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鏡界館  作者: 織優幸灔
二章
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18.こんな日にも

 ただでさえ積もりやすい富山、山上で寒いせいで余計に積もった。




「ねぇ曄雅! これどうやって歩くの!?」

「歩けないの。だから除雪するの」

「除雪って意味ないと思ってた……!」

「しばらく外は出れないよ。屋根から雪落ちてから除雪するから」

「へぇ!」



 優羽は写真を撮りまくり、結楽はしがみついて離れない尊音(たかね)の頭を撫でながら曄雅に除雪のやり方を聞く。ちょっと面白そう。



「二人には無理無理。腕力皆無のくせに」

「曄雅の見とこ」

「俺やらされんの? だるっ!」

「曄雅様、尊音様、そろそろ居間へお願いします」


 外から女中の声が聞こえ、結楽から袴姿の尊音を引き剥がした。しがみつく木を失ったカブトムシのように足を動かし、同じく袴姿の曄雅にピッタリくっつく。



「……尊音歩けない」

「やだ!」

「尊音」

「嫌!」

「もー……」

「抱っこして連れてったら? 曄雅が追い出したせいで大泣きだったんだから」



 優羽の提案に結楽も、尊音まで頷いたので仕方なく抱っこした。

 十歳と十五歳で身長差がほとんどないので抱っこは少しやりにくい。


 雑に扱った曄雅のせいなので仕方はないが。





 居間の前で尊音をおろし、手を繋いで中に入った。


 居間の長机は端へ寄せられ、下座だけが二人分開いている。

 霖弦(りんげん)が真正面から睨んできたのを、曄雅はいつも通り文句あるなら言ってみろと無言の圧をかけた。

 文句ないってさ。




 二人で下座に正座し、タイミングを合わせて床に手を付けて頭を下げた。



「おはようございます。あけましておめでとうございます。旧年中は大変お世話になったこと、一同を代表して御礼申し上げます」

「今年一年、皆様のご多幸とご健康をお祈り申し上げます」

「また、今年も無事新春を迎えられたことをお祝い申し上げます。一同を代表しまして、今年もどうぞよろしくお願い致します」


 最後は二人で声を揃え、祖父の声を聞いてから頭を上げた。



「おはよう二人とも。あけましておめでとう。去年は大変だったと聞いた。今年も界魔の活動は活発化するだろうが、日蔓家のためにも尽力で鏡界館に貢献しておくれ」

「はい。この身がある限り」



 また頭を下げ、祖父の声で頭を上げた。


 それと同時に祖父の付き人がお屠蘇を持ってきて、曄雅と尊音は祖父の隣へ移動する。

 尊音は最年少なのですぐ隣、曄雅は三番目なのでいとこを挟んで隣に。




 尊音は祖父から間違えて飲まないようお屠蘇を注ぐふりをしてもらい、少し緊張したまま息を吸った。


「一人これを飲めば一家苦しみ無く、一家これを飲めば一里病無し」


 そう唱えてから盃に口をつけ、飲むフリを。これを小中大三回。繰り返し、自分もまた隣のいとこへ同じように注ぐフリをした。


 いとこは同じことを呟き、同じことを繰り返す。



 これを年長者まで、本来なら曄雅が初めて注ぐはずなのだが。毎年毎年、このいとこは曄雅の盃にお屠蘇を入れるので曄雅は飲まなければならない。


 でも残念。一昨日からお屠蘇係が監視して去年から曄雅が飲んでも問題ないようアルコールは飛ばしてある。未成年が飲んでも問題ないもんね。


 それを三回飲み、次の祝(いはる)にお屠蘇を注いだ。





 長ったらしいお屠蘇が終わり、付き人が片付ける間に机やおせちが用意され始める。


 曄雅は立ち上がると尊音を呼び、団欒の中から抜けた。



「なんやお前ら食べへんの」

「客人が待ってるんで。……何尊音」

「なんか来た」



 皆が明後日の方向を見て、曄雅は尊音の肩に手を置くと部屋に向かった。途中、轟音で地面が揺れて優羽と結楽も出てくる。



「曄雅、主任から。一ランクだって」

「どこ?」

「山ん中」

「優羽、尊音守っといて」

「兄さん!」

「今日は結楽と一緒。優羽とも繋がってるから」



 優羽にしがみついた尊音は無線を見ると小さく頷き、曄雅は耳に無線を付けるとたすきを掛けた。



「曄雅!」


 祖父と皆がやって来て、女中が反対から三人の靴を庭に並べてくれる。



「だから見世物じゃねぇって」

「見に来たわけじゃない。瞳星(どうせい)君は居間を使いなさい。他の部屋には机がない。金草(きんそう)君は狙撃だったね」

「優羽、ポイントちょうだい」

「この上か塀か山の木」

「山の木と屋根は雪で無理。塀は巻き込みそう」

「曄雅、この家の間取りってどうなってる?」

「玄関入って左行ったらここ、真っ直ぐ行ったら居間で右に台所とか水回り。狙撃するなら居間か台所側が一番安定する」

「除雪って何分でできる?」

「最短十秒」

「やって」



 曄雅は集る全員を邪魔だ退けと退かし、居間に戻った。

 居間では男の付き人達が曄乃(あきの)の指示で除雪をしており、曄乃は待っていましたと言わんばかりに三人に縁側を譲る。


「結楽君好きに使ってね。優羽君は中でいいんでしょう?」

「至れり尽くせりありがとうございます」

「ありがとうございます。曄雅、被害ヤバいそろそろ」

「じゃ指示頼んだ」



 曄雅はハンドガンを抜くと塀を使って森へ飛び込んでいき、結楽は縁側に座って障子を閉めた。優羽は開いた机にパソコンを置き、監視カメラにアクセスしてからタブレットで界魔情報に目を通す。



『優羽、界魔は?』

「少なくとも十二体。スピードは普通。木なぎ倒すぐらい」

『力?』

「んーたぶん? 少なくともカメラでは捉えられるよ」

『こえー』


 尊音は優羽の膝に座り、尊音にも曄雅の声が聞こえるようにヘッドホンの接続を切った。使えるのはマイクだけ。


 いつも通り左手に音声入切りのスイッチ、タブレットを尊音に渡す。



『……着いた。どこ?』

「周囲に擬態してる。待ってねー……」


 昨日の同時刻の画像と今を見比べ、雪が積もったのを計算に入れ光の当たり方や影を探す。



「……一気に言うよ。結楽はちょっと待って」

『はいはーい』

「拳銃中心で四十、百十、百三十と四十。結楽は曄雅中心に六十、八十、百三十上下差三十センチで。結楽、曄雅中心偏って百、三十、六十、七十五左右隙間なし。曄雅、捻って百五十と五度右四十センチ下。真右、結楽撃ち抜いて」

『曄雅頭下げて』

『合図』

『……はい』



 銃声が響き、リアルタイムの防犯カメラで曄雅の様子が見える。みるみるうちに小人のような界魔が落ちて、結楽の合図と同時に曄雅が頭を下げた。

 木ごと撃ち抜いた弾丸が曄雅の頭上スレスレを通り、直後に曄雅は立っていた枝に手を突いて足を振り上げた。上から体よりデカい口で噛み付こうとしてきた界魔を蹴り落とし、手を離して枝に立つと気絶した界魔を殺す。



『次』

「……逃げてる」

『危機感あり?』

『優羽指示ちょうだい』

「壊れる数だよ」

『改良してもらったの』

『そりゃ三丁も壊されたら改良するだろ』

『二丁!』

『前に一回折ってるからな』

『そだっけ?』

「曄雅右百九十、上百二十度なんかいる。結楽曄雅中心左六十度」



 無駄口を止めない曄雅と結楽を無視して、山中にある全ての監視カメラをパソコンで見比べた。

 どこの鏡界が開いたのかもどこに潜んでいるのかも分からないのに気を抜くな。



『優羽、次』

「ねー曄雅、鏡界ってどこ」

『知らん。氷柱からでも開いたんじゃない?』

『池か川でも凍ったんでしょ。ないの?』

「ない」



 パソコンで監視カメラを見比べながら時々タブレットの山地図を見下ろすが、池の川も湖もない。氷柱が一番可能性としては高いが。



「まぁいいや」

『さっきの地響き何? こいつらじゃないでしょ』

「震源地が二箇所あるんだけど。どっち行きたい?」

『どっちも行きたくない』

「おーけー南東ね。北西は寒白さん行くって」

『寒白さんいんの!? なんで!?』

「うるさっ。昨日の界魔の処理しに来たの」

『あとで奢ってもらお〜』

『ずる』



 曄雅はほぼ崖の山を異常な速さで下り、枝を蹴って崖に飛び出した。

 崖に張り付いていた、さっきの小人のでかい版に銃口を向ける。


 腰と腕は異常に細く、足と顔は丸々と肉が付いた奇形界魔。崖に張り付いていた顔を曄雅のいる真後ろへ反り、ガタガタとサメのような牙をした顎を揺らした。



『わっ!?』

『ちょっと曄雅!?』

「小人の親玉は俺側」


 曄雅はハンドガンを構えると落下しながらそいつの眉間に一発入れた。

 落下しながらでよかった気がする。眉間に入れた銃弾が瞬間跳ね返り、頬をかすめる。




「びっ……死ぬかと思った……!」

『何!?』

「銃弾跳ね返ってきた! 新しい異能かも」

『なんだ……怪我ないの?』

「頬かすった程度。問題ない」

『特殊弾でしょ。跳ね返すなら刃も通らない可能性あるからまずは上部一枚ね』

「了解」



 崖を使って界魔の額を一本切ろうとしたが、撫でる感覚に近くまるで歯が立たなかった。それに加え。



「うわっ!? 刃こぼれした!」

『ちょっとどうすんの』

「うわぁー怒られるー……」


 前になくした時に、一本分の材料集めてアスファルトが豆腐並に切れるまで研ぐのにどれだけかかると思っているという説教を一日寝る間もなく日が昇って暮れて昇るまでされたことがある。あれは正しく地獄だった。



「優羽、風呂用意しといて。捨て身で行く」

『一緒に入るー?』

「狭い。無理」



 短剣二本を向かいの崖に刺し、そこの上に立った。

 下は雪と川で地獄だろうし今は着物だし。


 羽織りを捨て、たすきを解くと二本にちぎり、裾を縛った。視界が塞がれると危険が増すだけだ。


 袖が邪魔にならないよう着物を脱ぎ、袴の紐に挟む。凍死しそう。



「優羽気温」

『マイナス四! 寒ッ!?』

「ひー……通信切れたら壊れたと思っといて」

『はいはい』

「じゃ」



 短剣を蹴り、界魔に殴りかかった。

 寒さで筋肉が強ばるのを無理やり動かし、界魔の頭から殴り蹴る。皮膚の下には普通に頭蓋骨があったので跳ね返される前の一撃でそれを叩き割り、あとは脳みそを潰すか首をねじるだけ。

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