16.初詣
袴姿の尊音と手を繋ぎ、これまた袴姿の曄雅は神社の写真を撮る。
祖父と無理やりついてきた霖弦と晴縺とともに初詣に来た。毎年ここで皆の健康安全とお守りを買うのがならわし。
「兄さん、あとで焼き鳥食べよう?」
「いいよ。でもその前にお参りな。優羽と結楽の安全祈って」
「うん」
尊音にいつも通り百十五円を渡し、二人で列に並ぶ。
尊音はいつもこの時間が楽しそうだ。曄雅は寒いから嫌。空いてる神社に行きたかった。
「兄さん寒い?」
「寒いよねー」
「さむーい」
曄雅の返事の前に後ろから共感の声が聞こえ、二人で驚いて振り返った。
二人が揃って手を振る。
「やっほーさっきぶり」
「おつかれさまー」
「なッ……ヤバい幻覚が見える過労死する」
「兄さん僕もヤバい」
「ちょっと幻覚扱いしないでよ」
「なんでいんの……!」
袴姿の優羽と袴姿に首に包帯の結楽は揃ってピースをし、曄雅は愕然とした。
背を押され列を進む。
「ちょっと……なんで……幻覚……幽霊……? 死んだ……!?」
「曄雅何言ってんの」
「だってなんでいんの……!」
「んー……ついてきちゃった」
ぺろっと舌を出す優羽と結楽に曄雅が何言ってんのお前らと神経を疑っていると、優羽が曄雅と尊音の頭に手を置いた。
「気付かない曄雅も曄雅だよー? 車も新幹線も電車も曄雅たちの後ろだったもん。席取るの超苦労した」
「こっわ背後霊じゃん」
「だから殺すなて」
「生霊」
「怨念?」
「お祓い行くわ」
優羽と結楽がケラケラと笑っていると、スマホに連絡が来た。
見れば衝羽から、お前の守護神怖すぎ、と。そういやこいつも親戚の家がこの辺りにあるとか言ってたな。
「……ったく、来てんなら手伝えよ」
「だから一人キツい?って聞いたでしょ」
「そーゆー意味か……!」
「休暇ありがとうございまーす」
「ずっる」
四人でお参りを済ませ、曄雅は尊音と手を繋いだまま二人と話す。
「どこに泊まってんの?」
「ホテルだよ。田舎にもホテルってあるんだね」
「まぁ必要最低限?」
「屋台行こう。尊音、おいで」
「結楽君僕焼き鳥食べたい!」
「いいねー!」
二人で走っていき、曄雅と優羽はそれを見送るとお守りの方に行った。
「毎年ここで安全祈願のお守り買ってんの。あと尊音用に厄除けの御札」
「へぇ〜。毎年くれるのはここのね」
「……なぁマジで何しにきた?」
「観光だよ? ちょうどいいやと思って」
「インドア派のお前が?」
「まぁ強いて言えば推しのライブ会場とグッズ展覧会が富山だったぐらい?」
「お前絶対それ目当てだろ」
「でも日にちは偶然だから!」
曄雅が優羽を睨みながら御札とお守りを買っていると、焼き鳥を持った二人が戻ってきた。
結楽は串焼きも持っている。好きだな串焼き。
「お待たせ!」
「兄さんお守り買えた?」
「買えたよ」
「二人の焼き鳥も買ってきたよ。はい」
「ありがと。……曄雅は尊音と二人だけ?」
「いや他にも色々付いてきた」
人混みから離れた場所で焼き鳥と串焼きを食べる。
さすがに歩きながらは尊音が危ないので止まって、話しながら食べていると後ろから曄雅を呼ぶ声が聞こえてきた。
「ようがくーん。終わったらさっさと帰って来ぃや人待たせてんのやぞ」
「勝手についてきたんそっちだろ……」
「曄雅、あれ誰? 頭バグってそうな人」
「だいたいバグってんだって。いとこ。ほら、さっき聞こえただろ」
あぁと優羽は納得の声を零し、近付いてきた霖弦は二人を見付けるとにっと笑った。
「なんやそいつ。オトモダチ? ぼっちやなかったんや。兄ちゃん嬉しいわぁ」
「友達じゃない。お前に喜ばれても気色悪いだけ」
「あんやとクソガキ」
「黙りなさい霖弦。……曄雅、同じ班の子だろう。来るなら言ってくれれば部屋の二つや三つ用意したのに」
「俺も知らなかったんですけど……」
小声で呟きた曄雅に二人はにししと笑い、曄雅は二人を仕方なさそうに睨んだ。
「確か瞳星君と金草君だったね。ご家族はいるかな。もし良かったら屋敷へ来るかい?」
「ついてきただけで満足だろ二人とも」
遠回しに来んなと言ったが、そもそも二人とも本家で酷い扱いを受けているらしい曄雅を守るために来たので行かなきゃ意味ない。
「いいんですか? どっちも家族がいないので正月暇なんです。曄雅にドッキリ仕掛ける気で来ただけなんですけど。行ってみたいよね結楽」
「興味はあるかな。広いんでしょ」
「それじゃあ一緒に戻ろう。皆がご馳走を用意してくれているはずだ」
結楽と優羽は死に物狂いで嫌がる兄弟二人の口を塞ぎ、揃ってよろしくお願いしますとお辞儀をした。
曄雅は草履で二人の足を踏んで脛を蹴り飛ばす。
「痛ッた……!」
「お前ら何考えてんの!? ホテル帰れよ……!」
「いーじゃん正月ぐらい」
「俺こっち来る意味なかったじゃん!」
「いやそれはあるでしょ」
「おや、ホテルを取っているならキャンセルしておこうか?」
「いい! お前ら夜はマジで帰れ!」
「あ、キャンセルはこっちでしときます」
「優羽!」
曄雅がてへぺろと笑う優羽に噛み付けば、結楽が曄雅の口を塞いで落ち着かせる。
「まぁまぁいいじゃん。尊音も俺らいた方がいいもんね」
「もういいじゃん兄さん……。皆も別の家の人には何も言わないよ」
尊音はまだ不安そうに曄雅の手を掴み、それでも悶々とする曄雅はまだ不安なままもう二人の暴走は止められないと致し方なし、本当に仕方なく渋々頷いた。
揃ってガッツポーズする二人を蹴り飛ばす。
「お前ら帰ったらどうなるか覚えとけよ」
「説教なら何週間でも聞いてやるよ」
「それで済むと思ってんのか頭花畑」
「……ちょっと曄雅何する気」
「何されたい」
「何もされたくない」
結楽が警戒していると、優羽が後ろから肩を組んだ。
二人ともいきなりの全体重に押し潰されそうになるのを必死で踏ん張る。
「まーまー決まったことならいいじゃん! お邪魔するよ曄雅君」
「……計画外すぎる……」
「じゃ、僕と結楽は荷物取ってから屋敷行くから連絡したら出てきてね。またあとで〜」
「よろしくね〜」
嵐のように去っていった二人を見送り、首に手を当てむしゃくしゃ悶々としているといきなり上から髪を掴まれた。
見上げれば晴縺が掴んでいる。
「親戚一同の集まりに余所者を入れるな。礼儀のない奴とは縁を切れ」
「じゃあ二度と突っかかってくんな」
曄雅は晴縺の腕を払い蹴り飛ばすと尊音と手を繋いだ。
「曄雅!」
「先帰る」
尊音の焼き鳥の串を貰うと途中のゴミ箱に捨て、二人で階段を降りた。
尊音は両手で曄雅にしがみつく。
「兄さん……二人に嫌われたらどうしよう……」
「大丈夫。三人とも守るから。それにあの二人はこの家に負けるほど弱くない。心配すんな」
途中でタクシーを拾い、高い料金を払って屋敷に戻った。
尊音は頑張って足を上げ、草履で山道を登る。なんで整備しないのかな。女子供構わず親戚全員の年収二十パーセント集めてるくせに。まるごと土地買って整備しろよ役立たず。
「尊音、もう少し」
「……キツネ持ってくればよかった」
「それは無理だろ」
「でもキャリーバッグには入ったよ!?」
「入ったのあれ!?」
尊音の物は試し精神もたまには功をなすんだな。
ようやく屋敷に着き、二人で中に入ると女中が何人か出てきた。
「お帰りなさいませ」
「残念先代はいませんでした。退いて邪魔」
草履を脱ぐと道を塞ぐほどに並ぶ女中を退かせ、二人で部屋に戻った。
私服に着替えて暖房のないこの屋敷で過ごすためにパーカーと上着を羽織る。
「尊音、二人が来るまでちょっと寝といたら?」
「ん〜……ううん、大丈夫」
「でもさっきも途中で起きたし」
「大丈夫。兄さん寝れなくなっちゃう」
「俺は大丈夫だけど……」
頑張ると言って眼鏡をかけた尊音の頭を撫で、疲れたであろう尊音の代わりに曄雅が仕事一式の入った荷物を持って居間へ戻った。
机も椅子も座布団も押し入れも何もないあの部屋で仕事なんかできるか。
居間へ戻ると皆が見上げたが、先代がいないと確認すると何も言わないまま話を再開する。
下座に二人で並んで座り、曄雅は報告書を作り始めた。尊音はパソコンを開くと昨日の続き。
昨日、出掛ける前に終わらせようと思ったのに緊急の仕事が挟まったせいで終わらなかったのだ。もうちょっと効率を上げたいがなんせ子供なので頭の回転が遅い。曄雅や優羽や結楽ならこんなん二、三時間もあれば片付くんだろうけど。
「ただいまー」
「おかえりなさい父上」
「おーおーガキ頑張っとんなぁ。お兄ちゃんも弟見習いやぁ!」
「やってんじゃん。お前もやれや」
「俺は優秀やから全部終わってんのやわぁ。君らと違ってな」
「そりゃ凄い。不出来だからいてもいなくても変わんないんでしょ。自己肯定感の塊じゃん」
尊音がイヤホンを付けたので曄雅もイヤホンを付け、周りの音を遮断して報告書を書く。
詳細は分からないのでそっちで勝手に調べろと書いておき、日にちと時間と名前を書いて印鑑を押した。
ミドルネームは面倒臭いので省略。てか知ってる人いんのかな。
報告書を書き終わり、二人が遅すぎるのでメールを確認する。
本気か冗談か選べと聞けば本気と帰ってきて、さっさと来いと連絡するとさっきの界魔騒ぎで電車が止まっている、と。タクれ金持ち高校生。




