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鏡界館  作者: 織優幸灔
二章
70/155

20.乗っ取り

 富山から新幹線で東京まで。

 記録的な積雪で多少遅れたが、夕方には東京に着く予定なので大丈夫。尊音(たかね)の仕事には影響しない。



 ずっと気を張って疲れていた尊音は曄雅の膝に寝転がって眠り、優羽と結楽も後ろに座っている。




 仕事続きで全く気の休まらなかった曄雅も疲れで小さくあくびをする。結局我慢していのも敵わず寝落ちて、何時間か何分か。



 肩を揺すられ、目を覚ました。



「……どうした」

「兄さん……前……」



 尊音の頭を抱き寄せ、後ろにいる二人にメールを送った。二人とも尊音に聞いたようだ。



「尊音、優羽のそば離れるなよ」

「う、うん……」




 後ろに手を伸ばして優羽から無線を貰い、耳に付けた。


 周りがうるさくなる優羽と結楽もマスクを外し、結楽は無線を、優羽はヘッドホンを付けた。

 主任から電話が来るのを拒否してメールで新幹線の中だと伝える。



 双頭の界魔が二体、一体は街へ、一体は新幹線の前へ。

 瞬間新幹線が急ブレーキを踏み、強い衝撃が走った。



 乗客の悲鳴が響き渡り、怒号と疑問が飛び交う。



「結楽は上、曄雅は前行って」

「距離は?」

「百強から五百」

「おーピッタリ」


 感覚で付けていたスコープをしっかりと固定し、バイポッドもつけた。



 そりゃ大きな衝撃と同時にライフル持ちとハンドガン持ちが現れたら阿鼻叫喚もするわ。


「曄雅窓割って」

「尊音耳塞いで」



 五発窓に入れ、蹴り割った。

 車内は阿鼻叫喚。



 少しして、すぐに車内放送が流れた。



『えーただいま脱線事故が発生。乗客の皆様は外へお逃げ下さい。外へ……』


 放送の途中、優羽が立ち上がって外へ逃げようと扉の側へ駆け寄る乗客を止めた。



「ストップ! 外に出たら守れないから中にいて!」

「なっ……子供が何を……!」

「専門職の言うこと聞け能無し! 外に出たら車両の横転に巻き込まれて死ぬから! 死にたいならどうぞ!?」


 優羽の怒号に子供が泣き始め、皆が少しずつ扉から離れた。その中でも外に出ようとするやつはもう知らん。




『四号車〜、死ぬよ〜』

「知能あり?」

「そりゃそうでしょ。車掌の声模してるけどね」

『優羽、準備できた』

「曄雅行っていいよ」

「尊音頼んだ」



 曄雅は窓から飛び出るとハンドガンを構えた。馬鹿でかい双頭の界魔が二体、一体は先頭車両に手を突っ込み、一体はもうかなり遠い。



「優羽! 一体は射程範囲外!」

『結楽いける?』

「ランクは? 曄雅一人で二体相手できんの?」

『……ムズいかも。足場悪いでしょ』

「やってやんよ」

『だって。撃って』

「被害拡大するよ?」

『知らん。命あっただけ奇跡と思え』


 曄雅の足元に寝転がった結楽は遠くにいる界魔のこめかみを撃ち、一人で界魔に突っ込んでいった曄雅の援護をする。



 死ぬの上等殺されたくなきゃかかってこい。




 刃も弾丸も通らない上に異常に早く間合いの広い界魔に苦戦する曄雅の後ろから目玉や喉元にライフルを撃つ。



『……曄雅車両から離れて』

『無理!』

『車両潰れる!』

『それが狙い! 俺が動いても動かん!』

「優羽避難してないの?」

『してない! 界魔見て車両引きこもって何尊音!?』

『優羽……くん……』



 優羽の怒涛の問に泣き声の尊音の声が聞こえ、二人の気が散った。



 マイクを通じて乗客の悲鳴が聞こえ、尊音の叫び声が聞こえる。



『兄さん! 兄さん助けて! 優羽君!』

『優羽!? 尊音は!?……優羽!』

『優羽君!』



 結楽が立ち上がる前に曄雅が双頭の界魔を放置して途中の窓を突き破り、車両間の扉も突き破って尊音の首を絞めていた界魔の頭を蹴り飛ばした。


 尊音の首の傷も気にせぬまま無理やり奪い返す。



「兄さん……優羽君が……!」

「結楽、双頭は好きにさせとけ。降りて緊急要請。総動員だ……!」

「えー君らがいたのか……。厄介厄介。由緒正しい日蔓の落ちこぼれと……歴代二位の傑作? いやぁ面倒臭い! 今日はお暇させてもらおうか」



 中折帽に黒いスーツを着た長身の界魔が手を横へかざすと、いきなり鏡が現れた。植物で縁取られた大きな鏡。



「君、いつ死んでもいいように遺書は書いときなよ。日蔓曄雅クン……だっけ? 君の祖先は怠けた矢先に死んだからね〜!」



 その界魔が消えた瞬間新幹線の窓が割れるほどの鏡瞳が開かれ、曄雅はまた暴走させた尊音の頭に手を当てた。曄雅に抱き着いていた尊音の鏡瞳で双頭の界魔が潰れ、生気が戻り始める。



「尊音、尊音。落ち着いて」

「……兄さん」

「大丈夫だから」



 頭を撫でて落ち着かせているうちに結楽が戻ってきて、ライフルを座席に置いて優羽の傍に駆け寄った。



「曄雅止血! 緊急要請曄雅がやって!」

「尊音、ちょっと待ってて」



 尊音を結楽に託して優羽のタブレットで緊急要請を送る。



「もしもし主任!? 救護班最速! 新幹線の前方車両二両潰れた!」

『なっえぇ!? ヘリと緊急の二つで行くから!』



 数分後、すぐにヘリがついた。さすがヘリ。


 近くのヘリポートに降り、大量の医療屋等がやってくる。



「兄さん……!」

「おいで尊音」


 怖がる尊音を呼び寄せ、新幹線を降りて人気の少ないヘリコプターの裏で声をかけた。



空津木(うつつぎ)さん」

「日蔓さん! 曄雅さんも……! よくぞご無事で」

「尊音を界館までお願いします。たぶん途中で寝るので」

「曄雅さんは……」

「まだ処理があるので。お願いします」

「はい」



 空津木は尊音に自分の上着を羽織らせるとフードを被らせ抱き上げた。


「では、曄雅さんもお気を付けて」

「ありがとうございます」


 小さく手を振ってくる尊音に笑い返し、すぐに優羽と結楽の元に戻った。




「結楽!」

「曄雅、もう大丈夫なの?」

「預けてきた。優羽は?」

「問題ないって。大きいけど浅いからすぐ治るらしい」

「良かった……。……界魔は?」

「それが問題でさぁ」



 鏡瞳によって骨諸共潰された界魔。肉片は拾うにしても、大破した新幹線や人間の肉片など処理が多すぎるらしい。どう頑張っても四日はかかると。それまでどう言い訳するか。



「別に爆発事故でいいんじゃん。前方二車両にダイナマイト」

「爆発証言がないから」

「爆発映像見せながら記憶消したら混乱の中でも思い出すんじゃねぇの。俺知らね」


 あー寒。


 南出身も多いだろうに、この大雪の中での作業は地獄になるな。




 曄雅と結楽は優羽と尊音の計四人分の荷物を持って新幹線のレールから出た。



「簪さーん、荷物積めます?」

「あ、はい! どうぞどうぞ」


 並ぶ車の中から簪を見つけて荷物を乗せ、中に乗り込んだ。



「優羽は無事ですって」

「よかった……!」

「じゃ、俺は寝ます。界魔来ても起こさないで」

「お、おやすみなさい……」



 一ランク連続四体とか聞いてないし。帰ったらマジで寒白に休み要求しよう。こんなんじゃ専務になる前に過労死するわ。













 積雪事故の渋滞のせいで五時間以上かけて東京へ帰り、泥のように眠った翌日。




 曄雅は結楽の電話で目を覚ました。


「……ん……」

『ちょっといつまで寝てんの? もう昼もすぎた二時ですけど』

「……マジ?」

『優羽の見舞い! はよこい!』

『ちょっと結楽……』

「夕方に行くって言っといて……」


 寝落ち。






 結局目を覚ましたのは夜中の十一時。空腹で起きると妙な視線を感じた。

 見上げれば、何故かソファに寒白とダイニングテーブルに線蓮、結楽。夢かな。

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