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鏡界館  作者: 織優幸灔
二章
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11.心慰

 本日二度目の緊急招集がかかった。しかも一回目はほんの数十分前、大型トラックが出たはずだ。



 さっきのサイレンで起きていた曄雅は錦紫蘇(きんしそ)から連絡を受けると結楽と優羽に声をかけた。二人とも半寝だったのですぐに起きる。




 曄雅は腰にハンドガンと短剣のホルスターを付け、マガジンやスマホが入るチョッキを羽織った。胸周りしかない耐撃チョッキ。前は開いているので後ろの不意打ちを一度防ぐ程度だ。


 胸の前でクロスしてベルトを留め、パーカーの他に厚手の上着を着た。寒すぎる。もう十二月。







 三人で道具を持って駐車場に降りると何人かがちらほら向かっていて、三人も少し急ぎ足で向かう。

 総力戦になったようで四番、中型トラックに十一人乗っている。


 専務の寒白(かんしろ)線蓮(せんれん)、部長も二人、班は二班。三人と四人。



「お待たせしましたー」

「揃ったな」


 最後らしい曄雅が扉を閉めると傍の寒白がボタンを押し、トラックが走り出すと同時にパトカーのサイレンが聞こえ始めた。これもまぁうるさい。



 すぐに着くらしいので結楽はスナイパーライフルとショットガンの用意、曄雅はハンドガン、優羽は通信機。



「二人とも付けて」

「狙える場所ある?」

「低所からになるよ」

「トラックは優羽がいるもんな……」

「低所から狙うならトラックにいて。まとまってた方が守りやすい」

「じゃお言葉に甘えて」


 曄雅はスライドを引き、結楽はスコープを付けた。


 どうせ医療屋の救急車もあるわけだし、トラックは限界まで近付けてもらって運転手は念の為避難させよう。曄雅が二人を守ると言うなら二人には傷一つ付かない。



「……曄雅、既に二十何人いるけど」

「界魔情報ちょうだい」

「全長十八メートル幅五メートル。異能は火で吐いたり操ったり。住宅街だからガス爆発が多いみたい」

「周辺は?」

「爆発と火事でほとんど残ってないよ。まさに爆破テロって感じの跡になるんじゃない? 動きもかなり早いみたいだし、言うて前の方が早いけど」

「なんか細い怪獣って感じの界魔だね」

「ねー」



 タブレットを覗き込んだ結楽は優羽の肩に顎を置き、優羽はその頭を撫でる。

 いつも座る時は結楽と優羽が並んで曄雅は向かいだ。どの方面から来ても結楽か曄雅が対応できるように。



「動く分には問題ないよ。周囲は灼熱みたいだけど」

「冬にはちょうどいい」

「夏より暑いってさ。汗で風邪引かないよう気を付けてよ」

「タオルある?」

「あるんじゃない? 準備しとくよ」







 三人が色々と確認しているうちに一時間弱で着いた。




 曄雅は立ち上がると寒いのを我慢して上着とパーカーを椅子に置く。


「じゃ、ここから離れんなよ」

「うん」

「頑張ってねー」



 曄雅は短剣を抜くと一番にトラックを出て、界魔を見上げた。うん、明らか十八より大きい。生気吸ったからか。



『ねー優羽、三十はあるよ』

『曄雅、届く?』

「いけるいける。結楽、腕こっちに寄せて」

『りょーかい!』



 結楽は大声で足元付近にいる皆に声をかけ、少し離れさせた。

 界魔に突っ込む曄雅のタイミングに合わせて手榴弾を投げ、爆発で界魔の長い腕を曄雅の方に動かす。



「ナイス!」

『結楽、顔撃って気逸らして。口から火吐くから。曄雅は振り払われないようにね』

『ショットガンの方がいいか』

『だね』

『曄雅合図したら頭下げて』

「了解」



 界魔が腕を登る曄雅に気付いた瞬間、結楽はショットガンで界魔の顔面に入れた。


 何発か入れ、界魔が曄雅のいる腕で防いだ。

 計らずしも上から落ちる形になった曄雅はそれを逆手に、上から界魔の目を通る顔面を短剣で引き裂く。



『曄雅首切れる?』

「太すぎ」

『吹き飛ばすよ』




 結楽の元に優羽が上がってきて、医療屋から貰ったロープで手榴弾を繋げ始めた。

 結楽は避難する皆の援護。これ専務いらねぇな。



「優羽! できた!?」

「あと一個!…………おけ!」


 手榴弾のネックレス。界魔に最初で最後のプレゼントだ。



「一番細い場所に巻いて。曄雅が離れたら結楽の狙撃で爆発させるから」

「分かった」

「端と端はしっかりね!」

「おぅ!」



 曄雅はそれを受け取ると逃げる人に気を取られている界魔の首にそれを巻き付けた。夜闇に紛れる小柄で素早い曄雅はほとんど見つからない。それこそ発信機でもないと。



「……できた!」

『離れて!』



 曄雅は短剣を持ったまま傍を離れ、結楽は手榴弾に狙いを定めた。どんだけ動いても時速三百キロよりは遅い。



「三、二、一……!」

「……ヒット」



 一つが起爆し、それがトリガーで連続で爆発する。ロープが弱かったのでいくつかは落ちたが問題ない。そうなることを見越したあの数だ。同時に曄雅も後ろから爆破させたので首がかなり脆くなった。



 爆発の黒煙が晴れ切る前、曄雅はその中に突っ込むと一本繋がっていた背骨を断ち切った。顔面を蹴って落とせばその太い骨から生気が漏れ始める。



「完了」

『おつかれー』

「総力戦って言う割に結楽一人で足りたな」

『曄雅もだよー。まぁ他の人はいらなかったね』

『曄雅早く戻ってきて。そっち風下』

「通りで晴れないわけだ」



 曄雅がトラックの上に戻ると結楽が上機嫌で片付けており、優羽が隠れて曄雅にピースした。


 本来なら曄雅が四方八方から切り刻めば一人で片付いたのを、結楽の自尊心を高めるために優羽が狙撃重視の作戦にした。全て自分の失敗でと凹んでいた結楽のためだ。

 曄雅も不満はないのでピースし返す。



「ねーお腹空いた!」

「なんにも食べてないもんね。寒白さんに奢ってもらおう」

「おい迷惑だぞー」

「かんしろさーん!」


 寒白の方に飛び付いていく優羽を二人で見送り、曄雅は結楽の片付けを手伝った。




 結楽はライフルを背負い、曄雅がショットガンを持っておりる。



「優羽タオル! 寒い!」

「あぁそうだごめん!」


 寒白から離れた優羽はトラックの中からタオルを取ると曄雅の首にかけた。

 一歩遅かったのか曄雅はくしゃみをする。



「……風邪引かないでよ」

「寒い……!」

「ねぇ優羽天気は? 雲が黒いのは夜だから?」

「えっ……と」



 二人で空を見上げ、優羽がスマホで確認する間もなく大雨が降ってきた。

 三人が固まり、結楽が風邪を引きやすい優羽と体が冷たい曄雅をトラックの中に押し込む。


 二人とも揃ってくしゃみ。



「ちょっと二人とも大丈夫!? 優羽脱いで……!」

「寒いよやだ!」

「濡れてる服着てたら余計に! 中のパーカーまだ大丈夫でしょ!?」


 叫ぶ優羽の上着を曄雅が無理やり剥がし、自分のパーカーをかけた。身長はまるで違うが元は結楽のパーカーなので大丈夫。結楽が新しいパーカーを貰ったので買ったばかりのパーカーを貰ったのだ。



「それ着といていいよ。俺パーカーあるし」

「でも曄雅寒いの嫌いでしょ」

「へーきへーき。体は頑丈だし」


 曄雅は優羽と結楽の髪をタオルで拭くと曄雅はパーカーを着ないまま、三人で銃を拭き始めた。

 濡れても問題ないが長時間の放置は問題あるのですぐに手入れしないと。




 三人しかいないトラックで三人が大爆笑していると、傘をさした専務二人が戻ってきた。


「楽しそうだね三人とも。……曄雅君寒くないの」

「平気です。優羽が濡れたんで」

「優しいね」

「そんなことより寒白さん今回のボーナスくださいよ。専務二人クラスを三人で片付けたんですから」

「うーん……それ言ったら君らいっつもそうなるじゃん?」

「稼ぐための仕事ですから」


 優羽と結楽もせがみ、正論しか言われない寒白が悩んだ末に返事をしたのは線蓮だった。



「いいんじゃないですか。五回に一回ぐらい。予算も問題ありませんし」

「……さすが会計専務」

「その顔腹立ちますね」

「弟子が辛辣!……三人とも欲しいものでもあるのか?」

「え? いや欲しいものを買えるだけの金はあるんで」



 まぁ専務並に稼いでるもんなこの三人。月の給料いくらなんだか。下手したら寒白超えてるぞ。



「何? 寒白さん」

「いや…………なんでも……」

「そう?」


 全てを見透かしたような優羽の笑みに頷き、椅子に座った。





 皆が戻ってきて、曄雅と優羽は揃ってくしゃみをする。


「ちょっと二人とも大丈夫?」

「優羽さん! 俺の上着使ってください!」

「いやいい……」



 斯波(しなみ)の上着を断り、結楽が脱いで貸してくれた上着を冷たい曄雅にかけた。



「優羽お前体温高いくせに体弱いの何とかしろよ」

「生まれつきだもん」


 寒い曄雅と結楽が体温三十七度の優羽にくっ付いて暖を取る。優羽は心做しか嬉しそう。喜んでいる場合か。

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