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鏡界館  作者: 織優幸灔
二章
55/155

5.リーダー会議

曄雅(ようが)君、これ渡しとくから軽く目通しといてね。仕事のことは聞いとくけど、自分で判断してくれていいから。分からないことあったらいつもみたいに聞いてね。三人の予定も管理してるし」

「分かった」



 錦紫蘇(きんしそ)主任から資料を受け取り、会議室の中に入った。


 今日はリーダー会議。統括専務、統括部長、統括次長(マネージャー)、課長三人、各班主任と各班リーダー。それに別の急ぎ案件がある人がいる時はいるが、今日はいない。でも珍しく会計専務がいた。例の寒白(かんしろ)の弟子、トントン拍子で専務になった人。

 噂で聞けば喋り方が面白いとかなんとか。


 前よりもかなり近い距離で見えるが、かなり整った顔だ。モテるなこいつ。




「曄雅君、あんまり見すぎたら失礼だよ」

「前ガン見されたしいいでしょ。お互い様で」


 資料に目を通し、途中にあった二ランクの任務という欄に目を付けた。内容を見る限りかなり面白そう。



「ねぇこれ最速いつ空いてる?」

「今日の夜かな」

「じゃ取れたら今日の夜行ってくる」

「私も行こうか」

「いいよ別に。子供と遊んでて」


 錦紫蘇は若いが子供が一人いる。夫も関係者で、幼い子供はいつも技術棟にある保育施設に預けているらしい。

 朝早い錦紫蘇が子供に会えるのは夜だけなので夜の任務はいつも三人だけ。昼も勝手に行ったりするが。




「それじゃあ(かんざし)さんに連絡しとこうか」

優羽(やう)から行くんじゃない? 気にしなくていいよ」

「そう? 私の仕事全部取るね」

「優秀だから」






 会議が始まり、寒白が進行役で進めていく。この辺りは関係ないので聞き流す。大人の小難しい会議に興味はない。



「……ではこの件は白梅(はくめい)に任せる。次、二ランクの仕事について。長期になる可能性が示唆されるため二週間誰も入らない。誰か……」

「寒白さん、俺たち行きますよ」

「寒白専務! 一班の手を煩わせるまでもありません! 我々が行きます!」


 強く机を叩いて挙手したのは何かと結楽(けいらく)を目の敵にしている白梅課四班の斯波(しなみ)。主任も驚いた様子で見上げている。


「どう……どうする曄雅君。良いか?」

「俺は別にいいですけど四班の人はいいんですかね。長期嫌いな子がいるとかなんとか」

「許可は取ってある。寒白専務、是非お任せを」

「それじゃあ……この仕事は四班に任せる。時間が経ちすぎているため早急に向かうように」

「はい!」



 曄雅は涼しい顔で舌打ちし、それを聞いた両隣の主任二人は椅子をズラしてまで逃げていった。







 その後の会議も特に面白いことはなく、曄雅はあくびをしながら聞き流した。



 会議が終わり、曄雅が入口付近で白梅と話していると寒白が弟子を連れてやってきた。


「曄雅君!」

「寒白さん、なんですかそんなに慌てて」

「ちょっと弟子を紹介しとこうと思って」

「あんまり興味ないんでいいです。それよりなんか面白い仕事ないですか。入ろうと思ってたのも横取りされたし主任の気が弱いせいで仕事争いには負けるし」

「うーん……仕事が入ったら全て流しているからな……」


 一人だけに教えるということもできないし、指名は相当なランクじゃないとできない。


「……まぁまたなんか溜まったら教えてください。白梅さんも、お願いします」

「あぁ。手配しておこう」

「それじゃあ」


 フードを被ったままの曄雅は二人の間を通って会議室を出た。



 今日は優羽が結楽の部屋にいて優羽が曄雅の部屋にいるはずだ。もしかしたらどっちかが移動してるかも。

 珍しく連絡しても即返信が来ないので、たぶん世話焼きな優羽が結楽の方に行っていると検討をつけて自分の部屋に向かった。






 案の定鍵が開いて、靴が二人分揃っている。曄雅も靴を脱ぎ捨てるように脱いで中に入った。

 廊下の横にあるリビングの扉が珍しく閉まっていて、少し疑問に思いながら扉を開けた。



 曄雅の部屋にソファはない。代わりにハンギングチェアが一脚と、クッションがいくつか置いてあるだけ。

 棚の中には折り畳みマットレスが入っていて、いつも三人で寝る時はそれを広げてクッション枕で寝るのだが。



 結楽が仰向けに寝転がり、優羽がその上に覆い被さるようにまたがっている。

 二人とも頭が向こう側なので気付いていない。


 絶対寝てる体勢じゃないよなと思って、無音カメラで一枚パシャ。邪魔になりたくないので静かに部屋を出て食堂に向かった。会議が中途半端な時間だったせいでお昼食べ損ねた。




 三人の中に友情や恋愛感情はないと思っていたが、あの二人は同い歳で共通点も曄雅より多いためそういうのをやるのかもしれない。ちょっと予想外というか、なんか気まず。


 せめて自分たちの部屋でやってくんねぇかな。家にもいれないしあんなん見たら二人の部屋にも行きたくないし、居場所を奪われると困る。





 食堂でたこ焼きを貰い、一つ一つ穴を開けて冷ます。その間にちょっといじわる精神が働いて、優羽の方に電話をかけた。いつもはワンコール、今日は三コール。


『よ……』


 出た瞬間に切り、さっき撮った写真を送った。

 別に反応が見たいわけじゃない。人の家でやったらどうなるかと言う黒歴史を脳裏に刻み込め。


 スマホを消して、クーラーでいい感じに冷めたたこ焼きを食べ始める。通知音がうるさいのでサイレントにした。




 そう言えば明日七竈(しちくど)が休暇から明けるんだっけ。鬱陶しい人が増えるな。



 スマホ見ずに一人で食事なんていつぶりかなと思いながらたこ焼きを食べ終わり、食器を片付けると階段で一階に上がる。

 十分で五百を超える通知、恐ろしい。しかもそれが優羽と結楽二人から。スマホバグるわ。





 指揮台で二人の鬼メールを見ながら返信せずに放置していると、既読がついたからか電話がかかってきた。無言で着拒。



 反応が面白すぎるのを眺めていると、視界の端に影が映った。過ぎ去るかと思えば前で止まり、なんだと見上げると寒白の弟子が立っている。

 細身長身、黒く長い髪をポニーテールに白いキャップ帽と専務の赤いパーカーを着た顔面偏差値高めの男。


「なんか用」

「外人?」

「あ?」


 体を倒して覗き込んできた男を睨み、スマホを消すと少し指揮台の後ろに下がった。男は首を傾げたが、その足音で振り返る。



「曄雅に話しかけんなオッサン!」

「ストーカー成敗!」


 鬼の形相というか般若の相をした優羽と結楽が突っ込んできて、男は冷静な様子でそれをふらっと避けた。結楽は途中で優羽を押して方向転換し、曄雅に飛びつく。


「ようがぁ! 優羽が怖いよ〜!」

「あっそう」

「お前が怖いのは虫だろうが! 曄雅勘違いしないでよ!? あとその知識どっから仕入れたの!」


 騒がしい二人が来たせいで男は用を済ませるのは無理だと見たのか、三人を見下ろしてから去っていった。



「……今の寒白さんの弟子でしょ。なんの用?」

「知らね。んな事より二人ともあぁ言うのやんなら帰ってくんない? 俺の部屋汚すな」

「違うじゃん! 誤解!」

「誤解したままでいいから曄雅のその知識がどこ産か教えてくれるかな」


 結楽に肩を揺すられ優羽に頬を挟まれ、二人に詰め寄られる。おかしいこうなる予定じゃなかったんだけど。






 二人に押し倒され拘束された曄雅が二人を押し返していると、本館から緊急招集サイレンが聞こえてきた。

 三人の顔付きが変わり、二人とも曄雅に手を貸して起き上がらせる。すぐに主任から緊急の電話がかかってきた。



『三人とも三ランクのお仕事! 四番トラックだって!』

「了解」

「今外にいるから直接向かうわ」

『分かった! 結楽君のライフルと優羽君の装置一式は予備の方持っていくね!』

「どうもー」


 曄雅は二人の手を掴むとトラックに走った。




 中には既に寒白と弟子、(くすのき)課二班も座っていた。

 二班の四人は専務が座るトラックに居心地悪そうにしている。



「ねぇ曄雅、専務より楠課一班が必要じゃない?」

「誰も必要ない。俺らで十分だし」

「三でしょ。曄雅一人でも十分だよ」

「いや普段ならそうだけどさ。仮にの話ね」



 三人で寒白たちの斜め向かいに座り、優羽は曄雅に一方的に腕を組んだ。


 それから五分も経たないうちに、錦紫蘇(きんしそ)主任と結楽の専属技術屋が駆け込んでくる。



「結楽さんはいライフル! 一応手榴弾も」

「ありがとう。スコープも揃ってるよね?」

「もちろん! ピカピカに磨いてるから!」

「優羽君の荷物はこれ。変えてた設定も、できる限り本体と同じようにはしてるけど……」

「こっちで合わせるし大丈夫。二人とも無線付けといて」


 優羽は二人にイヤホンを渡すと自分もマイク付きヘッドホンを首にかけた。落ちていた電源を付け、少し設定をいじる。


「……問題ない」

「よかった!」

「それじゃあ私はこれで。お姉ちゃんも、三人も気を付けてね」

「ありがとね」


 錦紫蘇姉妹の妹はトラックを降りていき、優羽はトラックの扉を閉めた。ボタンを押すと同時に発進し始める。




「……ん、繋がった」

「優羽、周りの建物情報ちょうだい。避難何メートル?」

「……直径一キロ。南西に移動中。プラス一キロは警察が張り巡らされてるって。周囲のビルはほとんど倒壊してるよ」

「規模大きくない」

「暴れてるみたいだねー」


 結楽は床に膝を突いて椅子の上でケースを開けると優羽に建物情報を貰った。



「……現場に誰かいる?」

「全員人形(ドール)になってる」

「使えね」

「プラス一キロ圏内にホテルはあるよ。警察が一応入ってる」

「それ界魔の移動含めて距離は?」

「一キロもない。近付きつつある」

「そこでいい」


 結楽はスコープを準備し、それをライフルにはめた。

 優羽から目的地の距離を聞いた曄雅も拳銃のマガジンをはめ、スライドを引いておく。




「……寒白さん、それ使えんの?」

「俺たちは見学。手は出さない」

「あそ。邪魔しないならいいけど」



 警戒範囲外にトラックが止まり、曄雅と結楽はそれぞれの装備を持って立ち上がった。曄雅はパーカーを脱ぐとトラック待機の優羽にそれを渡す。



「じゃそれぞれ着いたら連絡してね」

「了解」


 優羽はヘッドホンを付けると、二人が出ていくと同時にマイクのスイッチを入れた。ボタンを押してオン、ボタンを押さなければ声は入らない。


 二人について出ていく二班の子達も見送り、広くなった場所に移動した。床に座り、先程の結楽のように椅子にパソコンやタブレットを広げる。



『優羽、風向きと風速、太陽光も教えて』

「それじゃはじめるよー」

『了解』

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