6.界魔の塔
「お待たせー」
丁字と七竈がやってきて、メンバーが揃った。
「さてと……始めるか。曄雅」
「んじゃ今回の集会理由。年々界魔屋の質が下がってるからそれの取り戻しと全盛期は越したい」
「全盛期って曄雅が十四、五の時でしょ。棘さんが現役だった時代」
「それが全盛期。でももっと前に空津木さんと前白梅当主、天葵当主補佐が揃ってる俗に言う黄金時代があった」
「何それ初耳」
「僕もその時なら-三程度なら一人で十分だったんだけどなぁ……」
ただ、班になって事務仕事が増えてから明らか訓練の時間が減り、結果一でギリギリにまで落ちてしまった。もうこの歳じゃその実力は取り返せない。
「だから静璐と未優には僕の全盛期以上にまでなってもらう。全盛期のそれぞれの後継を最低二人は作りたい」
「それ僕含まれてる?」
「優羽も結楽も空津木さんも棘さんも」
「言うて簡単でしょ。未優ちゃん一人で一ランク片付くんでしょ?」
「それがそうとも言ってられないんだよねー」
日蔓はタブレットをいじると後ろのモニターに身体能力検査結果を映し出した。
「……え嘘でしょ冗談はやめてよ真面目な時に。何五十メートル走六秒って。ナマケモノですか」
「ご覧の通り運動神経、体力、反射神経、動体視力、全部散々な結果」
「……マッジでこれ今の子の結果?」
「そう」
「……捨てた方がいいよ」
「捨てられないから困ってる」
才能ないものを切り捨てて上の世代を育てたいのは日蔓も同じだが、でもそんなことをすると人数が減ってしまう。今回の計画は日蔓発案だ。
上だけ育てて上の穴を埋められず、全国的な損害を出すと穴埋めを要求されるのは日蔓。日蔓の貯金もそこまで潤ってない。
「じゃあ全員育てろって?」
「無理だから先生と優羽呼んだの」
一、各地方から弱者を集め、滋賀支部教育と同じ時のように三つのグループに分ける。
二、そのグループを日蔓、優羽、七竈が指揮を執り、この三人で使える人材を選ぶ。
三、選ばれた奴だけ次週も本館に寄越して訓練。落ちた奴は交代で宮城、富山、静岡、熊本の近いところへ行き、穴を埋められる程度には成長させる。
四、支配人殺す。
「支配人がいつ動くか分からない。最短ルートで行きたい」
「つまり最速で育てろってことね。ついて来れないやつは捨てていいんでしょ」
「相当な才能がない限りね」
「曄雅少年、excellent children使ってもいいか?」
「本人が許可したらね」
北海道・東北、中部、近畿、中国、四国、九州の六分割にして、各一週間交代でここに集める。
ここは一日も空きができないよう、効率よく。
「曄雅、全員使えなかったらどうするの?」
「使えるようになるまで育てる。そもそも全員使えるとは思ってないし」
「才能が壊滅的なやつだけ捨てるってこと?」
「才能ないやつも捨てていいよ。ただし本人の性格とか事情は加味しないで」
「それは分かってるけど」
本人に能力があるならたとえ幼児のいる一人親でも一人暮らしできない小学生でも、こちらがサポートして死ぬまで使う。じゃないと支配人とは戦うことすらできない。瞬殺される。
あの時、唯一最後まで戦えたのは曄雅一人だ。戦闘員は全員途中で死んだ。殺された。
最後の最後に支配人の殺気を引き出せたのは曄雅だけ。そして、支配人は未優と静璐を連れ去る他に日蔓を殺したがっている。良い起爆剤が三つも。
「支配人の厄介なのはその能力と知能の高さ。……優羽」
「おまかせあれ」
「学力面は技術屋の誰かにカバーさせる。優羽は元々の頭が悪いから」
「しんらつぅ」
「あーでも未優のウェア強化しないと……丁字使えないかも」
「まぁそこは私が調整するさ」
「丁字にやらせて。どっちも自己中だから」
七竈は目を丸くし、日蔓は天を仰いで頭を回転させる。
とりあえず、黄金時代一歩手前ぐらいには育てる。その計画は練れた。
あとは支配人がいつ動くか、支配人の狙いと未優、静璐に固執する理由。そして、支配人の言う『嫌いな血筋』、『あいつの末裔』の詳細。
支配人の異能や界魔の本拠地も分かったらいいな。
全て捨てられ界魔に聞ける。支配人を殺す以外のこと協力するかなと思いながら考えていると、静璐のスマホに電話がかかってきた。
「どうしたの静璐」
「緊急連絡通知です。……俺なんかしました?」
「番号見せて」
塔界屋の番号。
こんな直接かかってくるとか有り得ないが、間違いだろうか。いやそもそも塔界屋が緊急連絡することがまずないのに。
「一応出といたら? 間違いじゃないかもしれないし」
「……だね」
「ちょっと、出てきます」
未優の言葉に日蔓も同意したので一度会議室を出て、扉から少し離れた廊下で応答した。
「車花宮です」
『あー……いきなりすまん。個人連絡で出ないもんでなぁ』
「うっ……鬱さん……! すみません会議中で……」
『学生ってのに忙しいな。……まぁいい、それより大事な事だ。今誰か聞いてるか』
「俺だけですけど……」
重だるそうな、電話では聞き取りずらいほど低い声の人。塔界屋の鬱さん。
界魔の塔を管理している管理官で、たまに静璐とご飯に行く人。知り合ったきっかけ的には、立ち食いのうどん屋で隣になったから。
『静璐、例の界魔がお前を連れて来いってずっと言ってる。今のところ暴れる気配はないが、協力してもらってる側だ。会議抜けてすぐ来い。噂ない程度の会議だろ』
「俺ですか? 日蔓さんとかじゃなく……? 未優さんでもなく……?」
『お前。……界魔がここに乗り込んできた時に鏡瞳で潰したのお前だろ?』
「そう、だと思いますけど……」
無意識なんで分かりません。でもたぶんそうです。
静璐のたどたどしい答えに電話の向こうから盛大な溜め息が聞こえてくる。
『お前なぁ……ちょっとは自信持てやい』
「だって覚えてないんすよ?」
『俺らはそれすら知らねぇよ。とりあえず早く来い』
「わ、かりました」
通話を切り、とりあえず一度部屋に戻った。
ノックして、扉の隙間から顔だけ出す。
「どうしたの」
「ちょっと」
日蔓だけを手招きし、部屋の外で界魔がどうのこうのを話した。
「……確かに静璐のことに気にしてそうだったね。いいよ、行っといで。……でも、僕だけ呼んだってことは一人で行くんでしょ? 気を付けてね? 僕も終わったら行くけど……」
「大丈夫っす。もしもの時は逃げてくるんで」
「偉い」
意固地になるよりずっと偉い。
静璐は日蔓に見送られ、すぐに界魔の塔へ向かった。
走って界魔の塔に向かい、とりあえず地下のオペレーションルームに降りた。
この塔、古びた見た目して中は超ハイテクだ。
「すみません、鬱さんいます?」
「あ、ようやく来たな」
「お待たせしました」
「来い」
目の下に来い隈を浮かべ、やつれた顔をしたこの人。普通の会社の人事部長から入館して、その統率力でこの重々しい塔界屋をまとめている凄腕。という評価。
本人からの自己評価は聞いたことがない。
階段を上がり、最上階を目指す。
「鬱さん、なんであの界魔一番上なんすか?」
「なんだ、もう疲れたか」
「そういうわけじゃないっすけど……」
「一番脱獄の可能性が高い界魔を下に入れたら塔が崩壊するだろ。土台が崩れたら上も全部崩れるからな。塔が崩れたら拘束システムも壊れるし界魔の発信機も崩壊に巻き込まれたら壊れる」
「なるほど?」
発信機なんてあるんだ。
「ここの塔って部屋数少ないっすよね」
「あぁ、ここは最重要界魔を入れてる塔だからなぁ……。別の場所に本館よりでかい収容施設がある。場所は塔界屋の幹部しか知らされん」
「あ、別にあるんすね」
「そらこんな狭いところに収まるかよ」
塔界のことはあまり知られていない。
初耳だらけの説明を惚けながら聞いていると、ようやく最上階への階段に上がった。
「ここだ。檻に触るなよ、電気が流れてる。……俺はもう一個下にいるから、終わったら降りてこい」
「分かりました。ありがとうございます」
「じゃ、情報収集頼んだ」
「あ、はい」
この人情報収集の時だけイキイキしてんな。
静璐は鬱を見送ると、ずいぶん小さくなった体で鎖に繋がれた界魔に声をかけた。
三メートル弱あった体は子供のような、二メートルにも足りないほど小さくなっている。
鎖に繋がれた腕も力が入っていない。
「おーい、お前が呼んだのって俺で合ってる?」
「……あぁ」
薄紫に、赤く裂けた口。腕や足に赤いラインが浮かんでいる。前はなかった気がするが。
「人間は幼少の記憶を忘れやすい。……覚えてるか、静璐」
「え、いや……なにが?」
「お前が五歳の時、俺がお前を鏡界へ連れて行った」
まだ幼いのにも関わらず、まともに食べれていなかった。痩せ細り息も絶え絶えのお前を自らの意思で鏡界へ連れていき、支配人に助けてくれと願った。
今と同じ、まだ生気を一つも吸っていなかった時。
「……なんで俺? 他に連れてった人は?」
「直感。この現代で三食は食べれなくとも餓死するような子供は少ない」
支配人に取引を持ちかけ、支配人は静璐を助けた。
そして同時期にやってきた未優。
支配人の腹心が告げたのだ。子供でも、瞬きする間に成長する。人間は男と女さえいれば、容易に増え続けると。
「支配人は静璐とあの餓鬼を気に入ってる。……特にあの餓鬼。支配人はあの餓鬼の記憶が戻るのを待ってる」
「餓鬼って、未優さん?」
「支配人は常にそれを見張ってる。……支配人が次動くとしたら子供の記憶が戻った時だ」




