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鏡界館  作者: 織優幸灔
一章
43/155

43.総会

「未優、静璐、総会行くよ」

「はぁい」

「未優ヘッドホン忘れないで。人多いから」

「うん」




 三人で本館に入り、会議室に向かう。こういう日だからか人が多く、入口で西木課二班と会った。


 ずっとタブレットと睨めっこの日蔓は微塵も気にしていないが。




「……ちょっと静璐君、日蔓何見てるの?」

「ん〜……たぶん総会の資料?」

「あの日蔓が!?」

「……たぶん」


 自信の無い目で罌粟に訴え、それを感じ取った罌粟は深刻そうな顔で頷いた。





 会議室に行くと既に半数以上が集まっており、中に入ったところで日蔓は未優にフードを被せる。


「ちょっと」

「目に毒だから脱いだら駄目だよ」

「あんたどういう教育方針してんのよ」

「純粋無垢に育てる」

「意味が違うわよ」

「言葉の捉え方が違うから」


 日蔓は未優と静璐を三班の席に座らせ、自分は後ろの壁にもたれかかった。別に主任席もあるが、上が取り込もうとする二人から離れる気はない。


「日蔓の席は?」

「あるけどここにいるよ。色々と危ないからね」







 専務三人、部長十五人、マネージャー十八人、課長三人、主任十八人、班所属六十四人。その他技術、分析、塔界、その他数名。界魔含むこの四種の職場屋の役職持ちが一斉に会すこの総集会議では様々なことが討論される。今回はその中でも現在最重要事項として扱われている支配人及びその直属の手下について。だから未優も静璐も初参加するし日蔓も約十年ぶりか九年ぶりに参加する。


 未優初参加に関しては今まで仕事能力未熟として放置されていたのを、今回中心人物の一人として呼ばれたのだ。もちろん日蔓の保護という名の監視付きで。




 全員が揃い、時間ぴったりに会議が始まった。司会進行は統括部長の蘇芳(ずおう)


「……九時三十分。総集会議を始めます。今回の議題は主に三つ」



一つ。支配人の目的検討と今後の動向、その対応。

二つ。支配人の活動再開による新人教育の改革と研修頻度の見直し。また新人研修の内容改正。

三つ。三ランク以上の鏡界魔増加の可能性につき道具、トレーニングウェアの強化、最新化。



「この三点からズレるものは必要な場合は追加していきます。この時点で何か問題のある方は?」


 一つ目の議題が始まり、専務三人の後ろにある大きなモニターに何かの資料が映った。



「一つ目、支配人の目的検討と今後の動向、その対応について。これに関しては十二年前の支配人の計画の続きとして見ています。支配人は十二年前の殺戮事件当時から人と界魔の共存を謳ってきました。今回は数人の人間を使ってそれを実行しようとしている可能性があります」


 十二年前、支配人は事件を起こす前から秘密裏に活動はしていた。それが当時胎児だった子供たちに異能をつけ、自分で操れるようにするというもの。

 数百人の胎児を対象に行われ、約八分の七の母胎が異能という変化に耐えられず死亡。八分の一は無事生まれ、今まで異能を持った子は一人も見つかっていない。鏡界館の十三歳が多いのはそのせい。



 母胎からの経由で異能が極めて困難だと判断した支配人は未優を筆頭とする子供達をどうにかして界魔側に引き込む計画。



「ちょっとストップ。支配人そんな馬鹿じゃないでしょ」

「何故わざわざ物心ついた子供を狙う? 人間を誘拐犯に仕立て上げてでも不可能犯罪にするにしても物心のついていない幼児を狙う方が事はスムーズに進むじゃろ」

「別に未優に執着する必要もない。弱い奴なんかいっぱいいるしわざわざ実力のある未優に固執する理由がない」

「逆に実力があるから執着する、とか」


 白梅(はくめい)課長の言葉に皆が眉を寄せ、日蔓は持ち前の頭の回転力で自分なりに解釈する。



「どういうことじゃ白梅」

「ただの憶測ですがね。あの放電少女、代望(よぞみ)と名前がついたんですっけ? その子みたいに特殊体質……そう、例えば未来が見えるとか、尋常じゃない脚力とか、そういうのを狙って来ているのではないかと。一可能性としてですが」

「そんなんその電気人間の方がよっぽど特殊でしょ。未来見えるにしてもコントロールできないしここに来るまで見たことなかったのに。ましてや脚力なんて相手にとったら厄介でしかない」

「ですから一可能性として。詳細は私も分かりませんがね」


 相変わらず薄っぺらい嘘っぽい笑顔の白梅が保守的な立場で語っていると、ふと鬼燈が線蓮を黙らせた。口を塞がれた線蓮はその手を払い除ける。



「静璐、どうした?」

「え……え?」

「え?」


 ずっと資料を見つめていた静璐は突然の問いに日蔓を見上げ、何も分かっていない日蔓も疑問を零す。



「何か分かったか」

「え、いや……支配人の異能?って、何かなぁと……」

「まだ分かってない。なんで?」

「いや、だって、その代望(よぞみ)ちゃん? はフルーツ食べて特殊な体質になったんすよね。なんで食べれない胎児を選んだのかなって……ただの、疑問……なんすけど……」


 線蓮はハッとしてモニターを見上げ、日蔓も口元に手を当てた。



 確かにそうだ。支配人の異能が分からない限り対処しようがないし、何故フルーツなのかも気になる。フルーツ以外にできるのか、何故フルーツの力を母胎に入れれたのか、そもそもそのフルーツとは何なのか。



 静璐が帰ってきた直後、行方不明になっていた一人の技術屋が帰ってきた。何種類かのフルーツや食材を持って。

 たぶん未優の言うその他の人間に含まれているのだろうが、その一人が持って帰ってきたうち全てのフルーツが異能の何かならそれらを食べていた未優と静璐はかなり危ない。



「……静璐、支配人に監禁されてる時それ食べた?」

「た、ぶん……」

「体に変化は? ちょっとした事でも」

「……体力がちょっと増えたのと、ちょっと筋力が増えたぐらい……?」

「増えてたのはいつも? トレーニング変えた?」

「何も……」


 やはり何かされていたか。そりゃ何もなけりゃ一週間も閉じ込めるはずないもんな。



 これは白梅の予想が当たっている可能性が高いか。




「支配人の目的は人間と界魔の共存改め界魔が人間を好きにできる環境。今後は未優と静璐を狙いに何かを起こす可能性が高い」

「対応的には強化と警戒意外ないね。他にあるならやってるし」



 線蓮と日蔓の言葉に皆が頷き、議題は次に進められた。




「次、新人教育関連。部長君、それ貸して」


 統括専務の皇雪が部長の仕事を取り、ファイルを貰うと司会を始めた。



「今、新人教育は本人たちの自己判断に委ねている。が、それじゃあいつあるか分からない支配人の襲撃に耐えられない。鏡界館の場所も既にバレているし、未優と静璐に対しての接触頻度も不定期。そのうえ付き人? 付き界魔は支配人と意見がすれ違ってると来た。今のままサボって暇つぶしでやる程度じゃ惨殺事件の二の舞になる! 俺は現場見てないけど!」

「余計なこと言うなよダサい」

「というかこの中で現場見とるのは曄雅だけじゃぞ。現場にいた奴は曄雅以外全員死んどる」


 専務三人の無駄口のせいで皆が日蔓を見て、ずっとタブレットに視線を落としていた日蔓は皆の視線に気付いた。内容を聞いていなかったが専務三人を睨む。


「何」

「曄雅、支配人の強さはどれぐらいじゃ?」

「さぁ? 見習いを最低限未優か静璐レベルにして専務三人を支配人と同じレベルにしたらまぁ、数人は生き残るんじゃない?」


 当時の記憶はあまり覚えていない。いないが、一つ確実なのは当時の会長や当時は現役だった寒白(かんしろ)よりも遥かに強かった日蔓が手も足も出なかったということ。まぁ十六の餓鬼だったし仕方ないのだろうが。



 別に冗談で言ったつもりはなかったが、皆は冗談に聞こえたらしい。顔を見合せて肩を竦める。



「日蔓、なんで同じ力が三人で……」

「知恵も異能もないのに生き残れるわけないじゃん。支配人の力は一パーセントも分かってないのに何勝つ気でいんの。笑わせんなよ」


 日蔓の言葉に皆が黙り込み、日蔓をよく知る数人は額を押えた。


「相手は皆殺し目的、こっちは何百人を守ろうとしてんだよ? 他人守ってられると思ってんの? そんなんできたら十二年前の現場では十人も死んでねぇよ。主任も今の部長か専務程度には全員強かったってのに」

「そ……そんなになの……? じゃあ、今の皆の強さは……」

「皮切りとか着火剤がいなくなったから年々弱くなった結果でしょ。専務候補だった先輩も有望視されてた後輩も全員死んだんだから弱くなんのは当たり前。別におかしいことじゃない」


 質問者の罌粟含めほとんどが口を押えて愕然としていると、誰かが机を硬いもので叩いた。

 専務の向かいに座っていた数人のうち一人、七竈(しちくど)元先生。仲間が全員死んだ日蔓を最も近くで見ていた人の一人。




「そんなことより!」


 ハキハキとした声で場の空気を仕切り直す。



「七竈先生!」

「久しぶりbunny(バニー)! 私はここ数日今の界魔屋の現状を見させてもらったけど、今の状態を十年間も続けてたならそりゃ弱くなるのは当たり前! 何自主練て!? 基礎もままならない子供たちに自分で練習させても成長するわけないでしょ!」

「ちょっと! うるさいから声量抑えて」

「曄雅もそう思うでしょ!? これなら今の十人と優羽(やう)一人でも優羽が勝つ!」

「それはない。あとうるさい」


 未優もヘッドホン付けたし、この人声うるさいんだよなぁ。通りすぎるせいで普通より大きく聞こえる。



 七竈は傍に駆け寄った耳を塞ぐ罌粟の頭を撫でながら日蔓を指さしてギーギー叫ぶ。

 主に教育方法がおかしすぎるというもっともだが物理的に言い方を変えてほしい話。



「そうだろう曄雅少年よ!」

「んーそうじゃない?」

「お前聞いてないな!?」

衝羽(つくばね)! 未優のストレスになるからそれ追い出して」

「はい」


 部長席に座っていた衝羽は立ち上がって敬礼すると、すぐに七竈を羽交い締めにして引きずっていった。

 静かになった会議室で、皆が眉間を押える。




「……じゃあ、新人教育はあの……」

七竈(しちくど)

「七竈に任せるということで。次」

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