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鏡界館  作者: 織優幸灔
一章
37/155

37.緊急招集

 日蔓が少しの期間出張に行くことになり、その間未優が学校に行くことになった。

 元々学校には行かず、日蔓に全て聞いていたのを短期の間に遅れないようにということで。



 本人は仕事をしている方がマシらしいが主任がいないと仕事を受けることはできないので学校へ。




 日蔓からは未優が学校で問題を起こさないかと問題を問題と認識しているかを見ていてくれと頼まれたのだが、後者に関してはわけわからん。






 でも未優にお昼に弁当を買ってこいと言われたので買って届けに来たら、ちょっと分かったかも。

 未優が男子生徒の髪を掴んで見下している。その周りでは唖然としながら取り囲む他の生徒。




「未優さん未優さん!? 問題! それいじめに入りますよ!?」

「はぁ? 私被害者なんだけど」

「どっちもどっちじゃないっすか!?」


 確かに未優もずぶ濡れだが、絶対それ以上にやり返してるだろ。




 他生徒から未優を剥がして未優の目の前に飴を出し、気を逸らせる。扱いは犬猫より簡単。



「未優さん日蔓さんに怒られますよ……」

「……チクんなよ」

「俺報告しろって言われてるんすけど」

「なんもなかったですでいいだろ!」

「怒られんの俺じゃないですか! あの人の情報網怖いんですよ!?」

「じゃあ黙ってりゃ他人から報告行くから。お前が言ったら私はお前を殴る」

「殴るぐらいなら……」

「十回蹴るからな」

「俺死にません……?」



 未優は棒付きの飴の袋を捻って開けるとそれを咥えた。

 掴まれていた男子に皆が駆け寄り、男子は頭を押えながら未優を睨んだ。未優はそれを睨み返す。



「未優さんはなんで濡れてんすか」

「あいつがいきなり水かけてきた」

「なんで水かけたの」

「事故だし」

「バケツに水貯めて何してた? 濡れ雑巾じゃ足りなかったの?」

「関係ねぇだろ! 他クラスが何の用だよ!?」

「関係ないんだったら俺帰るけど未優さん放置になるぞ? やってやり返されてキレるわけないな?」

「事故だって……!」

「謝ったか? ごめんなさいでもすみませんでも一言でも言ったか? 言って掴まれたの?」


 静璐が聞くと男子は目を逸らしながら頷き、未優は蔑むような顔をしながらフードを被った。こりゃ嘘だな。



「未優さん聞きました?」

「意図してかけたやつが謝ると思うか」

「……ですよねぇ」


 皆でこっちを睨んできて、未優は圧倒的に圧のある目で見返した。数人は怯えて関係ないと言うように逃げていく。



「行くぞ」

「いいんすか」

「そんなことより界魔が出る」



 校内に緊急招集がかかり、皆が顔を見合せた。

 未優と静璐は教室を飛び出ると校内の集合場所である職員室に向かう。



「西木課三班です」

「三班! 校庭に二ランクが二体……!」





 二人で校庭に飛び出すとちょうど界魔が出てきている最中だった。

 界魔の塔半壊、そこから鎖の付いた界魔が何十体とその界魔の中から新たな界魔が一体。鎖から一体。



「最近の二とか三って二とか三で済まないことが多いじゃん」

「不運ですよね」

「日蔓がいない時に一ってキツくない?」

「キツイんですか?」

「お前のその余裕の笑みは何?」

「いや俺未優さんのカバーするだけですし……」



 未優に頭を殴られ、骨直撃で痛かったのを押さえる。


 界魔が出てくると同時に他の手の空いている界魔屋も揃った。専務はいないので主要戦力は部長数人と未優か。


「これ壊したら怒られるやつでしょ」

「たぶん」

「単発で二回入れるからカバー入って」

「了解っす!」





 未優は走って鎖から出てきた方の上に飛び上がった。真っ白な細長い人型の、たぶん知能がある奴。


 その他も逃げ出した界魔や新しい奴に対応し、鎖の奴は静璐と未優二人に任された。

 未優は状況をイマイチ飲み込んでいない界魔の顔面を横殴りに蹴り、倒れた界魔の頭に蹴りを落とした。未優が立て直す間に静璐が間を繋ぐ。


 大概の生き物、頭を潰せば動かなくなる。





 静璐が下がると同時に未優が界魔の上から落ちてかかとを置くと、まだ衝撃が走らぬうちに頭の潰れたはずの界魔は未優の足首を掴んだ。界魔の腕を引きちぎる勢いで未優を奪い返す。



「大丈夫っすか」

「あれの異能は毒だね」

「……休んでて下さい。日蔓さん心配しますよ」

「何をしても心配だよ。問題ない」


 未優は立ち上がって回復し始める界魔から目を離さず、静璐は未優の足元にしゃがむと青紫に変色し始めている足首を縛った。

 掴んだ時に爪が刺さっていたのでそのせいかもしれない。



「左足がほとんど使えないから早めに片付けたい。一発入れるから今みたいにならないようにして」

「分かりました……っけど、絶対は無理っすからね!」

「弱音は吐くな。行くぞ」



 二人で何発か入れ、静璐は怪我をしながらも爪に注意して脇からそいつを蹴り上げた。直後未優がかかとを置き、また掴もうとする腕を静璐が蹴り殴り落とす。


 右二の腕を負傷したが不思議と毒は感じられない。



 相手は静璐が毒で弱ると思ったのか一瞬攻撃をやめた。瞬間、未優が使い物にならないはずの左足を振り上げて蹴り落とした。それと同時に衝撃が走り、界魔はぺちゃんこに潰れる。




「おっ……と、ナイスキャッチ」

「無茶しないで下さいよ……! 医療屋!」

「まだ戦えるよ」

「まだ戦えても回復優先して下さい」


 なんかちょっと日蔓に似てきた静璐の言葉に黙り込み、医療屋にすぐに運ばれた。


 塔の逃げ出した界魔はすぐに捕縛され、新しく出たもう一体も静璐が助っ人に入るとかなり戦況が好転。こちらが押せている。





 もう一体の生気も無事帰っていったし、今回は場所がバレたことでの事故


「とか思ってたりします?」



 ふわっと体が浮き、医療屋の皆が悲鳴を上げ逃げ出した。



「相変わらず記憶に変化はなしですか」

「離せ……!」

「この毒は人間の手では解毒できませんよ。私が自ら調合した界魔も死ぬような毒です。喰らったのが足でよかった。まさか毒持ちをわざわざ相手にするなんて、不運なのかなんなのか」


 ラスボスがこんなしょっちゅう顔出してこっちはどんな顔すればええんや。




 支配人はすっかり慣れた手付きで嫌がる未優を抱き上げ、界魔側から死角になる校舎の影を出た。

 未優の足の傷口を撫で、毒だけ消しておこう。人間は脆いので放置していたらすぐに死ぬ。足から一滴でも出たらもう助からない。



「……傷は少し裂いておきましょうか。これでは動けますよね」


 恐怖で顔が歪んだ未優は足をばたつかせて抵抗するが、支配人はそれを掴むと未優の穴のような傷から膝の方に向かってゆっくり裂いた。

 ナイフで切られるよりもの激痛に未優は泣き叫ぶ。



 その声で皆がハッとし、一瞬気を取られた隙に赤い界魔の傍にいた何人かは生気を吸い取られた。


 足を抱える未優を支配人は慰め、何人かが界魔に背を向け支配人に襲いかかる。が、まだ異能も分かっていない界魔に背を向けるもんじゃない。この界魔自体まだ異能は確定して()()()のだが。

 でもこの人数相手ならこれがいいな。



 支配人が界魔を指さした瞬間赤い界魔の胴体が破裂するように蔦が現れ、何人かの足に絡み付いた。

 まだ赤い界魔の体が治らぬうちに蔦は半数以上を掴み、体に刺さった蔦から生気が吸い取られていく。


 静璐は死ぬ危険の低い未優より赤い界魔を優先したようで、赤い界魔に飛びかかった。



「……おぉまずい」



 支配人は未優の頭を腕で庇うとすぐに校舎の端まで逃げた。

 未優の足も人間を超えているが、静璐の腕はそれすら超えている。未優の足は腕や胴のエネルギーを足に集め攻撃特化しただけのものに対し、静璐の体はそもそもの造りが変わった。それを最大限まで開けたらそりゃ、界魔も超えるよな。



 何百メートル離れたここでも吹き飛びそうな程の爆風が吹き、近場の窓は割れ木々は倒れた。

 界魔も潰れたが蔦は動き続けている。動き続けているが、界魔は潰れた。暴走するな。


 太い蔦の一本が静璐に向かい、支配人はその蔦を一本消した。消せば殺したのと同様生気が戻っていく。無事持ち主の元まで戻れたらいいが、大抵戻る途中で別の蔦に吸収されているが。




「困ったなぁ。あの子まで危険になったら本末転倒なのに。こーゆー時は……君らなら重要人物だけ助けてあとは放置するよね」


 未だ足を抱えて泣く未優の頭を撫でてあやし、その手で静璐だけ引き寄せようと手を伸ばした。別に腕の力を緩めたつもりはなかったが、未優はいきなり支配人の体を蹴ると静璐の方へ走っていく。


 別に記憶も戻っていないようだったしいいけど、蔦の駆除が終わるまでは帰れないな。




 支配人から逃げ出した未優は怪我をしているのなんてお構いなしに進み、静璐が根元を叩く間に蔦を一本また一本と断ち切っていく。

 他の界魔屋は全員人形(ドール)になり、残っているのは二人だけ。支配人が出た以上、部長以下は出ることはできないのでこの二人で応戦するしかない。たぶん専務達も向かっているはずだが、未優の足の出血で持つかどうか。




 支配人が突っ立って復活し続ける蔦をどうしたものかと眺めていると、いきなり後ろから殺気に襲われて無意識に鏡界内に移動した。




 支配人が消えたのでとりあえず良し。未優と静璐を連れ戻して蔦を鏡瞳でおとなしくさせた。



「鬼燈さん……!」

「若手ご苦労。休んでいいぞ」


 会議中だった専務三人と前専務三人には緊急招集はかかっていないが、もう大丈夫。上は会議を優先しろと言うが、日蔓がいない今実力的に前線に立たなければならない未優と静璐を守れるのは専務達だけなので会議は中断させた。

 もし静璐と未優に何かあったら日蔓に怒られるのは専務三人と上を牽制せず専務三人を動かせなかった前専務三人の計六人なので、一人の平の子が会議を割って入ってきてくれて助かった。まだ死にたくない。



「支配人は?」

「すぐ戻ってくるはずだ。静璐、太薰蛇守れよ」

「分かってます!」

(おどろ)さんから離れるな」

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