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鏡界館  作者: 織優幸灔
二章
79/155

29.滋賀チーム

「界魔……!?」

「曄雅! 戻って」



 人が三人死なない限り戦わなくていい約束なので、曄雅は混乱に乗じて紐を何十本か持って木に戻った。


 衝羽を掴まえ、頭にフードを被せると五人で屋上に移動する。




「ふぅ」

「曄雅ー、紐取れた?」

「適当な数」



 紐を結楽に渡し、柵にしゃがんで本物の乱闘になった校庭を見下ろした。


 電話がかかってきて、それに出る。



『ね、ねぇ……凄いことになってるけど……』

「そっちには行かないから大丈夫だよ。知性持ちも来てない」

『うん……戦わなくていいの?』

「今は休暇中。心配しなくてもいいよ」

『うん。……そ、それが心配だっただけ……』

「そっか。じゃあ仕事頑張って」

『うん!』



 通話を切ると、後ろから翠狼がやってきた。撫でれば幻覚で見える尾を振る。



「彼女?」

「違う。それよりお前夜杏萌(やもも)は?」

「あそこ。先パイ彼女作らないの?」

「興味ないもん」



 後ろからブーイングが飛んできて、飛ばした二人を睨んでおく。


「……先パイの彼女は絶対苦労する」

「特に優羽とな。優羽、スピーカー貸して」

「はいはい」



 優羽は常備の鞄の中から小型スピーカーのマイクを曄雅に渡し、本体を床に置いた。



 皆が耳を塞ぐと曄雅が話し始める。




紫雲(しうん)! 阿菫(あとり)! 水佐木(みさき)! 小葉(このは)主力で後ろ回って死角取れ!』


 曄雅の指示に滋賀チームの動きが明らかに変わり、四人の中でも小葉主力で討伐を始めた。



 曄雅が五秒カウントを始めると同時に皆が焦り始め、二秒のところで阿菫と水佐木が捨て身で突っ込み、その隙に小葉の剣で首を落とした。



 紫雲はシースナイフ、阿菫は刀、水佐木は増強具、小葉は剣。滋賀チームの中でも群を抜いていたこの四人には三人自ら武器を持たせ、人の体では敵わない相手にも敵うよう仕込んだ。


 その他も各々得意な人とチームを組んで動けているので、成長としては上々か。



「まだ動きが硬いねー。もうちょっと仕込めるな……」

「射撃の精度あげるか……何しようかな」

「小葉! ちょっと来い」



 曄雅は一人飛び降りていき、優羽は荷物を片付けると水佐木の元へ、結楽は木々に座って構えていた狙撃班を集めた。




「なんですか日蔓さん」

「俺の技術担当と会わせようと思って。その刃じゃ切れ味悪いだろ」

「いや……いや……?」

「俺の使ってみろ」



 刃に触ると指が落ちる覚悟で触れと短剣を渡し、その間に小葉が使っている長い剣の刃を確認した。やはり、少し刃こぼれがある。

 技術的な問題もあるが、界魔はどこに出現するか分からず、周りの状況もまちまち。

 狭い場所で押して切ったり動かせない場所で叩き切る場合もあるので、刃こぼれは仕方ないが。



「うわっ……!?」


 曄雅に言われた通り短剣を地面に刺した小葉はその感覚にギョッとし、曄雅は剣から視線を外した。


「真上に抜いても抜けないから前に動かしながら抜いて」



 不可解そうな顔で見上げてくる小葉の手の上から短剣を掴み、地面を切るように動かしながら引き抜いた。引き抜くというか、切り上げるというか。



「……これ扱い方ミスったら首飛びますよね」

「ちなみに俺八歳から使ってるけどそうなりかけた」


 パーカーを半分ほど開け、首元を左下にぐいっとずらした。

 左肩から鎖骨を通って肋二本ほど切る勢いで傷ができている。



「骨ごと切れた傷」

「心臓……!」

「それは掠った程度。あん時が一番命の危機を感じたかもしれない」


 笑って言う事じゃねぇ。




 小葉が剣を返してもらい、笑いながら短剣をくるくると回す曄雅に顔を引きつらせていると、屋上から誰かがやってきた。



「先パイ! 界魔殺したの? 専務に怒られるよ」

「大丈夫大丈夫。俺手出してないから」


 悪魔の笑いをする曄雅に三人がドン引きしていると、滋賀の皆が集まってきた。



 曄雅がすぐに囲まれてしまったので、翠狼は自分で衝羽の手を頭に置いて二人で線蓮の元へ向かう。ずっと戦地にいたくせに木にもたれて手も口も出してなかった人。



「せんむー」

「……界魔屋に引き抜かれた奴」

「そうそう。専務は参加してなかったね」

「疲れたからな。何か用か?」


 線蓮は翠狼の頭を撫で、翠狼は線蓮の両腕を掴むと前に立って自分の肩にかけた。



「衝羽クンが今日界魔屋になったのに乱闘に参加させられた理由聞こうと思って」

「十日前には通達はあったぞ?」

「言われたの朝の九時だよ」

「今日の?」


 不機嫌そうな顔でうなずく翠狼の頭を撫でながら、少し明後日の方に視線を飛ばした。



 この乱闘を組み分けに使うと言うのは聞いていたが、別に強くなって平になる分には全く問題ないはず。わざわざ直前に伝えた理由とは。


 一班のチビと仲がいいのでそれを何か利用したかったか、本人が嫌がると一班が出てくるからか。でも本人が嫌がるならこれから精進もしないだろうし優秀な成績の医療屋を取ると不利益しかない。




 あの二人のことだ、もっと簡素な理由なんだろうな。



「あとで聞いて夜には伝えよう。悪かったな、振り回して」

「あ、いや、あいつが色々やってくれたんで、大丈夫ですけど……」

「専務間の報連相も案外ずさんだね」



 翠狼の棘のある言葉に胸を引き裂かれた線蓮が黙っていると、指揮台の方から寒白の招集の声が聞こえた。


 さて、中止か延期か再開か、結果発表か。






 皆が集まり、線蓮は指揮台の横に立った。


 翠狼と衝羽は木の上へ。



「えーと……とりあえず界魔討伐お疲れ様。それで問題なんだが、試験はどうする? 一応リストは今回の界魔で取れたんだが……」

「続行するべきでは!? まだ作戦を開始すらできていない方もいると思います!」

「中止か延期! 界魔の被害で動けないものもいますし、本調子ではないかと!」



 皆が挙手して意見していると、上にいる五人のうち優羽が大きく手を挙げた。よく通る大きな声で声をかける。


「はい! 終わればいいんじゃないですか! あとは好きに動けばいいですし!」

「だから作戦が……!」

「じゃあお前ら勝てない界魔相手に作戦まだだからって突っ込むわけ? どうせ落とされるんだから負け恥晒さないうちに終わっといた方がいいよ?」

「お前なんにもしねぇだろ運動音痴!」

「お前の紐落とすぐらいならできるけどな」


 優羽は結楽からソフトエアガンを受け取るとそれを文句言ってくる相手に向けた。相手はさっと顔を青くする。


 エアガンと言っても見た目は実銃。殺されないと分かってても怖いよな。




「お前……!」

「一班は負けないうちに終わらせたいだけなんじゃないですか? 後半になれば強い敵だけが残りますし、いくら最強と言っても……戦力はその子供だけでしょ? 三人対一なら負けは確実ですし」


 誰かの意見に皆がくすくすと笑った時、フードを被って仁王立ちした曄雅が気味悪く笑った。



「お前らこそ負けるから続けたいだけだろ。延期派は仲間がいないと勝てないからか? 相手が界魔なら延期も中止も続行もない。生気吸われたら殺すまでそいつは動かないし死んだら殺しても戻ってこない。餓鬼じゃねぇんだから分かるだろ? 餓鬼の俺でも分かってるからな」



 異様な圧が周囲に充満し、数人が気分が悪そうにしゃがみ込んだ。


「負けるから終わらせたいだけ? 当たり前だろ。勝ち逃げすりゃ人間相手でも界魔相手でも勝ちは勝ちなんだよ。お前ら界魔殺してこれじゃ理不尽とか言って他の界魔に命差し出すか? 偽善並べてほざくなや」





 木に仁王立ちして全員を嘲笑するように見下ろす曄雅を見上げ、ふぃっと顔を逸らした。あの子可愛いな。

 子供らしい体だが頭はまるで大人だ。それも、性根が腐らず人間らしく育った大人。


 あの顔ゾクゾクする。




「この界館に入った以上人間相手でも練習は界魔と思え。人間相手と思って訓練してりゃそりゃたかが二ランクでも死ぬわ。弱いお前らが悪い」


 この界館で上に潰されたくなきゃ理不尽上等、死ぬのも一興。それぐらいの心構えでいないとまず性根が腐って人が離れていく。一人になれば致死率は上がる一方。



「文句ある奴言ってみろ」




 曄雅が見下すと、文句はあれど恐怖で口を開けないという人々が顔を見合せた。

 足を振って靴の土を落とす優羽はにこやかに挙手して専務に皆異論ないことを伝えた。



「寒白さーん、結果発表で文句ないですってー」

「優羽、揺らさないで」

「銃大丈夫そう?」

「ただのバッテリー切れ。替えたら使えるよ」



 幹にもたれ、右足をぶら下げていた結楽はいじっていたライフルを優羽に投げた。優羽はそれを胸元に入れる。結楽の胸元にあるハンドガンは実銃。



「……結楽! 時間かかりそうだし暇潰し行こ」

「僕は!」

「リストあるだろ」


 優羽が信じられないような顔でこっちを見るので結楽が足を振って大笑いしていると、下から優羽を呼ぶ声が聞こえた。


「優羽君」



 線蓮が手を差し出したのでUSBを見せれば、頷いたので落として渡しておく。


 手を振られたので結楽とともに嬉々として木を降りた。



「じゃ、翠狼残り任せた」

「お任せあれ!…………俺人の前に立つの嫌いだから衝羽クンよろしくね」

「うっ……そ……!?」


 翠狼は衝羽の肩を叩くと、颯爽と人混みの中に消えていった。

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