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鏡界館  作者: 織優幸灔
二章
52/155

2.原宿

 三人で焼肉から帰ってきて結楽(けいらく)のホテルライク風な部屋で寝ていると、ふと曄雅(ようが)の目が覚めた。



 曄雅はソファで、優羽(やう)は結楽から奪ったベッドで、結楽は一人一つ常備のマットレスの上で寝ていたはずだが、結楽がいない。


 扉から廊下のあかりが見え、またかと思いながら立ち上がってあかりのついている脱衣所に入った。

 カバーの外れた鏡の前に立っている結楽の肩を掴み、首に当たっていたカッターナイフを離して歯を握る。



「ストップ。血出てる」

「……起きたの?」

「カッター離して」

「……手怪我するよ」


 フェイスカットが癖になっている結楽の手をカッターから離し、血で少し錆びているカッターを片付けた。血まみれの首にパーカーの袖を当てて止血する。



「こんなんしなくても大丈夫なんだって。なんかあるなら聞くから」

「大丈夫。……手当てしてくれる?」

「うん」


 血まみれになったパーカーを脱ぎ、洗面台に水を張って漂白剤とパーカーの袖を入れた。脱色されずに漂白されるという優れもの。


 結楽も襟が血まみれになった服を脱ぎ、洗面台に入れると二人でリビングに移動した。リビングの電気をつけ、救急箱を開けてガーゼや包帯を取り出す。



「……薬あとちょっとしかないし。明日買い物な」

「原宿行こう」

「薬のためだけに? 遠っ」

「ショッピングだよ。美味しいもの食べたいでしょ」

「はいはい」


 相変わらず美味しいものに目がないなと思いながら残り少ない薬のチューブを絞って、傷口に塗った。

 何度も何度も同じところを切るせいで傷跡が沈着して消えない。朝弱いくせにこういう夜中にはちゃんと起きるんだよなぁ。


「……キツくない?」

「大丈夫」

「んじゃこれで」


 軽く包帯を結んで結び目を中に入れ、軽く首を押えた。結楽は曄雅にもたれ、うんうん唸る。うるさい。



「早く寝ろ。原宿置いてくぞ」

「おいで曄雅君」

「来てください曄雅様だろ寂しん坊」


 道具を片付けると、二人でマットレスに寝転がって同じ布団を被って眠り始めた。









 翌朝、曄雅の爆音アラームで目を覚ます。これで起きないんだから結楽の耳も心配だ。


 既に起きてマグカップ片手にくつろいでいた優羽は肩を震わせ、曄雅は体を起こすとグッと上に伸びた。



「音でっか……! めっちゃびっくりしたんですけど」

「寝坊しない秘訣」

「でも起きてないよー」

「……耳たぶ」

「僕も触ろ」


 二人で仰向けに寝ている結楽の耳たぶを挟むと力いっぱいつまんで引っ張った。結楽は耳を塞ぐと亀のように丸まる。


「いたぁ……ひ……」

「あ、優羽、今日原宿行くって」

「結楽が? 分かった。んじゃ主任に連絡しとくー」

「頼んだ。お腹空いたー……!」

「朝ごはんできてるよ。サンドイッチとスープ」

「やった」



 こんな生活を毎日のように繰り返していて、皆からはもうカップルやんと言われることが多々あるがそんなんじゃない。ただ、色々とできないことの多い三人だけで生きていけるように協力し合っているだけ。


 料理をやらない二人の代わりに優羽が

 勉強ちんぷんかんぷんの二人のために結楽が

 安全が確保されない鏡界館で三人で生きていくために曄雅が


 それぞれ助け合って生きているだけ。何も不思議なことじゃない。






 八時半頃にようやく結楽も起き、一人でのんびりと朝食を食べる。



「……ちょっと曄雅、手のひら怪我してるよ」

「あぁ夜の。もう血止まってるし平気」

「夜? 結楽またやったの?」

「ん〜ごめん」

「謝ることじゃないけど。曄雅が寝てる時に鏡使うのは危ないって言ったじゃん」

「大丈夫大丈夫。寝てる時ぐらいなら普通に守れるし」

「頼もし」


 結楽は二つ目のサンドイッチにかぶりつくとそのまま食べきってスープも飲み干した。



「……ごちそうさま! よし出かけよう!」

「一気に目覚めたな」

「サンドイッチ二つ目の方が好き!」

「曄雅好みと結楽好みにしたからねー」






 三人とも出掛ける時はそれぞれの装備常備だ。

 援護担当の結楽は特殊弾のスナイパーライフル、近距離担当の曄雅はセミオートのハンドガンと短剣、頭脳担当の優羽は通信機や二人の発信機、周囲状況確認の特殊タブレット等。優羽は戦わない代わりに安全地帯から二人に指示を出す。

 これが歴代最強と言われる三人の戦闘スタイル。



「おっけー準備できた!」

「証明書持った?」

「……あるかな」


 曄雅と優羽はお互い見せ合い確認し、結楽もスナイパーライフルのケースのファスナーを開けて手を突っ込んだ。

 このケースも特殊で、技術担当の人に衝撃に強い素材でボックス型のケースを作って貰った。耐熱耐寒耐水電のケースは世界にこれだけ。


「……あ、あった!」

「んじゃ行くぞ」

「結楽何食べたいの?」

「串焼き」

「つくろーよ……」


 結楽は証明書を戻すと二人の肩に腕をかけて部屋を出た。








 駐車場の閉まった窓口にノックをして受け付けに声をかける。


「すみません、(かんざし)さんいますか?」

「はい! 少々お待ちください」


 優羽と仲のいい受け付け嬢が奥に入っていき、代わりに別の受け付け嬢が前に座った。



「優羽って簪さんと仲良いよね」

「うーん親戚だからねー。昔から可愛がってもらってるし」

「簪さん優しいもんね。優羽とは大違い」

「んん〜? もう一回言ってごらん結楽君」



 優羽はにこにこと笑いながら結楽の頬をつねり、結楽はそれを頑張って離そうとする。弱い力の二人では離れないが。



「……御三方、十六番の車へどうぞ」

「ありがとうございます」



 結楽がつままれながら札を貰い、三人で車に向かった。


 中には既に簪が待機しており、優羽と結楽が曄雅の隣を取り合っているうちに曄雅が助手席に乗り込んだ。


「あー! 駄目だよ曄雅は後ろ!」

「うるさい。早く乗らないと一人で行くぞ」

「ツンデレ! 恥ずかしいんでしょ」

「簪さん出してください」

「ちょォーい待ちちょい待ち!」


 二人で慌てて乗り込み、シートベルトを閉めた。




「結楽の冷蔵庫じゃがいも芽出てたよ」

「あれどうしようかな。ダンボール栽培でもしようかな」

「取って食べればいいじゃん。なんか作ってあげようか」

「じゃあ作って〜」


 その言葉を待ってましたと言わんばかりに結楽はにっと笑って見せ、優羽は小さく頷いた。

 前に座った曄雅は体を捻って後ろを除く。


「じゃがいもの芽ってどんなん? 葉っぱ?」

「芽は葉っぱだよ。じゃがいもは地下の茎だからじゃがいもから出るのは根っこ。種芋から出るのが地上に見える茎でその種芋の根っこから他のじゃがいもができるの」

「へぇ。……根が出たじゃがいもを植えたら種芋になるってこと?」

「そうそう。種芋として芽が出ててるのも売られてるけどね」



 じゃがいもの根を見たことがない曄雅がへぇと感心していると、優羽がスマホで検索した画像を見せてくれた。


「ほらこれ」

「うっわ気持っち悪! 俺それ無理!」

「……キモい?」

「俺平気」

「僕もちょっと色は気持ち悪いけど……」


 曄雅は体を戻し目を隠し、優羽は画像を消した。


「多肉植物とか無理な方?」

「そういうのはいけるんだけど……」

「ふしぎー」













 原宿に着き、三人は適当な駐車場で降ろしてもらう。

 原宿のは歩くのが楽しい。


「助かったよ伯父さん。帰る時にまた連絡する」

「うん。優羽、最近原宿で界魔情報が多いから気を付けて。日蔓君から離れないようにね」

「分かった」



 優羽はタブレットで原宿の情報を調べると、目撃情報があった場所にマークを付けた。


「何優羽。仕事?」

「ううん、情報が多いみたいだから念の為ね」

「二人とも行くぞー」



 曄雅は二人に手を振り、二人もそれを追いかけた。


 簪が串焼き屋の近くで降ろしてくれたのでとりあえず串焼き屋。三人で食べながら薬局に向かう。



「薬? なくなったの?」

「あと少なかったから」

「僕いい薬知ってるよ」


 優羽は結楽の首に手をかけ、結楽は間に立つ曄雅の頭に手を置いた。


「髪さらさら〜」

「いいでしょ。毎日の手入れの賜物」

「この艶なら伸ばしても大丈夫だね」

「伸ばしたら面倒臭いじゃん。嫌」

「似合いそうだけどねー」

「ねー」



 優羽と結楽の二人で頷き合うのを無視して、道に面したドラストに入った。


 優羽が薬を探している間に結楽がジュースを買う。


「そこら辺の店で買った方が美味しいじゃん」

「このジュースがいいんだよ。あとでわたあめも食べよ」

「甘すぎ……」




 結局色々と買い、わたあめとワッフルも買って結楽が一人で全て食べているとやがて周囲の女子が結楽に気付き始めた。

 結楽のワッフルを代わりに持っている優羽と二人から離れられない曄雅は気にせず美味しいそうに食べる結楽を睨む。


「結楽、人目が多すぎる」

「ちょっと有名だもん。それより優羽の顔じゃない? このイケメンが」

「いい顔でしょ」

「はいはい二人とも早く食べて」

「僕食べていいの?」

「いらないって言ったから買ってないんだよ」


 結楽は口を開けた優羽を睨み、優羽は冗談だと笑う。



 わたあめを食べ終わった結楽がなんだ冗談かと笑いながら優羽と火花を散らしていると、誰かから肩を叩かれた。

 振り返り、スマホを見ていた曄雅も顔を上げ目を丸くする。



「こんちはお巡りさん」

「こんにちは。ちょっとそのケースの中見せてもらってもいいかな」


 二人の警官が警察手帳を見せてきながら結楽のケースを指さした。



「あ、ちょっと待って下さい」


 結楽はケースのファスナーを開けると証明書を出した。社員証と生徒手帳も。


「はい、スナイパーライフルですよ」

「曄雅も見せといた方がいいんじゃない」

「あ、うん」


 曄雅も所持許可証明書と社員証と生徒手帳も見せた。


 たぶん片方は新人なんだろうな。唖然として眉を寄せたが、もう一人の階級持ちの人が止めた。


「失礼しました、日蔓さんに金草(きんそう)さんと瞳星(どうせい)さんだったとは……。お仕事ですか?」

「仕事じゃないんですけどね。情報が多いので出会したら片付けとこうと思って」

「それは……! お疲れ様です」

「お互い様ですよ」

「お邪魔しました。関係者の御三方ならもう、大丈夫ですので……」

「お騒がせしました」



 優羽は当たり障りなく受け流すと二人に行こうと言って体の向きを変えした。瞬間、店の看板の反射で鏡界が開き、界魔が一体、顔を覗かせた。

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