5.専門技術屋
「曄雅、未優の入班決まったらしいな」
「まーこんだけ馬鹿すか殺してたら上も管理したくなるでしょ」
未優入館から約二年、たぶん史上最速の入班だ。それに、最年少の入班。
「まさか曄雅の部下が曄雅の記録塗り替えるとはな」
「史上最年少とか言うけど記録がある中でだし。もっと昔は絶対十歳とかあるよ」
「そもそもこの界館のシステムが整ったのが割と最近の話らしいし」
「まーねー」
さてと、未優が仕事してる間にケーキでも買いに行ってやるか。正夢の代償として使いすぎる糖分補給の一番効率的な摂取方法。他のものだと未優が味が濃いとか不味いとか、そんなんを言って食べない。
どうせ日蔓の歩合給は未優の働きだし、別にいいが。
「じゃあね専務」
「ついてく!」
「やめろ」
未優入班の日、日蔓に呼ばれた未優が大きなパーカーのフードを被って一人で会議室に行くと、既に専務三人と主任が十八人いた。
日蔓に視線を向け、見たことある右端の専務に顔を向ける。日蔓とよく一緒にいる人だが、誰だったかな。赤いパーカーなので専務だとは思うが。
「未優、日蔓から話は聞いてるか」
袖口を口元に当て、ふるふると首を振って否定をする未優を見て日蔓を睨んだ。視線に気付いた日蔓はタブレットから顔を上げ、軽く首を傾げてから思い出したように口を開いた。
「忘れてた。そーいやそんな話あったね」
「お前今日の本題これだぞ!?」
「うるさいぞ皇雪。忘れてのだから仕方あるまい。今が言う場じゃろ」
「次聡は日蔓に甘すぎんだよショタコン!」
「あぁ!? 可愛いんじゃいいだろ別に!? シスコンが口出しすんな!」
「シスコンじゃねぇよ!」
「嘘つけぇ!」
二人の怒鳴り合いを未優は茫然と眺め、日蔓は溜め息をつくと皇雪の机に置いてある未優の薄青紫のパーカーを取って未優に渡した。
「はい、入班おめでと」
「……なんか変わる?」
「何にも。今まで通り界魔殺すだけだよ」
「なんで呼び出されたの? これ見なきゃ駄目?」
「いやいいよ。行こうか。挨拶しに行かないと」
「……上の人?」
「いや、未優専属の技術屋」
未優はパーカーを肩に羽織り、日蔓は扉を開けて未優を先に通した。
主任の何人かが慌てて立ち上がり、その中で最も新人の女が一人叫んで止める。
「ちょっと!? 入班の会議はまだ……!」
「いいよこっちで説明しとくから。そんな暴言子供に聞かせるもんじゃないからね」
技術棟に行き、応接室に入ると既に一人が椅子に座って机にかじりついていた。
黒のハーフアップに、白衣を着た人。
「丁字、連れてきたよ」
「……おっそ」
「ごめんごめん。思ったより会議が長引いた」
「人が定時に来たんだからそっちも来てよ」
「ごめんて」
「……誰それ? 娘? 結婚おめでとう」
「違う違う違う」
全く話を理解し覚えていない丁字に、今日から技術担当をする子だと伝えた。
少しクマが浮かんだ目で未優を見下ろし、立ち上がると机を回って未優の元に来た。
「靴脱いで」
「え?」
「あぁ、未優靴脱いで。足見せて足」
まともな説明もされないまま靴と靴下を脱ぎ、土踏まずまで伸びているスーツを足首まで上げて片足を見せた。
座ろうにも椅子は反対側に一つだけ、日蔓に手を伸ばして支えてもらい、床に座り込んで未優の足を触る丁字を見下ろした。
「……ねぇこれ何してるの」
「足査定。ほら、足フェチだから」
「フェチって何?」
「一種の趣味だよ」
どうやら丁字、超お気に召したようで、未優を机に座らせると両足脱がせてじっと見つめ始めた。
足を動かされるのがくすぐったい未優は小さく笑いながら、緩く足を振る。
「……日蔓、この子の技術担当なっていいんだよね」
「お気に召したようで何より。足フル活用するから相性いいと思って」
「今度裸足でアスレチックやってもらおう」
「お好きにどーぞ。未優、靴履いていいよ」
「まだだが!?」
「技術屋としての仕事終わったあとに見せる」
丁字は机に足を置いて靴を履く未優をガン見し、日蔓は椅子のある方に丁字を引きずった。
タブレットで未優の仕事の動画を見せる。
「この衝撃に耐える靴作って。だいたいの靴が底がやられて一回で買い換えになる」
「これは物理的なもの? それとも鏡瞳的な?」
「鏡瞳に近い。多少なら強さもコントロールできる」
二人が小難しい話をしている間、未優が机の周りをぴょんぴょん飛んでいると、いきなり丁字に捕まり膝に乗せられた。
「これはどういう感じでやってるの? 筋力?」
「気合い」
「使った時足に痛みとか痺れは?」
「特に」
「たまに衝撃で飛ばされるぐらいだよね」
頷く未優の頭に顔を置き、タブレットを集中して眺める。この走り方、足全体で地面を蹴ってフル活用かつ指と足首のバネ、土踏まずの衝撃吸収を上手く使って超人的速さを出している。この子、生粋のスポーツマンだ。
「作れそう?」
「もちろん。足のためならなんでもやる」
「期待してますよ」
机に座っていた日蔓は立ち上がると未優を呼んだ。
未優は丁字の腕から抜け出し、日蔓と手を繋ぐ。
「それじゃ、また明日」
「夜の七時に」
「夜行性だね〜」
翌日、日蔓がどこかに行ったので未優は一人で技術棟に向かう。
迷路のような技術棟を迷いながらぐるぐる回り、ようやく見付けた昨日の扉に入った。しかし中には誰もおらず、間違えたかなと少し不安になる。
誰かに聞こうかと周りをキョロキョロ見回していると、いきなり後ろからド突かれるように背中に衝撃が走った。
日蔓と練習した通り、慌てて足を踏み出そうとすれば何かに掴まれて足が出ず、腕の力で支えることができないまま顔面から地面に突っ込んだ。
「痛ッ!」
「足……!」
「何何何!?」
靴を脱がそうとしてくるそいつを蹴りながら力の入らない腕で逃げようとしていると、その足フェチを誰かが掴んだ。無理やり立たせて、そばに転がっていた荷物等を持たせる。
「お前いくら足がいいからって後ろからド突くなよな! 可哀想だぞこんなちっちゃいのに!」
「足……!」
「はいはい足ね足」
混乱するまま立ち上がり、フード被って口元に袖を当てた。飛び跳ねる心臓を必死に押える。
「よし座れ座れ。未優ちゃん大丈夫?」
シャットダウンした丁字を椅子に座らせ、未優を抱っこすると靴を脱がせた。
丁字がハッと反応し、突っ込んでくるのを未優が蹴り飛ばす。
「正当防衛」
「偉い」
「至福……! 痛い!」
なんや至福て。
丁字の三十分の足鑑賞が終わったあと、丁字は浅い箱に何か液体を流し始めた。
「何それ」
「シリコン型だよ。未優さんの足の形に石膏作って靴を限りなく足にフィットするように作るんだ」
「ふーん」
「興味なさそうだね。語るよ」
言われた通り青緑の液体に足を浸け、なるべく動かさないようにキープする。何が面白いのか丁字は地べたに四つん這いになり、じっと未優の足を見つめている。
早く日蔓来ないかなと待っていると、さっき丁字をシャットダウンさせた人が戻ってきた。
「未優ちゃん、日蔓さんもうちょっとで来るって」
「はぁい」




