表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鏡界館  作者: 織優幸灔
一章
40/155

40.-ランク

 元々行っていた学校の友人と連絡している途中、日蔓から緊急連絡が来た。


 パーカーを羽織ってマンションを駆け下りる。




 駐車場のトラックに行くと既に未優は座っていて、日蔓の姿は見えなかった。



「遅い」

「すみません」



 かなり大事のようで、線蓮、鬼燈、白梅課一から三班と西木課三班。日蔓含む主任数名も。



「日蔓、内容は?」

「えーと……一ランク二体うち一体が一体を取り込んで対応した平十数名全滅。支配人との関係は不明」

「面倒くさっ……」



 台風が近付いている。今夜から明日明け方にかけて上陸だったかな。低気圧で気分が悪いのに。


 未優は膝を抱えてパーカーの中に丸まると持ってきたヘッドホンで殻の中に閉じこもった。ケーキはさっき食べ終わったので糖分は足りるが集中力が持つかどうか。



 パトカーのサイレンが鳴り響くトラックの中で、また緊急招集が鳴った。この中で唯一、一ランク以上の緊急招集を受け取ることのできる日蔓はタブレットを確認する。これは静璐も未優も置いてきたらよかった。子供にやらせるものじゃない。


 日蔓並の戦力なんて十二年前の支配人戦でほとんど死んでるだろうに、まだ若手が育ちきらないうちにこんなことが起こるなんて。

 百年に一度も起こるものではない(マイナス)ランクがこんな十年に一度とか出ていいものじゃない。




「……静璐、今回は参加しない方がいいかも」

「実力不足っすか」

「言うと線蓮が最低限。鬼燈以下は死ぬ」

「はぁ!?」

「曄雅、それは……」

「冗談じゃない。前回の同レベルで俺より強かった奴はほとんど死んだしそれも結局は片付いてない。生きてる奴いたら奇跡なんじゃない?」


 日蔓の重い言葉に皆が息を詰まらせその状況に戦々恐々としていると、数分してトラックが止まった。





「……来んの?」

「これでも役職持ちなもんで」


 鬼燈と線蓮は立ち上がり、未優は静璐とともに待機する。もし日蔓に何かあった時、止める人が必要。


「曄雅様、(わたくし)たちも参ります!」

「お好きにどうぞ。君らは死んでも興味ない」



 日蔓はトラックを開けると民家の建ち並ぶ街で暴れる界魔を睨んだ。鮮やかなオレンジの太った人型界魔。支配人に限りなく近い気配をしている。



「静璐、未優守っといて。支配人が来るかも」

「わ、かりました……!」



 トラックの中には未優と静璐、錨野(いかりの)だけ。

 残りの皆が外に出るとトラックの扉を閉めた。



「曄雅、作戦は?」

「ない。それぞれ主要戦力二人適当にカバーしながら生気吸われないように警戒。人形(ドール)になったら即死ぬと思え」



 日蔓はどこからか短剣を取り出し、指でクルクルと回した。大扇(おおおぎ)が半年かけて一本作る特殊な短剣。ちなみに炎天下の太陽光で表面温度は八十度近くまで上がる。界魔にもよく効くいい短剣。




 今回は一般への被害は考えない。生け捕りは不可能に近いので殺すか逃がすか。殺すにしても逃がすにしてもかなりの攻撃が必要だ。死なないといいけど。



 ほとんどのカバーを線蓮に回して日蔓は単身で突っ込んだ。


 頭に無数に点在する目が日蔓一人のみを捉え、線蓮や他の界魔屋の攻撃を無視して日蔓の攻撃のみを防ぐ。気配で気取られたか、技術の差か。



 皮膚に短剣が通らず、突っ返るでもなく短剣が滑り落ちた。体勢が崩れかけるのを体を捻って体術に繋げる。未優の脚力と静璐の体力が欲しい。




 崩れた体勢から無理やり攻撃したので受け身が取れず、そのまま界魔の馬鹿力で民家に叩き付けられた。警察の誘導で避難は終わっているはず。終わってるといいな。この警戒心の緩んだ現代で理由も分からず避難するだろうか。別に誰が死のうと関係ないが。



 立ち上がり、線蓮に気を取られている界魔の背後から気配を殺して切りかかった。入るかと思ったが無理、また刃が滑って短剣は使い物にならない。



「線蓮! 体術メインでいく!」

「了解!」


 短剣を道に刺し、線蓮と体術メインに切り替えた。










 肋が折れ、片腕も折れ、意識を失い生気を吸われていく仲間を横目にただ戦闘狂と化す。戦闘狂と言っても殺意を放って一人で戦うだけ。早く終わんないかな。



 効かなかったはずの短剣を片手に、蹴って蹴った点を突き刺す。そしたら入るようになったのだ。刺さったら抜かれる前に足で蹴って引き裂く。それが一番効く戦い方。


 回復にも避けるにも体力は持っていかれるのだ。着実に体力は削れているし再生速度も防御も遅くなっている。遅くなっているのは両方だが。



 線蓮の生気だけは吸わせていないので起きたら参加させられるんだけど。日蔓もちょっと人体の限界が見えてきた。

 鼓膜が破裂しめまいと、ずっと早すぎる心音だけが頭に響いている。奥歯が痺れて肺が痛い。引いて呼吸を整えよう。


 そう思って、短剣を抜いてすぐに後ろに下がった。直後、視界の白飛びで見えていなかったもう一体の界魔に吹き飛ばされた。









 外から聞こえた音が聞こえなくなり、だんだん風が強くなってトラックが揺れ始めた。



「……行こうか」

「日蔓さん大丈夫っすかね……」

「死んではないよ。根性だけは一流だから」


 トラックを開け、外に出た。



 未優はパーカーを脱ぐとトラックの傍に捨てる。


 今日、ギリギリだった。靴の新調後、丁字(ちょうざな)がウェアも新しくしてくれた。外傷に限りなく強く酸にも負けず溶岩にも負けない、世界で一着だけの白いウェア。それに機能性重視の制服デザインの戦闘服。試着にはピッタリの相手。



「一発入れて向こう行くから続けて六発。交代で死角からね」

「頑張りまっス……!」



 二人で拳を握ると、未優は地面を蹴って高く飛び上がった。


 見上げてきた界魔の上からかかとを置く。馬鹿ほど硬いが、最大出力にしたら地面がえぐれて周囲の人形(ドール)が巻き込まれるので抑え目に。

 数秒後にバキバキバキと分厚いプラスチックが割れるような音とともに衝撃波が走り、未優が掴まれる寸前で静璐がその腕を殴り落とした。



 支配人に約一週間軟禁されたあとから、静璐の人間離れした超人的能力は体力以外にも見られるようになった。

 平均の数倍近い筋力や異常なほどの瞬発力、人間と言うより界魔と言われた方が納得するほどの体幹とそれを支える筋力。


 何故かは知らない。寝てる間に何かされたのか、あの部屋自体おかしかったのか、なんか変な味したあの暗黒物質(ダークマター)のせいなのか、なんかは知らないがこちらのために使うならそれでいい。裏切りが見えたら切り捨てるまで。




 静璐が六発入れている間に地面を踏み込み体の向きを変え、界魔の死角からまた蹴りを入れた。

 目は頭にしかついておらず、それもほとんど静璐の方に向かっている。一つ後頭部のがこちらに向いているがたぶん脳の大きさ的に処理できていない。目が虚ろで見えているのに理解していない目だ。



 背から蹴られた界魔を静璐は正面から叩き、二人で前後で袋叩きにする。

 でも翼があるわけじゃないし浮遊能力があるわけでもないので未優の筋力的に一時撤退。



 界魔はすぐに再生を始めるが明らかに遅く目で終えるほどの速さになった。いい調子。


「静璐! 叩き続けろ!」

「うす!」



 未優の指示に静璐はまた殴り始め、未優もいこうと視線を移した。ふと視界の端に新しい界魔。薄紫の肌に赤い裂けた口が特徴的な、見覚えのある界魔。

 支配人の傍にいたやつだ。一度だけ、扉の隙間から見たことがある。やっぱり支配人関連かと怒りが込み上げすぐにそちらに足を向けたが、明らかにスピード的に敵わない。


 体に衝撃が走り、息が詰まって肺が裂けるほどに空気を求める。



 仰向きの体を押え付ける界魔の重い手。頚椎が折れそうなほどの重圧に藻掻くが平均以下の腕ではビクともしない。


「支配人は来ない。今は誰も見ていない」


 気管が完全に締まって、咳をしたいのに出来ずに全身から冷や汗が吹き出るほどもがいているとその界魔がいきなり未優のみぞおちに指を刺した。

 何か、みぞおちに入った指が一瞬生暖かくなった瞬間誰かがその界魔の頭を殴り飛ばした。


 衝撃は来たが新しいウェアのおかげで点以外の外傷はない。



「未優、大丈夫か」


 未優よりよっぽど重傷の線蓮は咳き込みみぞおちを押える未優の背をさすった。


 静璐と日蔓が一体を牽制し、薄紫の方は頭の修復に少し時間がかかっている。慣れていないのか。



 残りの応援も到着した。あとは総力戦だ。この界魔は確実に殺さないと役職持ちが何人も生気を吸われている。静璐一人で抑えれていたのが奇跡だ。




「ゲホッ……おぇッ……!」

「未優……!」

「線蓮! 代わって!」


 日蔓の声と同時に抑える役を代わり、日蔓は未優の傍に行った。


 咳が止まらない未優を仰向けにし、圧迫止血で血を止める。医療屋が危険すぎて立ち入れないので救助も救急手当も全て界魔屋で。大丈夫、未優の体調管理は医療屋技術屋で完璧にしているし、ウェアのおかげで大量失血は免れている。でも未優の咳が止まる前に界魔の再生がもう終わる。危ない。



「未優、動ける? 僕腕が折れてるから……」

「ゲホッ! だい……じょ、ぶ……! 動ける……!」

「無理しないで……」

「……いい……」



 未優は日蔓の肩を借りて立ち上がると腹部を押えながらよろめく足で立ち上がった。大丈夫、呼吸器は無事。



「線蓮さん交代!」


 大きな声と同時に地面を蹴って線蓮を下がらせた。

 すぐに日蔓が線蓮の代わりに入り、未優の衝撃波が起こるまでの時間稼ぎを。

 線蓮とその他戦力は完全に修復し終わった薄紫の界魔。こっちの方が圧倒的に強い上にほぼ無傷の状態なので戦力的にはだいぶんキツイんだけど。




 でも橙側の未優の衝撃波は十秒も満たぬ間に余波がきて、日蔓はすぐに離れてもう一体の方に加勢。静璐は衝撃波と同時に未優を連れて宙へ避難する。



 人形(ドール)を全て避難させていてよかった。


 半径五十メートル近い範囲の地面がえぐれ、近場で戦っていた皆も線蓮が強制的に避難させた。

 皆が少し安心した次の瞬間、皆が唖然と空を見上げる。



「……え!? ヘリ……!?」

「ちょっ……! 危ない……!」


 いきなり現れたヘリコプターの突風に皆が悲鳴を上げ、まだ続く微かな衝撃波で余計に被害が広がる。



 絶対鏡界館が手配したやつじゃないと皆が確信するのも否や、いきなりヘリが開いて重装備の誰かが降ってきた。

 衝撃波で潰れていた界魔の頭を手榴弾らしき何かで吹き飛ばし、その上に立つと体を修復し始めていたもう一体の界魔の眉間も撃ち抜き、また別の何かで頭を吹き飛ばす。



「良し! はぁいfalcon(ファルコン)boy(ボーイ)! 元気だったかな!?」


 ゴツいゴーグルを額にズラし、銃器を担いだその女性を見上げ、皆が唖然とした。


 唯一女性と目が合った日蔓の表情は唖然としたものから次第と嫌そうな愕然とする表情に。



「せっ……せんせい……」

「久しぶり! 我が愛弟子よ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ