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鏡界館  作者: 織優幸灔
二章
53/155

3.出先の事

「結楽伏せろ」


 結楽が周囲の歩行者の頭を押えて伏せ、曄雅がだるまのような界魔を殴って押し返した。

 また別の界魔が押し出てきて、ちょうど傍にいた警官が一発発砲した。その銃声で悲鳴が響き、曄雅はその間に自身の銃にマガジンを入れた。



「警察官二人は周囲の避難対応。結楽、引き出すから狙撃頼んだ」

「曄雅通信機付けといて。結楽行くよ」

「うん」


 曄雅は次から次へと出てこようとする界魔に三発入れ、口で噛んでいた通信機を耳に付けた。

 結楽と優羽は看板や標識を使って向かいのビルの屋上に飛び上がると射線の通るビルまで少し離れる。



「通信開始」

『了解。界魔は見えただけでも四体。中は巣窟の可能性が高いから少数ずつ引きずり出して戦って。排出はは結楽が止める。一般人が多いから気を付けて』

『了解』

「了解」

『曄雅、ちょっとズレてやってくれると助かる』

「了解。邪魔になったら言って。ズレるから」

『ありがと』



 警官二人が死ぬ気で押し寄せる歩行者を止めて、すぐに数台のパトカーのサイレンが聞こえてきた。


 曄雅が場所があくまで、結楽の準備ができるまで真正面から拳銃で界魔を押し留める。



『……曄雅! 後ろからも出てきてる!』

『曄雅ズレて。優羽スコープの準備頼む』

『了解』


 曄雅がズレると同時に、スコープもバイポッドもなしで射撃を始めた。普通の人じゃ絶対に見えない距離。

 目を見開いて、あぐらで銃を固定して狙いを定め少し早い速度で射撃する。



「優羽、倍率は」

「二十六のちょうだい。二十九のも準備しといて」

「了解」

『優羽避難完了まだ!? こいつらキリがない!』

「パトカーの通れる道がないから遅れてるんだよ! もうちょっと頑張って!」

『弾がもう……!』



 いきなり結楽が立ち上がり、ライフルを抱えて撃ち始めた。


「結楽スコープできた!」

「ちょっと待って! 界魔が活発になって……!」

『付けていいよ。こっちで防ぐから』

『助かる!』



 曄雅は出てきかけた界魔を一体蹴り飛ばすと、他の界魔諸共押し返した。拳銃を構えて後ろから出てこようとする界魔に拳銃を発砲する。が、上ランクの界魔より怪我の修復が早い。異能か。



『曄雅、たぶんこの界魔たち元は同じ一体の界魔だと思う。修復の速度にばらつきはあれどほとんど同じだ。一体にならないと首もないよ』

「どうやって戻せって!?」

『なんか……一体一体に弱点があるはず!』

「弱点!? あぁ!?」


 半ギレの曄雅に優羽が少し脅えていると、スコープを散弾銃に付けた結楽が散乱した荷物を漁ってマガジンを付け替えた。



『曄雅退いて! 散弾で丸ごと吹き飛ばす!』

「おぉ!?」



 建物の影に隠れると、飛んできた散弾がだるまに小さな手足が生えたようなのような界魔を一体ずつ吹き飛ばした。



「あ! 優羽繋がった!」

『見えたよ。結楽、左腕付け根狙って』

『了解』


 スナイパーライフルに持ち替えた結楽はスコープを覗きながら左腕付け根を貫通させた。

 左腕の取れた界魔からだんだん繋がって、一体の馬鹿でかい界魔になっていく。



『ちょっ……と……曄雅一人で大丈夫……?』

「へーきへーき。こんぐらいなら腕一本でいいわ」

『無理しないでよー!』

『もういない? 散弾で片目潰すからちょっと待ってね』

「目より口ん中に入れてぶっぱなしてくんない? そっから続くから」

『了解』



 数秒して、だるまに人間の手足が生えた界魔の口に散弾が数発突っ込まれた。一発が喉の奥に入り、腹の底から煙を吐く。


「あんま効果なし!」

『手榴弾ぶっ込もうか』

「いいよ別に。適当に援護頼んだ」

『了解』

『半径五百メートル四方は空いたよ。好きに使って』

「さんきゅー」



 拳銃を建物の傍に滑らせると、その場にしゃがんだ。

 勢いをつけ、飛び上がるとだるまの眉間を思い切り殴る。そのまま腰の短剣を抜くとこめかみを斜めに大きく切り付けた。体のひねりのまま顔面を蹴り、一度下がると今度は体を支える足を蹴り切り裂いた。



「ねぇこれ首どこ?」

『小さい界魔と同じ左腕付け根の可能性が高い。そんな強い特殊な界魔じゃないしね』

「おーけー」

『ぶっ放す?』

「んにゃ動き止めるぐらいで」

『んにゃ』

『んにゃ』

「にゃあ」



 叫ぶ優羽を一蹴し、界魔の平手打ちをかわす。そのまま左腕を登ってまずは眼球に一発。払おうとしてくる手を射撃で止めてもらい、落ちる重力に従って短剣を肩に当たりそうな部分にかざした。なんの引っ掛かりもなくそのまま下に落ち、界魔が少しよろめいた後に切り口から生気がわずかに逃げていった。



「よっし完了!」

『おつかれー』

『マネージャーと主任には連絡したから(じき)に来るはずだよ。……ネットの投稿も削除され始めてるし』

「戻ってきたら?」

『すぐ行くー』


 平手打ちで壊れたビルの瓦礫の中から拳銃を拾い、マガジンを抜いて重さを確認した。出す以外に残弾数は確認できないが、出すのは面倒臭いのでいつもマガジンの重みで確認している。これは慣れだ。

 銃なら何でも来いの結楽はどんなマガジンでもだいたい分かる。




「曄雅! おつかれさま」

「そこまで。俺より結楽の方が疲れてんじゃない」

「目がしょぼしょぼする……」

「目薬も買えばよかったね」

「買いに行こ」


 それから数分して、サイレンが聞こえたと思ったらマネージャーが五人ほどやってきた。

 パーテーションで道を作り、一人ずつ記憶の消去を行う。



「三人とも!」

「あ主任来た」

「遅いぞー」

「どんだけかかると思ってんの」



 主任の中でも気弱ランキングナンバーワンの錦紫蘇(きんしそ)は慌てて三人に駆け寄り、曄雅は謝る錦紫蘇に文句を言う優羽を黙らせた。


「これ何ランク? 給料入るよね」

「もちろん! 七だからたいした金額にはならないけど、今日使った分ぐらいにはなるよ」

「今日俺ら数百円しか使ってない」

「ほとんど結楽だよね」

「……これから使って」


 んな適当な。




「後処理はこっちでしとくから三人は続き行ってきていいよ。曄雅君短剣交換しようか?」

「あー……いいや。弾だけちょうだい」

「うんうん」


 錦紫蘇は持っていた大きな箱を置いて開けると弾の大きさを聞いて中から別のケースを取り出した。ボックスの中に薄いケースが三枚入っている。

 蓋の裏には特殊弾の入ったケースがハマって。



「主任俺のもある?」

「あるよ! ちょっと待ってて」




 曄雅と結楽は新しいマガジンに弾を詰めるとさっき使っていたマガジンは回収箱の方に入れた。結構雑に扱うので傷が付いたり歪んで送弾不良にならないように。


「……ん、おっけー」

「結楽、散弾の方は?」

「散弾銃も使ったの? 珍しいね」

「初めはちっちゃかったから。散弾の方はまだあるしいいよ」


 結楽はまたケースに片付けるとそれを背負った。

 曄雅も腰に差し、マガジンを脇のケースに差す。


 曄雅がいつもパーカーを着ているのは武器装備の凸凹を隠すため。



「それじゃあ行ってらっしゃい」

「またねー」

「ねぇ曄雅もっかい鳴いてよ。にゃーって」

「優羽お前何言ってんの? 大丈夫?」

「鳴かないと鳴くまで首輪つけて飼うぞ」

「にゃー!」

「結楽じゃなくて」

「なんかそういう詩みたいなのあったよな。鳴かぬば殺すぞなんちゃらー……みたいな」

「ホトトギスね」

「鳴け」



 優羽に後ろから頬を挟まれた曄雅が必死で鳴きながら突き放していると、いきなり結楽に耳を掴まれ引っ張られた。


「何!? 蹴り飛ばすぞ!?」

「耳が赤いなーと思って」

「寒いんだよマジ離せ!」


 日は昇り切って動いたあとなのに、風が冷たく汗が冷えてすごく寒い。誰かもっと耐寒のパーカーとか作ってくんないかな。



「店入ろうか。汗かいたから余計でしょ」

「カラオケ行こー」

「ファミレス行こ。めっちゃグラタン食べたくなった」

「じゃあファミレスで」


 カラオケ大好きの優羽の意見を突っぱねて、三人でファミレスに入った。カラオケは一昨日行ったばっかり。優羽しか歌ってないけど。





「……ビーフシチューも迷うな」

「じゃあ俺ビーフシチューにするからわけてあげる」

「やだ」

「じゃあ今夜はビーフシチューね。買い物して帰ろう」

「優羽の部屋な。俺の部屋大きい鍋ないから」

「うん」


 三人でメニューを見て曄雅はグラタン、優羽はパスタ、結楽はオムライスを頼んだ。

 貧血君のためにと優羽はほうれん草のソテーも。


「俺こんなに食えんし……」

「グラタンは残ったら食べてあげるよ。熱いから冷ますでしょ。先にほうれん草どうぞ」

「性格悪い」

「失敬な。性根が腐ってるって言ってくれるかな」

「それはいいんだ……」



 結楽はパスタを食べ始めた優羽に呆れながら自分もオムライスを食べ始めた。

 曄雅も文句は言いながらもおとなしくほうれん草のソテーを食べ始める。元々野菜嫌いではないので苦ではなさそう。




「ほうれん草ってずっと食べてると苦くなる」

「どうぞ水飲んで」

「違うでしょ。グラタン食べたらって言われたいんでしょ」

「俺が食べたいって入ったのに……」

「おとなしくカラオケ行きゃよかったね」

「食ったら食べれんだからそこの後悔はねぇ」


 優羽は涼しい顔で舌打ちすると先にパスタを食べ終わった。早食いなのもこの三人なら気にせず食べられる。










 三人とも食べ終わり、デザートをちびちび食べながら各々スマホをいじる。


 曄雅は依存性になりかけと言うほど暇な時はスマホスマホスマホだ。



「ねぇ曄雅これ可愛くない?」

「……趣味じゃない」

「何?」

「ふわふわのパジャマ。猫の耳付いてんの」

「鼻血出そう」

「キモいぞ」


 結楽は二人にネットショッピングの画像を見せる。なんの偶然か、優羽も三人お揃いのパジャマを見ていた。色違いでも可愛いけど模様違いや、なんなら全部お揃いでもいいなと思いながら。主に曄雅見たさ。



 二人できゃいきゃいパジャマを見せ合い、それを無視して曄雅は頬杖を突いてスマホをいじる。



「結楽、見せ合うフリして写メってんの分かってるからな」

「なんで」

「指の動きの気配」

「曄雅の方がよっぽど怖い」

「超能力じゃん……」

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