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鏡界館  作者: 織優幸灔
二章
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10.事実確認

 帰り、曄雅(ようが)優羽(やう)に慰められた結楽(けいらく)は二人と一緒にコンビニに入った。本当はもんじゃ焼きが食べたいのだが未成年だけではこの時間店に入れないので明日食べに行くことになった。




「……カップ麺食べたいな」

「すぐ食べれるもんにしなよ。お腹空いてるでしょ」

「カツカレーにしよ」



 曄雅は特に考えてはいないだろうが、優羽と結楽に関しては界魔屋であってもほとんど動くことがないのでちゃんとカロリーや栄養素は考えている。夜中にカツカレーは考えてる奴が食べるものじゃないが。



 曄雅はうどんを、結楽はカツカレー、優羽はおにぎり一つとドライフルーツ。優羽は糖分を使っただけで動いていないのでお腹はそこまで空いていない。ドライフルーツは食べたかった。



「曄雅、もっと栄養あるもん食べないと」

「俺太らないと筋力付かないから」

「結楽も太んないよねぇ。ドカ食いして動かないくせに」

「俺全部射撃で消費してるから。集中力使うんだぞあれ」

「知ってるけど……」

「一回血液検査をおすすめする。糖尿病なってるかもよ」



 財布を用意していた優羽が話しているうちに曄雅がさっさと払い、荷物を貰った。


「行くぞ」

「あ払ってくれたの。いくら?」

「いいよこんぐらい。面倒臭いし」

「じゃお言葉に甘えて」

「甘えて」


 曄雅が駐車場で財布にレシートを入れていると、警察官が二人近付いてきた。



 三人は素早く身分証と常備の社員証を構える。



「おーいそこの未成年さんにーん、もう一時回ってるけど何してんの?」

「仕事の帰りです」

「しごとぉ? 何歳よ?」

「十七と十五」

「十五ってことはバイトじゃねぇなぁ。……適当な嘘ついてんじゃねぇ!」

「でもほら社員証」

「あんだこれ? 警察おちょくってんのか!? 未成年に社員証渡す会社がどこにあんだよ!」


 この人あれだ、人の話聞かないタイプの人。


 もう一人は後ろでおろおろしているだけだし、二人とも使えねぇなぁ。こういう時の手は一つ。



「……もしもし警察ですか? 今コンビニで警官に絡まれててー……。はいそこのコンビニです。話通じる人でお願いしまーす」


 優羽は即警察に連絡。こういうことはたまにある。



「じゃあ身分証意味なかったね」

「えーとまずチビ、親の電話と学校教えて」

「あ? 誰がチビだ能無し」

「んだと……!?」

「ちょっと曄雅警察にまで威嚇しないの……!」

「この生意気な餓鬼が! ちんちくりんに何ができんだよ!」


 頭を上からバンバン叩かれた曄雅の額に青筋が浮かび、結楽も後ろの警察官も二人でお互いの同僚を羽交い締めにする。



「お前だって身長百七十もねぇだろ! モテない非リアの痛い典型男め! 懲戒解雇なれ!」

「あぁんだとクソガキィ! 男は身長と顔なきゃモテねぇんだよ! お前はどっちも揃ってねぇなぁえぇ!? 日本語分かりますかがーいこーくじーん!」



 曄雅の血管がブチ切れそうになった時、遠くから警察のサイレンが聞こえてきた。

 すぐにコンビニに入って止まると警官二人が飛び出してくる。



「通報された方ですか!」

「先に身分証と社員証見せときます。新潟であった仕事の帰りです」


 優羽は自分の身分証と社員証を見せ、顔を青くする警官二人に確認させた。



「しっ失礼しました! この二人まだ新人で! その手の件にも関わったことがなくてですね……!」

「弁明より教育宣言してもらえる? うちの班長最悪に貶されたんだけど」

「大変失礼致しました! 二度とこのような失礼がないよう徹底的に教育致しますので!」

「声でかっ……」


 もう二度とこのコンビニは寄らない。



 曄雅は結楽の腕を払うと、結楽とともにセットの証明書を見せた。しっかりと確認してもらい、パーカーを整える。



「……じゃあね新人警察〜」

「曄雅」

「あー腹立つー」


 煽る曄雅を前に向かせ、三人で車に戻った。















 翌朝、曄雅が起きると机で優羽がペンを回していた。



「優羽、まだやってんの」

「曄雅、おはよう。もう朝か……」

「おはよう。一回休んだら?」


 優羽の過集中はいつもの事なので驚きはしないが、徹夜だと心配になる。



「うーん……報告書がまだできてないんだよ。正確な数も怪しいしさ」

「俺書いとくから寝たら?」

「……そーする……」



 集中が切れた瞬間眠たくなってきた優羽はふらふらの足であくびをしながら立ち上がり、曄雅に支えられながら結楽の隣に寝転んだ。


「おやすみ」



 声をかけた頃には結楽に抱き着いて眠っており、結楽も優羽の上に腕を置いた。


 机に置いてある報告書には、優羽が如何に技術屋を悪く書こうとしているかが書かれている。


「ひっでぇ……」


 必要なこと以上に不必要なことが書かれすぎている。見た人の精神を確実にえぐる報告書。


 まぁせっかく一晩かけて書いたんだし、この続きから書くか。








 報告書を爆速で書き上げ、確認しているところで結楽が起きた。もう十時だ。遅。



「ん……おはよ……」

「おはよう。優羽寝たばっかだから起こさないで」

「……何時?」

「十時。徹夜で書いてたみたいだから」

「そっか……」


 結楽は起き上がると椅子に座って曄雅から報告書を借りた。ずいぶん毒舌な、辛辣な報告書。なんでこれデータ化しないのかな。




 報告書を読んでいるうちにまたまた涙がぼろぼろ零れて、曄雅に紙で頭を叩かれる。


「背中丸めんなっつったろ」

「なんにもないよ」

「もんじゃ焼き食べに行くんだろ」

「行く」


 もんじゃ食べて、適当にぶらついて、適当に界魔殺してから帰って寝よう。今日はリラックスする一日だ。











 そう思っていたのに、もんじゃついでの仕事帰りに本館に呼び出された。昼に提出した報告書関連か。


 結楽はライフルを持ったまま、優羽はヘッドホンを首にタブレット片手に。




「何の用? 忙しいんだけど」

「……承知している」



 専務三人、錦紫蘇(きんしそ)主任、昨日の現場にいた平の動ける二人とマネージャー数人も。寒白(かんしろ)は曄雅に少し気圧され、皆も視線を逸らした。



「今朝の報告書……元八ランクとは思えないが、それは皆から確認が取れている。聞きたいのは技術屋について……」

「何?」

「技術屋は優羽(やう)君の指示で行った照明だと言っているが、報告書には指示に背いたと書いてある。それについて説明してもらいたい」

「指示出したのは僕ですけど僕一個で照らせってわざわざ伝えたんですよ。四個じゃないと無理なら言うなりなんなりしてほしいんです。わざわざ伝える意味を考えて。指示を無視してかつ一般人に被害が出なかったのは曄雅と結楽の実力あってこそです。……他には?」


 寒白は眉間を押え、線蓮(せんれん)は腕を組み、鏡界専務の松笠(まつかさ)は不可解そうに眉を寄せた。


「待て、熟練の技術屋がそんな指示の見落としをするか?」

「師匠、技術屋も呼ぶべきです」

「呼ぶか」



 寒白は部長に目配せすると、中央に立つ三人を見れない寒白はすっと視線を逸らした。左右の専務がそれを呆れた目で睨む。



「……俺らは放置?」

「先帰っててもいいよ? 僕も報告書目通したし」

「やーだよ。あとで技術棟行かなきゃだし。行き来すんの面倒臭いじゃん」

「先行ってたら?」

「だって行くってなったら曄雅こっちでしょ。やだよ」

「持ってってもいいよ?」

「いいの?」

「俺お前らの所有物じゃねぇぞ」


 え?とふざけた様子で見下ろしてくる二人の頬を引きちぎる勢いで引っ張っていると、勢いよく扉が開いた。



「失礼します! 連れてきました」

「お、早かった」

「いへへぇ……」

「……結楽血出てるよ」

「あっ、と……」


 結楽は首を押さえ、曄雅は手を離すと結楽の脛を蹴り飛ばした。


 結楽は首を押え、優羽は結楽にハンカチを渡す。

 さっき切ったところが開いたのだろう。



 部長に連れてこられた技術屋二人は小さくなりながら端っこに寄った。

 専務どうこうより曄雅と優羽の圧が怖い。結楽は血を止めるのに必死。



「……結楽君大丈夫か」

「よくあることなんですけど。ごめんね優羽、ハンカチ」

「後で買いに行くから」

「また出掛けんの?」

「いいでしょ?」

「いいけど」



 三人の話が一段落し、結楽の血がパーカーにまで滲んだところで話を戻した。



「……じゃあ話の続き。ねぇ、僕の指示聞いたのどっち? どっちが誰になんて伝えた?」

「こいつです。こいつがメール見て、ドローンのライト照らせと指示がって……」

「ちょっ……と、待て、そいつ新人だろう……?」

「研、修期間を終えたばかりです……。研修期間を終えた教育係が短期休みでして、研修期間を終えたからと、ほぼ勝手に……」

「何がほぼ勝手にだ。それを止めるのが上司の役目だろ!?」

「すみません……!」

「今回は一班が当たったからいいものの! 他の班や部長達では一般被害が拡大していたかもしれないんだぞ!?」



 寒白の怒声で空気が震え、皆が耳を塞いだ。



「うるさい!」


 優羽がさらに大きい声で寒白を黙らせ、五月蝿さで耳を塞いだ曄雅は手を離す。


「終わったことグチグチ説教すんな。事実確認して処分下して終わり。一分もいらねぇだろ。他人の説教に俺ら巻き込むな」



 専務三人の圧より曄雅一人の圧の方がよっぽど怖いというのに、それに珍しくマジギレの優羽が加わったらその威圧感は倍だ。傍でケロッとスマホをいじれる結楽の神経を疑うほどに。



「猿以下の能無しに何言っても理解しないのは歴代の出来損ないで知ってるでしょう? 処分された猿に人材費取るより被害者の中から新しいの選んで使う方がよっぽど効率上がってミスも減るし有益でしょうね。この会社にパワハラ、不当解雇の法律なんて通用しないんですから」


 普段誰も言えないが、全く間違ったことは言っていない優羽に皆が視線を通わせ技術屋の二人が胃を痛めていると、いきなり結楽が甲高い声で叫んだ。



「わー!? ねぇ見てこれ!?」


 いきなり耳元で叫ばれた二人は目を丸くし、曄雅は耳を塞ぎ結楽は優羽の肩に腕をかけて優羽にスマホを見せた。



「ちょっと耳元で叫ばないで……」

「そんなことよりさぁ! ねぇこれ行こう!? 明日ってか今から!」

「……なんこれソフトクリーム?」


 結楽の腕を掴んで後ろから覗き込んだ曄雅は眉を寄せ、結楽は曄雅の顔面にゼロ距離で断面図を見せる。


「コーンの中にロールアイス入ってんだって! 隣に焼き鳥屋あるしさ!」

「食べたばっかじゃーん!」

「俺だけ食べる!」

「技術棟は?」

「んなん後々! レッツゴー!」



 無理やり二人を連れ出した結楽は、扉を閉める直前に寒白に向かって手を振った。感謝しろ手網を引けない大人どもめ。

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