39.親友
頑張って頑張って、頑張った結果仕事が一日早く終わった。
飛行機で二時間。空港から車で約二時間。計四時間の長い長い移動を終え、ようやく帰ってきた。
「日蔓さん、着きましたよ」
「疲れた……」
「お疲れ様です。ゆっくり休んで下さい」
たった一週間だが、前半には緊急招集二回に未優の学校問題が上がって、でも後半にはアイスを食べている写真もタコパの写真も送られてきた。大丈夫だと思うが大丈夫なのかな。
自室に荷物を置き、ベッドにダイブした。時差はないが疲れと安心で一気に眠くなってきた。寝よう。おやすみ。
ハッと目を覚まし、スマホで時間確認。四時間近くの熟睡。
慌てて未優の部屋に向かう。
「お邪魔しまーす。みゆ〜?」
「おそーい! 福岡から四時間でしょ!? 八時間も何してんの!?」
「寝てた……」
未優の部屋を覗けばベッドの上に丸まってスマホをいじっており、怒った様子で枕を投げつけて来た。
「お土産もあるからさ……」
「物で時間は買えないんだよ」
「ごめんね」
「許さない」
「お土産食べない?」
「食べる」
未優をリビングに呼びリビングに行くと、リビングでは何故か線蓮が仕事をしていた。日蔓を見て目を輝かせて飛びついて来るのを顔面を押し返して拒絶する。
「なん……みゆ……なんでいんの……?」
「今日帰ってくるって聞いて一番に来るのは私の部屋のはずだからって来た」
「上げちゃ駄目だよこんなの! また拉致られるかもよ!? 危険!」
「ここ一週間の私の保護者だよ」
「未優の保護者はここ一週間も僕だよ」
それは変わりません。
日蔓はうるさい線蓮を黙らせ、珍しく出ているもう一脚の椅子に座った。
お土産は未優には甘いものと静璐には明太子のお菓子とか調味料とかなんかその辺を買ってきた。自分は現地で楽しんだので自分のはなし。あとしょげた未優を慰めてくれた苺米課三班三人と仲良し主任数人にも。上司へのお土産とか知らん。
「まんじゅうだ。いただきまーす」
「大福と明太パスタも買ってきた。保存きくから食料尽きた時にでも食べて」
「大福も食べる」
「どうぞ」
「これなに大福?」
「それはまんじゅう」
まんじゅうを食べながらまんじゅうの箱を見ながら一人で混乱し始めている未優は首を傾げた。
日蔓はパスタを片付け、一人でにこにことソファから眺めてくる線蓮を見下ろす。
「……老けたな」
「物凄く刺さったぞ。福利厚生がないんじゃから当たり前じゃろうて」
「僕は福利厚生じゃない」
未優のまんじゅうをひとつ貰い、ぱくぱくと食べながらまた時間を確認した。
三時過ぎ、静璐はまだ授業中だけど授業終わって消えるよりいいな。
「未優、静璐のとこ行くよ」
「持ってていい?」
「いいよ」
未優は忘れないようスマホを日蔓に渡すとゴミ袋とまんじゅうを箱ごと持ち、家の鍵を探し始めた。いつも通り未優らしい。
「あれスマホどこ置いた?」
「僕に渡した」
「おっけーじゃあ行こう」
「相変わらずだねぇ」
途中で何人かの知り合いに出会いながら三人で校舎に向かう。未優は線蓮に荷物を持たせて日蔓と手を繋いでまんじゅう食べて満足そう。可愛いな。
「未優、足の怪我は大丈夫なの? 結構ざっくりいったんでしょ」
「めっちゃ痛かった」
「そこまで言うのは珍しいね」
「本当に。肉が裂けてるのが直で分かって骨見えてんだよ」
「うへぇ……」
一時期松葉杖だったが傷が綺麗なので縫うだけで肉がくっ付いて、今は普通に過ごせている。でも仕事は抜糸して傷が落ち着く三週間は禁止だと。あと二週間。
「一週間は疲れただろうしちょっと休憩期間だね。タコパ楽しかった?」
「トンカチ君のたこ焼きが美味しかった。あれ料理上手いよ」
「知ってる」
撫秞の部屋で馬鹿騒ぎしている様子が何枚も送られてきた。普段写真を撮らないせいで未優の慣れていない感が凄かったが、撫秞と天葵のノリで全て納まっていた。
「楽しかったなら何より。撫秞たちにも渡しに行こうね」
「はぁい」
三人で静璐の教室に向かうと、静璐は真面目に授業を受けていた。窓をノックして静璐を呼ぶ。
「静璐」
「あ、日蔓さん! おかえりなさい」
「ただいまー。おいで、出かけるよ」
「はい」
静璐はパーカーとスマホを持つと荷物はそのまま教室を出た。
「……線蓮さんは仕事大丈夫なんすか」
「仕事より命」
「いや……この職種に関してはそれも言えんくないですか……」
「何を言うか。一応命第一を語っておるぞ」
一応語っているだけで、命を大事にしようとはさせない。命を尽くして働けが社訓。
「ちょっと静璐に馬鹿の教え吹き込まないでよ」
「馬鹿の教えって……」
「わしは曄雅の昇進が心配じゃ」
「お前に心配されるほど腐ってねぇ」
牙を剥く日蔓を愛でながら皆でもう一つ上のクラスに移動した。静璐のクラスは校舎の端なので階段を上がって渡り廊下を渡らなければ。
「いるかな。仕事かも」
「忙しそーだしね」
皆でクラスを見に行ったが、やはり仕事でいなかった。
「こりゃ主任室だな」
「主任室?」
「主任が本来仕事する部屋」
皆でその部屋に移動する。
本棟にある主任室は計十八人いる主任が各々のスペースを作って自分の空間で仕事できる部屋。ちなみに日蔓は何も置いていないし来たの自体主任になった時以来。
「主任の錨野はここに入り浸ってるし置いときゃ今晩にでも戻ってくるでしょ」
「そんな入り浸ってるんですか?」
「だってここで寝て食ってるよ?」
いるよなそういう、ここに住んでるんじゃないか的な噂がある人。
日蔓は中に入ると机にお土産を置いた。
「あ、日蔓おかえり。私のお土産は?」
「図々しいな……」
角から寄ってきた罌粟にため息をつき、机に置かれた袋に手を突っ込むと箱を一つ渡した。
「じゃあ皆用に」
「あんた普通仲良い人にはバラで買ってくるもんよ?」
「買ってきてんじゃん。中にちゃんと四人分入ってるし」
「私によ! 下野さんとか専務御三方とか西木課長とか!」
「金の無駄じゃん。文句言うなら食べなくていいよ。じゃーねー」
さっさと話を切りあげ主任室の外に出ると、四人で未優の部屋に戻る。
日蔓は線蓮がついてくるのを嫌がったが線蓮が静璐を拉致ると言うと黙った。どういう取引かな一体。
日蔓が帰ってきてから数日、未優と静璐が二人だけの仕事から帰ってくると日蔓が出迎えてくれた。日蔓と、それともう一人。
「おかえり二人ともー」
「ただいまー」
「日蔓さん、その方は?」
「これが錨野だよ。静璐初対面?」
「初めてっす」
ちょっと日蔓と似ている人。のほほんとして、どこか闇が深そうな雰囲気の。
「あんまり良く思われてないか?」
「えっいやっ……」
錨野はケラケラと笑い、日蔓は錨野の頭を小突いた。
「これ読心術が得意だからからかってくるんだよ。事実あんまり良い奴じゃないから」
「ちょっと酷くない?」
「酷くなーい」
錨野は日蔓の首を絞め、日蔓は腕を叩いて助けを求める。
「この二人幼馴染だから仲良いんだよ。撫秞たちと仲良くする意味分かったでしょ」
「よく分かりました……」
日蔓は静璐に錨野を軽く紹介する。言っても歳や役職等ほとんど日蔓と同じなので名前と性格ぐらい。闇の深い腹黒い性格的に言えばクズの部類に入るやつ。
「警戒しといた方がいいよ」
「お前に言われたくないんだが? 天才様よォ」
「えー僕だから言えるんでしょ。昔っから性格変わってないくせに人当たりだけ良くなってさぁ」
日蔓は錨野の頬を引っ張り、錨野は日蔓の足を踏み、二人で喧嘩する。喧嘩するほど仲がいいとはまさにこの事だな。
「トンカチ君、札返しに行こう」
「あ、はい」




