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鏡界館  作者: 織優幸灔
二章
65/155

15.帰省

 尊音(たかね)の体を揺すり、荷物を下ろした。



「……尊音、起きて」

「……ん……」

「置いてくよ」


 こう言えば皆起きるんだから魔法の言葉だ。





 まだ眠そうに目を擦る尊音と手を繋ぎ、二人で新幹線を降りた。


 電車に乗ってバスに乗って、ただでさえ田舎の山の中。





「兄さん……ちょっと疲れた……」

「荷物貸して。もうちょっとだから」


 尊音の荷物を全て預かり、けもの道的な道を通って山を登った。


 尊音はあくびを零しながら歩いていたが、本家が見えてくると表情が締まる。まだ小学生の子供にこんな顔させる家なんかいる意味ない。




 尊音に荷物を返し、本家の戸を叩いた。


 数分してゆっくり門が開く。



「あ、曄雅様! お帰りなさいませ。皆様待ちわびておりましたよ」

「だろうな。これ配っといて」

「はい。お荷物は……」

「いい」



 くぐり戸から中に入り、いつもここでつまずく尊音に声をかけて手を繋いだ。


 ここは風がないだけ少しマシか。




「もう皆様揃われていますよ。先代様も来ています」

「……はぁ」


 思ったより面倒臭いことになりそう。





 玄関に入るや奥からドタドタと足音が聞こえて、いとこの祝(いはる)が飛び出してきた。



「遅いぞ曄雅! 伯母様も伯父様もおじい様たちも皆待ってる」

「そうですか」


 曄雅は中に入ると先に自室らしいところに祝陽と二人で荷物を置き、一応無線だけポケットに入れた。



「尊音、寝といてもいいよ」

「ううん……大丈夫」

「後でちょっと寝ような」



 尊音に部屋用の上着を一枚羽織らせ、曄雅は上着のまま皆が集まっているらしい居間に向かった。

 いつも通り三つの和室を繋げ、馬鹿長い長机を皆で囲んでいる。



 襖を開け、こちらを見上げた全員の顔を確認した。

 何人かいない人がいるが、それが誰かは分からない。ただ、人数が足りないと言うだけ。



「お帰りなさい二人とも。遅かったのね」

「仕事。明日の昼には帰るから」

「正月ぐらい休んだらいいのに……」

「全員休んだら誰が仕事すんのさ」

「……そうね。でも少しの間だけでも休みなさい。尊音も、おかえり」

「ただいま……」



 生みの母なのか育ての母なのか、ほとんど関わりのない母親は二人を招き入れるとすぐにお茶を用意した。


 お茶が出されると同時に出迎えてきた女中が入ってきて、皆に声をかける。



「皆様、曄雅様がお土産を持ってきてくださいましたよ。人数分ありますから選んで下さいな」

「おや、悪いね曄雅君」

「あざまーす」



 皆がそちらに集まる間、曄雅は眠そうに瞬きを堪える尊音を膝に寝転ばした。


「寝てていいよ。初詣行くなら起こすから」

「うん……行く……」





 少しして、皆がお土産を開けて各々食べたり交換したりをしているとまた襖が開いた。

 両親と叔父叔母が揃って立ち上がる。



「父上」

「お久しぶりですお父様。お変わりないようで安心しました」

「お久しぶりです。元気そうでなによりです」

「あぁ。皆も久しいな。元気にしていたか」

「我が家は皆病気も怪我もなく暮らせています」

「私たちの家もです。今年は祝(いはる)の成人の歳ですので、その準備を進めています」

「そうか成人か! 大きくなったなぁ」



 祖父母が入ってきて、孫は皆そちらに寄っていく。

 曄雅は興味無いし膝に尊音がいるので無視だが。


 優羽と結楽の馬鹿騒ぎをメールで見ながらそれに参加していると、祖父が話しかけてきた。



「曄雅、久しぶりだな。仕事はどうだ?」

「お陰様で変わりなく」

「反抗期やろお前。お盆もうちょい丸かったで」


 いとこの霖弦(りんげん)は曄雅を指さし、瓜二つの兄の肩に腕をかけた。


「君の班弱い奴二人もおんのやろ? で弱い君が守っとんの? 三人とも早死するで〜? さっさと平に戻してあげぇや」

「死んだら死んだでまた一興。別に生きるのに必死ってわけじゃないんで」

「は? なんやそれただの強がりやん。哀れ〜」

「強がりで結構。他人見下してしか自尊心保てない迷惑野郎とは違う」

「あ? 何君自分が見下されるほど価値あると思ってんの。きっしょ! お前も同じ班の子も全員出来損ないのいる価値無しやで?」

霖弦(りんげん)! いい加減にしなさい」

「だってやぁ母さん。晴縺もそう思うやろ?」

「黙れ霖弦。戯言に巻き込むな」



 霖弦は頭の後ろで腕を組み、晴縺は肩を払った。

 叔母は母に謝るが、誰も曄雅に声はかけない。そりゃそうだわな。


 曄雅が特に気にせずスマホをいじっていると、目を覚ましたらしい尊音が体を起こした。

 それと同時に曄雅のスマホに電話がかかってくる。



「兄さん……」

「もしもし? 何?」

『曄雅君! そっちで界魔が出たみたいで……!』

「優羽に情報送っといて」



 曄雅は電話を切ると無線を耳に付けた。


「兄さん、行くの?」

「ちょっと待って。優羽?」

『はいはーい。曄雅の家って高いところある?』

「まぁ」

『ライフルで狙える距離だよ。細身人型』

「貫通させたらいいのね」

『そうそう』

「おいで尊音」



 立ち上がり、各地の防犯カメラから貰っている画像をスマホで確認した。既に何人かの生気を吸ったな。



 尊音と手を繋ぎ、襖前にたむろう皆を見上げた。


「邪魔」




 部屋に戻りライフルを開け、スコープを準備しておく。



『曄雅、ちょっと急ぎ。離れ始めてるよ』

「了解。周囲の人は?」

『結構』

「処理はマネージャーがやってくれるんでしょ」

『うん。もう向かってる』

「了解」



 尊音を回廊に立たせると塀の上に飛び移り、暗視スコープを覗いた。



『ちょっと待って今人間持ってる』

「合図して」



 スコープを左腕に置くようにして構え、数秒後の優羽の合図でそれを撃った。



『……まだ! そっち向かってるよ!?』

「速さは?」

『追い付けない! どこ行った……!?』

「いやもう見えてる」



 塀に移るとライフルを置き、ハンドガンにマガジンを入れて構えた。


 三発、真正面から三百キロより遅いスピードで突っ込んできた界魔の首に二発と眉間に一発。

 木に避けるとそれは塀に落下し、外に落ちた。生気が戻っていく。



「終わったけど。これ何ランク?」

『六だって』

「土産分は稼げねぇな」

『どうせもう二、三体出るよ。……ほら、噂をすれば』

「正月って界魔活発〜」

『陶器品が多くなるからね。全部そこで処理する?』

「尊音から離れたら危ないし」

『じゃ今から言う方に撃ってね。四体そっち行くから』



 ライフルに持ち替え、言われた方角に一発ずつ。さっきの奴と同系統らしい。逃げていた生気を吸いながらやってきて、曄雅はハンドガンで全て処理する。



「やっぱ弱い」

『ちょっと探っとく』


 人型はイメージ的に異型より強く異能が発達しているイメージがあったが、ただの感覚だろうか。

 今までの人型はだいたい知的に戦っていたんだけど。




 優羽の確認を聞きながら微かに鏡瞳(キョウドウ)を開いて反応がないかを確認していると、ふと回廊からの視線に気付いた。

 見下ろせばほぼ全員が見に来ている。



「何? 見世物じゃないんですけど」

「君ライフル使うん! 君の班近距離型おらんのや! さっさと降りて近距離型に譲ったらええのに! 邪魔やなぁ!」

『ちょっと曄雅、誰? 頭バグってる人いない?』

「うちの奴らだいたいバグってるから。それよりいた?」


 ハンドガンのマガジンを替え、弾切れが起こらないようにしておく。


『だいぶん遠くにね。結楽のじゃないと届かないよ』

「ランクは? 六?」

『……三かな。二か一に上がるかも』

「知能と異能は?」

『目はないね。……音出して反響定位使ってるから耳がいいのかも。異能は未定。知能は相当高い』

「了解。発信機付けるから指示出して。誘き寄せるわ」

『気を付けてね』



 左手で短剣を抜き、くるくると回した。



「尊音、発信機と二百倍のスコープ取ってきて。分かる?」

「優羽君と結楽君のと同じの? どこに入ってる?」

「同じやつ。二つともライフルケースの中入ってるから」


 尊音は祖母と一緒にそちらに歩いていき、曄雅はライフルを持って回廊に戻った。


 廊下に置いておく。触られませんように。




「兄さん持ってきた!」

「助かる。危ないと思ったら隠れろよ」

「うん」


 また塀に乗るとスコープを覗き、人を掴んではどうやってか生気を吸っている界魔を確認した。



「おーおーでっか」

『もう数百人は吸ってるよ。一ランクに上がった』

「よゆー」

『だろうね。マネージャーが足りてないからなるはやで済ませて』

「了解」



 地面に向けて二発発砲し、人の存在に気付かせる。こっちには日蔓が揃ってんだ。ただの銀より価値ある金の方がいいに決まっている。



 発砲した瞬間にハンドガンを捨て、短剣でその手を防いだ。短剣に乗った発信機が界魔の手のひらに引っ付く。


「はっや……」

『ちょっと曄雅三体ぐらい反応あるんですけど!? 尊音君いんのに大丈夫!? 日蔓家って戦力ないんでしょ!?』

「そー! どうなるかな」

『ふざけてんじゃないよ尊音君いんでしょ!?』

「音割れッ……!」



 もう一本短剣を構えると後ろからも突っ込んできた界魔の手を防いだ。


 二種類三体、先に一体を片付けるか。



「これさっきの奴の親玉でしょ」

『そう』

「速さは?」

『そりゃ秒速二キロでしょ』

「それが最高?」

『そうであることを願う』

「不安すぎる」



 速い界魔を押し返し、顔面を蹴り飛ばすと体を捻って新しい方の一体の首をはねた。しかしすぐに再生し、真横から二体目が殴りかかってくる。

 ちょっと厄介だな。



『ねー一人キツい?』

「いや? でも発信機壊れたらごめん」

『怪我ないならいいよ』

「じゃあ遠慮なく」


 三体同時に手を伸ばしてくるのを双子界魔の手に足を置き、速い界魔を手のひらから腕を通って顔面まで横向きに切り裂いた。首を切断し、双子界魔が足を掴んだのを確認すると体を回転させ地面に叩き付ける。敷地外に出てよかった。



 二体目同時に首元を掻っ切り眉間を貫くと、三体ほぼ同時に生気が漏れ出した。



「よーし終わり!」

『おつかれ。あけおめ』

「……越えた?」

『うん』

「初詣行こ〜」

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