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鏡界館  作者: 織優幸灔
二章
63/155

13.クリスマス

「結楽、起きて」

「起きてるよ」



 寝たフリから起きた優羽は結楽の体を揺すり、結楽は小声で返事をすると起き上がった。


 二人でいたずらっ子っぽく笑う。



 曄雅は優羽の部屋に用事をしに行っている最中で、曄雅の自室には尊音(たかね)が寝ている。まだ十歳の小さな男の子。


 そして今日はクリスマスイブの夜。




 二人はそれぞれ箱と紙袋を持つと数センチ、扉を開けて尊音が眠っているのを確認した。

 毎年尊音が寝ている間に二人がサンタになるのが通例。尊音はちゃんとサンタを信じるいい子だ。曄雅がたまにバラそうとするけど。



 二人で声と足音を潜め、ベットの横にプレゼントを置いてから枕元に手紙を差し込んだ。

 幼くして一人二役を演じる彼への僅かな労いを。いい朝を迎えますように。


















 翌朝、起きると隣で寝ていたはずの二人の間に曄雅が寝ていた。

 毛布が空いていなかったので割り込んだのだろう。間で小さくなって寝ているのを優羽が撫で、そのまま二度寝。




 次起きたのは曄雅の掛け声でだった。



「起きろー二人とも。朝だぞ」

「ん……」

「たかねー! 起きて!」



 曄雅の掛け声で皆が目を覚まし、優羽と結楽がぐずぐずしている間に尊音の嬉しそうな叫び声が聞こえてきた。



「わぁプレゼント! サンタさん来た!」

「それは何より。二人とも早く起きろ!」


 尊音は箱の上に紙袋を乗せて起きてきて、それを机に置いた。




 そりゃプレゼント開封前に顔を洗って身支度をする偉い子には二つも来るわな。



「……優羽! 結楽! 置いてくぞ!?」

「起きる! 起きた……!」

「……あー眠い……」

「……待っておいてくってどっか行くの?」

「えいや別にどこにも」



 椅子に座って頬杖を突いた曄雅の言葉に見事騙された二人は同じ方向に倒れ、優羽が結楽にのしかかる。



「優羽……重い……」

「ねー二人とも! 見てサンタさん来た!」

「良かったねー。今年の残りも良い子にするんだよー」

「何貰ったか見せて」

「うん!」



 尊音は大喜びしながら曄雅の隣に座り、先に大きい薄めの箱のプレゼント開けた。


 ようやく起きた二人は向かいの席に座る。




「……あパソコン! おぉパソコン!」



 このサンタ何考えてんだろ。

 曄雅は大喜びする尊音の頭を撫で、尊音がパソコンに夢中になっている間に二人を睨んだ。さて、仕事サンタはどっちかな。




「優羽君パソコン設定できるでしょ! 一緒にやろう!」

「いいよ」

「尊音、もう一個も開けたら?」

「うん!」



 大きな大きな袋は座りながらでは取り出せず、立ち上がってからそれを取り出した。



 謎の透明の袋を持ち上げ、目を瞬く。



「なにこれ」

「真空パックだな」

「開けたらいいの?」

「そうそう。ハサミあるよ」



 尊音はそれを床に置くと棚にあったハサミでそれを開封した。


 開封直後からみるみるうちに膨らんで、全て切った頃には既に元の大きさ近くまで戻る。



「わぁ……! 抱き枕!? ぬいぐるみ!」

「先にハサミ片付けて」



 曄雅の言うことを素直に聞きながらも視線は袋に釘付けだ。


 棚にハサミを片付け、すぐに袋からそれを取り出した。



「見てキツネのぬいぐるみ! 可愛い! 何キツネ!? やっぱアカ!?」


 動物大好き魚大好き豆知識、雑学大好きの尊音は目を輝かせながら身長ほどに大きいキツネに顔を埋め、大喜びする。



「尊音、こっち向いて」


 曄雅はぬいぐるみとダブルで癒しオーラを放つ尊音を撮り、尊音は嬉しそうに笑った。

 優羽と結楽もそれを撮る。



「ちゃんとサンタにお礼言うんだぞ」

「サンタさんありがとう!」


 純粋。


 曄雅は二人のいないところでサンタは二人だと教えたのに、分かった上でこの笑顔は尊音だからか。





 キツネを抱き締め寝転がった尊音を優羽と結楽が可愛がっていると、曄雅がどこかに行ってからすぐ戻ってきた。


「尊音」

「何?」

「誕生日プレゼント。誕生日おめでとう」

「いいの!? クリスマスプレゼントも貰ったのに!」

「去年はあげられなかったから。今日は美味しい物食べに行こうな」

「わーい!」



 曄雅は尊音に小さな紙袋を渡した。

 尊音はその少し重い紙袋を貰い、真っ白な梱包を解いた。



「スマホ……!?」

「二分の一成人ってことで。パソコンじゃ持ち運び不便だし」

「ありがとう……!」


 尊音は曄雅に抱き着き、曄雅も尊音の頭を撫でた。







 曄雅が尊音とともにスマホを設定している間、優羽はパソコンを、結楽は元使っていたパソコンのデータをUSBに移す。


 さすがにまだ子供で危ないのでSNSやネット書き込み等はできないように保護して、尊音と二人で何ができてできないかを確認した。

 尊音は頷きながら一つ一つ覚えていく。




「……で、これはできる。分かった?」

「うん! ネット関係じゃなかったらだいたいはできるんでしょ?」

「そうそう。ネットも見るだけ聞くだけならできるから」

「ありがとう!」

「こっちも終わったよー。尊音、おいで」



 優羽に呼ばれた尊音は曄雅の腕をくぐると走ってそちらに行き、曄雅はパスワードの確認をしておく。

 さすがにパスワードは知っておかないともしもの時に困るのは自分だ。








「……よし! 曄雅、終わったよー」

「こっちもできたよ。はい尊音、データ全部入ってるからね」

「ありがとう結楽君!」

「いいよ。お仕事頑張ってね」

「うん!」



 先に鞄にパソコンを二枚とUSBを入れ、仕事部屋に置きに行くことになった。

 情報漏洩が起きたら最悪なのでそれ予防。





「二人は夜の店調べといて。俺行ってくるから」

「はーい。尊音、リクエストある?」

「んー……色んなのがちょっとずつ食べれるのがいい。お肉とか野菜とか、魚も!」

「おっけー任せなさーい!」



 結楽のグッドポーズにグッドし返した尊音と手を繋ぎ、二人で部屋を出た。


 マンションから尊音の仕事部屋までは一番遠い。近道もないので回り道するしかない。



「うぅ寒ッ……!……尊音、大丈夫?」

「うん」


 曄雅の袖の中に尊音の手を入れ、二人で歩く。

 クリスマスの朝っぱらから訓練している人はさすがにおらず、校庭は珍しく静まり返っていた。



 はらはらと雪が降り始め、二人で足を止めて空を見上げる。







「……ねぇ兄さん」

「何?」

「クリスマスプレゼントっていつまで貰えるかな」

「いつまでかな。十二歳か十五歳か、十三歳の時もわくわくしてたらくれるかもよ。優しいから」

「……兄さんはなかったんでしょ。貰ったことないんでしょ。優羽君と結楽君が来る前は誕生日プレゼントもなかったんでしょ」

「俺は嫡男だから。俺が貰えなかった分を尊音にあげる。大切に使えよ」



 尊音は俯き、曄雅は少し苦笑いを零した。



「……兄さん、優羽君と結楽君守ってね。兄さんがもう一人にならないように」

「当たり前。ずっと守るから」

「約束だよ。僕も二人のこと好きだもん」

「二人とも優しいもんな。……約束、俺が優羽も結楽も尊音も守るから」

「……うん、約束!」



 笑顔の戻った尊音の頭を撫でていると、校庭の向かいから誰かが歩いてきた。

 雪で見えにくかったのが、近付いてきて寒白と線蓮だと分かる。




「おはよう曄雅君。ホワイトクリスマスになったね」

「おはようございます。今年は寒いらしいですからね」

「尊音君もおはよう。今朝は曄雅君のところに泊まったのかな」

「おはようございます。僕の部屋にいるとサンタさんが来ないので」

「じゃあ今日は来たかい?」

「はい! 三人!」


 いや二人とプラスアルファ。



  曄雅が内心ツッコんだのを、頑張って堪えていると寒白は目を丸くして曄雅を見上げた。



「三人?」

「いや、ほら」


 自分を指さしてもう二本指を立てると寒白も理解したのか、手のひらに拳を置いた。


「尊音君はサンタの人気者だね」

「良い子にしてますから!」

「偉いね」




 寒白に褒められた尊音は誇らしそうに笑い、寒白はそれに笑い返した。


 後ろから叩かれ、振り返ると比較的軽装の線蓮が誰だと問いかけるような視線を送ってきた。そういや面識なかったな。



「初対面か。この子は尊音君、曄雅君の弟だよ」

「……弟いたんですか……」

「悪いかよ」

「いや別に。知り合って数ヶ月一緒にいるのを初めて見たと思いまして」

「そりゃお盆以来会ってねぇもん。なぁ?」

「うん。兄さん忙しいし、僕も外にはあんまり出れないし」

「……師匠ちょっと」

「何何何」



 線蓮は混乱する寒白を引きずってかなり離れ、離れた挙句声を潜めた。



「あの二人の親ってどういう神経してるんですか? 親無しですか?」

「いや普通に生きてる。日蔓家は元々界館を支える由緒正しき家の中でも結構重要な家だから、長男は物心着く前から仕事に行くし女児は普通の仕事をこなす。尊音君が何してるかは知らん」

「物心着く前からって」

「だって俺が知ってる中で最年少の任務が八歳だぞ。もっと前から行っててもおかしくないし、事実研修でついていった仕事を全部とるとかもざらだったらしいし」



 線蓮が顔を引きつらせていると、曄雅が遠くから声をかけてきた。



「寒白さん! まだ? 寒い」

「あぁごめん! 昨日のお礼言いたかっただけだから! 尊音君もまたね!」

「はい!」



 尊音は大きく手を振るとまた曄雅と手を繋いで歩き出し、普段話せない分曄雅と色々なことを話す。

 お盆と正月は二人で実家に帰るので会えるが、クリスマスに会うのは両親との約束を破っているので秘密だ。その分会える時間も少ないが、そもそも会えるのが年に二回か三回なので短い時間でも嬉しい。



「あ、そうだ兄さん」

「何?」

「今年も正月は帰るんでしょ。予定立ててるの?」

「あーうーん……帰るの面倒臭いと思って」

「え……えぇやだ僕一人!?」

「いや帰るけどな? 大晦日の夜帰って正月の昼に出たらいいかなと」

「それでいいから一緒に来てよ!」

「行くよ。一緒に行って戻ってこよう」

「うん!」



 尊音の手を繋ぐ力が強くなり、曄雅は少し苦笑いを零した。

 早く成人してあんな家とは縁を切りたいのだが。

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