42.配信者
「未優さん、あのー……回復する前で申し訳ないんだけど、新スーツの使い心地を聞きに来たくて……」
「良かったよ。でももうちょっと伸縮性が欲しい」
「ふむふむ……」
「あと黒がいい」
「それは無理。白の方が綺麗」
「いや……」
「ん?」
技術棟でジュースを飲んでいた未優は丁字を睨み、丁字は悪びれもなく首を傾げた。
「黒の方が細く見えるし……」
「十分細いよ。白の方が骨が綺麗に見えるから」
「でも靴……」
「靴との相性もいいんだよそのために白に合う靴デザとスーツも白にしたんだから!」
「そっ、そう……」
丁字はじりじりと未優に近付き、未優は椅子に座ったまま大きく仰け反る。圧が怖い。
「じゃ……じゃあ……白の、ままで……」
「うん」
また足の型を取って、靴の調子も見る。新型で前例がないので少し経過観察が必要らしい。
「……ちょっとかかとのゴム部分が傷んでるや。ここが割けるのか……」
丁字は未優の向かいの地べたに座り込むと靴をまじまじと観察し、時々未優の足と見比べながら色々動かす。
普通の動きとは違う動きをするので毎日が発見の連続だ。かかとが伸びすぎてゴム部分が割けるのは全く想定していなかったが現に割けかけている。やっぱり定期的に見させてもらおう。
「まだ修復は必要ないけど、また月一程度で見せてほしいな。次来るまでにもう一足新しくて頑丈なの作っとくから!」
「分かった。じゃあまた来月頭ぐらいに」
「もっと頻繁に来て足の型取らせてくれてもいいからね」
「頻繁に来れる時間があったらね」
丁字のしつこい催促をふらふらとかわし流しながらスマホをいじる。
線蓮から日蔓どこ行ったという質問が延々に投げ込まれるが、日蔓は今日はプライベートの用なので未優も知らない。日蔓がいなくなる時はいつも黙って突然だ。
「……これいつぐらいに終わる?」
「夕暮れかな」
「最短で?」
「あと二分前後」
「うぃ」
線蓮から暇だから出かけようというお誘いが来た。スイーツ奢ってもらおう。
「……よし固まった!」
「抜いていい?」
「ゆっくりね」
割れないようにゆっくり抜いて、足を拭いてから靴下を履いた。
「ちょっと。まだあと三つは取るよ」
「明日ね。しばらく仕事は入らないから」
「えぇ!? 仕事じゃないならいいでしょ!?」
「仕事の付き合いとでも言っとく」
靴を履き直し、丁字に手を振って棟の外に出た。
静璐も一緒にいるらしいので三人。線蓮はたぶん日蔓探しも兼ねてるんだろうな。
「お待たせ」
「未優さん丁字さんとなんかあったんじゃないんすか?」
「終わったよ」
「でも……」
静璐の後ろに飛ばされた視線の方に振り返れば、技術棟から出ることができない丁字が扉のギリギリで未優を睨んでいた。
未優は適当に手を振り返して、元気に歩き出す。
「線蓮さんが自分から誘うなんて珍しいね。彼女と喧嘩でもしたの?」
「彼女いるんすか……!」
「いや暇だった」
今日は月一の休日。でも日蔓がいないからこの二人は暇つぶし。国家公認の極秘組織は労働基準法を常に違反している。
鬼燈の手伝えという鬼メッセに返していると、ふと未優と静璐が逃げていくのが視界の端に見えた。見れば二人で指をさし合い頷いたり否定したり、そんなんを繰り返している。
「おい」
「線蓮さん彼女いるの?」
「どっちだと思う?」
「日蔓にバラそう」
「日蔓さん可哀想……」
「おい他人で遊ぶな」
いくら大人と同じ仕事をしているからと言ってもまだまだ女子中学生と男子高校生なのには変わりないな。
二人の首根っこを掴むとそのまま引きずって駐車場に向かった。
原宿に着き、未優先導で色々なスイーツショップを巡る。別に奢るのはいいがこいつの胃袋どうなってんだ。
未優が店で注文している間は静璐と二人で待機。
「線蓮さんがこんなところ来るの珍しくないっすか。日蔓さんがいるって確定してるわけでもないのに」
「ん? 誰がなんの用もないと言うた」
「だって何もしてない……」
「曄雅の場所ぐらいちゃんと把握しておる」
そう言って見えた線蓮のスマホの画面には、たぶん勝手に仕込んだんだろうな。GPSの監視画面がついている。なんか無数に点があるけど。
「……もしかしてストーカーしてるの日蔓さんだけじゃないんすか?」
「まさかまさか。そんな浮気症じゃないわい」
「他の人にもGPSついてますよね……」
「……まぁ?」
この人怖っ。
静璐が顔を引きつらせていると、ソフトクレープを二つ買った未優が戻ってきた。一つを静璐に持たせて、片手で髪を押さえながらソフトクリームを舐める。
「……線蓮さんちょっと」
「駄目」
「ちょっと!」
「だーめー!」
この人絶対未優のスマホにも仕込んでる。ヤンデレ怖っ。
少し未優の食欲が落ち着き、お昼どうしようかと話しながら線蓮に二人でついて行っていると、出会った。
「曄雅!」
「……未優! 静璐! ぐうぜーん」
日蔓は突っ込む線蓮を無視して二人に大きく手を振った。二人とも冷めた顔で振り返す。
「日蔓さん……偶然じゃない……」
「そんなんどうでもいいよ」
「お、写真で見た通りだ。みゆうちゃんだっけ?」
いきなり日蔓の後ろから覗き込んできた美青年。
西洋人とのハーフっぽいフードを被ったその人は未優に手を伸ばした。未優は慌てて静璐の後ろに隠れ、静璐も少し後ずさる。
「日蔓、写真って……」
「ちょっと。写真って何?」
同じく知らなかった日蔓は青年の腕を掴むと折れんばかりに力を入れ、青年は何とか腕を引き抜こうと奮闘する。笑顔は引きつり、首には冷や汗。
「ほ、ほら、この前寝落ちたじゃん……? そんときに……」
「へぇ勝手に」
「ご立腹……!」
「当たり前だろ」
GPSも気付いていた日蔓が線蓮と青年に激怒していると、ずっと静璐に隠れていた未優が静璐の手を引いた。
「ねぇこの人誰?」
「さぁ……?」
「まぁいいや。ワッフル食べに行こう!」
「さっきたらふく食ったじゃないっすか!」
「日蔓! あれ買って!」
「いいよ」
日蔓は立ち上がると二人に拳骨と手刀を落とし、未優と手を繋ぐ。
「未優と静璐はなんでいんの? 珍しい組み合わせだけど」
「線蓮さんに誘われたんです。今思えば全部仕組んでたんだろうなぁって」
「未優、食べてる間ちょっとスマホ貸して」
「私はメールで誘われたんだよ」
「でも未優さんのにもついてますよ」
未優はすぐにスマホを渡し、日蔓は静璐のスマホも借りた。
「ねぇ日蔓、あれ誰?」
「二人とも知らない? 自称有名インフルエンサー」
「知らなぁい」
「俺も全然」
「二人とも疎そうだもんねー」
腕を引きちぎる勢いで振ってくる未優を落ち着かせる。
「僕もどういう活動してんのかは知らないよ。忘れた」
「使えねぇ」
「日蔓さんってそういうの興味無いっすよね……」
「だって興味無いんだもーん」
へらへらと笑う日蔓を二人で睨んでいると、ふと日蔓が未優の横を睨んだ。未優が反対を見上げるとあの青年が未優を見下ろしている。
「はじめまして、翠狼って言うんだけど」
「二人とも知らないって」
「曄雅がスマホ取り上げてるとかそんなんじゃないの」
「じゃないね」
「嫌味ったらしい〜! うぜぇ!」
「自称有名インフルエンサー」
「うるせぇ!」
二人に挟まれた未優は日蔓の反対の隣に逃げ、翠狼は日蔓の隣を覗き込む。
「俺嫌われてる?」
「ウザいからじゃない。邪魔」
「怖っコイツ!」
頭を膝蹴りされそうになった翠狼は日蔓から逃げ、日蔓のそばにいると翠狼に絡まれると察した未優は日蔓から離れて静璐と線蓮の傍に行った。線蓮と手を繋ごうとしていたのを日蔓が線蓮を睨む。
「ちょっと。注目の的と的が一緒にいたら意味ないでしょー」
「だってそれが……」
「嫌だよねぇ変に絡んでくる奴。おいで」
日蔓は翠狼を線蓮に流し、線蓮に流された翠狼は線蓮と静璐に絡み始めた。未優はまた日蔓と手を繋ぐ。
翠狼は日蔓より小さいのでこう見ると身長差がすごい。
「へぇ、じゃあ翠狼さんは日蔓さんの後輩なんすね。界魔屋で配信者か……」
「そうそう。曄雅先輩にしごかれた後輩組の一人だよ」
「そんな怖かったんすか?」
「怖かったなんてもんじゃないね! 地獄の鬼の方がまだマシじゃない?」
「うへぇ……」
「写真あるよ。俺説教から逃げるのが日課だったから。個別説教くらったけど」
写真を見せようとする翠狼のスマホを日蔓が奪うと、未優がそれを奪って皆に見せた。
「未優!」
「うわぁちょっと可愛い!」
「でしょ!?」
日蔓が未優からスマホを奪う約二秒の間に線蓮はスマホの画像を写メり、二人は目に写真を焼き付けた。
日蔓はスマホを奪うと未優の頭を掴む。
「未優ちゃん」
「可愛いって。線蓮さん見せて」
「あぁ。あとで光調節して元の画像に近いところまで戻してやる」
線蓮は未優を抱き上げると画像を見せ、日蔓は線蓮から未優を奪うと額を弾いた。
「ワッフル買わないよ」
「線蓮さん私凄く働いた」
「いいぞ」
「だって日蔓」
「落とすぞ」




