてるwww』

『ゴースト歩兵ガチで実在したのかよ』

『Dランクで中層ボス討伐はヤバすぎ』

『どんなチート使ったんだ?』

『アルス社の新兵器テスターらしいぞ』

『間宮凌って何者なんだよ!?』


「な、なんじゃこりゃあぁぁぁ!」


 タケが椅子から腰を浮かせて叫んだ。


「凌! お前、ネットで完全に時の人になってるぞ! クロードの緊急配信、同接25万超えた!」


 ロビー中の探索者たちの視線が、一斉に俺へと突き刺さった。


「おい、あの作業着、さっきの速報の」


「間宮凌!? あいつがゴースト歩兵!?」


「見ろ、腰の革鞘に入ったあの大型解体ナイフ、クロードの動画に映ってたやつと全く同じだぞ!」


 ざわざわと波打つようなざわめきがロビーを包み込む。

 長谷川さんも顔面を蒼白にして、小刻みに震えていた。


「ま、間宮さん、あなた、あの配信の、クロードさんを助けたっていう、ネットで大騒ぎになってた謎の探索者だったんですか!?」


「さあな。そんな大層なもんじゃねえよ」


 周囲の熱狂と狂乱を前にして、俺は実に面倒くさそうに頭を掻いた。


「動画とか配信とか、俺にはこれっぽっちも興味ねえよ。目立つのも御免だし、コラボなんて絶対断る」


「ええっ!? クロードさんの配信に出れば、それだけで億単位の宣伝費が動くんですよ!?」


「そんな金より、地道に解体して稼いだ金の方が性に合ってる。それより長谷川さん」


 俺はカウンターの上にポンと指を置いた。


「このボス魔石の換金手続きをしてくれ。それから、さっき言ってたギルドの斡旋依頼、今日受けられるやつを回してくれ。約束通り、ちゃんとこなして実績作るからよ」


 あまりのマイペースぶりに、ロビー中の探索者たちがずっこけそうになった。


「な、なんて奴だ。天下のクロードからのラブコールをゴミ箱に捨てる勢いかよ」


「完全に職人気質だな」


 長谷川さんは呆気にとられて俺を見つめていたが、やがてふっと肩の力を抜き、小さくため息をついた。


「ふう、はあ。本当に、どこまでもマイペースなんですから。わかりました。ボス魔石の査定を進めます。それから、依頼についてですが」


 長谷川さんの表情が、急に真剣なものへと変わった。


「実はちょうど今朝、ギルド本部から間宮さん宛に、直々の特命指名依頼が届いているんです」


「俺に、特命?」


 俺が眉をひそめた。

 ネットの大炎上を他所に、物語の歯車は新たなステージへと動き出そうとしていた。


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