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鏡界館  作者: 織優幸灔
二章
69/155

19.喧嘩

 人間版蜘蛛のように崖に張り付く界魔は手足で何もない空中にも張り付き、頭蓋骨が割れた頭をぶら下げながら曄雅を叩き落とし落とされ激闘を繰り広げる。


 皮膚が凍傷になり始めた曄雅は震える体に力を入れ、崖や木を使って飛び上がると上から界魔の腹を殴り落とす。そのまま腹を蹴って跳ね返されないよう蹴り飛ばす勢いで腹を破った。まだ動くのに生気が漏れ出し、みるみるうちに小さくなる。



 通信機も壊れたし、殺す方法もないので持って帰るか。基本界魔は殺さない方がいいのだが。

 曄雅達が使われる場合は生気を吸って手が付けられなくなった界魔なので普通に殺す。たまたま出くわした界魔でも殺す。たまたま出くわしたあとはその後に用事があるので引き渡している時間なんてない。







 裾を結んだたすきを解き、人間サイズになった界魔の腕を掴んで屋敷へ戻った。



 ちょうど寒白とも出くわし、二人で手を振る。



「おつかれさま。寒そうだねー」

「そりゃ全身ずぶ濡れの半裸ですからね」



 くぐり戸を開け、二人で界魔を引きずりながら玄関に入ると尊音(たかね)が飛び出してきた。


「兄さん! おかえりなさい」

「ただいま。風邪引くから離れて。優羽! これ縛っといて」

「曄雅どうしたの!? 全身真っ赤!」

「凍傷」

「曄雅、風呂沸いてるから早く入りなさい。着替えは持っていくから」

「尊音もうちょっと待ってな」



 曄雅を見送った尊音は界魔を踏んで動きを止める結楽にくっ付いた。

 殺す手段がないので持って帰ってくると分かっていた優羽は縄でそいつの片足を縛り、繋がったまま首に一周させてからもう片足を縛る。あとは曲がった足の後ろで腕を縛れば完了。



「なんやこいつ。キショ」

「これどうします?」

「もうすぐマネージャーが来るから預かるよ。休暇中に悪かったね」

「いえいえー。いつもの事なので」

「……今度ちゃんとした休暇を作るよ」

「是非」


 言うて毎日が休暇みたいなもんだけどな。



 界魔を二体引きずって出ていく寒白を見送り、結楽はまだ少し怯える尊音を抱き上げた。


「よし! 曄雅にドッキリ仕掛けよう」

「何すんのさ」

「……尊音自殺ドッキリとか」

「結楽がマジで殺されるよ」

「有り得るのが怖いんだよねぇ……」



 三人で部屋に戻ろうとしていると、曄乃(あきの)が声をかけてきた。



「三人ともお腹空いたでしょう。居間でおせち食べなさいな」

「お義母さん、親戚団欒ですよ」

「やめなさいな親戚団欒なんて言うのは。貴方も追い出すわよ。ささ、その部屋何にもないから食べにくいでしょう」



 曄乃は二人の背を押し、尊音は優羽にしがみつき、居間へ入れた。


 居間には先程とはまるで変わってご馳走が並べられている。



「何か嫌いなものやアレルギーは? 尊音も何もなってない?」

「特にないです。お皿分けてもらったら別室でも大丈夫ですよ?」

「いいのいいの! 二回もここ守ってもらったんだから遠慮しないで」



 言われるままに流され、三人で追加された長机に座った。尊音は皆が嫌いなので離れた端っこに座り、結楽が霖弦(りんげつ)一家と尊音の間に挟まれる。


「さて食べましょう。三人とも届かないのあったら言ってちょうだいね」

「あ……ありがとうございます……」

「ありがとうございます」


 なんとなく気の引ける優羽と、おせちと言うものが初めての結楽はわくわくしながらお礼を言った。




 吸い物が用意され、三人で食べ始めていると気を利かせた女中がそれぞれの品を二つの大皿に取って三人の机に追加してくれた。

 少し食べやすくなった優羽がパクパクと食べていると、後ろの襖が開く。



「こっちにいるし。スマホ見ろよ」

「あ、おかえりー」


 優羽と結楽は髪が濡れたまた全て後ろに流している曄雅に手を振り、尊音は橋を置くと曄雅に飛び付いた。


 慣れたパーカーに戻った曄雅は廊下より遥かに温かい部屋に入って尊音を席に戻す。

 女中がすぐに吸い物と箸を持ってきた。



「曄雅、風呂浸からなかったの?」

「腹減りすぎて気分悪くなった。俺昨日の昼からなんも食ってねぇもん。朝何食べたっけ?」

「朝食べないでしょ」

「丸一日なんも食ってねぇわ。減るわ乾くわ」

「だからちゃんと食べなって言ったじゃん」

「んな時間なかったじゃん」

「新幹線で寝ればいいって言ったでしょー」

「界館の外では寝ないって言ったろ。いただきまーす」



 曄雅はおせちを取り、先に五百のペットボトル一本を飲み干した。



「脱水、貧血、低血糖、低血圧、低体温、凍傷」

「ボロボロじゃん。おもろー」

「フルコンボすぎでしょ。マジで現代人?」

「飲むのも食うのも忘れんだって。結楽じゃねぇし」

「俺に飛び火さすなよ」

「事実だろ」


 優羽と曄雅が揃ってツッコむと尊音はくすくすと笑い、母の礼焃(れいかく)と曄乃も小さく笑いを零した。



「富山の名物って何? 雪?」

「知らん」

「海産系が多いんでしょ。ブリとかホタルイカとか」

「そうなの? 海辺近いから? 日本って島国なのに」

「いや海ない県もありますから。日本海側だから捕れる種類が違うとかじゃないの? ねぇ曄雅」

「知らんて」

「ねぇ尊音」

「え、と……?」


 二人とも富山にも実家にも微塵も興味がないので何も知らない。知っているのは知識として身に付けた結楽だけ。誰にも正解は分からない。



「食べたいねー。正月は閉まってるか」

「開いてるとこは開いてるんじゃない? あとで土産屋行こう」

「ねー曄雅正月終わるまではいよーよー」

「お好きにどうぞ。俺二日の夜から会議あるから」

「ブラック企業!」

「そーいや界館の門の裏にこの先日本国憲法通じずって書いてあるらしいね」

「有名心霊スポットの使い回しじゃん。ねぇ尊音」

「犬鳴村の使い回しだね。でもあの村都市伝説だから」

「もうちょっと捻らんかねー?」



 そんなことを言っているうちに早食い少食の優羽は食べ終わり、三食か四食分とは思えないほど少食だった曄雅も尊音も食べ終わった。結楽は気にせず食べ続ける。



「二日ってなんの会議?」

「なんか界魔の活動が激化してるからそれの対策だと。優羽と結楽も出た方がいいらしい。特に優羽」

「えーさぼろーよー。会議とか知らんし。対策してもどうせ出てくんだし人間が強くなりゃ問題ないでしょ。無理なら安全だって言われてる界館に一生引き篭ってりゃいいじゃん」

「出たよ毒舌サボり魔め」

「でも言われたらそれはそうと思うよな」

「意思弱っ!」



 頬杖を突いて優羽に傾く曄雅を睨み、呆れながらほとんど残っていた大皿のおせちを食べ尽くした。



「結楽君よく食べるわね。まだいる?」

「いいんですか?」

「もちろん。たくさん食べてね」

「ありがとうございま〜す」

「え、で結楽、食べに行くの?」

「えーでも二人とももう食べれないでしょ」

「夜でも昼でも」

「じゃあお昼に行こ。尊音も食べてみたいでしょ」

「今は……お腹いっぱいだからそんなに」

「そんなんじゃお兄ちゃん抜かせないぞー」

「抜かされるってお兄ちゃん」



 優羽が曄雅の頭に手を置き、曄雅が優羽を頭突き倒し優羽が曄雅の手を食い止め、二人で喧嘩を始める。


 尊音はおろおろ心配そうに慌てるが結楽は笑って見物だけ。



「俺の身長は筋肉の付けすぎと遺伝子だよ。周り見てみろ結楽が一番でかいからな」

「それでも十五歳と十歳の身長差ないってヤバいよ?」

「黙れ元ヤン馬鹿」

「ブーメラン刺さってんぞおチビちゃん。言葉は選ぼうな」

「二人とも喧嘩するなら出てって。尊音の教育に悪い」

「食事中に肘突くな。行儀悪いのも直せ結楽」

「尊音は結楽みたいに目に見えたもの全部真似しない分別ある子だから」

「は? 目に見える問題も解けない優羽に言われたくないんですけど」

「すみませんねぇ環境が最悪だったんでぇ。まぁ今の教える側も十分使えないとは思いますけどぉ」

「文句あるなら文句ある時に言えや低脳薄のろ間抜け」

「必死に頑張ってんの見て黙ってやってるんだろうが無能」



 今度は優羽と結楽で喧嘩を始め、尊音は二人を心配し曄雅は興味無さそうに頬杖突いてスマホをいじる。

 礼焃(れいかく)や曄乃も心配そうだが唯一止めれる曄雅がこれじゃあな。



「に、兄さん……」

「二人とも黙れ」

「だって曄雅! この馬鹿!」

「馬鹿はお前だって!」

「うるせぇ同類の天才が二人もいてたまるか。別分野で角突き合わせんな」

「……天才って誰?」

「俺」


 優羽も結楽も薄笑いになり、小さく拍手した。



「すっごい自信能無しが」

「自尊心の塊だね」

「謳え褒めろ讃えろ。お前ら守ってやってんの誰だと思ってんだ負け犬め」

「……すみませんでした」

「分かればいい」


 揃って合掌したまま頭を下げた二人を見下ろし、鼻で笑った。


 優羽に耳を引っ張られ、優羽を見上げる。



「守られてんのは分かってるけど狙撃との連携取らせてるの誰か忘れんなよ能無し」

「優羽がそれ言ったら俺言うことないんですけど。曄雅狙撃なくても一人で無双するじゃん」

「うん結楽がそれ言ったら僕の意味もなくなるけどね」

「存在してたらいいでしょ。俺も別に最強ってわけじゃないし」

「……身長?」

「振り出しに戻るぞコノヤロウ」



 優羽と結楽はケラケラと笑い、曄雅は嫌味ったらしく舌を出した。








 結局結楽は二時間弱は食べ続け、気が済んだのか大皿を計五枚分食べた後に手を合わせた。作ってあった量も食べる量もどっちもすげぇ。



「……ねぇ魚介食べてきていい?」

「店開いてんの?」

「優羽調べて」

「んー……曄雅ここどこ?」

「えーっと」


 近い場所を調べようにもまずここがどこか分からないのであくびをしていた尊音を呼び、ここがどこの山の中なのか聞いた。




「全然開いてないよ。押し寿司とかそんなんが有名らしいけど開いてるのは評判が宜しくない」

「ちぇー」

「結楽君、もっと食べたいならおでんあるわよ。大鍋いっぱいに作ってあるの、食べる?」

「いいんですか?」

「もちろん! 優羽君と曄雅も尊音も食べなさいね。特に曄雅」

「お腹いっぱいなんですけど」

「丸一日抜かしてるんでしょ。平気よ」


 なんでそんな自信満々やねん。

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