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鏡界館  作者: 織優幸灔
二章
78/155

28.衝羽

 一週間後、すっかり体調の戻った曄雅が滋賀から来た阿菫(あとり)紫雲(しうん)と話していると、もう一人がやってきた。

 弁当会の時に足をカイロに埋めてた人。




「阿菫、紫雲、あんまり話し込んでると時間無くなるぞ」

小葉(このは)。もうそんな時間?」



 カイロをこよなく愛する変人、小葉は曄雅に軽く会釈し、二人にボードを渡した。


篠懸(すずかげ)から。作戦」

「作戦? なんの?」



 曄雅の問に、小葉は当然というように試験のと。


「え、試験? なにそれ」

「いや、集会の目的ですよ? 各個人の乱闘で、勝ち残った人には賞品があるとかないとか……」

「……そーんな事聞いてねぇなぁ……」


 たぶん優羽と結楽の扱いを面倒臭がった寒白が意図して伝えなかったか。


 あの人そういうせこいと言うか、ずる賢いところあるからな。



「……まぁいいや。じゃあ頑張ってな」

「はい。ありがとうございます」



 曄雅は靴紐を確認し、フードを被るとその場にしゃがんだ。


 勢いよく飛び上がり、木と壁を蹴って本館の開いた窓に飛び込んでいく。


「いや……すっげ」

「小ささ故の身軽さなんかな」

「二人も頑張れ。ほら行くぞ」









 優羽と結楽に話の概要を伝え、曄雅は鬼の形相、血眼でやってきた衝羽(つくばね)の話を聞く。クラスメイト兼腐れ縁。


「どうした? 死にそうな顔で」

「…………ぬかも……ない……」

「なんて?」

「死ぬ……! 死ぬかもしれない……!」



 話がまるで見えず、眉を寄せると衝羽が曄雅の肩をがっしりと掴んだ。とりあえず肩をさすり、落ち着かせる。



「……さっき、松笠(まつかさ)専務に呼ばれて、お前鏡界屋になれって……!」

「運動神経いいもんな。でも医者志望だろ? 断れよ」

「断れるわけねぇだろ……! あの人の圧力怖すぎ……!」


 半泣きの衝羽を慰め、落ち着かせた。



「……今日の乱闘に出ろって言われた。見習いか研修生か平かに振り分けるからって」

「お前死ぬど」

「だから死ぬっつってんだろ!? お前出ねぇの!? 守れよ!」

「出ないけど……何人か当たってみるか……」


 学校行事の連絡係を失うわけにはいかない。



 曄雅は優羽達に声をかけると、衝羽と二人で人が多い校庭に出た。




 この校庭で知り合いが見つかるわけがないので、片っ端から電話をかけていく。



「……やっと出た!」

『どちたの〜』



 六件目、翠狼(すいろう)が応答し、ふざけた声が聞こえてきた。



「ちょっと頼み事があって。今時間ある? 行くから場所押しててほしい」

『私翠狼。今貴方の後ろにいるの』



 声が二重に聞こえ、振り返ると本当に翠狼が指揮台の上にしゃがんでスマホを耳に付けていた。手を振られたので電話を切る。



「先パイ何〜? 俺絶好調だよ」

「そりゃ何より。専務の無茶ぶりで俺の同級生が今回の乱闘で参加することになったんだけど。こいつさっきまで医療屋だったから守ってやってほしい」

「先パイがやらないの? 俺より強いじゃん」

「いや、俺出ないし……」

「でっ……ないの……!? 出るって聞いたよ!? 皆もめっちゃ楽しみにしてんのに!」


 曄雅も目を丸くし、眉を寄せた。

 情報伝達が止まりすぎじゃないか。



「……ちょっと、確認してくる。基礎だけ教えといて。マジでなんも知らんけど、要領はいいはず」

「はーい」




 たぶん寒白と専務二人に行くとこれからの扱いが最悪になるので、もっと上に聞こう。



 建物の裏、人が滅多に来ない場所に行き、電話をかけた。

 仕事中なのは分かっているが出てくれと祈ると、案外すぐに出てくれた。



『もしもし? どうしたの?』

「もしもし。この後の乱闘の情報が一切伝わってないんだけど」

『嘘!? ちゃんと通達したのに……!』

「専務?」

『ううん。あの三人今それどころじゃないから班に直接送ってて……』

「あとで確認しとくけど、それよりあとの情報ちょうだい。時間とかルールとか」

『メールで資料送った方が早いよ』

「残ったらバレるから口頭でお願い」

『分かった』




 開始は午後から、紐を使った勝ち抜き型。

 紐を取られたら終わり、人を集めたやつを落としても貰える紐は一本だけ。


 全班参加で、班は地方の平を襲って戦闘場面を作り出せ、と。




「俺らはやりながらリスト作ればいいってこと?」

『うん。今マネージャーが他の仕事に取られてて……できる?』

「大丈夫。……もう一つ。衝羽の話もうちょっと早く言えなかった? 初日に乱闘って」

『初日? 僕言ったの一週間は前だよ』

「……まぁいいや。じゃ」

『怒ってる……?』

「じゃーね」


 何かを言おうとした時に通話を切り、裏から出た。

 側面の壁傍、一人の足分の草が折れている。誰かな。










「優羽! 結楽! 俺らも強制だって」

「んー大方弟子から聞いたよー」

「弟子?」

「線蓮」

「あぁ」


 まだ性根が腐ってない唯一の専務。


「エアガンで威嚇しようか」

「あぁ試合なんだけどさ」


 曄雅が衝羽のことを説明し、傍においてもいいかと聞くと二人とも二つ返事で了承してくれた。

 曄雅と仲のいい子なら構わない、と。




「作戦あとで送っといて。衝羽に声かけてくる」

「はーい」

「あとでメール送るから見といてね!」

「了解!」



 曄雅は本館の窓から飛び出すと木に翠狼とぶら下がっている衝羽の傍に走った。


 ちょっと、気疲れ。



「大丈夫かお前」

「バタバタしすぎた……ちょっと休憩」


 木にもたれかかり、衝羽に班で出ることと傍に置くことを伝えた。心底安心したような顔。



「えーじゃあ先パイ俺は?」

「好きに行動していいよ」

「じゃあ先生のとこいるわ」

「……お前裏切る?」

「一本取らないと死ぬってことなら衝羽クンの取るけど」

「取られない限り死なない。俺何人か回収してくるからその間これ守っといてよ」

「お任せあれ!」

「変な行動したら優羽が黙ってないからな」

「オマカセアレ!」


 明らかに固くなった翠狼は曄雅にグッドを見せ、曄雅は木にぶら下がって落ちた衝羽を立たせた。



「優羽と最悪結楽から離れなければ落ちることはないから」

「……俺残ったせいでいきなり平とかない?」

「実力確認の審判俺ら」

「さすが曄雅サマ」



 衝羽の顔面を殴ろうと腕を振り、顔面スレスレで止めた。曄雅が腕を動かし始めた瞬間には衝羽はしゃがみ、頭を抱えている。



「おーナイス反射神経! 先パイに見込まれるだけある!」

「お前マジで殴ろうとしたろ!?」

「恐れおののけ」

「マジで怖ぇよ!?」










 昼食が終わった午後。


 ほぼ全員が校庭の中心に集まる中、行くと囲まれる一班と衝羽は傍の木の上に座る。

 衝羽が座った横に曄雅が立ち、優羽と結楽は別の枝に並んで座っている。



「お前体幹すげぇな。掴まらずに立つて」

「トレーニングの賜物だから。こんぐらいできるようになれよ」

「先輩面しやがって」

「蹴り落とすぞ」

「怖いんだって……!」



 衝羽が曄雅を怖がっていると、すっかり見慣れた帽子姿の線蓮が指揮台に上がった。



 試合の説明を簡易的に説明し、最後に木の上にいる三人に目を向けた。



「記録係、あとでリスト取りに来い」

「……うっそパソコンじゃないの!? 書けってこと!?」

「違うUSB取りに来いと言うとる」

「あぁそう」



 優羽はほっと安心し、結楽は優羽の肩に手を置いた。


「あの人がいなかったら絶対手書きだよ」

「そうなの?」

「だって残りの二人機械音痴だもん。ほら、世代が違うし」

「……感謝かもしれない」



 二人がキャッキャ言うている間に曄雅が記録用よUSBを受け取りに行き、パソコンに繋いだ。



「優羽! やっといて」

「はいはーい。……結楽も手伝ってよ」

「分かってるよ」



 皆が各々の場所に移動し始めたので四人もコート内の端の木に移った。



 指揮台側から誰か走ってきて、木の手前で飛び上がると曄雅に飛び付く。



「先パイ! 俺衝羽クン守ればいいんでしょ!」

「お前元気だなぁ……」

夜杏萌(やもも)とお昼食べてきた」

「さいですか」



 上機嫌の翠狼は曄雅の腕の下に頭を入れ、曄雅は頭に手を置く。狼の如く強いが犬の如くかまってちゃん。



「お前人気者だな」

「曄雅先パイは優良物件だからね。撫でて」

「半分近く媚びへつらってる奴だけどな」



 曄雅に撫でられた翠狼は上機嫌に木からぶら下がる足を振った。



 どこからか(くすのき)課長の大きな声が聞こえてきて、カウントダウンが始まった。


 三カウントの直後、ピストルが鳴るとほぼ同時に曄雅に頭を撫でられたままの翠狼が鏡瞳を開く。



「……鏡瞳って少数しか使えないんだろ」

「まぁ生存本能故の未知の領域だからな」

「お前は生存本能がないってこと?」

「生存本能が脅かされるほどピンチになったことがないってこと」



 実戦経験ありの研修生含む平三分の一が脱落し、気絶したものの紐を皆が取っていく。

 曄雅は立ち上がるとフードを被った。


「じゃあ翠狼、頼んだ」

「お任せあれ!」



 曄雅は乱闘の中に突っ込んでいき、翠狼は衝羽を幹側に移動させた。真横に座り、また腕の下に頭を突っ込む。

 曄雅のを見てかすぐに撫でてくれた。



「そんな撫でられたい?」

「別に撫でられなくてもいいけどくっ付いてたい。自分でしがみつくより守る側から撫でてもらって自分の両手を空けた方が安全だし」

「……ぬいぐるみでも常備したら?」

「ぬいぐるみ?」

「ぬいぐるみ」



 界魔に襲われた際、家族に置いて逃げられ曄雅に助けられた過去がある翠狼が首を傾げていると、いきなり地鳴りが聞こえた。

 木々が揺れ、翠狼は枝にしゃがむと衝羽の頭を抱える。


 敷地内に界魔が侵入した時のみ鳴る防破アラートが鳴り響き、校庭がひび割れ勢いよく蛇のような界魔が地面を突き破ってきた。

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