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鏡界館  作者: 織優幸灔
一章
41/155

41.先生

 台風で風が吹き荒れるうるさい夜。


 満身創痍の皆で寝落ちする。未優はヘッドホンを当てて日蔓の膝に寝転がり、静璐は日蔓の肩にもたれ、眠れない日蔓は酷い顔で向かいのそいつらを睨み。


 二番目に重傷な線蓮はケロッとしているし無傷の七竈(しちくど)に関してはちょっと楽しそう。腹立つなぁ。




「怖いよその目」

「神経疑うわ。ヘリで上から降ってくるとか有り得ない」

「有り得たよ」

「お前と話してたら疲れる……」

「ひどぉ!?」

「うるさい黙れ喋んな」


 二人が起きてしまう。




 日蔓は七竈を黙らせるとタブレットを開いた。

 右前腕折れたが手は無事なので日常生活に問題なし。全身がバキバキに痛いぐらい。正直寝転がりたいんだけどな。



 タブレットで管理役に今回の状況を報告し、七竈が戻ってきたことだけ簡易的に伝えた。眠い。駄目だ寝よう。頭が回らない。


 日蔓はタブレットを消すと静璐にもたれる形でそのまま寝始めた。

















 ぼんやりと目を覚まし、再度入眠。それを四度ほど繰り返して、ようやく目が覚めた。


 昨日は未優の部屋のソファで寝たので少し狭かったが普通に眠れた。未優大丈夫かな。



 体を起こし、大きくあくびをしながらソファにもたれたのを一枚。

 気配を感じて見れば、ずいぶん仲良さそうになった線蓮と七竈(しちくど)が未優の部屋の椅子に座っている。線蓮はカメラを構え、七竈の膝にはがっしり掴まれた嫌そうなラムネ。


 静璐は自室に帰ったはずだ。あとで様子見に行かないと。




 未優に連絡し、起きているのを確認すると後ろの扉から部屋の中に入った。糖分不足でぼんやりしている未優を片腕で抱き上げ、向こうのソファに移動させる。


「曄雅、代わるぞ」

「じゃあ僕の代わりにそれ追い出してくれる? ここ未優の部屋なんだけど」

「線蓮君、未優って言うのは……」

「出てけよ……」


 とりあえず線蓮をソファに座らせ未優を椅子に座らせ、冷蔵庫を開けた。

 ケーキの在庫が減っているがしばらくは買いに行けない。(かんざし)衝羽(つくばね)をお使いに走らせるか。



「未優、何がいい?」

「……んー……」


 聞いてねぇな。


 とりあえず賞味期限の近いショートケーキを丸ごととエクレア二本にパイケーキを三つ渡しておく。



「おぉケーキ!?」

「うるさい」

「いただきまーす……」

「喉に違和感あったら言ってよ。内臓破裂はないみたいだけどしばらく痛むだろうし。僕静璐のとこ行ってくるから」

「はぁい」


 ついてこようとする線蓮を突っぱね、静璐の部屋に向かった。



 ちゃんと朝に起きたようで普通にスッキリした顔で迎えられた。でも全身傷だらけ。


「お疲れ様です」

「お疲れ様。怪我大丈夫?」

「日蔓さんよりは全然! なんか飲みます?」


 静璐は本当に何をしてもケロッとした顔で大丈夫としか言わないので一番心配になる。無理はしていないんだろうが、本人も気付かないところで体が悲鳴を上げていてもそれは本人しか気付けないんだよなぁ。



「日蔓さん何にも食べてないでしょ。顔色悪いっすよ」

「さっき起きたばっかなんだよ」

「サンドイッチでもしましょうか? 適当な材料しかないっすけど」

「助かる」


 よくできた高校生だよなぁ。


「静璐、怪我で日常生活困ることない? なんかあるなら手伝うよ」

「いや、俺は大丈夫っす! それより日蔓さんも腕折れてますし未優さんも足めっちゃ使ってたし、俺手伝いに行った方がいいのかなと思って。線蓮さんもボロボロでしたし!」

「あー……それが助かるかも……」


 高望みしていいならあいつら追い出してくれないかな。



「未優にはケーキ出してきたしラムネもいたから大丈夫だとは思うんだけど」

「ラムネだけっすか?」

「いや飼い主もいるよ? いるけど猫の方がしっかりしてるでしょ」


 ほんとに信用されてないんだなあの人。



 額を押える日蔓に苦笑いしながらサンドイッチを出して、自分もインスタントで緑茶を淹れた。

 いつもは水だったりお茶だったりするが、今日はなんとなく気分的に。



「静璐も困ったことあったら言ってよ。まだ高校生なんだし」

「ありがとうございます。俺過去一過ごしやすい環境なんで怪我しない限りは大丈夫だと思います!」

「静和の過去もまぁ壮絶だよねぇ……」










 約三十分ほどして、静璐に包帯やガーゼを替えてもらってから二人で未優の部屋に戻った。


 部屋に戻ると一番にラムネが飛び出してきて、静璐は慌ててそれを捕まえる。

 中に入ると未優が七竈(しちくど)を警戒してケーキを避難させながら食べている最中だった。未優のケーキを狙う七竈の頭にスマホの角を落とす。


 ゴンッと鈍い音が鳴り、七竈は頭を抱え崩れ落ちた。



「いっ……たぁい……!」

「あのさぁ」

「日蔓遅い! この人嫌い!」

「ごめんね僕もだよ」

「日蔓さん、この人知り合い……ですよね? 関係性っていうのは……」

「知り合いなんかじゃないよ。腐れ縁。一種のストーカーっての? なんかそんなん」


 日蔓は未優の向かいに座り、ケーキを食べ続ける未優の頭を撫でた。


 半泣きの七竈は頭を押えたまま立ち上がる。



「私は幼き日の曄雅少年の先生だよ。戦闘面でのね」

「七竈、写真ある?」

「ある」

「待て線蓮」


 線蓮を犬のように制し、七竈のスマホを奪った。

 幼き日の自分の画像だけ全部消して返す。



「……ノォォォォ! お前消したな!? 世界で唯一の写真!……ちょっとお前優羽(やう)結楽(けいらく)との集合写真も消してるし!」

「盗撮なんだからいいじゃん」

「盗撮じゃない! 優羽と結楽には許可取った!」

「僕には取ってない」

「屁理屈!」

「どっちがだよ」


 七竈は線蓮と泣き、日蔓は膝に飛び乗ったラムネを撫でる。ラムネもあまり好きではないらしい。嫌われ者だね。



「……まぁいい。データは百とある」

「ん〜残ってるといいね。未優、あとでケーキ選んで」

「買いに行くの?」

「その怪我じゃ行けないよ。衝羽(つくばね)に頼む」

「はぁい」


 未優はぺろっとワンホール食べ切るとエクレア二本に、パイは既に食べ終わっていた。

 日蔓からケーキメニューの映ったタブレットを受け取る。



 静璐は未優の食器やらなんやらを片付け、七竈(しちくど)は線蓮に日蔓の今の立場の説明を聞いた。



「……曄雅少年」

「その呼び方やめろ」

「曄雅、お前ずっと専務になるって言ってたろ」

「一言も言ってねぇ」

「言ってた! 曄雅は専務、優羽はマネージャー、結楽は主任! ビデオもある!」

「消せ」


 日蔓は頬杖を突いて七竈を睨み、七竈は負けじと睨み返す。


 未優はその二人のそばが嫌になったのかタブレットを持ったまま静璐に手を伸ばした。静璐は未優を部屋に移動させる。



「……お前まさか結楽の夢を継いでとか言わないだろうな」

「言わねぇしんな気じゃない。主任に上がった時に未優が入ったからそのままいるだけ。文句ある?」


 みるみるうちに不機嫌になっていく日蔓にさすがの七竈も怖いようで、ふるふると首を横に振った。般若と言うより閻魔を彷彿とさせるその圧には誰も敵わない。




「……みゆー、決まったー?」

「決まった」

「日蔓さん、ケーキ代っていっつも日蔓さんなんですか?」

「まぁ僕の給料のボーナスは二人の働きだからね。静璐も欲しいのあったら買ってあげるよ。キャリーケースとか」

「いや……」

「しばらく長期はないだろ」

「まぁ危ないからねー」


 日蔓は真っ暗な部屋の電気をつけ、未優は目を覆い隠す。




 日蔓は椅子に座ると未優からタブレットを受け取り、候補を聞いて衝羽に連絡する。そもそも実力不足の部長以下は駆り出されないので衝羽は無事。


「静璐は?」

「いや俺はいいっす」

「じゃあトンカチ君の分私がマカロン買う」

「なんでや」



 日蔓は未優の隣に移動すると他の焼き菓子も見せた。


「……あ、日蔓さんやっぱりカヌレ買ってください」

「いいよー。未優は?」

「何それ」

「じゃあチャレンジね」

「カヌレって店によって結構差ありますよね」

「僕蜜蝋ある方が好き」

「俺もっす」

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