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鏡界館  作者: 織優幸灔
二章
56/155

6.一家

 木に待機した曄雅(ようが)は拳銃のハンマーを下ろし、体の傍に構えた。



結楽(けいらく)は界魔を気付かせて。曄雅は音で誘った後に後ろから回って首狙って一発入れて。同時に結楽の狙撃で首に通るか検証』

「了解」



 フードを被り、体の前側に向かう。

 超短足で横にデカい深紅の界魔なので動きは遅いが、腕が太い分破壊力が尋常じゃない。結楽の方に行かせないようにしないと。



『……ヒット……ヒット。顔面二発』

『ナイス』

「……気付いた!」

『足元から後ろ回って瓦礫使って登って』


 曄雅の発砲で界魔の意識がこちらに向き、腕で払われる前に急いで股下を通って後ろに移動した。

 半壊した電柱、家、ビル、あらゆるものを使って界魔の背にしがみつくと拳銃を口でくわえよじ登った。


 肩なら狙撃の邪魔にならないと肩に乗り、界魔の真後ろで宙に向かって一発。直後、結楽の弾が界魔の首を貫いた。



「通ったよ」

『結楽、手榴弾あるでしょ』

『おっけー口に入れて内から吹き飛ばせばいいのね』

「俺の出番なくない!?」

『入れるのは一個。……なんですか?』


 いきなり優羽が誰かと話し始め、とりあえず結楽は手榴弾を一つ用意しておく。曄雅は界魔に潰されかけたので一度別の屋根に避難した。



「優羽!」

『曄雅、その下に一般人三人いる』

「半壊してんだけど」

『一回入ってみて。結楽ショットガンある?』

『ないよ。ないけど代用する。主任に妹に謝っといてって言っといて』




 スナイパーライフルにしては異様に早い射撃速度で界魔の気を結楽の方に向かせた。


『ねー俺はどこに逃げればいい?』

『ちょっと待って……! もう一般人放置で良くない!? 個人情報とか知らんし!』

「いいよ結楽、そこいて。優羽、二班に救助に向かわせて。三人とも無事」

『了解。結楽、合図したら口に手榴弾投げて。曄雅はその首切ってね』



 二人で揃って返事をして、曄雅は若い夫婦と幼い娘を見下ろしてからまた飛び上がった。



『ちょっと優羽!』

『手榴弾まだ取れる? 一個後ろに投げて。曄雅ちょっと待ってね』

『この界魔ちょっとキモい……!』

『知らん』



 ライフルの連発で既に手が低温火傷状態の結楽は手榴弾のピンを抜くと一つ、界魔の頭の後ろに投げた。

 空中で爆発し、界魔が振り返る。



『ちょぉっとこっち見たんですけど』

『意識は結楽だから大丈夫だよ。……結楽、建物崩壊だけ気を付けて』

「射程距離は!?」

『曄雅』

『六メートルないぐらい。大丈夫、結楽は怪我はしないから』

「あー耳が癒される」

『集中しろ』


 二人のツッコミにキュッと身が締まり、少し後ろに後ずさった。



「……こっち見た!」

『もうちょっと……。……投げて!』


 ピンを抜き、界魔の常時開いた口に手榴弾を投げ入れた。



 距離の計算ぴったりで、ちょうど喉元で爆発した。

 瞬間、刃渡り十五センチほどの短剣を両手に持った曄雅が目にも止まらぬ早さで界魔の首を切断する。

 最後に屋上に降りた曄雅の貫通しない弾で首が再生しないようズラしたら完了。


 全身からドロっとした白い液体が漏れ出て、それは地面に垂れると同時に魂のような白い浮遊物に変わり四方八方に飛んでいく。生気が漏れたので完了の合図だ。



「討伐完了。優羽、避難してない一家どう?」

『子供がなんかかんかで動けないらしい。大人に怪我もないらしいし医療屋が向かってるから大丈夫だよ。おつかれさまー! 二人とも早く戻っといで』

「はぁい」


 また二人で揃って返事をして、曄雅と結楽は荷物を片付けると少し駆け足でトラックに戻った。




 トラックの周りには避難の際に怪我をした人や記憶を消すのに警察に誘導されながら整列する人が集まっており、かなり人が多かった。


 二人でトラックに飛び込む。



「おかえり。結楽、手大丈夫? 火傷してない?」

「ちょっと熱かったけどそこまで酷くはないと思う」

「氷か保冷剤か貰ってくる」

「あ僕行くよ!?」

「これぐらいいいよ」



 曄雅は拳銃を置くと暇そうな医療屋に声をかけに行った。

 優羽と結楽は二人でそれを見送ると、二人とも片付けを始める。



「うーん……ライフルちょっと傷んだかも。無理させすぎたや」

「ショットガンとライフル両方入るケース作ってもらったら? 大きくなりすぎる?」

「へー優羽は俺に常時七キロ持てって言うの」

「無理だねごめん」

「よろしい」


 散弾銃もライフルも三キロ以上あるため、そんなんを肩に常時背負うと肩が外れる。二リットルのペットボトル三本とちょっと背負ってる感覚。分からないならナップサックでもリュックに入れてでもやってみな。



「お待たせ。保冷剤タオルに包んで貰ってきた」

「ありがとう」

「……寒白(かんしろ)さんどこ行った?」

「色々見て回るってさ」


 優羽はパソコンを鞄の中に入れると二人から無線通信を貰い、ケースにはめた。

 ヘッドホンを外して、鞄の中に突っ込む。マチの広いボックス型の鞄。斜めがけでも手持ちでも。基本手持ち。




「あそうだ二人とも、明後日に射撃訓練の予定入れてもらったから」

「ちょうどいいや。俺ついでに銃も見てもらう」

「僕も通信機相談したいし、ナイスタイミング」

「射撃訓練しに行くんだって……」



 曄雅が荷物を片付けてもたれてくる二人を睨んでいると、少しして寒白と弟子が戻ってきた。

 優羽は寒白に手を振る。



「おつかれ三人とも。相変わらずいいチームワークだ」

「そりゃ僕らですから」

次聡(じそう)、見習え」

「はい」



 興味無さそうに隣に座る弟子の頬を寒白がこれでもかと引っ張っていると、眺めていた曄雅とふと目が合った。弟子は目を丸くする。


「あ外人」

「あ?」

「威嚇しないの」

「オッサン今気付いたの」


 威嚇する曄雅と失礼なことしか言わない優羽の頭を結楽が押え、寒白はケラケラと笑う。



「悪いな。こいつ人の顔を認識する能力が著しく低いんだ」

「人を見ないだけです」

「じゃあなんで曄雅見てんだ変態野郎!」

「黙れ優羽」


 結楽にさらに押された優羽は体の柔軟性が悲鳴を上げ、曄雅は自ら頭を下げるとそこから逃げた。

 結楽の反対の隣に移動したせいで優羽も曄雅の隣に移動し、専務二人と向かい合う位置になった優羽は二人にもっとそっち行ってと行ってもらう。でも結楽が行かないので曄雅の手を掴んでさっきの場所に戻った。



「次聡、自己紹介できなかったんだろ。曄雅君だけでも知り合いになっておけ」

「寒白さん僕と結楽は?」

「俺はともかく優羽は暴言吐くから放置されるんだよ」

「結楽だってストーカー呼ばわりしてたし!」

「あれはノリの一種! 優羽は本気で言うじゃん!」

「ノリだって人を傷つける時あるんですけどー!?」

「うるせぇ人を挟んで喧嘩すんな」



 小学生並みの喧嘩をする二人を曄雅は問答無用で顔面を押し返し、二人を黙らせた。

 弟子はこのノリが嫌なようで、無言で寒白に向かって首を横に振る。寒白もなんとも言えなさそう。

 曄雅が結楽に文句を言って二人が見ていない間に、優羽は弟子に向かってべーっと舌を出しながら口角を上げた。


 この二人は犬猿の仲になりそう。



「曄雅、結楽! 喧嘩してもいいことないよー」

「お前が言うかよ優羽!」

「はいストップストップ」


 優羽は二人の間に座ると曄雅に胸ぐらを掴まれ、結楽に首を絞められながら二人を落ち着かせた。





 少しして、二班の皆が戻ってきた。トラックの座席状況を見て四人が固まる。

 専務の真横か真正面か。さっきは奥で二手に別れ二二で座っていたが、そこには錦紫蘇(きんしそ)主任。



「……別の車手配してもらおうよ……」

「あ、ここどうぞ。私は大丈夫だから」

「ありがとう……ございます……」



 四人は固まりながら中に入り、錦紫蘇に譲ってもらった場所に小さくなりながら座った。序列関係の激しい界館では普通だな。



「優羽、俺のパーカー返して」

「あぁうん」

「曄雅さぁ、そんな持ってて重くないの? 痛くない?」

「慣れたら平気。緊急時に持ってない方が困るでしょ」

「結楽も有り余った金で荷物持ち一人雇ったら?」

「人間きらぁい」

「結楽って性格ねじ曲がってるよな」


 曄雅の言葉に優羽はうんうんと同意し、結楽は優羽の頬をつねった。優羽はそれを払い落とす。



「一人雇うぐらいなら資金援助して軽量化してもらうわ」

「軽量化できんの?」

「知らん」

「できるならやってる気が……」


 優羽と曄雅で結楽を訝しんでいると、結楽は錦紫蘇妹に連絡した。



 銃が傷んでいるかもしれないということと、軽量化について。




「……今回みたいな連射するなら特殊プラにはできないって。まぁ歪むからねー」

「軽量化したらショットガンとかも同時に持ち運べるんじゃないの?」

「ケースの構造的にできるのかな」


 結楽は優羽にもたれ掛かり、曄雅も優羽の肩越しに結楽を見る。



「……相当ごつくなるみたい。スコープ二個になるし幅は仕方ないか」

「やっぱ雇いな?」

「ようがぁ、いい人知らない?」

「えーいっぱい知ってる」

「結楽曄雅のはやめといた方がいい」

「めっちゃ冷や汗かいた……」

「おい!」

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