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鏡界館  作者: 織優幸灔
二章
72/155

22.教育

 現在二月半ば。関係者の子供等の未就学児は春から学校に入り、それと同時に他の転校生や飛び入り、スカウト等も入ってくる。


 今からそれまでの約二ヶ月間。




「ここに集まった全員、班所属越すぐらいにはしごくから」


 日本人の心、目上の人には礼儀正しく。


 優羽と結楽に言われて整列した七百人弱。指揮台に座った曄雅の圧に全員が血の気を引かせた。






 今、鏡界館の力の序列的には白梅(はくめい)課一班、日蔓曄雅。その下に松笠(まつかさ)、寒白、線蓮、課長と部長と班所属が入り交じり、平の強者が続く。


 そう、班所属とは机上の仕事能力や統率力、カリスマ性等の部長に必要な能力がまだ足りていない、養われていない者が集まる級。対界魔の実力的には部長や課長と遜色ないしなんなら実力不明の線蓮を越すんじゃないかぐらいの奴もいる。

 そういう奴は調子に乗って一回以上曄雅にボコられているが。




 そんな班所属と対等に渡り合える、いや、負かすまで育てるとは。



「ひ、日蔓さん……」

「何も体力、体術に限ったことじゃない。班は越せても部長や課長より体術は確実に劣る。班所属のいい所はなんだと思う?」

「はい!」

「はい結楽」

「常に同じ人たちと行動するから意思疎通が計りやすい! あとお互いを理解しやすい」

「班行動だから決まったメンバーで行動できるのがいいよね」

「そゆこと」


 曄雅が教えるのはあくまでも体術や近距離方法。

 優羽は皆に戦術や界魔の殺し方を、体術のできない奴は結楽が援護方法を、それぞれに合った戦い方を教える。



 馬鹿の一つ覚えのように走れ戦え食え寝ろ走れ戦えとは言わない。


「各自教えてもらいたいもの、希望する教え方を適当な紙に書いて要提出。分からないなら聞きに来るでも相談するでも何でもしろ。明日の朝六時が締め切り」

「俺らも聞くけど優羽は女子に当たりキツいから注意」

「逆ナン目的じゃなかったら大丈夫だよ〜」

「逆恨みされるぞお前ら」


 優羽と結楽は手を振り、曄雅は解散を告げた。




 滋賀県東近江と三重の県境、とある山の崖の裏。

 森林に覆われた山の中にひっそりと広がる大きな純和風建築。でも広さより高さ。


 壁にめり込んだ、中国にある懸空寺のような建物。別に浮いてるわけじゃないが。




「滋賀ってほんとに何もないんだねー」

「琵琶湖」

「山」

「ここはまぁ絶景だよ。写真撮れないのが残念」


 鏡界館内はたとえ撤廃済みの関係建物内でもハッキング等による流出、投稿後の特定を防ぐために撮影は禁止されている。

 許されているのはただ一つ、東京本館裏窓のない棟技術棟だけ。あの変人集団は何をどう言っても何も聞かないので上もお手上げ状態だ。



「部屋戻って整理してから探検しようか。本館より複雑そう」

「本館そんな複雑じゃないだろ」

「何よりも単純だよね」







 三人で二部屋。別に一部屋でもいいが、主に優羽にはプライベートが必須なので二部屋。でも荷物は全員全部こっち。


 曄雅の強さ故に遠征組に分類される方だし、事実日をまたいだ仕事が平均よりは多いので荷物のまとめ方や必要な荷物は分かっている。あとはなくても現地で買えばいいやという吹っ切りの良さと金の余裕。




 三人で荷物を片付け、日が暮れるまで正しく迷路のような本棟を回った。方向感覚抜群の優羽がいなかったら確実に迷ってたね。











 そして翌日、朝七時。


 バインダー片手に三人は名札を付けた皆の名前と顔を一致させ、加えて教える項目や教え方を頭に叩き込む。


 曄雅なんて主任の名前覚えるだけでも苦労したのに、こんなん覚え切れるか。



「……もいいや。近距離戦とか体力作り希望の人こっち来て」

「運動苦手組おいで」

「座学希望のひとー」


 見れば、結構座学や聞いて学ぶ方が分かりやすいという人も多かった。

 人数はバラバラだがそれぞれ別れて教育に入る。



 なお、教育期間中に起こった県内の仕事はどんな内容でも同県内の者に任される。主に担当者たちに。




「えーと……とりあえず体力作り、体術、道具関係、その他で別れて。複数ある人は体力、体術、道具で優先順位付けて。分かんないなら聞きに来ていいから」



 バインダーと睨めっこして、とりあえず四組に分ける。何をするにしても体力は必要なので複数ある人は体力を。



「……別れれた?」

「た、ぶん……」

「自信持て! 別れたか別れてないか!」

「わっ、別れましたッ!」

「よし。えーと……体力メインの人はとりあえずこの項目で体力測定お願い。バインダーとストップウォッチとかは向こうにあるし記入もそこにしてくれたらいいから。二枚あるけど足りなかったら裏書いて」

「は、はい……」

「他三組は体育館な。行くぞ」



 先頭にいた人に紙を三枚渡し、意外と少なくなった三グループで体育館の中に入った。

 二ヶ月間あるんだ。一日目は全員の記録を取る。最終日に自分の進化を見れたら嬉しいだろうし。


「体術組はこれ。すぐ終わるだろうから終わったら声かけて」

「はい」

「武器組はちょっと待って。その他の人たちは何教わりたい?」





 曄雅は元から穏やかで人当たりのいい性格だ。それが、ストレスが溜まったり人にストレスをかけられたり人間関係でストレス地獄になった時のみ不良化するという、ただそれだけ。


 本来ならほわほわした、ただの優しい男の子。

 習わしの一言で政府公認の完全秘匿組織に隔離して、天性の才能に見向きもせずただ出来損ないと罵るだけの家に産まれたのが間違いか、その家に生まれたからこそこの才能が開花したのか、この血筋だからこその才能か。


 皮肉なものだ。




「……ひ、日蔓さん……あの人は……」

「ん?」


 振り返ると、扉にもたれて手を振っている人がいた。


「はぁいfalcon(ファルコン) boy(ボーイ)


 今日は重機は付けず、腰にハンドガンと背中にガトリングガンとショットガンだけ。


「何しに来た」

「何も。会長から全国の様子を見て困ってる人がいたら助けるよう言われてね」

「会長から?」

「そう。日蔓家は縛りが多いから辞めたんだ。日蔓と契約する限り一生少年に嫌われ続けそうだからね」

「本人を嫌ってるからな」

「おぉう……」


 家と契約しているのが問題じゃなかったのか。



 七竈(しちくど)はなんとも言えなさそうな真顔になり振っていた手を力なく下ろした。



「まぁ曄雅少年なら大丈夫だろう。帰ったらみっちりしごいてやるからな! 覚悟しておけ! ちなみに結楽と優羽には許可は貰った!」

「俺は許可しない。出てけ」

「楽しみにしておけ!」


 悪魔のような笑い声で去っていった七竈に溜め息をつきながら、また別項目の人の内容を聞く。



 十何人いる中で、意外と多かったのが自分の機動力が分からない、ただ殴り蹴りするだけで攻撃が入っているのが分からないというもの。

 これは体術に行くべきなのか武器に行った方がいいのか、よく分からなかったらしい。



「ははぁん……界魔は見た目に変化が乏しいもんな。正直体術は俺も正しいかは知らんぞ」

「もう……一位の日蔓さんの教えならなんでも聞きます……!」

「やる気十分結構。機動力問題は後で手合わせするから準備運動しといて」

「は、はい!」



 残った六人。


 主に攻撃力を上げたいのと、自身の体術以外での身体能力アップ希望。いわゆる柔軟性とか飛行性とか瞬発性とか。飛行性はちょっと違うか。



「能力アップね。……了解、準備運動してて。で、最後武器組」


 主に銃や剣、爆弾等を使う人たち。



「銃、剣、その他で別れて。銃はその中で動きに合わせたい側と使い方側に別れてくれると助かる。両方の人は動き方優先で。それでも別れといて」


 使い方に関しては結楽のところで動作を慣れた方がいいのでそっちに送り、両方の人は流れで教えるので残ってもらう。

 意外と、準備しておけばスムーズだがマガジン替えで戸惑うという人も。



「銃と剣はとりあえず用意。その他の人は何使う?」

「お、俺は手榴弾とかです」

「煙幕使うことが多いですね……」

「や、槍とか……」

「おぉすげぇ。銃でも剣でもない人は取ってきて。火薬系は危ないから無理だけど情報ちょうだい。煙幕に関しては優羽と連携したいから、ちょっと待って」



 手榴弾、時限装置、遠隔爆弾、煙幕。


 だいたいは付けて逃げることが多いらしい。それが一番安全っちゃ安全なんだけど。



「爆弾仕掛けるまでが危ないもんな……。おし、戦闘スタイル変えるか。爆弾は基本グループ内で使うもん。一人でそんなバンバン使ってたら危ないし界魔の状態が分からんから何かあった時に気付けないし気付いてもらえない」


 だから、今から銃何人か、剣何人か、爆弾何人かでグループを作ってもらう。二グループずつ曄雅と戦って技術と本人の技量を見よう。



「銃の動作と動き合わせたい人も付いてきて。準備運動してる能力アップと機動力組も! 戦うぞー!」







「はい、ソフトエアガン。さすがに実弾は危ないけど東京の技術棟で一体一する時に使ってるハンドガンと同じ形のやつ。目瞑ってマガジン出し入れできるまで練習して、ちょっと見といて。あとで感想聞くから」




 教育初日、曄雅は武器組三種と能力アップ組、機動力組でグループを作った。


 約八人前後が六組。組の種類的にはバラバラだが見れたらいいので問題ない。




「よし、じゃあ左から一班二班で付けてって。やる前に誰が何教えてもらいたいかだけ教えて。見るから」



 一班を呼び、とりあえず手合わせを始めた。と言うか曄雅はお互いが殴り合わないように受け止め流しはするが本人たちの足や腕、胴体の使い方、視線の先に何を捉えているか、ナイフや銃をどう扱っているか、それを観察する。



 ナイフも銃も偽物だが目や口等に入れば怪我は免れないので曄雅が全て受け止め流す感じで、十分間。




「なるほどなぁ。えーと……視線と足の使い方、ナイフの持ち方と振り方、腕の回し方、引き金引くタイミング、胴の捻り、殴る威力、足の回し方と柔軟性。意味不明なところから攻撃仕掛けんのはいいけど体術ができてない。こんなところかな」



 疲労で座り込んだ一人一人の頭に手を起きながら各々足りていないところを伝え、他はないよなと確認する。



「言われたこと覚えてちょっと休んでて。後でまたグループ分けして教えるから。次の班来て!」

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