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地蔵堂の鈴と、解体屋の黒い刃 〜保育所のお迎えに間に合わせるため魔獣を解体していたら、勝手に伝説の解体士と呼ばれていた〜  作者: 草むしり50年
第3章:中層攻略と、二つの才能編

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第016話:第15層前線要塞の再会と、悪友の嫉妬

 第16層での単独テストを終えた俺は、境界昇降機で第15層の最奥へと戻ってきた。

 無骨な鉄格子のゲートを抜けると、そこには地下深くとは思えないほど広大な要塞都市が広がっている。

 第15層前線ベースキャンプ。

 ギルドと都市防衛軍が合同で管理する中層進撃の最前線拠点であり、対魔結界に守られた絶対安全圏(セーフゾーン)だ。


 コンクリートで固められたフロアには、完全武装の探索者たちが行き交い、武器の整備工場や医療ドック、物資の集積所が所狭しと並んでいる。

 葵は採取したレイヴンの飛行データと戦闘ログを解析するため、ベースキャンプ内に構えられたアルス・テック社の出張ラボへと急ぎ足で向かっていた。


『間宮さん、チーフへのデータ転送に30分ほどかかります。ラウンジで少し休んでいてくださいね』


 インカム越しの葵の言葉に従い、俺は探索者ラウンジの木製ベンチに腰を下ろした。

 券売機で買った冷たいスポーツドリンクを一気に喉へ流し込む。

 冷涼な液体が五臓六腑に染み渡り、戦闘の緊張で強張っていた筋肉が心地よく緩んでいく。


「よお、凌じゃねえか! やっぱりお前だ!」


 背後から、鼓膜をビリビリと震わせるような豪快で野太い声が飛んできた。

 振り返ると、身の丈ほどもある巨大なタワーシールドを背負った大男が、満面の笑みで大股に歩み寄ってくるところだった。

 無造作に刈り上げた短髪に、頑丈そうな金属プロテクター。右腰には無骨な肉厚の魔導片手戦斧を下げている。

 下請け解体屋時代からの腐れ縁、Dランク大盾使いのタケこと武田健太だ。


「タケか。お前も中層に来てたのか」


「来てたのか、じゃねえよ! 俺は正真正銘の正規Dランク探索者だからな! って、そうじゃねえ! お前、ギルドの特例推薦でDランクに飛び級したってマジかよ!? しかも第2区の超高級タワマンに引っ越したって噂は本当なのか!?」


 タケがドンとテーブルに両手を突き、顔をぐっと近づけてきた。

 相変わらずの暑苦しさだ。俺は思わず顔を背けそうになった。


「ああ、本当だ。アルス・テック社と専属テスター契約を結んでな。社宅として格安で部屋を用意してもらった」


「格安ってレベルじゃねえだろ! 第2区の安全特区だぞ!? 俺なんかまだ第5区の築30年のボロアパートで、壁の薄さに泣きながら筋トレしてんだぞ! この抜け駆け野郎! 裏切り者! 今すぐ鈴ちゃんに会わせろ!」


「鈴をダシにするな。だいたいお前、鈴に会ったこともねえだろ」


「写真で見た! 長谷川さんが見せてくれたスマホの鈴ちゃん、天使すぎて俺のスマホの待ち受けにしちまったくらいだ!」


「消せ。今すぐ消せ」


 俺が冷ややかな目で睨みつけると、タケはワハハと豪快に笑い飛ばした。

 だが、その笑みをすっと引っ込めると、真剣な目で俺の全身を見定めてきた。


「冗談はともかく、怪我はねえみたいだな。安心したぜ。急にランクが上がって無茶して死なれたら、後味悪いからな」


「心配すんな。俺は死ぬ気配のない安全運転しかしない」


「へっ、口だけは達者だな。おい凌、せっかくここで会ったんだ。これから少し時間あるか?」


「時間?」


「たまには昔みたいに組んで潜らねえかと思ってな。実はよ、第17層と18層の結晶回廊に、手頃な変異獣が湧いてるらしいんだが、あそこの連中はすばしっこくてな。俺の盾と戦斧じゃ正面を受け止めるのが精一杯で、左右に回り込まれると攻撃の手数が足りねえんだ。お前の正確なナイフと銃の腕前があれば、ガッツリ魔石を稼げる」


「前衛タンクとアタッカーのツーマンセルか。悪くないが、少し待て」


 俺は右腕のアームレットを操作し、出張ラボにいる葵へ通話を繋いだ。


「葵、聞こえるか」


『はい、間宮さん。データ転送中ですが、どうしました?』


「昔馴染みのDランク大盾使いとベースキャンプで合流した。前衛タンクと組んだ場合のレイヴンの死角カバーと連携テストを兼ねて、第17層と18層の結晶回廊へ1時間ほど潜ってきていいか?」


『えっ、大盾使いの探索者さん!? ちょっと待って、素晴らしいわ! 前衛と組んだ時の支援データや死角防御のログは、開発部としても喉から手が出るほど欲しい実戦テストよ! 出張ラボからリアルタイムでデータ受信とモニタリングを継続するわね。でも、16時には絶対にベースキャンプへ戻ってきてね。鈴ちゃんの保育園のお迎えがあるんだから!』


「ああ、16時前には必ず撤退する。頼んだぞ」


『了解よ、武運を!』


 通信を切ると、タケがぽかんと口を開けたまま固まっていた。


「おいおいおい、今の可愛い声、誰だよ!? テスターって言ったよな!? なんでそんな美人オペレーターみたいなのが専属でついてんだよ!?」


「アルス・テック社のテストパイロットだ。業務連絡は済んだぞ。行くぞ」


「チクショウ、どこまで羨ましい境遇になってやがるんだ! よし、行くぞオラァ!」


 タケは悔しそうに叫びながらも、右腰の魔導戦斧をカチャリと鳴らして気合を入れた。

 下請け時代、わずか数千円のネズミ駆除で泥水を啜っていた頃からの腐れ縁。

 互いに命を預け合える前衛タンクとして、タケの腕前と根性だけは俺が一番よく知っている。

「チクショウ、絶対にお前の鼻を明かしてやるからな! 背中は俺のタワーシールドに任せやがれ!」

「ああ、頼りにしてるぞ」

 俺たちは軽く拳を打ち合わせ、冷涼な中層の魔素が吹き抜けるゲートへと足を踏み出した。


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