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鏡界館  作者: 織優幸灔
二章
71/155

21.弱さ

「曄雅が昨日の夜着いて早々寒白さんに休み作れって送ったんだよ。返事待ったけど来ないからキレてると思って五時からずっとこの状態」

「……キレてると思ったのが五時ってこと? それともキレて行った方がいいと思ったのが五時ってこと? どっち?」



 曄雅はペンネを食べながら、何故かリビングに正座する寒白を見下ろす。曄雅がこうさせたんじゃない。ソファで足組んで腕組んで人の話を聞く態度じゃなかった寒白に直せと言ったらこうなっただけ。

 結楽は斜め向かいから曄雅の動画を撮り、曄雅はそれに気付きながらもさして気にせずペンネを食べる。



 線蓮は曄雅の横で暇そうにあくびをしている。




「曄雅、仮にも専務だよ」

「仮にもて」

「どうでもいいわ。日本国憲法通じねぇんなら日本の心もいらんだろ。上司上等」



 曄雅は多すぎたペンネを結楽に渡し、それを黙ってろの意で受け取った結楽は喜んで食べ始めた。



「寒白さーん」

「えっ、と……」


 珍しく詰まっている寒白を線蓮がふざけて写真を撮っていると、突然部屋の鍵が開いた。ガチャガチャと鳴って、優羽が入ってくる。


「ただーいまー」

「帰ってきたし」

「ただーいまー!」



 曄雅は無視、黙れの意でペンネを食べている結楽は黙ったまま手を振った。


 中に入ってきた優羽は線蓮と寒白を見下ろし、結楽に視線をやる。フォークで三人を指さすだけでだいたい伝わったらしい。



「お怒りかね曄雅クン」

「見舞いは悪かった。まともに寝てなかったから許せ」

「別にいいけど。寒白さんも大変なんだからあんまり言い過ぎないでよ。休みはこれから一週間もあれば十分でしょ」

「でも俺休み作れって送った瞬間遠征来たからな」

「遠征組ー!」


 曄雅が遠征なら強制的に同じ班の二人はついて行かなければならない。

 優羽は荷物を床に捨て、ソファに座って寒白を見下ろした。



「どこ遠征って」

「お……大阪……」

「何すんの?」

「鏡界……調査です……」

「……よし曄雅! 大阪行ってたこ焼き食べて遊園地行って観光地巡りしよう! 僕大阪行きたい!」



 こいつなんでこんな乗り気なんだと結楽を見れば、結楽がスマホを滑らせて曄雅にそれを見せた。

 グッズショップが地方ごとにコラボ内容が変わるらしい。東北、関東、中部は揃えたのであとは北海道、近畿、中国、四国、九州が必要。



「俺大阪じゃなくて神戸がいい! 大阪の人って気強そうじゃん。ようがぁ」

「関西人全員気強いだろ。遠征終わったらそのまま長期休暇貰うか。兵庫、中国、四国行って……九州……」

「大阪、兵庫、中国、四国、九州から北海道飛んで帰ってくる! 完璧!」

「優羽その散財癖どうにかしなって! 前の配信で十万近く投げ銭したんでしょ!?」

「死んで腐らせるよりマシだって! あー楽しみー!」


 優羽は楽しげに笑い、結楽は仕方なさそうに溜め息をついた。曄雅はスマホで旅費を計算する。



 なんだかんだ言って遠征行ったあとも三人一緒に行動するんだから、この二人もお人好しというか仲良すぎというか。




「優羽、何万使う気?」

「まぁざっと何十万?」

「……結楽、優羽だけ歩いて来させるか」

「賛成」

「ちょっと! それなら一人で新幹線で日本一周してくるから!」

「つまんなそ」



 食べ終わった結楽は食器を片付けると水を貯め、曄雅は文句を言う優羽を呆れて睨む。ピアスも美容室も投げ銭も課金も惜しみなく使うくせに旅行まで。

 ストレス発散はいいが散財癖で破産されると困るのはこっちなんだよな。



「曄雅、いつ行く?」

「優羽、通帳」

「どこやったっけなー」


 結楽とともに探し当てられた通帳に記入された口座の残高を確認する。


 こりゃ散財しても痛くも痒くもないわな。




「曄雅と結楽の働きで僕のところに入ってんだから使ってない二人はもっとあるでしょ。管理してないの?」



 二人は顔を見合せて優羽の部屋を飛び出していき、ソファに寝転がった優羽はもう面倒臭そうな顔になった寒白と線蓮に視線を向けた。



「じゃ、お二人とも帰っていいですよ。おやすみなさーい」

「……扱いが上手いな」

「そうでしょ。牽制し合う三人ですから」



 優羽はにこにこと笑い、寒白は立ち上がると興味をなくしてスマホをいじる線蓮を呼んだ。曄雅が帰ってくる前に帰らないと。


次聡(じそう)、戻るぞ」

「今からですか? 明日でも終わるのに」

「帰りたきゃ帰れ」

「じゃあ帰ります」

「お前冷たくなったなぁ!?」

「ストレス抱えやすいもんで」


 線蓮は帽子をかぶると髪を後ろに通し、先に出ていった。



 全く、どいつもこいつも扱いづらくてかなわんな。






















 そして界魔の足止め、雪の足止め、界魔界魔界魔。


 ここ一ヶ月半で百回は見た界魔による被害。三人は誰も参加しなかったが、まぁ酷いもの。なんでそこそう動かないのか、絶対そこはあぁ動くべきだと見学中に思ったことを書き留める。帰って上に報告しよう。

 後輩の成長も先輩の仕事だ。















 と思って日本一周から帰還した二月半ば。まだ冷えるがようやくカイロが手放せるようになってきた気温。

 帰ってきた三人は部屋に大の字に寝転び、瀕死のまま体や顔を引きつらせる。



「……休日って……なに……?」



 どこへ行っても界魔と遭遇し、戦わないだけ。交通規制やインフラ破壊も死傷者増幅もいいところ。驚くほど皆が弱すぎて、もう旅行どころじゃなかった。





「……まぁ優羽も満足した事だし」

「そうそう。帰りキャリーバッグなんか増えてたし」

「よーしじゃあ仕事やりますか!」



 三人は飛び起きると、各々仕事服に着替えてパーカーを羽織り三人で部屋を出た。



 休みが開ければもう仕事顔。

 本館に入り、とりあえず寒白のところへ。


 行く前はあれだけ圧をかけて結構根に持つ方の曄雅だが、今はそんなことより教育なので仕方なく頼らせてもらおう。




「失礼しますー。寒白さーん」


 優羽がノックして大きく呼ぶと、数秒してゆっくり扉が開いた。警戒態勢の寒白が隙間から覗くのを曄雅が足で押し開けて中に入る。



「寒白さん、平の教育やりましょ」

「曄雅君……礼儀も何もないね」

「そんなことより教育! 俺ら旅行中に五回ぐらい死にかけましたし! 弱い! 全国の集めて専務と班所属でしごきましょ!」

「いやとは言ってもねぇ……」


 年々実力が低下しているのは寒白もよく分かっているが、なんせ本人たちのやる気の低下と教育者不足で教育どころではない。

 集めるにしてもその間の界魔対処はどうする。

 全国を部長だけで補わせるのは無理。人数も体力も移動方法も速度も足りない。



 上も考えてはいるがその策が思いつかない。



「じゃあ県別か地域別に別けましょ。結楽日本地図書いて」

「はいはい」


 優羽は結楽にボードマーカーを渡し、結楽は北海道から沖縄までの島含む日本地図を書いた。よくそんな島覚えてんなぐらいの島。



「この中のうちここと……ここは社員はいない。無人島と人数少ない島だしね」

「ざっくり分けたらこんなん?」

「県ごとでもいい気がする。なんだっけ、県支部? にそれぞれ人送って県内で育てたら?」

「何それ」


 結楽と優羽は目を瞬き、寒白は呆れたように眉を下げた。


「県支部はだいぶん前に撤廃してる。今はマンションだけ」

「じゃあ跡地でもなんでも使ったらいいじゃん。どうせ秘密保持とかで土地まだ持ってんでしょ」

「……確かにあるけど」

「建物も腐ったりしただけで壊してない」

「……まぁ」


 対界魔用の建造物、秘密保持や建物の詳細を探らせないために警察関連以外の業者には頼まない。当然、そんな解体業者はいないので壊してない。


 それを雑に潰して界魔が暴れたような跡を作る。これで人災救助の方法を。

 界魔殺す方法は班所属や専務が叩き込めばいい。

 平が勝てないほどの界魔ならどうせ生気吸ってんだし、何より界館の目標は界魔撲滅。どうせ塔界(とうかい)の界魔も近いうちに全部殺すのだからそれなら無駄な移動費を使うよりもその場で即殺した方が早い。


「でしょ」

「そうなんだが……そうなると死骸処理作業がな……」

「爆破でも酸でも使って効率的なやり方考えりゃいいじゃん!」

「技術屋に頼んだらいいんじゃない? そういうの考えるの好きな人多そう」



 寒白が悩んでいると、部屋にノックが鳴った。

 返事をする前に勝手に開いて線蓮が入ってくる。


「……仕事してくださいよ」

「返事を待てと言っただろう」

「ふざけて一時間待たせるのは誰ですか」

「俺」



 線蓮は寒白を蹴り飛ばし、寒白を足で踏みながら三人に事情を聞いた。


 この人統括専務なのに皆からの扱い酷いんだよな。





「……それなら定期的にノルマを課してノルマを達成した教える側にはボーナス入れましょうか。慈善事業じゃあるまいし」

次聡(じそう)……退け……!」

「じゃあ班所属と部長混ぜて教えるのが上手い人優先で被害の多い地区に飛ばしますか」

「でも曄雅、班所属、課長、部長入れても四十七都道府県は無理だよ」

「主任も入れるに決まってんじゃん」

「主任のほとんどって戦闘まるきりじゃ……?」

「いや、主任は全員平で二年か三年は経験積んでるから問題ない。動けないのはそこ二人だけ」

「……大丈夫か!」



 優羽と結楽は曄雅に頷き、曄雅も頷き返した。

 それを決定と受け取った線蓮は鏡界専務の松笠(まつかさ)に連絡し、計画と実行をお願いする。




「……三人は休暇明けから仕事か」

「寒白さん起きたら?」


 線蓮がスマホをいじっている間にうつ伏せで肘を突いた寒白を三人が見下ろす。


 起きたらと言うが、こいつの筋力なめんなよ。服装でカバーしているが結構男らしい体つきしている。当然筋力も、顔は女々しいくせに。



 全部さらけ出した寒白の頭を蹴り飛ばした線蓮は部屋を出ていき、寒白はその後三十分ほど床にお世話になっていた。

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